航空機と空港の役割 -航空機の発展とともに進歩する空港-


978-4-425-86331-0
著者名:唯野邦男 著
ISBN:978-4-425-86331-0
発行年月日:2020/3/28
サイズ/頁数:A5判 264頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,300円(税込)
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1903年にライト兄弟によって成し遂げられた人類初の動力固定翼機による飛行は、広々とした平坦な草地で行われました。その時離陸のために敷かれたレールは初めて使用された滑走路と言えるかもしれません。それから百数十年―。
今や航空機・航空輸送と空港はお互いに切り離すことのできない関係にあり、空港の様々な施設は、航空機の運航や安全対策に必要な機能・形状・規模・強度などを持つように作られ、万が一に備えたセキュリティ対策も施されています。
このように、いわば巨大な都市機能を備えた空港について、本書ではその成り立ちから現在まで、それぞれの機能の解説とともに振り返ってみたいと思います。


【はじめに】

1903 年にライト兄弟によって成し遂げられた人類初の動力固定
翼機による飛行は、広々とした平坦な草地で行われました。その時離陸のために敷かれたレールは初めて使用された滑走路と言えるかもしれません。空中にやっと飛び上がれるだけの道具でしかなかった簡素な、しかしとても偉大な飛行機が、次第に戦争の武器や旅客・貨物の輸送手段としての航空機に進歩し、それとともに、航空機が離着陸するための飛行場が必要となりました。そしてその飛行場も航空機・航空輸送の発達に合わせて機能や規模を次第に向上・拡大し、やがて巨大な近代空港へと変貌を遂げて行ったのです。
今や航空機・航空輸送と空港はお互いに切り離すことのできない関係にあります。空港の様々な施設は、航空機の運航や安全対策に必要な機能・形状・規模・強度などを持つように作られ、特に離着陸や地上走行の安全に関わる施設は、就航する航空機に合わせた国際基準が定められています。また、現代の航空輸送には確実性・効率性が要求されており、そのための支援施設が空港に備えられています。更に、万が一の航空機事故発生に備えた対応やセキュリティ対策のための施設も空港に欠かすことができません。
本書においては、このように密接に結びついた航空機・航空輸送と空港施設の関係を、様々な視点から説明しています。
それぞれの空港は、様々な、時には知られざる物語を持っています。それらの物語が現在の空港の姿に反映されているのです。12の空港物語をご紹介したいと思います。

2020年2月
筆者

【目次】

1.航空機の進歩と空港の変遷  (1)航空輸送前史
  (1-1)黎明期の航空機
  (1-2)黎明期の空港
 (2)航空輸送幕開けの時代(1920年代)
  (2-1)20年代の航空機と航空輸送
  (2-2)20年代の空港
 (3)贅沢で優雅な乗り物の時代(1930年代)
  (3-1)30年代の航空機と航空輸送
  (3-2)30年代の空港
 (4)長距離国際線確立の時代(1940年代)
  (4-1)40年代の航空機と航空輸送
  (4-2)40年代の空港
 (5)ジェット旅客機誕生の時代(1950年代)
  (5-1)50年代の航空機と航空輸送
  (5-2)50年代の空港
 (6)航空機大衆化の時代(1960・70年代)
  (6-1)60・70年代の航空機と航空輸送
  (6-2)60・70年代の空港
 (7)経済性・環境調和の時代(1980・1990年代)
  (7-1)80・90年代の航空機と航空輸送
  (7-2)80・90年代の空港
  (8)豪華化と低廉化の時代(2000・2010年代)
  (8-1)00・10年代の航空機と航空輸送
  (8-2)00・10年代の空港
    空港物語1 羽田空港の起源
    空港物語2 羽田空港の接収と返還

2.航空機の種類と空港  (1)ジェット旅客機と空港
  ( 1-1)大型ジェット旅客機とハブ空港
  (1-2)中型ジェット旅客機と国内拠点・国際空港
  (1-3)小型ジェット旅客機と国内地方空港・LCC空港
 (2)地域航空機とローカル空港
 (3)貨物専用機と貨物ハブ空港
 (4)ゼネラルアビエーション航空機とGA空港
 (5)水上機と水上空港
    空港物語3 成田新空港用地の選定と反対闘争

3.航空機の性能・形状と空港施設  (1)航空機離着陸距離と滑走路長
  (1-1)標準条件下での必要滑走路長の算出
  (1-2)必要滑走路長の補正
 (2)航空機主脚幅と滑走路幅
  (2-1)航空機コード記号と滑走路長コード番号
  (2-2)滑走路幅の国際基準
  (2-3)主脚外縁のブレを考慮した滑走路幅の設定
 (3)航空機横風限界と滑走路方位
 (4)航空機離着陸と滑走路処理容量
  (4-1)単独滑走路の滑走路処理容量
  (4-2)複数滑走路の滑走路処理容量
 (5)航空機荷重と滑走路舗装構造
 (6)航空機着陸とグルービング
 (7)航空機逸脱・進入復行と着陸帯
 (8)航空機逸脱と過走帯・滑走路端安全区域
 (9)航空機離着陸空間確保のための制限表面
 (10)航空機地上転回のためのターニングパッド
 (11)航空機離着陸能力と誘導路
 (12)航空機主脚幅と誘導路幅
 (13)航空機主翼幅と誘導路帯
 (14)滑走路・誘導路中心線間隔
 (15)航空機翼端クリアランス
 (16)航空機駐機方式とエプロン形状
 (17)航空機の駐機目的とエプロンの種類
  (17-1)ローディングエプロン
  (17-2)カーゴエプロン
  (17-3)ナイトスティ専用エプロン
  (17-4)メンテナンスエプロン
  (17-5)エンジンランナップエプロン
    空港物語4 伊丹空港中村地区問題の解決

4.航空機運航と支援施設  (1)空港管制空域と管制塔(飛行場管制室)・レーダー管制室
  (1-1)管制圏と進入管制区(1-2)管制塔(1-3)レーダー管制室
 (2)航空機の出発・進入経路とVOR/DME・ILS
  (2-1)標準計器出発方式(SID)
  (2-2)標準計器到着方式(STAR)
  (2-3)計器進入方式(IAP)
  (2-4)標準飛行経路の保護空域
  (2-5)SID・STAR・IAP(VOR/DME進入方式)を形成するVOR/DME
  (2-6)ILS 進入方式を形成するILS
 (3)航空機出発・進入の安全・効率を支える空港レーダー(ASR/SSR)
 (4)航空機離着陸視覚情報を提供する滑走路標識
 (5)航空機離着陸視覚情報を提供する航空灯火システム
  (5-1)精密進入角指示灯(PAPI)
  (5-2)進入灯
 (6)航空機運航気象情報と気象観測施設
 (7)航空機地上走行を円滑にする空港面探知レーダー(ASDE)
 (8)航空機の停止位置を示す停止位置標識・停止位置案内標識
 (9)航空機の滑走路誤進入を防止するストップバーシステム
 (10)航空機離着陸と除雪
  (10-1)路面の除雪
  (10-2)航空機翼面の除氷
 (11)航空機離着陸とバードストライク対策
    空港物語5 佐賀空港と熱気球の共存

5.航空輸送・地上交通輸送と旅客ターミナル  (1)旅客ターミナル
  (1-1)空港における旅客ターミナル位置
  (1-2)旅客ターミナル機能
 (2)航空機駐機数と旅客ターミナルコンセプト
  (2-1)単純ユニット方式・複数ユニット方式(フロンタル方式)
  (2-2)リニアフロンタル方式(直線形・曲線形ユニットターミナル)
  (2-3)ピア方式(フィンガー方式)
  (2-4)ピアサテライト方式
  (2-5)リモートサテライト方式
  (2-6)オープンスポット方式
  (2-7)エアサイド/ランドサイド方式
 (3)航空機駐機数・駐機時間とエプロンスポット数
 (4)航空機乗降と旅客ターミナルビル階層方式
 (5)旅客ターミナルビルの規模
 (6)航空機移動を支える牽引車
 (7)航空機旅客乗降と地上支援施設
 (8)受託手荷物・航空貨物と地上支援施設
 (9)航空機燃料と給油施設
    空港物語6 羽田空港旅客ターミナルのJAL・ANA使用区分

6.航空機セキュリティと対策施設  (1)航空機持込み禁止物とセキュリティ対策
 (2)国際線乗継ぎ(トランジット・トランスファー)のセキュリティ対策
 (3)航空機走行地域と制限区域
    空港物語7 旅客ターミナルビル出発・到着旅客動線の分離と非分離

7.航空機事故と空港対応  (1)航空機事故とその対応施設
 (2)航空機事故発生時の緊急活動計画
  (2-1)事故機搭乗者の救出・救命・応急手当・病院搬送
  (2-2)二次災害発生の防止
  (2-3)軽症者・無傷者への対応
  (2-4)死亡者の遺体収容・安置・身元確認
  (2-5)事故機搭乗者名簿の整理と照合
  (2-6)事故機搭乗者の家族等への対応
  (2-7)マスコミへの情報提供
  (2-8)事故機以外の航空機・搭乗者への対応
  (2-9)旅客ターミナルビル内航空旅客への対応
  (2-10)事故原因の究明
  (2-11)空港運用の再開
    空港物語8 那覇空港新旧ビル会社問題の解決

8.航空機騒音と空港  (1)航空機騒音の特性と評価
 (2)航空機発生騒音の低減
 (3)騒音軽減運航方式
 (4)着陸滑走路の短縮運用
 (5)空港周辺騒音対策
    空港物語9 関西3空港
    空港物語10 羽田空港沖合展開の合意形成

9.航空機運航と舗装施設維持工事  (1)事前準備
  (1-1)航空機運航を制約しない工事計画
  (1-2)工事情報のパイロットへの周知(NOTAM)
  (1-3)工事作業員への講習
  (1-4)工事作業員の身元確認
 (2)工事現場入場時の行動
  (2-1)工事作業員・航空管制官間の無線交信の確保
  (2-2)工事作業員入場時の入場チェック
  (2-3)工事車両走行時の航空機優先
  (2-4)工事車両からの落下物防止
  (2-5)工事車両からのオイル漏れの防止
 (3)工事実施時の行動
  (3-1)航空機走行経路の確保
  (3-2)空港運用時間以外の時間帯での確実な工事完了
  (3-3)安全な航空機走行状態の確保
  (3-4)制限表面の確保
  (3-5)工事エリアへの航空機誤進入の防止
  (3-6)航空機翼端と工事区域間のクリアランス確保
  (3-7)地下埋設ケーブルの切断防止
  (3-8)地上灯器の破損防止
  (3-9)塵埃・資材の飛散防止
  (3-10)作業員・車両への航空機ブラスト影響の回避
  (3-11)航空機運航の安全・安定阻害事故発生時の緊急連絡
  (3-12)航空機緊急着陸時の避難と緊急復元
 (4)工事終了後の行動
  (4-1)滑走路・誘導路上の異物除去
  (4-2)滑走路・誘導路の安全状態確認
    空港物語11 羽田空港「祟りの鳥居」の移転

10.近未来の航空機と空港  (1)長距離航空輸送の高速化
  (1-1)超音速旅客機の開発
  (1-2)超音速旅客機への空港対応
 (2)航空燃料の革新
  (2-1)水素燃料航空機の開発
  (2-2)水素燃料航空機への空港対応
 (3)静音航空機と都市型24時間運用空港
  (3-1)静音航空機(Silent Aircraft)の開発
  (3-2)都市型24 時間運用空港
 (4)離着陸飛行経路設定の自由化・高精度化(MLSの普及)
  (4-1)MLS出発・進入方式の普及
  (4-2)近未来空港の対応
 (5)省力化
  (5-1)受託手荷物ハンドリング省力化
  (5-2)グランドハンドリング省力化
  (5-3)保安検査省力化
    空港物語12 羽田空港の跡地と国際線ターミナル施設

【著者紹介】 (技術士:総合技術管理部門、建設部門)
技術士事務所空港研究センター
1950年 埼玉県生まれ
北海道大学工学部建築工学科
北海道大学大学院修士課程(建築工学専攻)
運輸省東京航空局東京国際空港整備室長
佐賀県建設推進局差が空港課長
関西国際空港㈱工務部次長
運輸省航空局地域航空施設計画官
 (東京国際空港沖合展開事業担当)
運輸省大阪航空局飛行場部長
関西国際空港㈱計画部長/施設管理部長
国土交通省成田国際空港長
空港環境整備協会審議役
港湾空港総合技術センター審議役
2015年より現職
著書:『世界の空港事典』(共著・成山堂書店)



この書籍の解説

ライト兄弟が初飛行を成功させたとき、「滑走路」として使われたのは広くて平らな草地でした。最初の飛行機から百数十年が経過し、今では最大座席数が800席を超える航空機が就航しています。こうした巨大な航空機が安全に時間通りに離着陸できるのは、いったいどんな空港でしょう?そんな巨大な航空機には、もちろん大量の、おそらく国際線の旅客が乗っています。この乗客たちが滞りなくチェックインや入出国手続きをすませるには?違反行為や犯罪を見逃さないためにはどんな設備が必要でしょう?
その答えが、各国のメイン空港となるような巨大空港です。人の移動が国や大陸をまたぐものになったとき、船や飛行機等の乗り物も進化します。それに従って、乗り物に人を乗せるための場所も必然的に進化していくのです。
今回ご紹介する『航空機と空港の役割』は、そんな進化を経て到達した現代の空港を、航空機との関わりに注目して機能別に解説します。安全で確実な航空輸送、さらには効率のよい航空機の運用を可能にしているのは、空港のどのような設備なのでしょうか?航空業界で働く方、働くことを目指す方におすすめです。コラムとして様々な空港にまつわる裏話も豊富に紹介されているので、航空ファンにも興味のつきない書籍だと思います。
本書の著者唯野邦男氏による『進化する羽田空港』と併せて、是非ご一読ください。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『航空機と空港の役割』はこんな方におすすめ!

  • 航空・空港ファン
  • 航空会社・空港会社に勤務する方
  • 空港で働くことを目指す方

『航空機と空港の役割』から抜粋して3つご紹介

大型ジェット旅客機のメリットは一度に大量の旅客を運べることです。遠く離れた大都市間のような航空旅客需要の多い路線での使用に適しています。
大規模空港の航空旅客需要において、他の空港から来て他の空港へ乗り継ぐ需要がかなりの割合を占めている空港があります。これらの空港はハブ空港と呼ばれます。ハブ空港には2つの種類があります。特定の航空会社による 「航空会社ハブ空港」と、様々な航空会社によって形成される「航空ネットワーク中継ハブ空港」です。

ハブ空港に就航する大型ジェット旅客機は同空港を目的地とする旅客だけではなく、その先の様々な空港へ乗り継ぐ大量の旅客を、一度に効率よく輸送することができます。
「航空会社ハブ空港」では、特定の航空会社が特定の時間帯に多数の路線をその空港に集中させ、到着した旅客を短時間のうちに別の路線に乗り換えさせる輸送形態が取られます。 集中接続を成立させるため、空港は特定時間帯における多数の航空機の離着陸や駐機、大量旅客の短時間乗り継ぎなどを可能にするための施設を用意することになります。離着陸容量確保のための複数滑走路、大量同時駐機のための多数のスポット、乗り継ぎ時間短縮のための効率的な旅客移動システム案内システムや保安検査システム、効率的な受託手荷物分配システムなどです。

これに対して「航空ネットワーク中継ハブ空港」 では、様々な航空会社の路線が集中し相互の乗り継ぎが行われます。多くの航空会社が混在する中での航空ダイヤの集中接続は難しいため、乗り継ぎ接続時間は長くなり、待ち時間を快適なものにする必要があります。飲食店やアミューズメント施設、航空会社ラウンジの充実が求められます。航空会社ハブ空港同様の離着陸回数や駐機数の増加を受け入れることのできる十分な容量の滑走路・スポットに加え、どの航空会社間の乗り継ぎでも分かり易く移動しやすいシステムも必要です。
国際ハブ空港として成立し、成長し続けるために必要な要件は、①十分な滑走路長と離着陸容量、 ②十分な駐機スポット数と旅客ターミナルビル容量、 ③乗継ぎの利便性と待ち時間の快適性 です。

本文中では、「航空ネットワーク中継ハブ空港」の例として、シンガポールのチャンギ国際空港が挙げられています。同空港では、100以上の航空会社が世界約100ヶ国400都市を結んでいます。オープンパラレルに配置された4,000mの滑走路を3本備え、4つのターミナルビルをもつ巨大空港は、1年に人口の10倍以上の旅客を取り扱います。

滑走路標識と航空灯火

《航空機離着陸視覚情報を提供する滑走路標識》 パイロットは、滑走路標識から様々な視覚情報を得ています。

a)指示標識
指示標識は滑走路の方向を示す。パイロットから見た方位を、1°単位の磁方位数値のうちの上2桁で表す。2本の平行滑走路がある場合は左にL、右にRの文字を加える。4本の平行滑走路の場合は、内側の2本にCの文字を加えるか、2本一組の片方の数字をずらして表示する。指示標識は単に滑走路の方位を表しているだけではなく、その滑走路の名称でもある
b)滑走路中心線標識
滑走路の中心を示す標識
c)滑走路末端標識
滑走路末端の位置を示す。離陸を開始する地点と、着陸時の手前側と向こう側の両滑走路端部が明確にわかる
d)滑走路中央標識
滑走路の中央位置を示す標識で、滑走路の残距離を示す目安となる
e)目標点標識
長さ2,400m以上の滑走路では滑走路末端の内側400mほどの地点に設置され、この標識を目掛けて降りて来ることを促す。その側方付近には進入角指示灯(PAPI:後述)が接地され、進入角度情報を提供する
f)接地帯標識
目標点標識前後の範囲に、滑走路の長さに応じて1〜6組が設置される。例えば2,400m以上の滑走路の場合、滑走路末端から150mの間隔で6組描かれるが、手前2組の線の数が片側3本なのに対して、次の2組は2本、 奥の2組は1本と異なった表示で設置し、それぞれの接地帯位置の違いを示す
g)滑走路縁標識
滑走路本体の縁に設置される標識。滑走路と路肩の境界を示す
h)過走帯標識
通常ゼブラ形状の表示で、滑走路本体よりも弱い強度の舗装であり、非常時の場合を除いて航空機走行ができないことを示す。滑走路と同じ強度を有する走帯の標識は矢印(→)の表示で示し、航空機が走行可能であることを示す

《航空機離着陸視覚情報を提供する航空灯火システム》 夜間あるいは視界が悪い時には、標識は見えません。夜間は滑走路上やその周辺に設置された航空灯火システムが視覚情報を提供します。航空灯火システムは多くの種類で構成されています。滑走路末端標識に該当する滑走路末端灯、滑走路中心線標識に当たる滑走路中心線灯、滑走路縁標識に当たる滑走路灯、接地帯標識に当たる接地帯灯などがあります。
中でも目標点標識に代わる精密進入角指示灯(PAPI:パピー)は、単なる目標点情報だけではなく、適切な進入角度情報を提供するという有効性から、昼間の視界良好時を含めて常時使用されます。滑走路の手前に伸びる進入灯は、視界不良時で滑走路視認が明確ではない位置に入る航空機のパイロットに対して、滑走路の位置方向、機体の傾きという情報を提供します。

・精密進入角指示灯(PAPI)
着陸してくる航空機に対して、着陸目標地点と適切な進入角度から成る適切な降下コースについての視覚情報を提供する。通常は滑走路末端から概ね400mの位置の左側に設置され、4つの灯器から構成されている。航空機がオンコースにいる場合は4つの灯器が左から白白赤赤に見え、適切なコースよりも高くなると白の数が、 低くなると赤の数が増加する

・進入灯
着陸状態にある航空機が滑走路に正対しているかどうかを事前にパイロットに知らせる。また、進入灯に設置されているクロスバーの傾き具合によって航空機の傾き具合を視覚的に示す

以前航空分野に詳しい先輩と空港の話をしていて、滑走路ってこんな感じですか?と絵に描いて見せたときに「標識の描き方が違うよ」と指摘されたことがあります。滑走路に書いてある数字の意味を知らなかったのですが、そのとき説明されてやっとわかりました。

騒音問題と空港

(1)航空機騒音の特性と評価 ずっと出続ける音を同じ場所で聞く場合の騒音を定常騒音といいます。単位はdB(デシベル)です。
これに対して空港の周辺で聞く航空機の発着音は、発生間隔、音の大きさ、継続時間に不規則性があります。このような航空機騒音の評価指標として、Lden(エルデン、時間帯補正等価騒音レベル)という値が使用されます。1機の航空機が最も近づいたときのdB値をもとに、一日の上空通過数や時間帯等で調整を行って算出します。
毎日のLden値は実際には同じではないので、コンピューターシミュレーションによって当該空港周辺の Lden 等高線図(コンター図)を作成し、その図を基に対策の種類毎の範囲を定めています。

(2)航空機発生騒音の軽減 ジェット旅客機の低騒音化は、エンジンと機体の改良によって進められてきました。ジェットエンジンのコア部分にはターボジェットが設置されていますが、その前面にファンを取付け、コアエンジン部をバイパスする空気の流れを作り出し、そのバイパス比率を高めることによって、 低騒音化とエンジン推力の増大が図られてきました。

(3)騒音軽減運航方式 航空機の騒音影響を軽減するための運航方式が、空港周辺の市街地の状況や地形条件に応じて、多くの空港で使用されています。

a)急上昇方式(離陸)
滑走路延長上の近隣に市街地がある場合、離陸後の上昇時間を長くして高度1,000m近くまで急上昇し、市街地上空を騒音影響の少ない高度で通過する
b)カットバック方式(離陸)
最大出力で離陸後に一定高度に達したら、出力を絞って低騒音で市街地上空を通過し、海洋上空などに出た後、出力を上げて再び上昇を行う
c)ディレイドフラップ進入方式(着陸)
着陸時に脚やフラップを下げると空気抵抗が増し騒音が増加するため、この操作をできるだけ遅らせ、市街地への騒音影響を軽減する
d)低フラップ角着陸方式(着陸)
着陸に際してはフラップを最大限に下げるが、このとき騒音が増加するため、フラップ角度をできるだけ浅くすることによって、市街地上空での騒音を軽減する
e)優先滑走路方式
滑走路長に問題が無ければ、追い風5ノット程度までならば許容できる。また1時間当たりの離着陸回数の少ない空港であれば、滑走路の同じ側から離陸と着陸を行うことができる。これらの条件を満たし、滑走路の一方に海洋のような市街地のないエリアがある場合、可能な限りその方向を使用して離着陸することにより、市街地への騒音を軽減する
f)優先飛行経路方式
旋回しながら滑走路に進入する場合、できるだけ市街地上空の通過を避ける飛行経路を使用する。また離陸後に旋回して海洋上空などに出ることができる場合も、同様の効果がある

(4)着陸滑走路の短縮運用 航空機は通常、離陸距離に比べて着陸距離の方が短くなっています。着陸目標地点をできるだけ滑走路の内側に移動することで、着陸機の航空機騒音を軽減できます。短縮運用を行う滑走路では滑走路末端標識と目標点標識を数百メートル内側に設置し、他の滑走路標識もそれらに合わせて内側に設置します。

空港を新しく作るとき、騒音は大きな問題となります。1964年、伊丹空港でのジェット機運行開始による騒音は大きな社会問題となりました。その後航空機の進化により騒音は軽減していますが、現在も世界中で市街地に近い空港における騒音問題は続いています。

『航空機と空港の役割』内容紹介まとめ

航空機はより大きく、より高速に、より安全に進化しました。その機能を発揮させるため、空港もともに発展しています。航空機の種類、形状と性能、運航、地上交通輸送、安全、騒音に対応するための空港機能を解説し、空港の維持管理についても紹介します。その上で、未来の航空機と空港についても考察します。

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『進化する羽田空港』
本書の著者唯野邦男氏による、羽田空港解説本です。世界的にも屈指の大空港である羽田空港を、成り立ちや管理運営、空港施設と働く人々等、様々な角度から解説しました。あまり一般には知られていなかった情報も満載で、航空ファン、航空関連業種の方にもおすすめです。


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