航空無線と安全運航 交通ブックス312


978-4-425-77811-9
著者名:杉江 弘 著
ISBN:978-4-425-77811-9
発行年月日:2017/11/8
サイズ/頁数:四六判 164
在庫状況:在庫有り
価格¥1,980円(税込)
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本書は航空無線の種類と使い方をまとめたものです。航空無線は科学技術の進歩によって近年大きく進化し、とりわけ衛星を使った通信システムの活用は目ざましいものがあります。
しかし一方で、その運用の誤りによる事故は依然として起こっており、とくに離着陸時に多く発生しています。
本書では数多くの事例を挙げて、その実際や正しい運用方法、事故はどのようにして起こるのかについて一つずつ解き明かしていきます。



【はじめに】より

 本書は航空無線の種類と使い方をまとめたものである。航空無線は科学技術の進歩によって近年大きく進化し、とりわけ衛星を使った通信システムの活用は目ざましいものがある。以前なら長距離運航で主流となっていたHF(短波)での通信は電離層の状態や地域、季節、それに時間帯などによって困難をきたすことも多く、のちに詳しく紹介しているが東南アジアでは国境までに次に通過する国の管制官と通信(位置情報等)設定がないままで飛行せざるを得ない現実があった。言うまでもなくルールでは国際線では、ある国の領空通過するまでに当該国の管制官と連絡がとれていることが前提である。しかし現在ではVHF でカバーされる空域も増えそのような問題も解決しつつある。長距離フライトや洋上フライトではCPDLC(本文で詳述)と呼ばれる衛星を利用したデジタル通信の登場によって以前のような電波障害や音声による会話から生じる誤解やトラブルが解消されつつあることは画期的なことであろう。
 本書ではこれら航空無線の種類や運用方法等について解説を行うほか、運航の現場でパイロットと管制官が標準的な管制用語を使わなかったり、タイミングを誤ったために大事故につながったいくつかの事例も紹介している。それらの多くは離着陸時に発生しており、パイロットの緊急事態宣言が遅れたり管制官とパイロットの間で通信がダブルトランスミッションになりながら互いに再確認しないままで離着陸を続けた結果事故になった例もある。航空の安全にとっては航空無線の正しい使い方がいかに大事であるかを知ってほしい。それが著者が本書の執筆につながった最大の理由でもある。

2017年9月
杉江 弘

【目次】

第1章 航空無線通信士という資格
第2章 航空機で使う通信システム
第3章 航空無線通信の「ルール」 (1)「ルール」はどのようにしてできているのか
(2)通信の始まりはコールサインで呼び合うことから
(3)数字とアルファベットの読み方
  【参考資料】
(a)航空管制における時刻、高度、速度などの通信ルール
(b)航空管制における針路、旋回角、航空路、トランスポンダーコードの通信ルール
(c)航空管制における距離、周波数、滑走路番号、風向風速、高度気圧値の通信ルール
(d)航空管制でよく使われる用語の英語・日本語表記と日本語訳
(e)管制方式基準(国土交通省航空局)からの抜粋
  【通信の設定】 【送信要領】
(4)位置通報の内容と順番
(5)世界で実際に行われている習慣事例
(a)用語は英語圏の違いで異なる表現に注意
(b)コールサインを会話の最後につける習慣も
(c)コールサインは管制官によって変わることも
(d)国内線は自国語で通信する国々
(e)ATC で私語はどの程度許されるのか
(f)通信の最後につける「OVER」という用語などについて

第4章 パイロットと管制官との通信 (1)航空機の出発から洋上通信まで
(2)ATC トランスポンダーによる位置確認
(3)トランスポンダーによる緊急通信
(4)新世代の衛星を利用した通信システム
(a)ADS-B 電波を使う位置情報通信
(b)CPDLC の運用と操作方法

第5章 パイロットと運航管理者との通信 (1)VHF・HF・エアリンクを使う通信
(2)エーカーズ(ACARS)という通信システム

第6章 その他の通信 (1)客室内での通話
(2)空港の天気を知るVOLMET
(3)空港に関する情報を伝えるATIS
(4)軍用機による通信

第7章 緊急時の通信 (1)遭難および緊急時の手順
(2)使用周波数
(3)遭難および緊急の通報
(a)ELT(Emergency Locator Transmitter)が発信する電波
(b)ブラックボックスから発信される電波
(4)ハイジャックが発生したときの対応
(5)要撃を受けた場合の対応
(6)パイロットと管制官が通信不能に陥った場合の対応
(a)通信機等機材故障の場合
(b)通信機故障時の飛行方法
(c)航法機器故障時の飛行方法
(d)ロストポジション時の措置
(e)国や空港ごとに決められた飛行方法─

第8章 航空無線と事故 (1)緊急事態が管制官に正しく伝わらなかったことによって起きたサッカーチーム機の事故
(2)燃料不足を管制官に伝え切れずに墜落したアビアンカ航空機
(3)ダブルトランスミッションによる大事故
(a)航空史上最悪の悲劇はどうして起きたか
(b)日本で起きたあわや大事故の重大インシデント
(4)ヒューマンエラーを誘発する管制用語による事故
(5)マレーシア航空機失踪の真相は「エアリンク」がヒント

第9章 航空人生で印象に残った体験記 (1)時候の挨拶をATC 周波数で
(2)米9.11同時多発テロ勃発時に著者が行った通信
(3)英語が理解できず管制官をウンザリさせた時代
(4)沖縄上空で毎日のように繰り返される警告通信
(5)サービス精神が豊かなアメリカの管制官
(6)全日空雫石事故機のATC を傍受
(7)フライトレコーダー24 でかなり事故原因が推察できる
(8)航空無線に必要な英語力とは

終章 ハード・ソフトの改善で安全運航を

【著者略歴】

杉江 弘(すぎえ ひろし)
 元日本航空機長、日本エッセイストクラブ会員。愛知県豊橋市生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本航空入社。
DC-8、ボーイング747(ジャンボジェット)、エンブラエルE170の機長として、国内線と国際線のほぼすべての路線に乗務、総飛行時間は2 万1000 時間を超える。ボーイング747 の飛行時間は約1万4000時間を記録し、世界で最も多く乗務したパイロットとしてボーイング社より表彰を受ける。首相フライトなど政府要請による特別便の乗務経験も多い。同社運航安全推進部兼務時には「スタビライズト・アプローチ」など航空界の安全施策を立案推進した。さらに数々の著作において航空機事故を検証、ハイテク機に対する過信に対して警鐘を鳴らしている。
 著書に『機長の告白』(講談社)、『機長の「失敗学」』(講談社)、『機長が語るヒューマン・エラーの真実』(ソフトバンク新書)、『プロフェッショナル・パイロット』(イカロス出版)、『ジャンボと飛んだ空の半世紀』(交通新聞社新書)、『危ういハイテク機とLCC の真実』(扶桑社)、『マレーシア航空機はなぜ消えた』(講談社)、『機長の絶景空路』(イカロス出版)、『空のプロの仕事術』(交通新聞社新書)、『高度一万メートルから届いた 世界の夕景・夜景』(成山堂書店)、『747 ジャンボ物語』(JTB パブリッシング)、『交通ブックス310 飛行機ダイヤのしくみ』(成山堂書店)、『乗ってはいけない航空会社』(双葉社)など多数。2016年9月24日公開の映画「ハドソン川の奇跡」(主演トム・ハンクス)の劇場用パンフレットでは奇跡の生還を果した判断や技術を解説している。



この書籍の解説

映画やドラマで飛行機のコクピットのシーンがあると(フィクションだと大抵緊迫した場面の前触れだったりしますが)、多くの場合パイロットと管制官が交信を行っています。英語と専門用語、略語の組み合わせで、これは便の名前、これは通信先の名前だな、と見当をつけることができますが、これらの内容がぱっと理解できれば。もっと楽しそうです。航空ファンの間では航空無線を受信して楽しむことも一般的です。
航空無線は、航空機を安全に運航するために欠かすことのできないシステムです。科学技術の進歩によって航空無線も大きく進歩し、衛星通信を使ったシステムも普及しました。これまで通信が困難だった状況や地域においても、支障なく通信を行えるようになってきています。しかし技術が進んだ今でも、運用の誤りによる事故が発生しています。ハード・ソフト両面からの対策が求められています。
今回解説する『航空無線と安全運航』は、航空無線の種類や運用方法等について、元機長が解説します。「航空無線通信士」という資格や、使用する通信システム、通信におけるルール、管制官等の通信先について述べたあと、緊急時の通信や事故事例について解説します。終盤の章では、著者が長いパイロット人生で体験した様々なエピソードが紹介されています。
今では航空無線を聴くことのできるアプリも出ています。パイロットと管制官のちょっとした「雑談」など、わかるようになったらうれしいですね。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『航空無線と安全運航 交通ブックス312』はこんな方におすすめ!

  • 航空無線通信士を目指す方
  • 航空業界を目指す方
  • 航空ファン

『航空無線と安全運航 交通ブックス312』から抜粋して3つご紹介

『航空無線と安全運航』からいくつか抜粋してご紹介します。最初に航空無線通信士資格について解説し、次に航空機で使われる通信システム、続いて航空無線通信のルールについて述べ、中盤からは通信相手別、シチュエーション別通信について解説します。次に通信の誤った運用によって起こった事故について解説します。終盤では著者が現場で体験したエピソードを紹介し、航空無線の正しい運用への改善を提案します。

世界で実際に行われている通信

(a)英語圏の違いで表現が異なる 航空機の運航にかかわる専門用語が、米国英語と英国英語で異なることがあります。近年では統一した用語の使い方が広がってきてはいますが、未だ英国流の言葉が使われる地域もあるので、知っておいた方がいいでしょう。
また発音にも違いがあるので、通信の時に誤解が生じないよう、聴き取りに注意しましょう。

(b)コールサインは最初?最後? パイロットは管制官から呼び出しを受けたら、まず自機のコールサインを送信してから管制官との会話に入るのがルールです。しかし、応答時に先に受信内容から入って、最後に自機のコールサインをつけるという方法をとるパイロットもいます。このようなATCを行うパイロットは英国系の航空会社に多く見られるようです。

(c)コールサインは管制官によって変わる? 日本ではパイロットも管制官も定期便について大体ルール通りの呼称を行っていますが、米国の管制官はこちらの呼称に合わせて呼び方を合わせてくれる場合が多いです。また、米国等では4ケタの便名のフライトは2ケタずつ呼称する習慣があり、それがATCの習慣になっています。

(d)国内線は自国語で通信する国々 ATCは英語を基本とするのが常識ですが、中国やロシア、旧ソ連諸国や東欧の一部では航空機と管制官は母国語で通信をする習慣があります。母国語で会話をすることは合理的でもあるでしょうが、いつも母国語で通信が行われると他国の航空機にとっては安全上大きな問題となります。IFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)ではこれらの国々に改善を求めていますが、状況はあまり改善されていません。

「エレベーター」と「リフト」、「ファースト・フロア」と「グランド・フロア」の違いで旅行者も悩んだりしますが、航空の世界でも英国流は健在なようです。標準的には「ランディング・ギア(Landing Gear)」と呼ばれる車輪は、英国流では「アンダーキャリアージ(Undercarriage)」となるそうです。統一してくれ!と思うパイロットも多いことでしょう。

パイロットと管制官の通信:航空機の出発から洋上通信まで

航空機の出発から到着までは、長距離フライト(洋上飛行等を含む)を除き、VHFによって通信が行われています。大空港では出発時から順に、以下のような順番で交信が行われます。

1.クリアランスデリバリー:飛行承認を専門に扱う管制官。ここで「ATCクリアランス」を取得
2.ランプコントロール:駐機場内の移動、タキシングを専門に受け持つ管制官
3.グランドコントロール:使用滑走路の離陸地点まで誘導
4.タワー管制官:風向風速情報、離陸の許可
5.出発管制官:機体が離陸し安定的に上昇開始後、その空域内まで
6.航空路管制官:空港から約30マイルから50マイル、高度1万フィートから1万5000フィートから先、目的地の空港まで

大空港でない一般の空港ではランプコントロールがなく、グランドコントロールが駐機場からの管制を行う場合もあり、地方空港や海外では、ATCクリアランスの発出から離陸の許可まですべてをタワー管制官が受け持っている空港もあります。加えて地方空港では、レディオ(RADIO)と呼ばれる管制指示の中継を行うところも多く、そこでは地上滑走から離着陸まですべて航空機側の責任で運航されることになっています。

航空路管制官の誘導によって目的地に近づいたら、降下指示が出されます。

1.到着管制官:ターミナルエリア(空港から約30マイルから50マイル、高度約1万5000 フィートから1万フィートの空域)
2.タワー管制官:空港が目視できる距離
3.グランドコントロール、⑩ランプコントロール:着陸後

以上が VHFによる国内線や近距離国際線の通信のおおまかな流れですが、長距離国際線や洋上飛行により地上の管制機関からの電波の届かない空域を飛行する場合は、HFとCPDLC通信が必要となります。
年々使用が拡大しつつある衛星を利用したデータ通信であるCPDLCでの通信では、音声による聞き間違いを解消でき、季節や時間帯による最適なHF周波数を探す苦労もなく、確実な通信が確保されることになりました。
CPDLCは、長距離通信では主流になりつつあるといえます。

管制官とのやり取り次第で、発着陸の順番が変わることがあります。その「極意」は、同じ『交通ブックス』の『航空管制のはなし』や、『飛行機ダイヤのしくみ』を読んでいただくとよくわかります。このやり取りが上手くいかずすれ違いが起こったことが、重大事故の原因となることもありますので、空港に近づいた、着陸したからといってパイロットが気を抜くことはできないのです。

航空無線と事故:緊急事態が伝わらない!

パイロットと管制官との交信の失敗が、大きな事故やトラブルにつながることがあります。交信が上手くできない原因としては、以下のように様々な状況があります。

・ダブルトランスミッション(同時に無線で送信する)
・不適切な用語の使用
・会話力(英語力)の欠如

ここでは、緊急事態が管制官に正しく伝わらないことによって起きたサッカーチーム機の事故を紹介します。
2016年11月28日、ブラジル一部リーグの選手たちを乗せたチャーター機が目的地近くの山に墜落しました。大きく報道されたので、サッカーファン以外でも覚えている方も多いでしょう。
チャーター機は、ボリビア南部の空港から決勝戦を予定していたメデジンに向けて飛行し、着陸態勢に入りました。しかし、管制官の指示により上空で2回の旋回(約10分間)を行った後、燃料切れで墜落しました。

交信記録を見ると、パイロットが正しい管制用語を使っていれば事故を防げた可能性があることがわかりました。
そもそもの原因は、予備燃料なしでフライトを行ったことです。これは航空法違反です。
しかし、パイロットの行動にも以下の問題がありました。

・燃料不足を管制官に訴えたのは到着の約10分前
・曖昧で緊急性が伝わらない言い方をしたため、優先着陸の指示が得られなかった

パイロットが緊急事態を宣言し、定められた緊急通信を行っていれば、管制官は優先着陸を許可し、事故は防げていたでしょう。
このような事故は以前から起きていますが、その教訓が生かされていなかったのです。

燃料が少ないと告げられただけ、というときの対応は、管制官や現場の状況、国や習慣によって異なりますので、パイロットはそれを知っておく必要があります。しかし緊急事態と宣言されれば、他の進入、出発機を待機させて優先的に対処しなければなりません。

パイロットはあいまいな言い方をせず、管制官に対してはっきりとした意思表示を行うことが重要です。航空機の性能も鑑みて判断し、具体的に状況を告げなければなりません。また本当に厳しいときには、躊躇せず緊急事態を宣言することが大切です。パイロットは大勢の命を預かっているのです。

このニュースに、サッカーファンの友人が酷くショックを受けていたことを覚えています。予備の燃料がなかったというのは言語道断ですが、それでも上空待機をしなくて済めば無事着陸ができただろうということ、それができなかった原因は僅かな言い回しのミスであったということに愕然とします。

『航空無線と安全運航 交通ブックス312』内容紹介まとめ

航空無線は目覚ましい進歩を遂げましたが、今でも運用方法の誤りによる事故が発生しています。経験豊富な元機長が、航空無線通信の基本システムとルール、運用方法を解説し、現役時代のエピソードや事故事例を引いて、より安全な航空無線の運用について提案します。

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飛行機と通信!おすすめ4選

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カテゴリー:航空 タグ:パイロット 滑走路 無線 空港 管制塔 管制官 飛行機 
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