交通経済ーThe Economics of Transportー


978-4-425-92941-2
著者名:ジョナサン・カーウィー編著/今城光英 監訳
ISBN:978-4-425-92941-2
発行年月日:2020/2/8
サイズ/頁数:B5判 328頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,740円(税込)
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原著は「The Economics of transport」というタイトルの英国の書。
誰しもが深く関わる交通(その市場やサービス)が、どのような需要(消費者、利用者)と供給(提供者、運輸事業者)の関係で成り立っているのか、また中央(政府)と地方、民間事業者との関わりはどのようになっているのかを、解説する「交通経済学」の入門書。

・人口密度が低く交通需要も希薄という状況の中で、いかに交通網を維持するのか
・産業の空洞化と人口減少が進んでいるが、地域再生と振興の面からの交通機能に寄せられる高い住民期待にどう応えるか
など、大都市の混雑、地方の過疎化・空洞化による衰退、観光地へのアクセス問題など、日本と似通った交通問題を抱えている英国の実例をケーススタディ等で取り上げて分析、解説。


【はじめに】

本書の目的は、経済学の主な原則を、交通事業へ適応できるか否かの検討を通じて、今日の交通が当面している問題を、読者によりよく理解させることにある。本書で交通経済のすべてについて触れることはできないので、交通に関連する経済統計や若干の情報は他から手に入れなければならない。本書は、理論と実践を通じて、交通に影響を与えている主な経済原則について、その理解を図るものである。その課題は、分析ツールを用いて交通の活動を分析し理解することにあり、その方法は、基本的で理論的な概念の輪郭を描くことと、交通事業の実践的な実例の紹介を増やすことによっている。また、経済理論で支持される多くのケーススタディも示すこととする。本書では、一方的なスタイルよりも、読者が多くの関心を引くようにデザインされており、読者は単純な解説以上に、交通について考えることができる。各章の最後には単純ではない付加的な問題や、これからの考え方が示されている。いくつかの場面では、新しい概念が示されているが、今後その詳細について議論が必要なものも含まれている。経済学は、単なる知識の習得からではなく、現実に生じている問題と対峙することを通じて、一層その理解を深めることができる学問である。
本書は、既存の経済学の知識によってだけで書かれたものではなく、新しい概念をも用いている。それは、定量的で技術的なアプローチというよりも、概念的な全体像を把握することで成り立っている。このことは、多くの業績を避けたり無視するということではなく、根底にある原則に基づき妥協してはいないということである。本書は、経済学の初学者だけを対象としたものではなく、この問題を以前に勉強した人にとっても有益なものである。交通の本質とは何かについて、多くの知識と理解を与えている。著者は経済学に基づく視点から、長期にわたって研究に携わってきた。本書は、学部および大学院で交通経済学を学ぶ学生とそれと同等の人を対象としている。交通の専門家や、より一層の知識を習得したいと思っている人には、とくに読んでいただきたい。有益なものとなるに違いない。交通に興味を持ち、今日の交通サービス政策と交通施設について理解を深めたい人は、本書から多くの識見をえることができるだろう。
本書は、大きく3部に分かれる。第1章と第2章は、導入部分である。第3章から第8章は、交通の消費者と供給者に関わる市場の機能に関するもので、交通を運営する費用、市場における競争、不完全競争を導き本質的な交通政策を外れる市場の失敗について扱っている。最後に交通サービスの料金決定に触れる。第9章から第14 章は、交通経済学における特定の課題について、第9章で交通と環境、第10章と第11章で規制と補助、第12章で貨物輸送、第13章で交通需要、第14章で交通の評価について考察する。最終章では、各章を踏まえて、交通経済学に係わる全体的なまとめを試みた。
共著者に対して、再度、私の感謝をささげたい。スティーブ・アイソンは、第8章と第9章を担当した。ジェフ・リディングトンは、テクニカルなテーマである第13章を担当した。トム・ライは、彼の明晰な視点から、交通の評価に関する第14 章を担当した。我々は、本書が読者にとって興味深く示唆に富んだものとなることを願っている。

【目次】

第1章 交通経済学への入門  1.1  はじめに
 1.2  経済学の学習と交通との関係
 1.3  希少性、選択、機会費用
 1.4  計画・自由・混合市場の経済
 1.5  本章のまとめ

第2章 交通と経済発展  2.1  はじめに
 2.2  交通の水準と経済的な豊かさのリンク
 2.3  供給主導モデル-交通が経済発展をもたらす
 2.4  需要主導モデル-経済発展が交通需要を動かす
 2.5  旅客輸送の経済発展における役割
    ケーススタディ2.1 経済発展への交通の影響
 2.6  GDPと貨物・旅客輸送の切り離し
 2.7  交通と地域経済
    ケーススタディ2.2 地域経済、交通、エジンバラの住宅市場
 2.8  交通と社会
 2.9  本章のまとめ

第3章 交通サービスの市場  3.1  はじめに
 3.2  需要法則
 3.3  所得
 3.4  他の財とサービスの価格
 3.5  流行もしくは傾向
 3.6  将来の価格上昇の可能性
 3.7  交通需要固有の要素
    ケーススタディ3.1 交通サービスにおける需要の決定要因 ー 所得による影響と実際の議論
 3.8  供給法則
 3.9  生産費
 3.10 政府政策
 3.11 同じ生産要素を活用することによる他の財とサービスの価格
 3.12 結合生産による財の価格
 3.13 自然の影響
 3.14 生産者の目標
    ケーススタディ3.2 英国のバス産業 ー バスサービス供給による費用の影響と実際の例
 3.15 交通サービス市場
 3.16 市場機構
    ケーススタディ3.3 都市道路空間の市場ー ロンドンを例とする交通サービスにおける市場の機能とバス利用
 3.17 本章のまとめ

第4章 交通需要の弾力性  4.1  はじめに
 4.2  交通サービスへの需要の価格弾力性
 4.3  交通需要の価格弾力性の決定要因
    ケーススタディ4.1 交通サービスにおける自己価格弾力性の実践的な推測と推計
 4.4  価格弾力性と総収入、需要曲線
 4.5  需要の価格弾力性に関する最終的な考察
 4.6  交差価格弾力性
    ケーススタディ4.2 需要の交差価格弾力性の問題
 4.7  所得弾力性
    ケーススタディ4.3 需要の所得弾力性を取り巻く問題点
 4.8  本章のまとめ

第5章 交通の費用  5.1  はじめに
 5.2  交通サービスの効率的な生産
 5.3  経済学者による時間の定義
 5.4  短期の費用と生産
    ケーススタディ5.1 交通事業における費用と生産
 5.5  短期の生産における費用
 5.6  短期の平均費用と限界費用
    ケーススタディ5.2 格安航空会社の事業モデルにおける平均費用の重要性
 5.7  長期の費用と生産
 5.8  「 規模に対する収穫逓増」の原因
 5.9  「 規模に対する収穫逓減」の原因
 5.10 長期の平均費用と限界費用
 5.11 「規模の経済」の原因
 5.12 「規模の不経済」の原因
    ケーススタディ5.3 規模の経済と鉄道事業の改革
 5.13 短期の平均費用と長期の平均費用
 5.14 本章のまとめ

第6章 交通市場における完全競争  6.1 はじめに
 6.2 背  景
 6.3 利潤最大化
 6.4 完全競争
 6.5 市場の失敗
    ケーススタディ6.1 道路運送業と完全競争の経済学者のモデル
 6.6 本章のまとめ

第7章 交通市場における不完全競争  7.1 はじめに
 7.2 独占
 7.3 寡占
 7.4 本章のまとめ

第8章 交通における価格決定  8.1 はじめに
 8.2 公共交通サービスの価格
    ケーススタディ8.1 航空券の販売
    ケーススタディ8.2 EWSと略奪価格
    ケーススタディ8.3  ブリティッシュ・エアウェイズの固定価格
 8.3 自家用交通の価格
    ケーススタディ8.4 ロンドン中心部の混雑課金
 8.4 本章のまとめ

第9章 交通と自然環境  9.1 はじめに
 9.2 貨物輸送と環境
 9.3 交通と汚染の経済モデル
 9.4 本章のまとめ

第10章 交通の公的な規制・所有  10.1 はじめに
 10.2 交通輸送サービス事業規制の形態
    ケーススタディ10.1 英国の鉄道インフラ供給者を規制する公的規制の実用性
 10.3 交通事業における所有権の問題
    ケーススタディ10.2 公共交通機関の規制を通じた所有から支配への移行
 10.4 本章のまとめ

第11章 交通分野への補助  11.1 はじめに
 11.2 公的補助の合理性
 11.3 市場への介入
    ケーススタディ11.1 割引運賃の払い戻しに関する課題
 11.4 交通サービスへの補助金を取り巻く他の問題
    ケーススタディ11.2 補助金支出の成功事例
 11.5 本章のまとめ

第12章 貨物輸送の経済学  12.1 はじめに
 12.2 貨物輸送の概観
 12.3 貨物輸送の交通機関
 12.4 本章のまとめ
  
第13章 交通需要予測  13.1 はじめに
 13.2 一般的な手法
 13.3 質的手法
 13.4 時系列分析
 13.5 計量経済学的手法
 13.6 モデルの選択 .
 ケーススタディ13.1 新たなフェリーサービスの需要予測
 13.7 本章のまとめ

第14章 交通の評価  14.1 はじめに
 14.2 交通評価とはどのようなものか、その存在理由は何か
 14.3 交通評価の理論と実践
 14.4 費用便益分析から多基準分析までの評価の進展
    ケーススタディ14.1 ロンドンのビクトリア線
 14.5 評価技術の他国との比較
 14.6 本章のまとめ

第15章 結語


この書籍の解説

私(担当M)は、ラッシュの酷さで名高い路線の沿線に住んでいます。毎朝窮屈な思いをしていますが、路線周辺に住民が多いことで利益も受けています。都心から離れても買い物に不自由しない「街」があるのです。栄えている場所が沿線にあれば、都心に出ずにこの沿線で働く人も多いはずです。商業、ビジネス、生活の場がその沿線で事足りてしまうわけです。この路線は地域経済に大きく貢献しているといえるでしょう。
またこの路線は、駅によっては複数の鉄道会社を選択し、少し違うルートで都心に出ることができます。企業労働者の定期券は最安ルートを選ぶのが常ですが、私事だったらどうでしょう。座席に座れるチャンスが多い、乗客の乗車マナーがいい等、他にも選び方があるかもしれません。
一転、私の出身地である地方都市に目を移した場合、とてもこのようにはいきません。自家用車がなければ、本数も少なく編成も短い列車に乗るか、渋滞で遅れがちなバスに乗るかです。このような場所で、勤務先や学校への唯一の路線が、いきなり値上げをしてきたら?「儲からないので廃止」と発表されたら?車を運転しない人にとっては死活問題です。
しかし多くの場合、鉄道会社は自治体と協力して、様々な努力をして値上げや廃線を回避しようとします。交通と経済は大いに関係がありますが、完全な市場原理で動いているわけでもないのです。
今回ご紹介する『交通経済』は外国書籍の翻訳ですが、交通と経済のこうした関係や、そこで生じる諸問題について、英国の事例を参考にしながら分析していきます。交通の発展と街の発展はどのようにつながっているのか、運賃はどう決まるのか、そこで起こりうる不正は何か等、交通と経済の関係を紐解いていきます。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『交通経済』はこんな方におすすめ!

  • 交通経済学を学ぶ学生
  • 交通の研究者
  • 自治体等で交通行政に関わる方

『交通経済』から抜粋して3つご紹介

『交通経済』からいくつか抜粋してご紹介します。人間は必ず移動しなければ暮らしていけません。特に近代社会においては、社会的なサービスを受けるためにも交通サービスは不可欠です。こうした中交通サービスは、経済成長と切り離せない性格を帯びました。人間やものが移動することと経済の関係、そこから生じる諸問題について、英国の例を用いながら解説し、交通に影響を与えている経済原則についての理解を導きます。

交通と経済発展

《交通の水準と経済的な豊かさのリンク》
交通の水準と経済的な豊かさは深く関係しており、貨物輸送量とGDPを比較すると、比例して増加していることがわかります。また、消費者社会への移行も増加に関係しています。需要量がより多くなるだけでなく、より速いサイクルで消費されるようになってきているのです。より多くの人が雇用され、所得が上昇し、消費量が増え、輸送サービスの需要も増加するこのサイクルが、経済学でいう乗数効果です。
GDPが増大すれば貨物輸送量が増えると考えられがちですが、実際はそう単純ではありません。一方貨物輸送の進歩が輸送コストの低下をもたらし、より多くの生産や輸送につながる場合、貨物輸送の進歩がGDPの増加をもたらしたといえるでしょう。
政策的には、この差異は重要です。ある地域の経済問題を解決するため、交通アクセスを改善すべきかどうかを考えるとき、GDPの増加→交易の増加という因果関係の場合は、改良されたインフラが利用されなければ資源の浪費となります。逆に交通の発展→GDPの増加と考えれば、投資を行う決定がなされるでしょう。経済発展と交通の関係を考察するとき、大きく分けて供給主導モデルと需要主導モデルが考えられます。

《供給主導モデル―交通が経済発展をもたらす》
供給主導モデルでは、ある地域の交通インフラの改善が、自動的に経済活動を刺激して、経済発展を促すと考えます。理由は以下の通りです。
・市場の拡大、生産の増大と乗数効果:交通インフラの改善は、その地域の富を増大させ、特定の財やサービスの生産の増加につながる
・建設や運営における雇用の間接効果:インフラ建設・運営は直接地域の労働力への需要を高め、乗数効果を伴って地域の所得に拡大をもたらす

《需要主導モデル-経済発展が交通需要を動かす》
交通の提供は常に基本的な需要への対応であるという考え方もあります。経済発展がよりよい交通施設への需要を生み出すという因果関係に注目した考え方です。その地域に財やサービスへの需要がなければ、交通需要も実体的な経済発展も起こらないというものです。基本的には、需要は顕在需要と潜在需要に分けることができます。

・顕在需要:顕在需要は、現在実際に行われている旅行や財の輸送という形で現れる。これが増大すれば、現在あるインフラを需要に合わせて拡張する必要がある
・潜在需要:潜在需要は、現在あるインフラが不適当であるために満たされていない需要を指す。状況が改善されて旅行のコストが下がれば、需要は顕在化するかもしれない

経済発展と交通は密接に結びついていますが、二つの因果関係の方向性については、全ての状況に当てはまる明確な答えは存在しません。政策決定においては、地域経済の基本的な主導要因と交通のそれに対する可能性を見極めることが重要です。

「出勤に便利な街」「BtoB、BtoCの配送が便利な街」は栄えています。輸送システムと地域経済が繋がっているのです。「栄えている場所は交通の便がよい」という漠然としたイメージがありますが、「経済と交通どちらが先か」とはあまり考えたことがありませんでした。「東京近郊の街をいくつか考えると、「供給主導」「需要主導」どちらの例も思い浮かべられそうな気がしますね。

公共交通サービスの価格

公共交通運賃・料金は、独占状態で運営される場合、「市場の許容範囲」に依存します。市場は、価格やチケットの柔軟性などの変化について異なる反応を見せる顧客で構成されています。異なる行動をとる顧客ごとの断片(セグメント)について、独占状態だと価格決定の際には事業者が有利になりやすい傾向があります。

《価格差別》
価格差別とは、同じ製品の価格を特定の消費者に対してより高く請求することです。価格差別は交通部門では広く使われており、事業者は同一のサービスについてある程度の幅を持った運賃・料金を設定しています。価格は、一日の中での運行時間、チケットを予約する時期、一年のうち特定の期間などによって変動します。
価格差別の基本的な原則は、消費者余剰を減少させることによって、事業者の全体としての収益を増大させ、より高い利益を得ることです。消費者余剰は、消費者が支払いたいと思う価格と、実際に支払う価格との差で表されます。消費者余剰を縮小させるには、いくつかの条件を必要とします。

① 売り手が市場においてある程度の支配力をもっている
② 売り手が市場をセグメントに明確に分け、繁忙期/閑散期等の異なる市場内で顧客を分類できる
③ 各セグメントの需要の価格弾力性が異なっていること

事業者は個別の単位(チケット)を別々に販売し、消費者が支払ってもよいと考える上限の価格を設定することで、消費者余剰の全てを獲得することが望ましいでしょう。このような状態を、完全価格差別と呼びます。
完全価格差別は事業者に大変有利ですが、コスト面等で完全な実現は困難なので、事業者はより大まかな形で価格差別を行うことになります。異なる市場の消費者に異なる価格を請求するという方針です。代表的なものは学生割引や、通勤客とレジャー客、繁忙期と閑散期等の分類です。利潤が最大になるように各市場での販売価格と販売数を決定します。

《略奪的価格設定》
略奪価格は、会社が一時的にコストを下回るまで価格を下げ、長期的な異常利潤を得ようとする時に起こります。目的は、競争相手を破綻させたり、合併を促したり実際に談合したりすることによって、独占状態を達成あるいは維持することです。
略奪価格は、セグメント分けされた市場では魅力的な戦略です。支配的な会社は他の市場に進出した際、価格を変更することなく競合他社に打撃を与えることができるからです。そのため略奪価格は、大部分の先進諸国で違法となっています。

《価格協定》
寡占市場の会社は、互いに競争すべきか共謀すべきかといったジレンマに直面します。価格協定は共謀的活動のひとつで、市場の中にある会社が、価格競争を排除して利益を増やすために製品・サービスの販売価格について同意することです。
価格協定は談合の一形態であり、組織の利益レベルを上昇させることを可能にしますが、独占的な力を得た組織は公共の利益に反する活動を行うことがあります。したがって略奪価格と同様に、積極的な共謀は大部分の先進諸国では違法となっています。
組織による共謀は、以下の場合に起こる可能性が高まります。

・市場で活動している組織が少ない
・組織が互いを信頼しており、合意が破られない
・組織のコスト構造が似ており、価格変更の提案に同意しやすい
・サービスレベルや質に基づく競争の余地が少ない
・市場がかなり安定しており、需要とコストが劇的に変化しない
・市場に参入障壁がある

談合は、いくつもの異なる形態をとります。例えば価格設定、生産量、どの顧客に供給するか、どんな割引を実施するか、などがあります。また、密室で行われる談合の証明は、非常に難しいものです。

繁忙期に旅行のチケットを取ろうとすると、ずいぶん前に予定を決めておかないと、高い金額を払わなければならなくなります。また、勤務時間の自由の利く職場に勤める人は、オフピーク料金の恩恵を受けられるかもしれません。私たちはこうして、交通運賃を支払う度に、事業者の施策通りの行動をしていることになります。

交通サービスの補助金に対する経済学的合理性

交通サービスに補助金を支給するという考え方の主な経済学的合理性について考察します。失敗の補正は補助金の支払いの最も強い根拠ですが、非効率的あるいは非効果的という理由だけで、補助金が支払われるわけではありません。非効率的な経営を補助することには、四つの主要な基準があるのです。

《交通機関による土地の有効利用に対する補助》
交通機関の中には、他と比較して土地の利用が非効率的なものがあります。大きな問題となる場合もあり、一般的には混雑現象として知られています。こうした場合、当局には二つの選択肢があります。

① 課税により土地の非効率的な利用を行う交通事業者を罰する
② 土地の効率的利用が可能な他の交通機関を魅力的に見せる
②の手法は、運賃を直接割引した分を補助金で賄うか、サービスの質を向上するかどちらかの形態をとります。後者の場合、補助はサービスのサポートという形態になるか、サービス向上に対する投資資金のサポート(資金補助)で使われることになります。

《環境にやさしくない交通機関の影響を削減するための補助》
他の交通機関よりも環境に対して大きな影響を及ぼす交通機関もあります。この問題の解決策としては、以下の2つが考えられます。

① 環境にやさしくない輸送形態に課税する
② 環境にやさしい交通機関に補助する

鉄道サービスの利用は自動車利用を減らし、その結果自動車利用者はスムーズに移動することができます。一方自家用車はそれを使わない人にも騒音や大気汚染、違法駐車などの外部費用を与えますが、それも鉄道利用によって減らすことができます。
この場合、鉄道は過少消費のケースとなり得ます。鉄道サービスを利用する移動者にのみ評価され、自らの利益が市場で測られない移動者の利益は評価されていません。

《経済発展あるいは地域再生への補助》
交通は、経済成長を促進、持続させるための重要な要素と見なされています。なぜ交通サービスに対する補助金と経済との間に政治的合理性が存在するのかについては、交通サービスは公共財であるという考え方がその一つの根拠になっています。
交通サービスの改善が地域経済を高めるだろうという経済学的な合理性の観点からすれば、補助金が正当化されることもあります。地域の全ての住民がサービス改善による便益を享受すれば、便益の大きさは支払われた補助金よりも大きくなるのです。

《社会的に必要なサービスへの補助》
社会的に考慮すべき公平性についての問題も存在します。2004年の調査では、個人が自家用車を利用できるかどうかは、所得とかなり強い関係があることがわかりました。
今日の現代的な社会では、交通は社会参加に必要なものだとみなされます。その必要性に関しては、公共交通機関が全ての役割を担うことになります。しかし、商業ベースでは成り立たない経営状態の交通機関も少なくありません。この場合、補助金の支払いには合理性が存在します。しかし、交通サービスの維持については政治的な議論に委ねられるべきであるとの考え方もあります。
経済学で議論すべきなのは、公平性についての事項、特に機会均等に関する事項です。収入を得て蓄える機会は全ての人々に開放されるべきで、利益が最大になることが最も好ましいことです。それが最善の状態で達成されれば、最大の経済的利益をもたらします。交通の衰退によって、そのプロセスが阻害されるべきではありません。
経済的に衰退した地域では、交通サービスに対する需要が、繁栄した地域よりもかなり低い水準となっています。そんな状況で民間に経営が任されてしまえば、交通サービスは提供されなくなり、当該地域の問題はさらに悪化します。

そのような地域の発展を後押しするためには、交通サービスへの補助を実施し、サービスを利用できる人と利用できない人との間で大きな不均衡が発生することを防がなくてはなりません。こうした施策は、特に辺鄙な地域においては急いで解決されなければならないのです。

交通に関する書籍を参照すると、必ずと言っていいほど触れられているのが地方のインフラ問題です。鉄道やバスが衰退してしまった過疎地域で、車を所有・運転できない人々はどうなるのか?そのような人々が地域で生活できなくなれば、地域は成り立たなくなってしまいます。このような事態を防ぐために、自治体と交通事業者は様々な形で協力し、インフラ維持に努めています。

『交通経済』内容紹介まとめ

交通の市場やサービスが、どのような需要と供給の関係で成り立っているのか、また中央(政府)と地方、民間事業者との関わりはどのようになっているのかを解説します。過疎地のインフラ維持や、地域再生に関わる交通への期待にどう応えるか、都市の過密化と地方の過疎化にそれぞれ伴う問題など、交通の諸問題を経済学の原則を用いて分析します。民営化や規制緩和は、完全な市場原理の支配を意味しません。交通分野の特性を明らかにしつつ、問題解決への道を考察します。

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交通と政治経済 おすすめ3選

『交通政治学序説』
交通は経済原理とともに、政治と行政によっても管理・統制されています。交通に内在する疑問や問題を、法律、政令、省令を通して抽出し、生産的構造、物理的構造、経営的構造の面から法律との関係を論じます。鉄道・バス・航空の各分野における諸問題に方がどのように関与しているか検証し、交通政策と政治の関係、法の限界も示します。

『交通インフラの運営と地域政策』
交通インフラ事業の制度、政策、資本、運営について、仕組みや構造、課題や問題点なども示します。民間/行政の両面から分析を行い、これからの交通インフラ運営に対して公・民双方が取るべき戦略とその実現について解説しました。交通インフラ全般について、その現状、課題などが概観できる一冊です。

『鉄道政策の改革』
日本は鉄道大国といわれています。その特徴は、鉄道旅客輸送の大半が民間の鉄道事業者によって担われているという点です。しかし商業運送を中心とした政策では、都市への一極集中や地方の過疎化などの問題に対応しきれていません。これまでの日本の鉄道政策や諸外国の鉄道政策を取り上げて比較・分析し、日本の鉄道政策が抱える問題点を明らかにします。


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カテゴリー:交通 
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