再生可能エネルギーによる循環型社会の構築


978-4-425-98511-1
著者名:石田武志 著
ISBN:978-4-425-98511-1
発行年月日:2020/3/28
サイズ/頁数:A5判 176頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,200円(税込)
数量
2030年までの国際目標として掲げられた「持続可能な開発目標(SDGs)」には、分野ごとに17のゴールおよび169のターゲットが示されています。
一方、地球の気候システムをも改変させ始めている肥大化した現在の産業文明は、その存続の危機に立たされていると考えられます。
SDGsの目標の達成のためには、個々の政府・企業・非営利法人などの活動が一層重要になってきていますが、同時に、現在の産業文明の構造自体から考え直して、真に持続可能な文明の形を考えていく必要があります。
その中で、自分なりシナリオを構築し、目標に向けて真摯に実行していくことが必要となりますが、本書では、その方法の一つとして考え方やシナリオを提示しています。
それはもちろんまだ完璧なものではありませんが、今後の世界や日本の進むべき方向を考えるための議論のたたき台になれば幸いと考えています。



【目次】

第1章 文明の誕生と崩壊 ―熱力学で理解する持続可能な文明の条件―  1-1 世の中の現象はすべて熱力学に支配されている― 非平衡に生まれる“散逸構造”とは
 1-2 なぜ生命は高度に進化し繁栄するのか?
 1-3 なぜ文明は繁栄するのか?

第2章 産業文明とその限界  2-1 文明の跡地は砂漠になる?― 砂漠の中の古代文明跡
 2-2 現代の産業文明とその限界
 2-3 持続可能な文明の条件

第3章 海・沿岸部を起点としたメタノール文明の形  3-1 人工生命型エネルギー・クラスターと資源循環エンジン
 3-2 バイオメタノールを基軸とした資源循環エンジン
 3-3 バイオメタノールを起点とした文明の構築
 3-4 バイオメタノール文明を補完するマグネシウム燃料

第4章 海洋文明国家のつくり方  4-1 2019年の現状:新しい文明をつくる土壌
 4-2 2020年代:新文明の萌芽
 4-3 2030年代:エネルギー・ネクサス組合が自治体、大学、企業を飲み込む
 4-4 2040年代:ベーシックインカムの実現
 4-5 2050年代:メタノール文明の完成形
 4-6 2060年代:人工知能のシンギュラリティを超えて



この書籍の解説

子どもの頃、未来社会を想像したことはありますか?私(担当M)が子どもの頃は、今のような携帯端末を手放せない生活は考えてもみませんでした。今の子に訊いたら、もっと解像度の高い答えが返ってきそうです。「エネルギー源は何だろう」と考える子も多いのではないでしょうか。
現在私たちの社会が頼っている化石燃料は、すぐにではないにしろ将来的な枯渇が予想されています。原子力も、廃棄物の処理や事故の危険性を考えると、全世界的に推進することは難しいでしょう。では私たちの未来は、どんなエネルギーに頼ればいいのでしょうか?
持続可能な開発目標(SDGs)には、安全かつ信頼できるエネルギー源へのアクセスの確保がうたわれています。そこで文明の基盤となるエネルギーはどんなものでしょうか?太陽光、水力、洋上風力、地熱といった再生可能エネルギーは多くありますが、ひとつの社会をそれだけで支えるにはまだなかなか難しい状況です。
現代の産業文明が過渡期にある今、新たな未来社会の可能性を考察しシミュレーションしてみることは、社会の選択肢の多様性を確保する上で有効かと思います。今回ご紹介する『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』は、文明の隆盛と崩壊に熱力学的法則を見出し、エントロピーの考え方に基づいて「持続可能な文明」の可能性を探ります。そのひとつの例として著者が提案するのは、バイオメタノールを基盤とした海洋文明国家です。最終章の主人公A氏の暮らしの様々な要素が、この先の私たちの暮らしに登場することがあるかもしれません。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』はこんな方におすすめ!

  • 環境問題に関心の高い方
  • 再生可能エネルギーを学んでいる方
  • 未来社会についてのシミュレーションに興味がある方

『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』から抜粋して3つご紹介

『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』からいくつか抜粋してご紹介します。石油燃料に頼った文明をこのまま続けていていいのか?再生可能エネルギーを中心とした新たな産業文明を、エントロピーの概念に基づいて熱力学的に模索しました。そのひとつの答えを「バイオメタノールエンジン」に託し、持続可能な海洋文明国家日本の姿をシミュレーションします。

現代の産業文明とその限界

(1)加速する文明のパラダイムシフト
農業革命、産業革命、情報革命といった、人類生活を大きく変化させるパラダイムシフトの起こる間隔が徐々に短くなってきています。この先、環境汚染を増大させながら産業文明は崩壊していくのでしょうか?

(2)生態系の崩壊を起こしている産業文明
産業文明の発展が世界中で加速することにより、さまざまな問題が起こっています。化石燃料で動いている産業文明は、物質の循環が完全ではありません。環境中に排出される廃棄物が、生態系や気候などに大きく影響を及ぼしています。
現在は、生物の大量絶滅期に入っています。これは人類が起こした急激な環境改変に起因しています。人間や哺乳類は生態ピラミッドの頂点にいますが、エントロビーの視点からいうと、大型動物は生態系というシステムに投入されるエネルギーが減少すれば即危機に陥る存在です。これまでは大型動物が絶滅しても小型動物や微生物などが生き残って環境を回復させてきました。しかし現在の地球環境においては、大型動物以外の絶滅も増えています。このままいくと生態系の崩壊が懸念されます。

(3)エネルギー資源の枯渇の問題
現代は、化石燃料を基盤として産業文明が維持されています。化石燃料は将来的には枯渇が予想されますし、環境への影響も考えると抑制が必要です。原子力についても、ウランなどの鉱物資源もいずれは枯渇します。加えて放射性廃棄物は超長期的管理が必須ですし、汚染の危険性もあります。このためこれ以上の原子力発電所の拡大も困難であると考えられます。

このような中で唯一永続的に利用できるエネルギーは再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーには変動などの問題もありますが、近年国際的に急速に利用が拡大しています。

社会のシステムが複雑化していくと、それらを駆動するためにより大きなエネルギーが必要になります。そのとき、貯蔵量に不安のある石油エネルギーや廃棄物管理が難しい原子力では対応しきれない可能性があります。
再生可能エネルギーの賦存量にはまだ余裕があります。このことからも、次の文明のエネルギー基盤は再生可能エネルギーを基盤としていくしかないと考えられます。石油を基盤とした産業文明は、もはや継続困難な状況であり、持続可能な新しい文明へのシフトが必要なのです。

再生可能エネルギーは不安定性がネックといわれていますが、洋上などの常に一定のエネルギーが得られる場所での大規模展開や、逆に利用を地域に限って分散させる方法で安定供給への道が模索されています。ここから数十年の取り組みで、私たちの社会がどのようにエネルギーシフトを遂げるのかが明らかになるでしょう。

バイオメタノールを基軸とした資源循環エンジン

(1)なぜバイオメタノールか
太陽光発電を基軸とした分散エネルギークラスターに対して、バイオメタノールを基軸とした資源循環エンジンを考えてみます。散逸構造が高度に進化していくためには、自由度の大きさと、相互作用の多様性が必要です。資源循環エンジンに多様性を確保した上で高度に進化させていく可能性をもつのがバイオメタノールです。
バイオマスを燃料に利用する方法は、

① バイオマスを固体のまま燃料として利用する
② 生物化学的変換技術:微生物によりバイオマスをメタン発酵させ、メタンを燃料として利用する
③ 熱化学的変換技術:植物系のバイオマス原料にガス化剤を添加し、高温で熱分解することで燃料ガスや液化燃料を得る

の3種類に分類できます。
米国やブラジルで利用の進むバイオエタノールは②に分類される技術で、植物の糖からアルコール発酵によりエタノールを製造するものです。原料が大量に調達できる場所でないと採算性の確保は困難です。

ここで提案するバイオ起源のメタノールは、③に属する技術で、バイオマスのガス化メタノール合成プロセスにより製造されるものです。植物系のバイオマス原料にガス化剤を添加し、高温で熱分解することで燃料ガスや液化燃料が得られます。水素、一酸化炭素、メタンなどが得られますが、さらに水素と一酸化炭素からバイオメタノールを合成することが可能です。国内では近年、長崎バイオメタノール事業などのように、商業生産も開始されています。

(2)バイオメタノールによる資源循環エンジン
沿岸部や漁港などから出る有機物を利用したバイオメタノール合成炉による資源循環エンジンを考えていきます。
漁港・水産加工施設は、廃棄魚や食品残渣などのバイオマス資源が発生します。魚市場では魚を入れるために使った発泡プラスチック容器が大量廃棄されていますが、臭いのために再利用は困難でした。また、浮遊したり沿岸部に漂着したりする海洋ゴミも問題になっています。
沿岸域では多くの有機廃棄物の処理が課題となっているため、バイオメタノール合成炉を設ければこれらを集約的に利用できます。バイオメタノール合成プロセスで生成されたメタノールは、さまざまな用途に利用することができます。

① 燃料電池の発電燃料として利用でき、電力自給が可能
② ガソリンエンジンの小型漁船やメタノール自動車の燃料として利用
③ 水産加工場の廃食油は、超臨界メタノールとの反応によりバイオディーゼル燃料が精製可能
④ メタノール合成炉から出るスラグをセメント材料として利用
⑤ メタノールからプラスチックなどさまざまな工業材料を製造可能
⑥ メタノールを栄養源とする微生物によってタンパク質を精製し、養殖用の餌として利用

メタノール合成炉は、漁港や関連水産施設のエネルギー自給やゼロエミッション化を可能とするだけではなく、化学基礎製品や人工飼料をも作り出し、バイオメタノールを核とした「資源循環エンジン」を形成することができます。
バイオメタノール石油のように燃料かつ原料として使え、精製から化学基礎製品の製造までを同一地区で行うコンビナートを形成することができます。つまり漁港や漁村は、循環型の化学コンビナートになる可能性を秘めているのです。

(3)バイオメタノールコンビナートを起点とした循環型文明
水産業は現在、多くの課題を抱えています。水産資源の持続性の崩壊も懸念されています。沿岸部の生態系を豊かに保つためには、河川を通して海に流れ込む栄養塩が重要です。持続可能な漁業のためには、森と海の永続的な栄養塩循環がカギとなります。

海と陸が接する漁港や周辺の水産加工施設を中心にバイオメタノールコンビナートによる資源や栄養塩の循環の起点が形成されれば、海と森とをつなぐ循環の「エンジン」になります。 これが日本各地の沿岸部に多数構築されれば、社会全体が真の循環型社会へ移行する大きな契機になり得ます。

バイオメタノール合成炉はバイオマスがあれば場所を選ばないので、内陸部の農業地域でも内陸型のメタノールコンビナートを作ることが可能です。メタノールコンビナート同士が広域連携することで、沿岸部から内陸部まで、国土全体の資源循環が成立するメタノール文明を構築できると考えられます。

石油がエネルギー源として重要である理由は、エネルギー源としても工業生産物の原料としても用いられることにあります。そこで筆者は、同じようにエネルギー源としても原料としても使えるメタノールに注目しました。漁港の廃棄物や農林業の副産物を利用してエネルギーや資源の生産を行い、森と海とを繋ぐ考え方です。「森は海の恋人」という言葉がありますが、ここでは双方の廃棄物をエネルギー生産に回すことで、循環を成立させようと試みています。

海洋国家への道:2020年代のシミュレーション

(1)「ひとり電力会社」から「無人電力会社」の誕生
今後電力自由化がさらに進行すれば、今後は一人で電力会社を作ることも可能になっていくと考えられます。住宅用太陽光パネルなどのより小規模な発電設備も電力市場に参入できるようになるでしょう。

近隣設備の電力をマネジメントする技術を安価に利用できるようになれば、近隣の分散電源を連動させて分散エネルギークラスターを形成して電力売買を行うことができます。電力設備と情報システムに詳しい技術者であれば「一人電力事業者」になることも可能です。自宅パソコンで近隣の太陽光発電の電力をマネジメントして地元に安価な電力を供給しつつ、電力売買を行う電気事業者です。

一人電力事業者は、固定価格買取制度の期間が終わった太陽光パネルなどの採算性の悪くなった状態の発電設備を、安い電力の提供を条件に借り上げます。ここにインターネットを導入し、近隣設備での電力融通を安価に行い、地域内での発電電力の地産地消を目指します。電力を安く売っても設備費や人件費などが抑えられているため、利益が確保できます。

一度ローカル電力インターネットが稼働すれば、RPA(Robotic Process Automation)などの技術を導入して電力マネジメントもほぼ無人で行えます。省力化によって、複数のローカル電力インターネットも一人で管理できるようになります。規模拡大により人手が必要になった部分は、定年後の電力技術者などに副業で短時間働いてもらうなどの方法で補います。蓄積した利益を設備投資に回せば、分散エネルギークラスターに地域の特性を生かした様々な電力設備を導入することが可能となります。

2017年現在、すでに地方自治体が設立する新電力会社が31自治体で設立され、今後は100を超える見込みとなっています。これらの自治体新電力は限定された地域を対象に小売電気事業を行っており、地元での雇用創出や経済活性化に貢献しています。

(2)農水産業のスマート化
今後自動化が進む分野としては、農業が考えられます。情報通信技術や人工知能、ロボットを利用した農業の自動化(スマート農業)が進められています。
近年はAIの研究も進みロボットの性能も向上したため、農作業の細かく多様な作業も代替できる部分が増えています。技術の発展が進めば、いずれ「一人大規模農業」も可能になるでしょう。IoTセンサーで農地の状況をモニターし、ロボットが出荷までの作業を自動で行います。農業従事者はモニターを見つつパソコンで指示するのが主な仕事になります。

人工知能やロボットなどを購入すると、価格が高くなってしまいます。農業従事者自らがロボットやプログラムに詳しくなり、それらを安価に造りだせるようになるか、地域に人工知能やロボットに詳しい 「農業情報技術者」がいれば、その技術者と協働することで、地域の複数の農家を自動化することが可能です。

情報技術のオープン化が進んで企業の枠にとらわれない技術者が増加すれば、一人かごく少人数で電力事業や農業経営を行う取り組みが増加していくでしょう。競争力を得て規模を拡大すれば、エネルギーも食糧も大部分を自給できる事業体が生まれる可能性があります。この事業体が済格差を生まないためには、事業体を非営利型の組織とすることが望ましいでしょう。仮に「エネルギー・ネクサス組合」と呼びます。この組合は、エネルギー設備や農業システムをAIによる自動化技術でマネジメントし、少人数で実現することを目指した組織です。

組合で自給したエネルギーや農作物は、組合員でシェアするような体制をとります。充分な規模の生産が実現すれば、短時間の労働でエネルギーと食糧の無料配給を受けられるような仕組みを構築できるのではないでしょうか。
事業が安定すれば、住宅の整備事業も行うことができるようになります。 近年急激に増加している空き家を再整備することにより、組合員に安価あるいは無償の住宅を提供できます。

スマート電力やスマート農業は既に進んでいますが、それをさらに発展させるためにはAIと機械技術の専門家を地域に配置するのが肝要ということですね。それに向けた教育制度も整える必要がありそうです。ここで短時間労働を行う「組合員」も元専門家のシニア世代が想定されていますが、システムを社会全体で支える仕組みから変革しなくてはならないかもしれません。

『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』内容紹介まとめ

SDGsの実現のためには、文明の在り方そのものを変える必要があるかもしれません。まず熱力学的に産業文明の発展可能性と崩壊の仕組みを考察したのち、基盤となるエネルギーの転換に文明再生の糸口を求めます。ひとつの回答として、バイオメタノールを中心とした未来社会を提案しました。

『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』を購入する

公式ECサイトで購入する
Amazonで購入する

石油からの脱却!おすすめ3選

『地熱エネルギーの疑問50 みんなが知りたいシリーズ18』
火山国日本には、地熱資源が豊富です。しかし地熱エネルギー利用はまだまだ発展途上です。地熱の探し方、利用方法、関連法規や利用が進まない理由など、地熱エネルギーに興味のある方向けの基礎知識を、Q&Aでやさしく解説します。

『「脱炭素化」はとまらない!』
エネルギー産業において避けては通れない「脱炭素化」。この世界的な流れに「正しく乗る」にはどうすればいいのか?大きな変革を求められる脱炭素化を、損ではなくビジネスチャンスとするには?学術界、産業界、コンサルタントの3名の著者が、国内外の脱炭素化事例を多面的に解説しました。

『運輸部門の気候変動対策ーゼロエミッション化に向けて』
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの多くは、運輸部門、中でも自動車が排出しています。自動車の動力をよりクリーンなものに変え、CO2排出量を減らすにはどうすればいいのか?自動車の環境影響データを引きつつ、欧州のEV先進国と日本の取り組みと現状を考察します。


書籍「再生可能エネルギーによる循環型社会の構築」を購入する

カテゴリー:趣味・実用 
本を出版したい方へ