砂漠と気候(増補2訂版) 気象ブックス014


978-4-425-55133-0
著者名:篠田雅人 著
ISBN:978-4-425-55133-0
発行年月日:2016/2/22
サイズ/頁数:四六判 224頁
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価格¥1,980円(税込)
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水の惑星・地球に拡がる乾いた大地「砂漠」。世界の砂漠を研究する著者が、気候と植生の関係から、その成り立ちに迫る最新の砂漠学入門書。

【はじめに】より  地球は水惑星といわれますが、水は均一に分布しているわけでなく、海があれば陸もあり、湿ったところもあれば乾いたところもあります。この水の分配のされかたが、地球の表面に色のパターン(模様)をつけているといえます。そのようすは、1967年世界で初めて撮られた衛星(アメリカの無人宇宙船ドッジ)によるカラー画像にみることができます。当時の人々が、初めて、自分の惑星の色をみたときの驚きは想像するのに難しくありません。アフリカ大陸と大西洋を映し出すその画像には、誰もが想像するように、白い雲が地球表面を広く覆う姿があります。海や雲のわずかな隙間からのぞく熱帯雨林は暗く沈んで見えます。それに対して、雲の多いが途切れるところから、広大な黄褐色の大地がくっきりと浮かび上がっています。それが、サハラ砂漠です。地球表面の乾いた部分が光って見えるのです。
 この乾いた部分である砂漠について語ろうというのが本書のねらいです。乾いた部分に焦点をあてながら、水の分配がどのように不均一なのか。どうして不均一なのか。その不均一が自然環境の形成と人間活動にどう影響しているのか。このような疑問に答えていきたいと思います。ここでいう水とは、直接的には、植物が利用できる水、つまり、土壌のなかにある水のことをさします。もちろん、土壌水は、雨や大気中にある水蒸気とも関係しています。
 わたしは、これまでアフリカやアジアにあるさまざまな砂漠を巡り歩いてきました。この本では、それらの砂漠とその周辺で観察した自然について、具体的に語ってみたいと思います。ここでいう自然とはさまざまな部分から成り立ち、植物・土壌・水・気候などをさします。また、そうした自然環境の中にある人々の暮らしや砂漠の周辺で生じている砂漠化問題についても触れます。
 砂漠のなかやそこにいたるまでの道のりで観察したものは、植生と機構の密接なつながりです。陸路や空路で旅を進める途中で気がついたのは、そのような植生と機構が織りなす自然景観全体が、あるときには緩やかにあるときには劇的に変化することでした。ここには、地球上を動きながら自然を観察する面白さがあります。章末にあるコラム「砂漠の風景」ではわたしの旅の体験を綴ってみました。こうした野外での観察と、地球環境の仕組みを知るための物理学的・生物学的な見方を組み合わせながら、砂漠の成り立ちに迫ってみたいのです。

2002年9月
篠田雅人

【増補2訂版発行にあたって】  前回の改訂版を出版した2009年以降、私は鳥取大学から名古屋大学へ2014年に異動しました。乾燥地研究のメッカである鳥取大学で学んだことは、砂漠化問題の解決は、一点突破の技術・政策のみでは、それがいくら巧みで先端的であったとしても実現できない、そして、技術・政策もそれらを支える現地の人や自然あってこそという、よく考えれば当然のことでした。
そのような背景から、科研費基盤研究(S)によるプロジェクト「乾燥地災害学の体系化」(通称、4Dプロジェクト、2013〜2018年)を立ち上げました。自然環境の変動と人々の暮らしの結びつきや現地社会に対して科学が貢献できることについて深く考える機会をもち、これまでにあまりつきあいのなかった分野(医学、獣医学、農業経済学、文化人類学、考古学)の研究者と共同研究を始めました。このなかで、乾燥地の環境問題を考える場合に重要な視点を見出し、新たに加えた章「乾燥地の暮らし」(9章)に盛り込みました。具体的には、地球環境変動、とくに、くり返し発生するさまざまな気象災害の影響下で、乾燥地の人々の暮らしがどう営まれてきたかを、農牧業の歴史やそれに基盤を置く文明の盛衰をひもときながら述べました。
口絵の地図を増補、2、5、8章には理解を助けるための説明を新たに加えました。また、各章の終わりには課題を加えましたので、理解の程度を確認するために利用してください。名古屋大学では、文系学生を対象とした全学共通科目(いわゆる、教養科目)の講義で、本書を教科書として利用していますが、各章の説明を終えるごとに、課題に取り組んでもらいます。また。新たなコラムとして「砂漠の風景2、10、11」を加えました。現在、研究対象地域としているモンゴルに関するものです。
 改訂版出版(2009年)後の世界的な動向として、砂漠化対処条約(1994年採択)に関連した取り組みが世界の隅々にまで行きわたってきたということがあげられます。2015年4月現在、194カ国と欧州連合(EU)がこの条約を批准しており、そのうち150カ国が砂漠化の影響国です。このような動きにもかかわらず、2015年を目標年とする国連ミレニアム開発目標(極度の貧困と飢餓の撲滅や初等教育の完全普及の達成など)の取り組みが終わる時点で、その達成状況はサハラ以南のアフリカでは芳しくありません。その後の新たな目標として策定された持続的な開発目標のなかで、砂漠化・土地劣化・干ばつに関連する取り組みとして、2030年までに「土地の劣化が中立的な世界」を達成することがあげられます。これは「土地回復面積から土地劣化面積を差し引いた面積が全世界でプラスとなるようにする」という取組みであり、生産力のある土地をわれわれの子孫に引きわたすことを目的としています。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013・2014)による新しい研究成果については8章の終わりで述べます。砂漠化や気候変動に関する問題への取組みにおいて、砂漠や乾燥地の自然の理解を深めるために、本書が役立てば幸いです。

2016年2月
篠田雅人

【目次】
第1章 砂漠を見たことがありますか
 1.鳥取砂丘は砂漠ですか
 2.日本に砂漠はありますか
 3.砂漠とはなんですか
  砂漠の風景1:サハラ

第2章 砂漠はどこにあるの  1.気候と植生
  砂漠の風景2 空からみたモンゴル高原
 2.世界の植生分布
  植生とは
  植生の類型化
 3.砂漠の分布
  低緯度砂漠と高緯度砂漠
  内陸砂漠と海岸砂漠
  高山砂漠
  キリマンジャロの砂漠
  砂漠の風景3:山が生み出すオアシス
 4.世界の気候分布
  平均値気候学
  気温と降水量の分布
  ケッペンの気候区分
  ソーンスウェイトの気候区分
 5.気候が植生に及ぼす影響
  植物生理に関わる気候条件
  気候ストレス
  乾燥を生き抜く植物
  砂漠の風景4:サハラを旅するイナゴ

第3章 砂漠はどうしてできるの  1.動気候学
 2.アリソフの気候区分
 3.亜熱帯高気圧
 4.東西循環
 5.雨陰効果・内陸効果
 6.貿易風逆風と寒流

第4章 砂漠はなにでできているの  1.砂漠の表面
 2.岩石砂漠
 3.礫砂漠
 4.砂砂漠
  砂漠の風景5:タクラマカン砂漠

第5章 砂漠はあついの  1.砂漠の気温
 2.砂漠の雨
 3.雨が降る時間帯-スコールライン
 4.砂漠の川
 5.砂漠の地温・土壌水分
 6.マンゴレイン
 7.サハラに降る雪
 8.サハラから吹く風ーハルマッタン
  砂漠の風景6:アイル山地のオアシス

第6章 砂漠は昔からあったの  1.砂漠が拡大した時代
 2.緑のサハラの時代
 3.サハラ砂漠に残された岩壁画
 4.加古5000年の環境変動
 5.乾燥地域と古代文明
  砂漠の風景7:砂漠の教会

第7章 砂漠化とは  1.砂漠防止条約
 2.地球環境問題としての砂漠化
 3.砂漠化の定義
 4.乾燥地域の定義
 5.砂漠化の原因
 6.砂漠化のプロセス
  土壌水
  土壌の構造
  土壌侵食
  土壌の固結化
  土壌の塩類化
  植生の劣化
 7.砂漠の分布
 8.新しい砂漠化評価
 9.砂漠防止と砂漠緑化
  砂漠の風景8:トルキスタン砂漠

第8章 砂漠化が気候に影響するの  1.砂漠化による地表面状態の変化
 2.サヘルの干ばつ
 3.地表面の熱収支
 4.地表面状態が熱収支に及ぼす影響
  大気大循環モデルによる数値実験
 5.気候メモリとしての陸面状態の偏差
  サヘルの気候メモリ
  カザフステップの気候メモリ
  モンゴル高原における干ばつと雪害の相互作用
  植生・土壌水分の多年メモリ
 6.最新サヘルの長期干ばつ研究
 7.大気組成の改変
 8.乾燥地における近年の気候変化
 9.乾燥地における将来の気候変化
  砂漠の風景9:ゴビ砂漠

第9章 乾燥地の暮らし  1.乾燥地の福利
 2.乾燥地の生業
 3.農牧業の起源
 4.遊牧とは
 5.遊牧はなぜ数千年も続いてきたか
 6.土地に鍬をいれるな
 7.大規模農業による風食
 8.遊牧社会の持続性
 9.遊牧社会の将来に向けて
  砂漠の風景10 ゾドとは
  砂漠の風景11 モンゴル高原北部の水収支と遊牧都市

おわりに 将来の砂漠像を描くために   乾燥地の気候のまとめ
  探検家の足と博物学者の目
  砂漠化のモデル化
  砂漠の将来

(気象図書)
カテゴリー:気象ブックス タグ:地球環境 気象 気象ブックス 
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