風力発電設備と雷ーその影響と対策ー


978-4-425-69091-6
著者名:高田吉治 著
ISBN:978-4-425-69091-6
発行年月日:2015/10/26
サイズ/頁数:A5判 192頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,420円(税込)
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風力発電設備に携わる管理者・設計者・研究者の方へ 雷の性質や種類・季節別分類・多発地域・観測方法と風力発電設備の落雷被害・落雷対策・避雷対策など風力発電設備の事故防止と安全性を高めるために必要な知識を、この1冊で知ることができます。


【まえがき】より

雷は、気象現象であるとともに電気現象である。
昔から高い地物に対しては、落雷による被害が多いのが常識となっている。材質が導体であろうと絶縁体であろうと、高い地物ほど雷を引き寄せる効果は大きい。
落雷による被害は、高電圧、大電流によるものと、それに付帯して発生する瞬間的な衝撃、音、高熱によるものである。
風力発電設備は、平成15年(2003年)ごろには単機出力が1500kW を超えるような大型機種が急速に増えてきた。さらに風車のタワーは高くなり、ブレード先端高さが100m を超えるようになってきた。このころ、海外からの輸入機の割合が90%を占めていたが、海外とは異なる日本の特異な気象状況も影響し、雷による被害が多発し始めた。その後、風力発電設備の大型化、高層化によって、特にブレードへの落雷による爆裂破損事故が次第に増大していった。
日本風力エネルギー協会理事会は、平成17年(2005年)に入り、ブレードの雷害事故を放置しておくと、再生可能エネルギーのひとつである風力エネルギーの展開に支障を来すおそれがでてきたことを懸念した。
そこで風力発電設備の雷対策を含めた雷の実態をまとめるよう、実験気象学が専門で、高電圧工学に通じた筆者(当時理事)に依頼となった。
本書は(一社)日本風力エネルギー学会の学会誌に「技術連載 雷」を通巻73号(2005年Vol.29 No.1)から通巻104号(2012年Vol.36 No.1)まで8年間、31回にわたって連続掲載した内容を整理したものである。
風力発電設備についての落雷被害は、雷が直撃した場合に大きな被害が発生する。前述のような爆裂破損事故の要因は、雷のエネルギーを受けて、ブレード内の圧力が高まったことによるものであり、結露等に起因する水蒸気爆発も一因と推定できる。本書ではこれらの原因と対策に迫った。
連載後の動きとして、洋上風力発電の導入促進のため、平成25年(2013年)3月には、日本国内で初となる千葉県銚子市の沖合約3.4?の海域にて2.4MW洋上風力発電設備の本格実証運転が開始された。その後、同年6月には日本海側では初となる北九州市の響灘沖(沖合1.4?)に設置した2MW の風力発電設備が稼働して、通年の風況観測や海象観測、塩害、落雷、運転保守対策などの実証を行っている。銚子市沖と北九州市沖の設備は、風車の基礎部分を海底に固定した着床式であったが、福島県沖合の実証研究では、浮体式洋上風力発電設備として世界最大級の7MW 風車を設置し、洋上風力発電の導入普及に必要な技術および浮体式洋上風力発電のビジネスモデル確立を目指したプロジェクトが進んでいる。また、平成26年(2014年)4月に発電用風力設備の安全性の審査が、建築基準法から電気事業法へ一本化されるなど、法整備の面でも風力発電の導入促進が図られている。
一方、平成25年(2013年)冬季に、落雷に起因すると推定される風車破損事故が多発し、事故原因の究明および再発防止対策が検討されるなど、風力発電設備にはより高い安全性が求められている。
今後、風力発電設備は小型から大型まで広く展開されていくが、雷害を常に考慮した上で適切に対処していかねばならない。本書では、風力発電設備全体に関わる雷の性質や種類、季節別分類、多発地域、観測方法、落雷被害、落雷対策、避雷対策などについてまとめてある。本書が、風力発電設備の雷対策の一助になれば幸いである。

平成27年9月
高田吉治

【目次】

第1章 雷 1 雷雲の形成
 1.1 雲の種類
 1.2 雲粒の形成から雨滴への成長
 1.3 雷雲の種類と構造
 1.4 雷雨発生時の状況
 1.5 雷の地域分布
2 雷の電気的特徴
 2.1 電荷の発生・分離機構
 2.2 雷放電
 2.3 雷の電気的性質
3 冬季雷
 3.1 冬季雷の発生地域
 3.2 冬季雷発生時の気圧配置
 3.3 冬季雷の雲構造・放電特性
 3.4 冬季雷の増加と地域環境
 3.5 冬季雷の発雷条件
  コラム 雷は増えているのか
4 雷害
 4.1 落雷被害の概要
 4.2 人体への被害
  コラム 航空機の被雷

第2章 雷観測と雷予測 1 雷の観測
 1.1 雷観測機器の分類
 1.2 雷性状の観測法
  コラム 目と耳による雷観測
  コラム 雷観視システムLIDEN
2 雷の予測
 2.1 直前の予測(ナウキャスト)
 2.2 短時間予測
 2.3 短期予測
  コラム ケネディ宇宙センターの雷観測

第3章 風力発電設備と雷被害
1 風力発電設備
2 雷計測の必要性
3 風力発電設備の雷被害
 3.1 雷被害の概要
 3.2 部品・部位別の損傷状況
 3.3 ブレードの爆裂
 3.4 落雷と構造物との相互作用
  コラム 開発が進む小型風車

第4章 雷保護 1 雷保護レベル
 1.1 雷保護に関する規格
 1.2 雷保護システム(LPS)の保護レベル選定
  コラム 雷保護レベル選定の留意点
2 外部雷保護システム
 2.1 外部雷保護システム(外部LPS)の概要
 2.2 受雷部システム
 2.3 引き下げ導線システム
 2.4 接地システム
3 内部雷保護システム
 3.1 内部雷保護システム(内部LPS)の概要
 3.2 等電位ボンディング
4 雷サージ
 4.1 雷サージとは
 4.2 電磁誘導サージ
 4.3 静電誘導サージ
 4.4 逆流雷サージ(接地雷サージ)
 4.5 雷サージの保護
  コラム 最新の雷対策

第5章 風力発電設備の雷対策 1 日本の大エネルギー雷への対応
2 部位別の雷対策
 2.1 ブレード
 2.2 ナセル
 2.3 タワー
 2.4 発電機・制御機器
 2.5 電源・信号線・制御回路
3 受雷部システム
 3.1 避雷針
 3.2 接地システム
4 等電位化
5 冬季雷の対策技術
 5.1 着雪・結氷対策
 5.2 積雪対策
 5.3 低温対策
6 メンテナンス
7 風車の公衆安全確保策
8 洋上の落雷対策
 8.1 洋上の雷の特徴
 8.2 洋上の風力発電機への落雷
 8.3 洋上風車の落雷対策
 8.4 大気の電位、電荷と等電位保護
 8.5 洋上の雷の観測と予測
9 雷対策事例
 9.1 青森県の雷対策
 9.2 新潟県の雷対策
 9.3 島根県の雷対策
 9.4 襲雷検知・注意喚起

  市町村別の風力発電設備導入状況
  参考文献
  索引



この書籍の解説

海辺の風を受ける場所や山間部などで、風力発電設備の大きな羽根(ブレード)がゆっくり回っている光景は、今ではそれほど珍しいものではなくなりました。野生動物や周辺の環境に与える影響について議論はありますが、再生可能エネルギーと持続可能な利用方法の開発は、これからの人間社会にとって急務です。風力発電設備についても、周囲の環境に配慮しつつ、できるだけ安全な運用が行われなければなりません。
2003年頃から風力発電設備は大型化し、風車は高く、ブレードは長く進化してきました。そこで目立ち始めたのが、雷による被害です。開けた場所に建つ高い建物においては、日本では雷に警戒しなくてはなりません。その頃は海外産の設備を輸入して用いていましたが、海外では考慮していなかった激しい雷がブレードを破損する被害が相次ぎました。海外の技術を移転してくるとき、自国に特有の環境に合わせて様々な仕様変更が必要になることがありますが、風力発電設備においてもそれが起こったのです。
今回ご紹介する『風力発電設備と雷』は、多発する雷被害の対策を立てるため、学会誌に8年間連載された記事をまとめて再構成したものです。まず雷の性質を学び、観測と予測の方法を身につけます。後半では技術者・研究者向けに、雷による風力発電設備の被害状況をまとめ、被害を受けやすい状況や部位を確認します。終盤では具体的な雷保護・雷対策について解説します。
洋上風力発電施設をはじめ、今後も再生可能エネルギーの一角を担っていくだろう風力発電。安全で持続的な発電のために、「神の怒り」から施設を守る方法を確立するために、技術者・研究者たちは日々試行錯誤を繰り返しています。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『風力発電設備と雷』はこんな方におすすめ!

  • 風力発電に関わる仕事の方
  • 再生可能エネルギーについて学ぶ方
  • 建物の雷対策に関わる方

『風力発電設備と雷』から抜粋して3つご紹介

『風力発電設備と雷』からいくつか抜粋してご紹介します。雷の性質や種類・季節別分類・多発地域・観測方法と風力発電設備の落雷被害・落雷対策・避雷対策など風力発電設備の事故防止と安全性を高めるために必要な知識を、この1冊で知ることができます。風力発電設備に携わる管理者・設計者・研究者の方へおすすめです。

雷の観測

《雷観測機器の分類》
雷の観測は、目的とする内容によって分類されます。観測機器も目的に合致したものを選定する必要があります。

① 雷の性状を明らかにする
② 落雷後の雷サージの伝播状況を明確に求める
③ 雷の発生状況や移動状況を明らかにする

《雷性状の観測法》
風力発電設備の落雷被害の65%は日本海沿岸で発生しており、特に12~2月に被害が集中しています。風力発電設備については、冬季雷(正極性雷)による被害の割合が大きいことが明らかになっています。
雷の観測方法は色々ありますが、落雷位置標定システムや、電界強度計(フィールドミル)が多く用いられています。風力発電機への落雷電流の直接測定には、ロゴスキーコイルが用いられます。主要な観測方法は、次の通りです(ここではその一部をご紹介します)。

(1)電磁界観測 積乱雲内部や遠くの雷放電の様子を知るために、電磁界を観測します。雷放電に係わる電荷、電流の空間的な位置や、大きさを測定結果から推定します。
電界強度の測定には、電界強度計と容量性アンテナが用いられます。容量性アンテナは、対象とする電界の周波数領域の低いものをスローアンテナ、周波数領域の高いものをファーストアンテナと呼びます。磁界測定には、ループアンテナが用いられます。

【電界強度計(フィールドミル)】
大気中の電界強度を測定する計測器に、電界強度計があります。電界強度計は、数個の扇型の羽根からなる水平に固定された金属板(誘導板)と、その真上で回転する同型の金属板(遮蔽板)からできています。
誘導板は抵抗rを通じて地表電位に結ばれ、同時に電圧増幅器に接続されます。遮蔽板が回転を繰り返すことによって、抵抗rに交流電圧が発生します。この交流電圧を増幅整流して自記電圧計に導き、大気電界を記録します。

【容量性アンテナ】
容量性アンテナは、雷放電に伴う電界変化を観測するものです。金属平板と大地間に、平板の大地静電容量に比べて十分に大きいコンデンサーを接続し、コンデンサーの両端の電圧を記録します。

【ループアンテナ】
ループアンテナは、雷放電に伴う磁界変化を観測するものです。回路はループ状のアンテナと積分器で構成されています。

(2)雷撃経路観測 最近ではCCDセンサーによるビデオカメラが放電路の観測や落雷判定に使用されています。雷放電の進展状況の解析には、高時間分解能の装置も開発されています。冬季雷の特性解析には、センサーにpinフォトダイオードを用いた光速の自動観測装置が用いられます。高速度で高感度な観測が必要な場合は、スリットと光電子増倍管が使用されます。
【ストリークカメラ】
落雷は0.5秒程度で複数の雷撃が発生し、各雷撃にはいくつかの放電進展過程が含まれています。ストリークカメラは、光強度変化を時間分解してフィルムに写します。

【光スペクトル撮影装置】
ストリークカメラにリズムや回折格子を取り付けて分光することにより、雷放電に伴う発光スペクトルの時間変化を知ることができます。

【雷放電進展様相自動観測装置(ALPS)】
ALPSは超高速のデジタルカメラシステムであり、雷放電進展測定に特化した観測装置です。平成24年現在、7号機まで製造されています。解像度や撮影コマ数が少ないため、高速ビデオカメラやCCDビデオカメラを併用して観測します。

【音響観測】
地上に3台のマイクロホンを設置し、帰還雷撃の開始時刻と各マイクロホンへの雷鳴の伝播時間差から雷鳴の放射源を求め、雷放電経路の推定を行います。

(3)雷撃電流観測 電流測定装置には、磁鋼片、同軸分流器、ロゴスキーコイルなどがあります。

【磁鋼片】
無限長直線導体を流れる電流によって、その円周方向にH=I/(2πr)となる磁界Hが発生します。送電鉄塔などの電流経路から比較的短い距離rに磁性体を置き、雷撃の後回収します。磁化された磁界Hを測定すれば、流れた電流Iを知ることができます。この磁性体は炭素鋼板によって作られており、磁鋼片と呼ばれます。

【同軸分流器】
避雷針とアース間に低抵抗を挿入し、電流が流れたとき抵抗Rの両端に発生する電圧V=IRから、電流Iを測定します。抵抗は折り返し構造かつ同軸構造になっています。

【ロゴスキーコイル】
ロゴスキーコイルは非磁性体の芯材に導線を巻き付けたコイルで、非接触の電流センサーとして使えます。ロゴスキーコイル自体の出力は電流の微分値ですが、通常は積分回路を追加し、出力しています。材質と構造上、磁束が飽和せず大電流の測定に対応できることに加えて、インピーダンスが小さいという利点も備えています。

抜粋している観測機器は雷撃電流観測機器までですが、他にも落雷位置を知る機器やレーダー、衛星からの観測等があります。
ロゴスキーコイルは、東京スカイツリーのアンテナ基部にも雷観測装置として取り付けられました。関東地方では下向きの雷が圧倒的に多いにも関わらず、スカイツリーへの落雷は上向き雷が圧倒的に多かったという観測結果が出ています。このことは、風力発電設備への雷被害が冬季の上向き雷によるものが多いということと類似しています。冬季の雷は増加傾向にあるので、より厳重な観測と対策が必要ですね。

風力発電設備の雷被害

《雷被害の概要》
風力発電設備は、機械的トラブルなどで稼働停止を余儀なくされることがあります。故障・事故発生の減少と再発防止、停止時間の短縮のため、故障・事故分析が行われています。
平成16年度~平成23年度に収集した故障・事故調査データを、発生要因別に分類しました。要因を大きく3つに区分すると、「原因不明」が最も多く547 件(46%)、次に「自然現象」が366 件(30%)となりました。要因が判明したもののうち、落雷が最も多く、267件(21.7%)を占めています。風力発電設備の落雷対策が重要であることがわかります。

要因に関係なく故障・事故部位を抽出すると、「制御装置」「ピッチ制御装置」「電気装置」などが多くなっています。落雷が原因だと考えられるケースにおいて、被害部位を抽出してみました。平成20 年~平成25年の間日本全国の風力発電設備において観測した落雷834件中、被害が報告された25件の被害部位は、ブレードから近隣設備に至るまで、多岐にわたっています。

落雷電流波形をみると、風力発電設備への落雷は上向きの雷放電がほとんどで、ブレード先端付近に着雷していることが判明しました。落雷対策には、雷電流の進入経路ともなるブレードへの雷対策が重要だとわかりました。雷電流を受けた場合でも故障・事故に至っていないケースも多いことから、一回の落雷では大きなダメージとならないことも示唆されています。

《部品・部位別の損傷状況》
雷が直撃する場合、風力発電設備のブレード部分に直撃する可能性が最も高くなっています。直撃雷は、ブレードの破損、折損、亀裂などの原因となるほか、損傷部が飛散して2 次事故へとつながります。修復に2ヵ月以上かかるケースも多く、多くの時間と多額の費用がかかります。
ブレードの損傷はさらに構造的な損傷を引き起こし、ブレードとハブの異常が、発電機の運転停止事故の原因となります。大型風力発電機のブレードは、全体コストの1/4を占める最も高価な交換部品であり、ブレードに落雷すると、雷電流が発電設備のあらゆる機器を通って大地へ流下するので、被害はさらに拡大します。

ブレードは当初、GFRP(グラスファイバー入り強化プラスチック)と、CFRP(導電性カーボン入り強化ブラスチック)のいずれかを使用していましたが、CFRPは導電性があるため使用しないほうがよいとされました。その後は絶縁性材質であるGFRPで作成されるようになりました。しかし風力発電機の大型化に伴い、GFRPのブレードにも直撃雷の被害が頻発するようになったのです。現在ブレードにはいくつかの種類がありますが、タイプD(非導電性翼)やタイプE(CFC材料翼、CFC:炭素繊維複合材)であっても雷被害を受けているため、雷保護は必須です。

ブレードからの雷撃電流は、ベアリングを通って流れ、ベアリング可動表面の蒸発・溶解・溶接を引き起こします。また、風力発電機の制御ケーブルに誘導された電圧により、制御システムが損傷を受けます。加えて、配電線から来るサージ電圧がネットワーク端末機器などの電子機器を破損し、観測支柱へ連結されたセンサー・ケーブルを流れる電流により、気象観測機器にも損傷が起こります。
ブレードの落雷被害の典型は、表面複合材料の層間剥離や、燃焼および雷撃点の金属構成部(受雷器、導電体)の加熱または溶断です。雷電流またはその一部が複合材料の中や層間を通過し、衝撃波が内部からブレード表面を引き裂いたり破裂させたりするのです。雷がブレードの中にアークを形成したとき、風車ブレードは最も激しい被害を受けるとされています。

ブレードの材質が非導電性であっても、容赦なく雷は直撃します。被害をできるだけ軽減するため、ブレードの先端に受雷部(レせプタ)を取り付けて落雷電流の放流ルートを作ったり、ブレードの最頂部が雷保護範囲に入るような避雷針を設置したりして対策しています。それでも完全ではないので、ブレードの強度を高めるなどの対策も併せて行っています。

洋上の落雷対策

《洋上の雷の特徴》
青森県から島根県までの日本海側は、冬季雷が生じやすい状態です。一方太平洋側の冬季は、発達しながら通過する南岸低気圧に伴う前線付近で発雷が見られます。また梅雨期は洋上も陸上同様、雷や強風を伴う大雨になりやすくなっています。

《洋上の風力発電機への落雷》
洋上でも雷は高い所に落ちやすいので、風力発電機においては、ブレード先端に近い所に被雷することが多くなっています。
既存の高構造物と雷撃の関係式により洋上風力の雷撃数を予想するため、夏季雷と冬季雷について、高構造物への雷撃密度や実測値を当てはめてそれぞれ計算してみました。これらの結果を高さ100mの風車(陸上の2MW風車)での雷撃密度を1として比較すると、特に夏季雷において、風車高さが100mから200mになったとき、雷撃密度は4、250mになると雷撃密度が7になるという計算結果となりました。陸上の2MW風車と比較して、風車高さが2倍になる7MW洋上風車の雷撃数の増加が予想されます。

《洋上風車の落雷対策》
洋上に設けられた風力発電機では、次のような対策に留意する必要があります。

・避雷針の設置は困難なため、ブレードにキャップレセプタを取り付け、そこから引き下げ導線を用いる
・引き下げ導線は低インピーダンスにするため、最短距離を取り海中に接地した大型の極板を通して接地する
・大型の浮体では、浮体の周りの舷側の数カ所に接地を分けて配置し、それらを共通接地する
・大型の浮体に落雷した雷電流は表層を流れやすいため、電磁誘導で内部の機器に影響を及ばさないように対策する
・作業員が避難するファラデーゲージ型の保安室を設ける必要がある

《大気の電位、電荷と等電位保護》
晴天、無風の日は、海面から上空に向けて、電界が高さ1mあたり約100Vの割合で増加します。海面上に導体でできた浮体やタワーが構築されると、海面上と等電位となります。ただし浮体やタワーの上に、風力発電機や変電設備、通信設備等が設けられて稼働した場合は、以下に示す影響で等電位の条件が変わることが予想されます。

・風車の運転による電荷
・風車と空気、エアロゾルとの摩擦により発生する電荷
・大気中の電位傾度のある中に導体を置いた場合に発生する誘導電荷
・浮体の上の構造物が絶縁されていた場合、電位差が大きくなり高圧がかかる
・風力発電設備には塩分が付着し、等電位の状況が変わる
・気温が-5℃以下になると、波浪のしぶきや泡が浮体や風力発電機、周辺機器に付着して凍結することがあり、等電位の条件が変わる可能性がある

洋上の高構造物である風力発電は、周囲の海水に含まれる塩分および海水そのものが雷対策に重要な等電位化にも影響を与える可能性があります。

再生可能エネルギーとして注目されている風力発電ですが、日本においては地理的条件や自然環境や生態系との兼ね合いもあり、簡単に増やすのは難しい状況です。海上建築の技術の進歩も相まって洋上風力発電が注目されていますが、そこでも雷対策は必須です。陸上施設における雷対策に、洋上の気象の特徴、水と塩分への対策が加わるのです。

『風力発電設備と雷』内容紹介まとめ

広く普及し、設備も大型化した風力発電。しかし日本の気象状況下では、雷による被害が多発していました。雷を受けてブレードが破損する事故はなぜ起こり、どうすれば対策できるのか?今後も広く展開する風力発電設備を安全に運用するため、雷害は常に考慮されなければなりません。風力発電設備全体に関わる雷の性質や種類、季節別分類、多発地域、観測方法、落雷被害、落雷対策、避雷対策などを解説し、風力発電設備の雷対策を一冊にまとめました。

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カテゴリー:気象・海洋 タグ:気象 気象災害 
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