東京大学の先生が教える海洋のはなし


978-4-425-53191-2
著者名:東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター 茅根 創・丹羽 淑博 編著
ISBN:978-4-425-53191-2
発行年月日:2023/3/8
サイズ/頁数:A5判 210頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,750円(税込)
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東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターが、2019年度から3年間、13名の海洋研究者と協同して海洋教育を推進する「海洋教育基盤研究プロジェクト(海洋学)」をまとめた内容。各研究者にインタビューを行い、研究内容およびその背景と意義を解説する書籍を作成するもの。中学生・高校生を対象に、それぞれの研究分野で知っておいてほしい海洋リテラシーを伝えるとともに、現在の海洋が直面している危機やこれから解決すべき課題を解説することで、学校での海洋教育の探究活動に活用できる一冊となっています。



【はじめに】

海は生命が産まれた場であり、進化を通して生命の多様性を支え、私たちに水産物として食べ物を与えてくれます。地球上の水の97%は海にあり、海水とそこに溶け込んださまざまな物質の循環を通じて、地球環境変化を駆動しています。また容れ物である地形は、数千年、数千万年という長い時間を通じてダイナミックに変化して、海と陸との接する海岸に私たちの生活の場もつくってきました。安全という視点からは、日本は、海によって守られ、世界とつながっているだけでなく、津波や地震などの災害を受けることもあります。このように海は、生命、環境、安全の3つの柱でとらえることができます(口絵参照)。この3つの柱はさらに、地球規模、社会経済、文化という横串で相互につながっています。たとえば海が駆動する地殻変動や気候変動は災害に、物質循環は生態系とつながり、水産資源を通じて漁業や食文化にも関わります。
どの柱についても、海にはまだまだ分からないことがたくさんあって、研究のフロンティアになっています。このフロンティアに、生物学、地学、地球物理学、水産学、工学さらには人文社会科学など、さまざまな分野の研究者が挑み続けてきました。東京大学でも、いくつもの学部や研究所の研究者が、世界の最先端の海洋研究を進めています。
東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターでは、最新の海の研究を海洋教育に適用するために、研究者との協同を進めてきました。本書は、その総まとめとして、海の研究の最前線を、中学生・高校生の皆さんに分かりやすく伝えることを目的としてつくられたものです。研究内容を伝えるにあたっては、サイエンスライターが研究者にインタビューして、その内容をまとめるという形をとりました。ライターが皆さんの立場に立って、専門的な内容をかみ砕いて解説してくれました。
また、各章の末尾に、それぞれの研究者に、研究の動機や海への思い、エピソードについて一問一答を付け加えていますので、研究の背景や研究者の人となりや思いにも触れることもできます。さらに、皆さんへのメッセージや参考文献も加えましたので、将来海の研究をしてみたいと思われた方は、ぜひ参考にしてみてください。コラムには、研究の内容を皆さんの教室でより実感してもらえるような実験や、補足的な解説、さらには本書では取り扱うことができなかった人文科学的な側面を、主にセンターの特任研究員だった方々が書いてくれました。各章の内容をより深く理解して、実践する手がかりになると思います。
本書は、海に関心のある中学生や高校生が海に対する関心をさらに深め探究活動を進めるためにつくられましたが、教育現場の先生方にも海に対する最先端の知見を広げ、海洋教育にふれるバイブルの一つとしても活用できる内容になっています。もちろん、大学生や研究者、一般の読者も海に対する知見を広げることができるでしょう。生命、環境、安全の順に並んでいますが、興味のある章から読んでいただければよいと思います。
それでは広く深い海の探究の旅を存分に楽しんでください。

2023年1月
編著者 茅根 創・丹羽淑博

【目次】

01 動物目線で調べる海洋動物の暮らし
 生態系の保全に向けたバイオロギングの活用
 コラム① アサリの手作り3D模型でマイクロプラスチック問題を学ぶ

02 貝類の多様性と進化にせまる
  コラム② 貝殻の骨組みをつくるタンパク質Shell Matrix Protein を観察する
03 子孫を残す行動につながる神経メカニズムに挑む
  コラム③ ここに来れば未知の生き物と会えるかも!?
  恵まれた生態系に囲まれた海の実験所~東京大学三崎臨海実験所~

04 謎深き魚、ウナギを追って
  コラム④ 耳石を見てみよう

05 地球はなぜ奇跡の星になったのか?
  コラム⑤ 地球の未来年表を描こう
  ─「人新世」の時代の知・想像力・コミュニケーション

06 さまざまな人と関わる学問、それがサンゴ礁学
  コラム⑥ 海洋葬(海洋散骨)について -いのちの循環を考えてみる-

07 白いブラックボックス、北極海から気候変動をさぐる
  コラム⑦ 北極の海氷の変化を見てみよう

08 誰もが参加できる海洋観測!
 新しい海洋情報の創出とその活用
  コラム⑧ コリオリ力の不思議

09 気候変動の鍵を握る深層海洋循環の謎への挑戦
  コラム⑨ 海洋データから深層海洋循環を見てみよう

10 東京湾の生い立ちから地下構造を知り災害に備える

11 過去の自然災害を読み解き未来へ生かす
  コラム⑩ 探究活動のススメ~〇〇博士を目指して~
  コラム⑪ 海について-くどうれいん『氷柱(つらら)の声』を読む-



この書籍の解説

春になりました。磯遊びにちょうどいい季節ももうすぐですね。海に出かけたとき、皆さんは何を見ますか?釣りや潮干狩りに行ったら今日は獲れるかな?と思うでしょうし、貝殻や流木拾いならまず何か落ちていないかを探すでしょう。サーフィンやヨットなら波の具合や天気を確認すると思います。また、浜辺に打ち上げられている様々なごみに心を痛める人もいるでしょう。
「海」とひと口に言っても、海のどこを見るかによって受ける印象や得られる情報は異なります。海はそもそも生命が誕生した場所ですし、そこから得られる魚介類、海藻などを私たちは食べています。地球の7割を覆っている海には、地球上の水の97%が存在します。この水に溶け込んだ二酸化炭素は大気との間で循環し、地球上の気候はそれに大きく左右されます。また海は、津波などの大きな災害をもたらします。
海を知りたいと思ったら、どこからどのように取り掛かればよいのでしょう?海に興味を持った方、とりわけ若い人たちのために、今回ご紹介する『東京大学の先生が教える海洋のはなし』は作られました。海に関する研究を「生命」「環境」「安全」の3つの柱に分類し、それぞれの分野から最新研究をピックアップしてご紹介します。
各項目の最後には、さらに詳しく知りたい方へ向けた参考文献リストがついています。「質問コーナー」では、先生たちがどうして研究者になったのか、研究の場でのエピソードなども知ることができますよ。コラムにも、紹介しきれなかった研究や自分でもできる実験、私たちの生活につながるトピックスなどがぎゅっと詰まっています。
海の水のように尽きることのない海の謎を研究する人たちに、あなたも加わってみませんか?

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『東京大学の先生が教える海洋のはなし』はこんな方におすすめ!

  • 海洋に興味のある方
  • 将来海の研究をしたい中学生、高校生
  • 海洋教育に関心のある教師の方

『東京大学の先生が教える海洋のはなし』から抜粋して3つご紹介

『東京大学の先生が教える海洋のはなし』からいくつか抜粋してご紹介します。人類と地球にとって重要な海。しかし、まだまだわかっていないことも多いのです。海洋に興味のある中高生向けに、海に関する生命・環境・安全の各側面から、最新の研究を紹介します。

謎深き魚、ウナギを追って

日本でのウナギの歴史は縄文・弥生時代に遡り、ヨーロッパでも紀元前にはすでにウナギを食べていた文献が残っています。しかし2009年までは、天然のウナギの卵は見つかったことがありませんでした。

■ウナギはどこで生まれるの?
科学的なウナギの産卵場の調査が始まったのは、20世紀のヨーロッパです。北大西洋で調査を行った結果、バミューダ沖のサルガッソ海がヨーロッパウナギとアメリカウナギの産卵場だということが分かりました。
ニホンウナギの産卵場は、1930年代からの北太平洋で行われた海洋調査で明らかになりました。ニホンウナギは日本から遠く離れた西マリアナ海嶺で卵を産んでいました。生まれた海から数千kmも離れた日本の川で成長し、また戻って繁殖していたのです。

■ウナギの生活史
ウナギは「通し回遊魚」といって、一生のうちに川と海という異なる水圏環境を移動する魚です。その中でも、産卵のために川から海へ移動する「降河回遊魚」です。
海で孵化したレプトセファルスは、海流に乗って回遊しながら大きくなり、沿岸近くでシラスウナギへと変態します。シラスウナギは河口域に入って川で成長していきます。成熟が始まったウナギは、川を降って産卵場のある海へと戻っていきます。
ウナギの産卵場を見つけるためには、卵かより小さな幼生を採集する必要があります。採集されたレプトセファルスの発育段階と分布を地道に整理し、ようやくウナギの産卵場を突き止めることができました。

■耳石から読み解くウナギの生態
ウナギの産卵場を特定するには、採集したレプトセファルスが生まれてから何日経っているのかを正確に調べる必要があります。そのために用いられるのが、魚の内耳にある「耳石」と呼ばれる硬組織です。耳石は同心円を描いて1日に1層ずつ大きくなるので、この層(日輪)を数えるとレプトセファルスの日齢を知ることができます。
ニホンウナギのレプトセファルスは各月の新月期に生まれていたことが分かりました。ニホンウナギは月の満ち欠けの周期に合わせて、各月の新月期に規則的に一斉に産卵していたのです。
また耳石の成分分析によって、ニホンウナギの産卵水深は西マリアナ海嶺の水深およそ170メートルと推定され、実際に推定された水深帯で卵を見つけることができました。

■ウナギの回遊のスケールはさまざま
ウナギの種類によって、回遊のスケールや分布する範囲は大きく異なっています。その謎を解く鍵は、産卵場の位置と海流にあります。
西部北太平洋に生息するオオウナギの産卵場はマリアナ西方海域です。レプトセファルスは、西向きの北赤道海流から、南方に流れるミンダナオ海流と北方に流れる黒潮によって、それぞれの成育場付近まで運ばれると考えられています。
オオウナギとニホンウナギは同じような場所に産卵場があるのに、シラスウナギがたどり着く成育場が異なっているのです。さらに詳しいことを知るために、研究が続けられています。

■大都市の川にすむニホンウナギ
ニホンウナギを保全するためには、まず河口や河川における彼らの生息環境を理解することが重要です。
自然環境の中には、環境DNAと呼ばれる生物由来のDNAが存在しています。環境DNAを検出することで、生物がどこにすんでいるかを知ることができます。
環境DNA法を使って多摩川水系を調査したところ、ニホンウナギの環境DNAは、多摩川本流では最も上流以外のほぼすべての地点で検出されましたが、多摩川下流域の支流では検出されませんでした。この流域はコンクリート護岸等のウナギの好まない環境になっているのです。

■海洋生物の情報発信
ウナギは、謎めいた生態をもつ魅力的な生き物です。生き物としてのおもしろさや最新の知見を多くの人に知ってもらうため、情報発信にも力を入れてきました。「鮭と鰻のWeb図鑑」等のウェブサイト(https://salmoneel.com) の制作はその一つです。
ニホンウナギが西マリアナ海嶺で生まれているとは、やっと日本の川にたどり着いて成長し、また繁殖場所に戻っていくという過酷な道のりが思いやられます。完全養殖が成立してウナギが気軽に食べられる魚になったとしても、畏敬の念を抱かずにはいられません。

気候変動の鍵を握る深層海洋循環の謎への挑戦

■地球のエアコンの役割を担う深海の流れ
海流は、海洋表層を水平方向に流れる帯状の海水の流れを指します。海面を吹く風の働きによって生じ(風成循環)、海面から深さ1000mほどの範囲を流れています。
海水の流れにはもう一つ「熱塩循環」があります。熱塩循環は、水深1000mよりも深い深層を流れているため、別名を「深層海洋循環」といいます。深層海洋循環は鉛直方向の循環です。
水は冷えると収縮し、密度が増して沈んでいきます。また海氷の周りの海水は塩分濃度が高くなりますが、塩分濃度が高い海水もやはり重くなり、沈んでいきます。北大西洋や南大洋(南極海)といった寒冷域で冷却された海水は、水深数千mまで沈み込んで世界の海底を這うように流れ、インド洋・北太平洋で上層に湧き上がり、そしてまた北太平洋の高緯度域へと戻っていきます。
深層海洋循環は10~20km/年という超低速で全球を巡ります。一巡するのに要する時間は推定約2000年です。深層海洋循環は、地球の温和な気候を保つエアコンのような役割を果たしていると考えられています。

■深層海洋循環の駆動の鍵は月と乱流
深層海洋循環は、数百〜数千年の時間スケールで起こる気候変動の鍵を握っていますが、実態の多くは未だ謎に包まれています。海洋循環を維持するためには、深層へ沈み込んだ分と同じ量の海水がどこかで深層から表層に湧き上がらなければならないのです。
冷え切った深層水を上昇させる浮力源として「乱流」という現象に筆者らは注目しました。乱流が表層からの熱を下方に伝え、深層水を温めて浮力を与えることで鉛直に引き上げる役割を担っていると考えたのです。
乱流とは、流体の不規則な流れのことです。海洋中では、月の引力によって潮汐流が起きており、この潮汐流が高い海嶺や海山に衝突することで、多数の乱流が生じています。深層海洋循環は、「月」によってコントロールされているといえるでしょう。

■乱流が発生するかどうかの鍵は緯度
高い海嶺や海山のある場所に強い乱流場(乱流ホットスポット)が形成されることが推察されたのですが、研究を進めるうち、緯度30度よりも高緯度側では、潮汐流が高い海嶺や海山に衝突しても乱流は強くならないと分かってきました。
高緯度側では乱流を活発化させるために必要な内部波(重い海水と軽い海水の間にできる波)の最大周期が短く、潮汐流が乱流を活発化させることができないのです。

■理論的な予測を観測結果が証明した
筆者らは数値シミュレーションの結果を基に観測を行いました。すると予測通り、特定の緯度帯で乱流強度が強くなることを実証する観測結果が得られました。北緯50度付近では乱流強度が小さいのに対して、北緯30度付近では大きな乱流強度が得られることが明らかになったのです。現在、緯度20~30度の海嶺や海山の周囲に集中して乱流ホットスポットが形成されていることがわかっています。

■残る乱流強度不足問題 (Missing Mixing 問題)
様々なことが判明した現在でも、今までに明らかにされた乱流ホットスポットの効果を全て足し合わせても、深層水を全て表層に引き上げることができないという 「Missing Mixing 問題」が残されたままです。
この乱流強度不足を補う候補の一つとして、南大洋が注目されています。南大洋には海流の中で唯一陸地に遮られない「南極周極流」が南極大陸を取り囲むように流れています。流量は地球上の風成循環で最大であり、かつ水深4000~5000mの海底にまでその流れが及んでいるのです。

筆者らは数値シミュレーションで南大洋に「背の高い乱流ホットスポット」が形成されることを突き止めました。その仮定を他の海域にも応用し、海底の地形によっては同じ現象が局所的に起こりうることを明らかにしました。「背の高い乱流ホットスポット」の形成が、水深1000〜2000mの主密度躍層付近での乱流強度を高めて、深層海洋循環に大きな影響を与えている可能性があるのです。
現在筆者らは、これらの事実に注目することで、深層海洋循環において長い間ボトルネックとされてきたMissing Mixing問題への挑戦を続けています。

極地の海水は、大気を冷やすエアコンの役割をしています。本書の#07「白いブラックボックス、北極海から気候変動をさぐる」と併せて読んでいただくと、より理解が深まると思います。海の底を這うように流れていた冷たい水が鉛直移動して海面に表れるメカニズムについて、北極海でのケースを解説しています。

東京湾の生い立ちから地下構造を知り災害に備える

■現在の東京湾の地形
東京湾は、神奈川県、東京都、千葉県に囲まれた海域を指しています。 出口は神奈川県三浦半島の劔崎と千葉県の房総半島の洲崎を結んだ線です。
東京湾は内湾と外湾に分けられます。内湾は神奈川県の観音崎と千葉県の富津岬を線で結んだ線の北側です。平均の水深は15メートル程度と比較的浅く、河川から土砂が多く流れ込み、粘土質の泥が堆積しています。外湾は、内湾の出口あたりから急激に水深の深い谷になっています。この谷は東京海底谷と呼ばれ、外湾の出口では水深500メートル以上にもなります。
東京湾は過去数十万年の間、その形を変えてきました。現在の海底の地形はその時の名残です。

■気候変動と古東京湾の地形
今の東京湾になる前を「古東京湾」といい、およそ4万〜50万年前に誕生したと考えられています。 古東京湾には、海面の高さが現在よりも高く海が陸の奥まで入り込んでいた時代や、海面の高さが現在よりも120メートルほど低く、海底が顔を出し、深い谷が刻まれていた時代がありました。地形の変化の大きな要因の一つが、気候変動です。
寒い時代は、海面の高さが低くなり、陸地が増えて海は引いていきます。暖かい時代には、海水が増えて海面の高さが高くなり、海が陸の奥の方まで入り込みます。このことが、古東京湾の地形を大きく変化させてきました。

■古東京湾の時代と移り行く姿
約40万年前(間氷期):古東京湾が最も内陸まで進んでいた時代
約15万年前(氷期):海面が大きく下がり、下流の海底面では深く大きな谷ができる
約10万年前(間氷期):海面は100m以上も高くなり、東側に開いた広い湾があり、海流が入り込んでいた。氷期で刻まれた谷が海へ沈み、溺れ谷になった。この時期の堆積物が関東平野の原型となった
約10万年前~約8万年前(氷期):武蔵野台地のもととなる扇状地が形成された
約2万年前(最終氷期):古東京湾の海底はほとんど陸地となり、多摩川、荒川、利根川などが合流した古東京川が大きな谷を刻んだ。現在の深海へと続く東京海底谷はこの時に刻まれた
氷期が終わり約7000年前にピークを迎えた海進は「縄文海進」と呼ばれています。海岸線沿いに住んでいた縄文人による貝塚が残っていて、そのあたりが当時の海辺だったことが分かります。

■古東京湾の変化から関東の大地を見る
関東の台地では、武蔵野台地や下総台地が日本でも最大級の台地として知られています。下総台地は、地盤の隆起と海面低下によって古東京湾が干上がってできましたが、武蔵野台地は、多摩川が作った扇状地です。扇状地はその後隆起して、台地となり、低地が刻まれました。
台地は日当たりもよく水害も少ないですが、低地は水害が発生しやすく、また地盤がゆるいため地震の揺れが大きくなる傾向にあります。

■3D地形区分図で地下の地層を見る
地下の構造が分かれば、洪水氾濫時の浸水域や地震時の地盤の弱さを知り、防災に役立てられます。これまで行われてきたボーリング調査などのデータを解析システムに取り込んで、3Dの地形区分図を作成しました。
3D地形区分図は、堆積物を剥ぎ取って地層と地層の境界面を出すことができます。すると、時代ごとの地形がどんな姿をしていたのかを見ることができます。

■古東京湾の生い立ちを知って防災に生かす
災害を予測するためには、地下に埋没している地形が重要なポイントです。同じ平らに見える場所でも、海が下がって谷が刻まれた場所に軟弱な地層がたまって平らになっているのか、それとも谷は刻まれないでもっと古い地層が地下すれすれのところにあるのか、表面だけを見ても分かりません。しかし地震が起きたとき、軟弱な土地は非常に被害が出やすくなります。
地上の地形から地下の地層の分布を推定することは、ようやく可能になってきたところです。過去の洪水で氾濫した時の堆積物や津波堆積物などのデータを基に、災害へのリスク評価や、気象災害や地震、津波、液状化への備えを行う必要があります。

古地図などで東京湾の様子を見ると埋め立ての進み具合に驚きますが、ここで取り扱われているのはもっとスパンの長い変化です。災害を予測するためには、土地の成り立ちを詳しく知る必要があります。東京湾の「履歴書」を見ることで、関東平野が襲われやすい災害や、被害の大きい場所などがわかるのです。

『東京大学の先生が教える海洋のはなし』内容紹介まとめ

生物多様性の減少、海洋汚染、地球温暖化などでダメージを受けている海。これらの危機の原因の多くは人間活動です。その現状を踏まえ、海に関する最新研究を紹介しました。地球と海の成り立ち、海洋生物、海洋環境、災害等の研究を紹介するとともに、研究者たちの研究生活にも迫りました。

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カテゴリー:気象・海洋 
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