実例でわかる漁業法と漁業権の課題


978-4-425-84061-8
著者名:小松正之・有薗眞琴 共著
ISBN:978-4-425-84061-8
発行年月日:2017/11/18
サイズ/頁数:A5判 290頁
在庫状況:在庫有り
価格¥4,180円(税込)
数量
なぜ日本の漁業は世界の水準から遅れ、衰退しているのか?漁業制度の根幹である「漁業法」と「漁業権」の思想と目的・成り立ちを、原点である江戸・明治時代に遡り、改革を成功させた外国と比較することで、日本の漁業制度の根本的な問題点が見えてくる!

【はじめに】より 日本の漁業法制度をわかりやすく解説した本に遭遇したことがない。水産庁の時代から諸先輩が水産業協同組合法と漁業法の解説を書いているのを脇から見たことがあるが,大局的に,法の思想と目的まで解説したものではなく,漁業法や水協法などの一部改正が,技術的に行われた際に,それに対する解説コメントが中心で,到底わかりやすいといえるものではなかった。私はこの10年間にわたり,「水産業についての専門知識を修得する研修」の責任者を務めており,そこで水産業の基礎編を教え,試験を実施している。しかし,試験の成績が毎年悪くなっていく傾向にあったことから,この原因を探り,その対策を講じることに心血を注いできた。
基礎編でわかりにくいのが漁業権,漁業許可制度と水産業協同組合である。
漁業権とは,その名称と内容はわが国独特のものである。しかし,これをわかりやすく解説するには,江戸時代以来の漁業の慣行と明治年間に制定された明治漁業法制度にさかのぼることが必要となる。どのようにして,日本初の漁業の法制度が何を目的にどのような機能と手段をもって制定されたかをさかのぼって考えなければ,現在の漁業法(戦後の漁業法)の思想と内容を理解することが難しい。そこでわたしは,江戸時代と明治にまでさかのぼり,漁業法の思想の原点にたどり着いた解説を有薗眞琴氏にお願いした。過去にも大学の専門家が明治の漁業制度に関しての分析を試みているが,部分的な解説であり,有薗氏のそれは詳細にわたる。また,本書は一般の読者を対象にしていること,そして現代の漁業制度と外国との比較で論じていることに照らしてみれば,本書のような漁業法制度の解説書はどこにもないと思う。
私は水産庁に30 年余にわたり奉職してきたが,そのときには漁業法の目的と思想として何が書いてあるかわからなかった。「漁業権とは」,「漁業法第52条の指定漁業とは」,「第65 条の漁業調整とは」何か,本当にわからない。当座の技術的な解説のみの「漁業法と水産業協同組合法(以下「水協法」という)」の解説本だけで,漁業法と水協法を理解せよというのは到底無理な話で,行政官,政治家,科学者と漁業者の多くの人が,一部の特殊の条項を除いて,漁業法の法思想と歴史的な流れを理解できずに諦めている。
このような複合的な理由から,一般の人が漁業法を読んでも,目的や思想そして問題点を理解することは非常に困難である。当然,初期の頃の私の研修と講義を受けた人たちも,漁業法と漁業権とは何かを理解できなかったであろう。そのころは,共同漁業権,特定区画漁業権(区画漁業権)と定置漁業権も暗記しなさいと受験者には何度も繰り返し警告していたが,試験の成績が向上しなかったのは無理もないことであった。無味乾燥な条文は頭に入り込まないのである。
その反省に基づき,その後は平板な漁業法の漁業権の規定をわかりやすく解説することに心血を注いできた。法の思想と漁業権の思想とその成り立ち,どうして漁業権というのかという問題と格闘して,歴史とその立法と改訂の作業に携わった人の立場を振り返り,大所高所から説明し,その技術論まで踏み込み,どうしてそのような構成と書きぶりになったかを解説した。この努力のかいもあって,最近の受講者の成績はかなり上昇してきた。テキストがわかりやすくなったということである。それをさらに大幅に改訂し修正と加筆したものが本書である。
漁業法制度と漁業権,そして水産業協同組合の思想と目的を理解したい,あるいは理解不能な暗黒の世界が漁業権であるとあきらめていたがそれらに光明を見出したいと思う人は,ぜひ本書で学んでほしい。本書には外国の制度との比較も満載で,これはこれまで日本の漁業権と漁業法の専門家や法律家と行政官の誰もがなし得なかったことである。それらの比較をもって読み解けば,さらに理解が促進することを保証したい。
もう一つの大きな意味は,いつまでたっても日本の漁業法制度が,江戸時代の因習を引きずったままで,現在においても一向に修正ができないということを有薗氏との共著によって明らかにしたいということである。世界は漁業の仕組みを大きく変えて,改革を果たした。そして儲かるシステムを導入したが,日本はあいも変わらず,旧態依然の制度にしがみついて,漁業は暗黒の世界にとどまり,資源が悪化し経営が成り立たない状況がさらに加速化し後退している。それでも改革をしようとしないが,それに対して,日本の漁業制度の根本的な問題点を把握し理解することがその出発点である。現在の問題の根源が,江戸時代と明治の漁業制度にあることを正確に理解しながら現役の行政官と政治家の仕事ができているのかどうか疑問が大きく残る。それに対して,その歴史に根差す根本的な問題とそれに対する解決策を検討する素材を提供する意図も有している。
このように,本書は詳細と大局観との双方を提供することを目的としている。ぜひじっくりと読んでいただきたい。

2017年10月
小松正之

【目次】
第1章 日本の漁業資源と養殖業の現状
 1.概要
 2.世界と日本の漁業制度の明暗
 3.ABC(生物学的許容漁獲量)
 4.TAC(総漁獲可能量)制度
 5.オリンピック方式
 6.IQ(個別割当)方式
 7.ITQ(譲渡可能個別割当)方式
 8.ITQ 方式の社会への影響
 (1)水産資源の所有論─私有か公有か
 (2)ITQ 方式の導入の成功と新課題

第2章 日本の漁業制度の歴史  1.漁業制度のルーツ
 (1)古代の漁業管理
 (2)中世の漁業管理
 2.江戸時代の漁業制度
 (1)江戸幕府の漁業政策
 (2)江戸時代の漁村と漁業制度
 3.明治時代の漁業制度
 (1)海面官有制と海面借区制
 (2)府県における漁業税制と漁業取締
 (3)旧漁業法の成立と改正
 (4)漁業組合と水産組合の設立
 (5)遠洋漁業奨励法と近代式漁業の導入
 4.大正時代から昭和初期(戦前)の漁業制度
 (1)沿岸漁業の動向と漁業の取締
 (2)漁業協同組合と水産業団体の組織化
 (3)公有水面埋立法の制定
 5.戦後占領期から復興期の漁業制度
 (1)戦後占領期における漁業政策
 (2)戦後復興期における漁業政策
 6.高度経済成長期から石油ショック期の漁業制度
 (1)高度経済成長期の漁業動向と漁業政策
 (2)石油ショック期の漁業動向と漁業政策
 7.バブル経済期から平成不況期の漁業制度
 (1)バブル経済期の漁業動向と漁業政策
 (2)平成不況期の漁業動向と漁業政策

第3章 日本の現行漁業制度  1.漁業制度の概要
 (1)用語の定義
 (2)漁業の制度的分類
 2.漁業調整機構の概要

第4章 漁業権とは何か  1.漁業権の種類
 (1)共同漁業権
 (2)区画漁業権と特定区画漁業権
 (3)定置漁業権
 2.漁業権の適格性と優先順位
 (1)優先順位
 (2)経営者免許の漁業権
 (3)組合管理漁業権
 (4)漁協への優先的な免許の付与
 (5)現行の規定による新規参入の実態
 (6)特定区画漁業権の区割りの決め方
 3.漁業権の性質
 (1)漁業権の適用範囲
 (2)漁業権の性質
 (3)漁業権の性質に関する学説
 (4)漁業協同組合と漁業を営む権利に関する学説
 4.漁業権の補償
 (1)漁業補償
 (2)漁業補償額の算定方式
 5.特区と漁業権
 (1)特区設立の経緯
 (2)特定区画漁業権の特質
 (3)桃浦は水産特区の第1 号
 (4)漁業権の制約と特区の現況
 (5)漁業法人の増加

第5章 漁業の許可  1.概論
 2.農林水産大臣許可による漁業
 (1)指定漁業の内容
 (2)大臣許可漁業の許可の手続き
 (3)特定大臣許可漁業
 (4)届出漁業
 (5)試験操業許可の目的と内容
 3.知事許可漁業
 (1)法定知事許可漁業
 (2)一般知事許可制漁業

第6章 漁業調整  1.漁業の紛争の調整
 2.漁業調整機能
 (1)科学に基づかない漁業調整
 (2)許可漁業と沿岸漁業との境界紛争
 (3)沿岸漁業と指定漁業の輻輳
 (4)大型船は3 海里以遠操業の外国
 (5)漁業調整委員会
 3.都道府県の漁業許可の仕組み
 (1)漁業調整規則
 (2)都道府県は国の下請機関

第7章 水産業協同組合  1.GHQ の農地改革と昭和の漁業…
 (1)第2 次世界大戦と農漁業
 (2)農地改革と漁業制度改革
 (3)沿岸漁業の経済的自立へ
 2.水産業協同組合法の成立:漁協と農協
 (1)農地解放・漁業改革と協同組合改革
 (2)漁業協同組合の特殊性
 (3)資源管理の目標と経済的自立の欠如
 3.漁協の種類と組合員資格
 (1)水産業協同組合の種類と意味
 (2)漁協の経済力の不足
 (3)漁協の排他性
 (4)規模拡大と経済の自立
 4.誰が漁協の組合長になるのか
 (1)矛盾する漁協の機能・目的
 (2)経済事業の優先
 (3)組合長の選出
 5.漁協の事業とは何か
 (1)漁協の経済事業
 (2)相矛盾する漁協の事業
 (3)漁業衰退が漁協経済事業へ悪影響
 6.全漁連と系統組織
 (1)全漁聯の誕生
 (2)全漁連の成立
 (3)漁業協同組合連合会(漁連)
 (4)現在の系統活動
 7.統制経済と全漁聯の発足
 (1)戦時経済体制への移行
 (2)統制経済のために全漁聯の設立
 (3)販売の促進のためのノルウェー生魚漁業組合
 8.信用事業と共済事業とは
 (1)系統金融の始まり
 (2)戦後の系統金融
 (3)最近の信用事業
 (4)共済事業
 9.経済事業と漁業権管理
 (1)経済事業の創設へ
 (2)経済事業は産業組合
 (3)慢性赤字の経済事業の抜本改革

第8章 大臣許可漁業の種類と漁場の概要─大臣指定漁業等種類別の漁業の状況  (1)沖合底びき網漁業
 (2) 以西底びき網漁業―東シナ海に新国際機関の設立を
 (3)遠洋底びき網漁業
 (4)大中型まき網漁業
 (5)海外まき網漁業の現状と問題点─中西部カツオ・マグロ漁業の概観
 (6)捕鯨業
 (7)かつお・まぐろ漁業
 (8)中型さけ・ます流し網漁業
 (9)北太平洋さんま漁業
 (10)日本海ベにずわいがに漁業
 (11)いか釣り漁業

第9章 外国沿岸漁業・養殖制度と日本への適用  1.概要
 2.ノルウェーの養殖業
 (1)生産と許可概況
 (2)ライセンス発給条件
 (3)許可の決定要因
 (4)サケ養殖業発展の歴史
 (5)許可方針
 (6)陸上閉鎖式循環養殖技術等
 3.ノルウェーの漁業と水産業の将来
 4.アメリカ・カナダの沿岸漁業規制
 (1)概観
 (2)大西洋側(カナダ東海岸)漁業─カナダのロブスター漁業
 (3)アメリカ東海岸漁業─州法による厳しい管理
 (4)アメリカ・マサチューセッツ州NMFS 管理漁業
 (5)アメリカ東海岸チェサピーク湾漁業
 (6)アメリカ・カナダの太平洋側(西海岸)の漁業
 (7)アメリカ・ベーリング海の協同方式漁業
 (8)アメリカの資源管理の本質と東西海岸の差
   ─バージニア州とメリーランド州とアラスカ州の比較
 (9)アメリカ西海岸の小型漁業と大規模漁業
 (10)アラスカ湾漁業
 (11)IFQ と裁判
 (12)ワシントン州とオレゴン州とカリフォルニア州の沿岸漁業

最終章 日本の漁業法制度の課題  1. 日本漁業の許可制度の特徴と欠陥
 (1)漁獲努力量規制の歴史
 (2)日本の漁業許可制度の特徴と欠陥─指定漁業と一斉更新
 2.国連海洋法と排他的水域内の生物資源の管理
 (1)国連公海漁業協定と管理の目標値
 (2)主要各国の国内実施法
 (3)漁業法と海洋生物資源保存管理法(TAC 法)の違い
 (4)科学的根拠の重要性
 (5)政治と行政の劣化
 (6)新漁業法の内容と制定

【著者紹介】 小松 正之(こまつ まさゆき)
経歴
 1953 年 岩手県陸前高田市生まれ
 1977 年 東北大学卒業。農林水産省入省
 1982-84 年 アメリカエール大学経営学大学院MBA を取得
 1985-88 年 水産庁国際課課長補佐(北米担当)
 1986 年 アメリカ合衆国商務省「母船式サケ・マス行政裁判」に参加
 1988-91 年 在伊日本大使館一等書記官,国連食糧農業機関(FAO)常駐代表代理
 1991-94 年 水産庁遠洋課課長補佐(捕鯨担当)
 1991-2003 年 国際捕鯨委員会(IWC)日本代表代理
 1998-2000 年 インド洋マグロ漁業委員会議長
 1999-2000 年 ミナミマグロ漁業国際海洋裁判と国連仲裁裁判所の裁判に参加
 2000-02 年 水産庁参事官(国際交渉担当)
 2002-04 年 水産庁漁場資源課長,FAO 水産委員会議長
 2004-07 年 独立行政法人水産総合研究センター理事
 2008-10 年 内閣府規制改革会議専門委員
 2008-12 年 政策研究大学院大学教授,2013 年 客員教授
 2011 年 内閣府行政刷新会議規制改革専門員
 2012 年―現在 システム工学研究所株式会社会長,新潟県参与
 2008 年―現在 特定非営利法人東都中小オーナー協会理事
 2014 年―現在 公益財団法人アジア成長研究所客員主席研究員
 2015 年―現在  一般社団法人生態系総合研究所代表理事
         公益財団法人東京財団上席研究員
 2004 年 博士(農学,東京大学)

著書
 『世界と日本の漁業管理』(成山堂書店,2016)
 『国際裁判で敗訴!日本の捕鯨外交』(マガジンランド,2015)
 『漁師と水産業 漁業・養殖・流通の秘密』[監修](実業之日本社,2015)
 『日本の海から魚が消える日? ウナギとマグロだけじゃない!』(マガジンランド,2014)
 『これから食えなくなる魚』(幻冬舎,2013)
 『なぜ日本にはリーダーがいなくなったのか?』(マガジンランド,2012)
 『海は誰のものか―東日本大震災と水産業の新生プラン』(マガジンランド,2011)
 『震災からの経済復興』(東洋経済新報社,2011)
 『日本の鯨食文化―世界に誇るべき“ 究極の創意工夫”』(祥伝社,2011)
 『世界クジラ論争』(PHP,2010)
 『東京湾再生計画―よみがえれ江戸前の魚たち』[共著](雄山閣,2010)
 『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社,2010)
 『劣勢を逆転する交渉力』(中経出版,2010)
 『江戸前の流儀』(中経出版,2009)
 『さかなはいつまで食べられる―衰退する日本の水産業の驚愕すべき現状』(筑波書房,2007)
 『豊かな東京湾』(雄山閣,2007)
 『クジラ その歴史と文化』(ごま書房,2005)
 『よくわかるクジラ論争―捕鯨の未来をひらく』(成山堂書店,2005)
 『国際マグロ裁判』[共著](岩波書店,2002)
 『クジラは食べていい』(宝島社,2000)
  他にも捕鯨,くじら文化,水産外交等の関係図書多数

有薗 眞琴(ありその まこと)
経歴
 1950年 生まれ
 1973年 東海大学海洋学部水産学科卒業。山口県庁技術吏員。
 1992年 水産庁へ出向。振興課振興係長,研究課技術開発専門官。
 1995年 山口県庁漁政課,水産課,防府水産事務所等に勤務。
 2005〜2009年 山口県水産課長・水産振興課長。
 2009〜2010年 山口県水産研究センター所長(山口県庁退職)
 現在 水産アナリスト

著書
 『ボラの留吉』(星雲社・東京図書出版会,2005)
 『山口県漁業の歴史』(日本水産資源保護協会,2002)
 『お魚の文化誌:魚おもしろミニ百科』(舵社,1997)


書籍「実例でわかる漁業法と漁業権の課題」を購入する

カテゴリー:水産 タグ:さかな 水産資源  漁業権 漁業法 漁港 漁船  
本を出版したい方へ