著者名: | 吉野秀男 著/拓海広志 増補改訂協力 |
ISBN: | 978-4-425-00094-4 |
発行年月日: | 2020/12/18 |
サイズ/頁数: | B5判 120頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,420円(税込) |
コースラインを引けますか?小型船舶の海図問題の解き方を順序立てて、航海計画の立て方、三角定規、デバイダーの使い方、線の引き方など基本に忠実に解説。
【増補改訂版の発行に寄せて】
吉野秀男さんがお書きになった本書『初心者のための海図教室(2訂版)』は、これから小型船舶操縦士の免許を取ろうとしている人や、免許は取ったもののまだ航海計画やチャートワーク(海図の作業)に十分慣れていない人のために、それらについてとても丁寧にわかりやすく解説した良書です。この度本書の改訂増補版が出版されるにあたり、私もお手伝いをさせていただきましたが、このような貴重なご縁と機会をいただいたことに対して心より感謝いたします。
航海術の出発点は空間認識です。つまり、「船の位置(船位)を求めること」と「船の向かう進路を決めること」です。それに、「船を正しく操ること」、すなわち操船術が伴って初めて航海は可能となります。現在ではGPSで得た位置情報をディファレンシャルGPS局(DGPS局)からの情報で補正することによってごく簡単に高精度の船位が得られますが、古来航海者たちはさまざまな方法で船位を求め、船の向かう進路を決めてきました。
私はかつて、近代的な航海計器や海図を用いずに、航海者自身の身体感覚を用いて星や太陽、風、波とうねり、海潮流、雲や鳥の動き、肌で感じる気圧や温湿度の変化、陸の匂いといったさまざまな自然のサインやメッセージを読み解き、頭の中にあるスターコンパス(星図)と海のイメージマップを重ね合わせながら船位と進路を定めて海を渡る、ミクロネシア古来のシングル・アウトリガー・カヌーでの航海術を実体験したことがあります。海のイメージマップは、木の幹や竹の枠組みにココ椰子の葉の柄や貝殻などを結び付けたスティック・チャートとして表現されることもありますが、ミクロネシアの優れた航海者はそれをスターコンパス(星図)と共に記憶しています。
近代以降の航海術においては、世界各地の海が測量されて海図として表されるようになりました。また、磁気コンパスやジャイロコンパス、セクスタント(六分儀)、クロノメーター(時辰儀)、レーダー、流圧式ログや電磁ログ、ドップラー・ソナー、双曲線航法機器、GPSなどさまざまな航海計器を用いることによって船の位置、針路、方位、速力、水深や周囲の物標の存在などを知ることが可能となりました。さらに近年では、電子技術の発達に伴ってさまざまな航行支援装置が開発されており、大型の船舶においては海図の電子版である航海用電子海図(ENC:Electronic Navigational Chart)が広く普及しています。
そして、国際航海に従事する500総トン数以上の旅客船、3,000総トン数以上の貨物船には、航海用電子海図の上に本船の位置、針路、速力、予定航路などの情報やレーダー映像を重畳表示できる電子海図表示システム(ECDIS:Electronic Chart Display and Information System)の取り付けが義務化されています。
小型船舶操縦士の皆さんは、プレジャーボートや漁船などの小型船舶での航海に際してGPSを用いて自船の位置を出すことが多いと思います。先述したように今日のGPSの精度は非常に高くなっています。しかし、GPS の映像には海図にあるような詳細な海の情報は載っていません。海図には緯度と経度、陸上の地形と目標物、海岸線はもちろんのこと、水深、海底の性質、海潮流、潮汐、浅瀬や岩礁、漁礁、航路標識と灯質、偏差の量と毎年の変化量を書き添えた羅針図(コンパス図、コンパスローズ)など、航海に必要な情報が詳しく記されています。なので、航海計画を立てる際にも、現在の船位を確定して進路を確認する際にも、海図を用いて行わないとそうした重要な情報を見落としてしまいます。本書を通して航海計画やチャートワークを習得し、安全な航海を楽しんでください。
2020年9月
拓海広志
【まえがき】より
船に乗って海洋レジャーを楽しむのも、陸上の観光地に旅行するのも全く同じことです。その目的は、決められた時間内に楽しく、有意義に過ごし、型にはまった日頃の生活から飛び出して心身をリフレッシュし、明日への活力をはぐくむことでしょう。
しかし、ともすると無理な計画であったり、天候や自然の力を軽視する余り、障害事故や人身事故に至ることもあります。
特に、海洋レジャーの場合、海(湖沼)は日常生活の場ではありませんので、そこで起こるいろいろな現象についての知識も少なく、不慣れであるために、海上での事故は残念ながら陸上のそれより高い頻度で発生しています。
これから小型船舶の操縦者免許を取得して、海洋レジャーを楽しみたいと思われる方々は、海、船、機関、気象や関係法規の知識をしっかりと習得したうえで、まず船の操縦に慣れることが必要です。しかし、慣れてくればとかく単独で行動したくなるもので、そんな時が最も危険です。
どんな短時間の航海でも。必ず航海計画を立てて行動してください。
航海は気象と海象の状態がよいことが前提条件ですが、自分の乗る船の性能(速力、燃料消費、堪航性能等)やその海域のその時の海潮流等を調査したうえで、風向、流向流速等を勘案して、往航と復航の針路と所要時間を海図に記入し、航海計画を検討のうえ決定する必要があります。
海図を使いこなすこと(チャートワーク)はそう難しいことではありませんが、ともするとよく分からないといって敬遠する人がいます。これは、普段の生活の中では使ったこともない、三角定規やデバイダーが出てきたり、コンパスだマイルだノットだと言う聞き慣れない言葉も出てくることが原因だと思います。
確かに取りつきにくい作業でしょうが、わずかな基本を知って、その作業に慣れることがポイントです。分かってくれば航海計画を立てることによって、航海に出る前からその航海を楽しむこともできるようになります。
本書は、私が永年行った小型船舶の実技と学科の教習の経験から、初めて海図に接する方々のためにできるだけ分かりやすいように、手順を図解してみました。皆さんの海図作業の参考になれば幸いです。
どうか確かな航海計画を立てて、安全な航海を楽しんでください。
【目次】
1.航海計画って何?
1−1 航海計画
1−2 海図
1 縮尺による海図の種類
2 図法による種類
3 ヨット・モーターボート用参考図
1−3 水路書誌
1 水路誌
2 特殊書誌
3 プレジャーボート・小型船舶用港湾案内
2.航海計画を立てよう!
2−1 出港前の準備
1 航海計画を立てる前の準備と心得
2 情報の収集
2−2 出港前の整備・点検と搭載品
1 船体・機関の整備と点検
2 積み込み品の確認
3 天気予報とその傾向の把握
2−3 航路の選定
1 安全な離岸距離と変針点
2 航海距離と所要時間
3 狭い水道や危険水域の航行
4 避難港の選定と錨泊の注意
3.海図って何?−海図の基礎知識−
3−1 平面図と漸長図
1 平面図
2 漸長図
3−2 漸長図の緯度と経度
1 緯度と緯度目盛
2 経度と経度目盛
3 緯度と経度の表示
3−3 海図の緯度と経度の表示について
1 緯度
2 経度
3 海図作業(チャートワーク)上の注意事項
3−4 コンパスカードとコンパス図
1 コンパスの目盛
2 真方位
3 磁針方位と偏差
4 偏差の修正
5 コンパス方位と自差
6 自差の修正
7 コンパス誤差とその修正
8 方位の読み方
3−5 海図図式
3−6 航路標識と灯質
1 主な浮標式
2 灯質
3−7 海図用具とその使い方
1 鉛筆と消しゴム
2 三角定規
(1)A定規
(2)B定規
(3)A定規とB定規の組み合わせ使用法
3 デバイダー
4.航海計画を海図に記入しよう!(チャートワーク)
4−1 海図に船位を入れる
1 方位線と距離で入れる
2 方位線と方位線で入れる
3 重視線と方位線で入れる
4 緯度と経度で入れる
5 緯度と経度を読む
4−2 針路と変針点
1 コンパス針路(方位)と磁針路(方位)
2 正横と変針
4−3 レーダーの測定方位を使って位置を記入する
1 レーダーの真方位指示と相対方位指示
2 コンパス針路と相対方位指示による方位と距離
4−4 重視線とコンパス方位線
1 重視線を使って自差を出す
2 その自差を使ってコンパス方位を修正する
3 重視線と磁針方位線で位置を記入する
4−5 潮流がある時の航法(流潮航法)
1 流向と流速
2 実航針路と実航速力を出す
3 流向と流速を加味して磁針路を出す
4 推測位置と実測位置から流向と流速を出す
5.例題(海図問題)を解いてみよう!
5−1 全航程を出す
5−2 所要時間を出す
5−3 クロス方位法により位置(緯度、経度)を出す
5−4 レーダーの方位と距離から位置(緯度、経度)を出す
5−5 重視線から自差を出して、方位線で位置(緯度、経度)を出す
5−6 実航磁針路と実航速力を出す
5−7 潮流の流向・流速を出す
5−8 磁針路を出す
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