駐車施策からみたまちづくりー地域ルールの先がけ大丸有モデルー


978-4-425-92921-4
著者名:大手町・丸の内・有楽町地区駐車環境対策協議会 編著/高田邦道 監修
ISBN:978-4-425-92921-4
発行年月日:2019/11/28
サイズ/頁数:B5判 240頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,520円(税込)
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『駐車政策が育むまちづくり』を目指した大手町・丸の内・有楽町地区における駐車環境の整備に関する地域ルールの生誕から10年を経過した実績、
1.地域ルールというシステムをどのように構築したか
2.ビルの駐車計画の審査にどのように関わってきたか
3.その結果、地域の交通にどのような変化が起きてきたか
4.今後の地域の交通未来図をどう描こうとしているのか
をまとめた内容。
日本を代表する大丸有地域から発信する新しいルールの誕生の姿と、大規模都市開発が行われている他の地域の参考、指針を示す。



【目次】

第1章 駐車政策の変遷と大丸有地域ルールの誕生  1-1 わが国の駐車政策の考え方
 1-2 大規模建築物の附置義務駐車減免と地域ルールへの道
 1-3 大丸有地区への駐車場地域ルール導入の経緯
 1-4 駐車施策からまちづくりを考える大丸有駐車場協議会

第2章 駐車場計画から地区計画への展開  2-1 附置義務駐車スペースの緩和と地域ルール
 2-2 欧州の都心再生と駐車政策
 2-3 モータリゼーションと公共交通の共存
 2-4 日本で地区単位の駐車計画がたてにくい条件

第3章 世界有数のオフィス街・大丸有地区  3-1 大丸有地区の成り立ち
 3-2 大丸有地区の駐車場整備の歴史
 3-3 大丸有地区の鉄道路線整備と自動車交通
 3-4 大丸有地区の空き駐車スペース

第4章 大丸有駐車協議会  4-1 大丸有地区のまちづくり
 4-2 駐車場地域ルールの策定と大丸有駐車協議会の誕生
 4-3 地域ルールの運営組織とその役割
 4-4 大丸有地区における地域ルールの考え方

第5章 地域ルール適用申請と審査手順  5-1 地域ルール適用申請のコンセプト
 5-2 地域ルールの適用申請と審査
 5-3 審査内容と審査手順に関する議論
 5-4 審査の視点と審査フロー
  【Parking1】地域特性を反映した駐車需要算定手法の開発経緯

第6章 駐車計画の審査  6-1 駐車計画における審査の枠組み
 6-2 乗用車駐車場整備計画と審査
 6-3 貨物車駐車場整備計画と審査
 6-4 その他駐車関連施設計画の審査
 6-5 地域貢献に関する審査
 6-6 駐車需要推計の留意事項
  【Parking2】「届ける物流」からみた、高層建築物の進化の期待

第7章 地域ルール運用の効果  7-1 地域ルールの運用効果の考え方
 7-2 地域貢献施策の効果
 7-3 負担金の活用効果
 7-4 地域ルールの運用によるまちづくりの推進

第8章 地域ルール・今後の課題  8-1 附置義務減免の課題
 8-2 大丸有地区駐車の課題
 8-3 附置義務減免審査の課題
 8-4 地域ルールの課題

資料  1 協議会の経緯
 2 データに見る大丸有地区の駐車特性
 3 世界の都市の駐車場政策、附置義務駐車場



この書籍の解説

東京駅の丸の内側へ出ると、背後には見事に蘇った赤レンガの東京駅があります。広々とした駅前空間を取り囲むのは、かつてのノスタルジックな風景ではなく、超高層オフィスビルや複合商業ビルです。
東京駅の周辺、大手町・丸の内・有楽町地区は、1894年に竣工した赤レンガの三菱一号館に始まり、東京海上ビルディング、郵船ビル、丸の内ビルヂングのアメリカ式オフィスビルの時代、1960年頃に始まった高さを揃えた近代的オフィスビルの時代、そして現在も続く超高層オフィスビルと、時代時代の特徴的な建物を擁する最先端のオフィス街であり続けてきました。
現在この地域を歩いてみると、非常に快適なことに気づきます。道路は広く、路上駐車は見当たりません。街路樹が木陰を作る広い歩道には、カフェなどの飲食店がテーブルを出し、周辺のオフィスで働く人々や買い物客が食事やお茶を楽しんでいます。こうした風景は、一朝一夕に実現したものではありません。地域が一丸となって、理想のオフィス街を作り上げてきたのです。
この地区では、1988年から地域ぐるみで将来のまちの在り方に対する議論を重ね、実践的なまちづくりを進めてきました。そこで重要視されてきたのは、駐車場に関する問題です。このエリアに適した駐車場整備に関するルールを確立し、改良を加えながら運用することで、歩行者・事業者・運転者にとってよりよい地域が築かれてきたのです。
今回ご紹介する『駐車施策からみたまちづくり』は、この地域ルールの思想、運用方法、成果について、他の地域にも参考になるようまとめたものです。快適なオフィス街の実現には、地域ルールの作成と運用が大きく関わっています。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『駐車施策からみたまちづくりー地域ルールの先がけ大丸有モデルー』はこんな方におすすめ!

  • まちづくり、地域計画に関わっている方
  • 商工会に属する方
  • 駐車場経営に関わる方

『駐車施策からみたまちづくりー地域ルールの先がけ大丸有モデルー』から抜粋して3つご紹介

『駐車施策からみたまちづくり』から抜粋していくつかご紹介します。路上駐車のないオフィス街を目指して道路環境整備を進めてきた大丸有地区。その実現のために策定された地域ルールについて、構築の経緯、ビルの駐車場計画の審査とその成果を紹介しました。まちづくり、駐車場運営に関わる方におすすめです。

日本で地区単位の駐車計画がたてにくい条件

モータリゼーション時代においては、駐車問題をクリアすることが必須です。一建物として、地区、都市として、どうあるべきかを考えなければなりません。日本の駐車政策が海外から評価されているのは、建物に駐車スペースを確保すること(附置義務駐車制度)と、駐車スペースを確保しないと車を購入できない(車庫法)といった仕組みのためです。しかし、地区と駐車、都市と駐車の観点からは、必ずしもうまく機能しているわけではありません。

考えられる理由は以下の通りです。

① 附置義務に関する法で、準備する駐車スペースの規定から貨物車が除外されていた
② タクシーや運転手付き乗用車でのアクセスに対応していない
③ 日本の商取引の原則は「店頭渡し」であるため、店舗側は配送車の駐車場所に無頓着
④ 道路交通法は、駐車場法でバスと貨物車が除外されているのに準じた対応を行ってきた。そのため駐車禁止区間であっても積み下ろしの際の取り締まりは困難
⑤ 自治体の土地保有量が極めて少なく、道路改善や地区での集約駐車場の建設に多くの費用と時間がかかる
⑥ 道路機能の段階的構成を明確にせずに道路整備を進めたため、都市域では全面的に駐車禁止の措置がとられている。建物の負担が大きすぎるので、建物と道路の良好な関係が見いだせていない
⑦ 公共インフラ整備がまちまちで、道路下に駐車場が建設しにくい。都心郊外ともに大型店が進出し、都心部と郊外部で駐車政策のメリハリがつけにくい
⑧ 緑地の保存や生産が行政単位で十分確保できない上、複合利用への制限が大きい
⑨ 行政取引ができないので、諸規制が大規模建物や地区づくりのネックとなっている
⑩ 管理瑕疵責任が問われるので、禁止規制が多く存在する
⑪ 地方自治体独自の財源が少ないため、補助金頼りになる。そのため特色あるまちづくり、地区の特色に合った地域ルールの運用が難しい

以上述べたような課題の克服を含めて、大丸有地区は新たな駐車施策によるまちづくりを進めていったのです。

書店を訪ねるときに搬入口を通ることがありますが、大きなトラックが1台入れる程度のところが多く、小さなバンや宅配業者の車が店の周囲に待機していることがあります。建物に駐車スペースを設けなければならない決まりから、貨物車は除外されていました。しかしこうした短期間の駐車も、街の車や人の流れを阻害する原因になりかねないのです。

大丸有地区における地域ルールの考え方

(1)乗用車マスの削減と貨物車マスの増設
大丸有地区では自動車利用が低く駐車場利用も低いという認識があり、貨物車両に関する議論が充分ではありませんでした。しかし実際に調査を行ったところ、貨物車利用が予想以上に多いことがわかりました。この結果を踏まえ、荷さばき駐車スペースはピーク時の需要を推計して計画することを方針として定めることとしました。
地域ルール運用2年目以降は、駐車場の整備台数は乗用車、貨物車、自動二輪車の各々について、個別に需要推計することを原則としています。また社会状況の変化等による需要変化にも対応するため、利用状況のモニタリングも行っています。

(2)路上駐停車の排除
台数減免を基本とした地域ルールを検討する際に、路上の違法駐停車の問題がまず取り上げられました。地区全域の路上駐停車の状況を調査したところ、それらを駐車場に取り込んだ場合のピークの状況でもかなり余裕があることが確認されました。
併せて違法駐停車の排除を含め、地区内の交通の円滑化と安全性向上を目指すことを目的とするという方向性も定まりました。
現在地区内の路上駐停車は、地域ルール運用開始時期に比べると確実に減っています。

(3)個々の駐車場を越えたエリアとしての取組み
この地域ルールの重要な考え方として「地区全体で取り組む」という視点があります。イベント等である建物の需要が特別に高まるような場合には、それを周辺ビルの駐車場で吸収するといった駐車場相互のネットワークを構築することも、ピーク平準化に対し有効な方策として推奨されています。
地域ルールでは、緩和申請にあたって申請者が地区全体のために取り組むべき駐車対策として以下の項目を掲げています。

① 駐車場ネットワークの整備
② 利用しやすい情報の提供
③ 休日および時間外の駐車場開放
④ 路上駐車の駐車場への誘導や指導
⑤ 物流の共同化
⑥ その他駐車対策に関すること

(4)駐車場計画の充実
大丸有地区の地域ルールでは、申請者が計画のなかで取り組むべき内容として次の3項目を掲げています。

① 利用しやすい構造、歩行者等の安全性に配慮した動線計画、出入口位置の配置および車寄せなどの整備
② 適切な荷さばき駐車施設の確保や共同化に向けた荷受けスペースの整備
③ 自転車保管場所自動二輪車などの駐車場のスペース確保

これらは、駐車場が安全に加えて利便性を確保しなくては路上駐停車を減らすことはできないという考え方に基づいています。
短時間の路上駐停車を抑止するためには、ビルの地上玄関部での車寄せの整備は重要です。また、荷さばき施設の充実や集配の共同化、自転車・自動二輪車の駐車スペースの確保も推進しています。
このように、大丸有地区では地域ルールの根幹となる大事な考え方が、地域ルール策定協議会とルール運用開始後1~2年の時期に固まっていきました。

日本付近では、梅雨の時期や秋雨の時期に現れるオホーツク海高気圧がブロッキング高気圧にあたります。オホーツク海高気圧と太平洋高気圧の間に、梅雨前線や秋雨前線が生じるのです。

地域貢献施策の効果

(1)路上駐停車の減少
地域ルール適用駐車場は、誰でも利用できる一般有料駐車場を整備することを減免の前提としています。駐車場へのアクセスが向上し、路上駐車が減少するとともに「うろつき交通」が減少しました。
5年に1度の大規模調査の結果、平日休日ともに路上駐停車は除々に減少していることが明らかになりました。

(2)地域の駐車場連携による効果
利用施設の駐車場が満車だった場合は、近隣の駐車場や地下でネットワーク化されている駐車場が連携して受け皿となります。このため、地域で駐車需要を取り込むことが可能となりました。
また、自動二輪車駐車場や自転車駐車場が整備され、二輪車の路上駐車も減りました。
大丸有地区が抱えている自動車や二輪車の駐車需要に対し、地区に立地する駐車場が連携して受け皿となることで、路上駐車の削減、景観の改善につながっています。

(3)良質な駐車場整備による効果
① 車寄せ
道路に面した建物の地上レベルに車寄せを整備することにより、タクシーを含む乗用車に対する人の乗降を敷地内に取り込むことができます。路上での駐停車輌の削減、利用者の安全性や利便性の向上を実現できました。

② 貨物車入出庫のための梁下高の確保
荷さばき駐車スペースの整備台数を確保し、荷おろしや仕分けのスペース、貨物の動線などを整備計画に反映させています。古い建物では車高の高い貨物車の入庫が制限されていましたが、地域ルール適用駐車場では充分な高さが確保されています。
館内共同物流を行うビルも増え、貨物車の駐車時間短編などに効果が現れています。さらなる大型貨物車の駐車スペースを整備することも有効だと考えられており、今後の整備が期待されています。

③ バスの乗降場
最近供用開始した地域ルールを適用した建物では、リムジンバスなどの乗降場を地上に設けた事例がみられました。今後供用開始される常盤橋計画では、多くの見物客が観光バスで訪れることが想定されていることから、グランドレベルに複数台のバス専用駐車場を整備する予定です。

④ 車両通路地下ネットワーク化
駐車場間の連携が地下ネットワーク化でなされれば、地上交通に影響することなく集中した需要を分散でき、極めて有効です。
駐車場を地下通路でつなげば、迂回する車の走行距離は大幅に減ります。利用しやすい入口を利用することにより、地上交通量の減少による渋滞解消や貨物車の利便性向上にも貢献します。この考えに基づき、既にいくつかのビル間で地下ネットワークが実現しています。
一方、地下ネットワークでの移動は道路交通法が適用されないため、事故発生時の賠償などの法的な課題が残っています。

⑤ 既存ビルの地域ルール適用申請
二段機械式駐車施設を使用していた既存ビルのケースでは、需要の実態を精査した結果、 駐車場台数を削減できることがわかりました。二段機械式駐車施設を取り払うことによって利便性と安全性を確保し、荷さばき駐車スペースの車室サイズを見直すことにより、安全性と荷さばき作業環境の向上を実現しました。

地図で見ると東京駅周辺の地下駐車場の広大さや繋がりは驚くほどですが、地上で見かけるのは走っている車ばかりなので、車を運転しない私(担当M)はあまりその存在を意識していませんでした。路上駐車を意識せずに歩けるオフィス街は、こうした「地下」の連携と努力によって成り立っているのですね。

『駐車施策からみたまちづくりー地域ルールの先がけ大丸有モデルー』内容紹介まとめ

路上駐車のない快適なオフィス街を造るには、駐車場計画が必須です。1990年代からこの問題に取り組み始めた大丸有地区は、どのようにそれを実現させたのでしょうか。「地域ルール」構築と運用方法、その成果と未来展望をまとめました。

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カテゴリー:物流 
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