レジーム・シフト ー気候変動と生物資源管理ー


978-4-425-53101-1
著者名:川崎 健・花輪公雄・谷口 旭・二平 章 編著
ISBN:978-4-425-53101-1
発行年月日:2007/10/18
サイズ/頁数:B5判 224頁
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“マイワシが減り、さんまが増える”魚種交代の背景には地球規模の気候変動があった! 本書では、レジーム・シフト発生のメカニズムと、それによって起こる生態系・生物資源の変動機構を明らかにし、“変動を組み込んだ”新しい資源管理理論を提案する。

【発刊にあたって】より  “自然はそれ自体の法則にしたがって変動している”と言えば、“そんなことは当たり前だ”という応えが返ってきそうであるが、海洋生物の資源の研究やそれを管理する世界では、そのことを“当たり前と考えない”状況がまかり通ってきたし、力は衰えたが、今でもまかり通っている。その根拠となってきたのが海洋生物資源のバイオマスの法則的な変動を否定し、環境変動はノイズであるという前提に立って作られた平衡理論=MSY理論である。そして、その“当たり前と考えない”ことが、海洋生物の研究全体にマイナスの影響を与え続けてきた。そのネガティヴな影響は、世界の海の生物資源管理方策を定めた国連海洋法条約をはじめ、さまざまな海の国際法や国内法にまで及んでいる。このことは、現在世界の多くの海洋生物資源が過剰漁獲にさらされ、再生産力を失いつつあることと、無関係ではない。
 本書の書名の副題は“気候変動と生物資源管理”となっているが、この副題には、上記の歴史的な誤りを正す思いがこめられている。つまり“自然はそれ自体の法則にしたがって変動している。海洋生物資源は自然の構成部分であり、自然の変動法則に基づいて管理されなければならない”という思いである。そして、この自然の変動法則は、1983年に見いだされた“レジーム・シフト”という現象(「総論」を参照)を支配する法則であり、そのことについて論ずるのが本書の主題である。 
 上の説明から理解されるように、この本の中心的な内容は、見いだされてから間もない自然の法則的変動 ―レジーム・シフト― の解明である。レジーム・シフト(regime shift)とは、大気―海洋―海洋生態系(海洋生物資源はその構成部分である)から構成される地球システムの基本構造(regime)が、数十年の時間スケールで転換(shift)することを、意味している。
 regimeという言葉の起源は、フランス語のancien regime(アンシャン レジーム)である。この言葉は1789年のフランス革命以前の政治社会体制(旧体制)を指している。また米国のブッシュ大統領が、演説の中でキューバの現体制を Castro Regime と述べていたのを想い起こす。つまりregimeとは、基本的な政治体制・社会体制のことである。このような社会科学の用語を、私たちは、1987年に創った国際研究組織 Regime Change Workshop で、自然科学に導入した。このregime change が後に regime Shift となった。“変化”から“転換”になったのである。この方がよい。なぜならば、 regime shiftとは、単なる量的な変化ではなくて、質的な転換だからである。
 レジーム・シフトの概念が提出されて以来、それは急速にそして広く国内・国際学界に受け容れられ、その研究は大気科学・海洋科学・漁業科学の諸分野に大きく広がった。大気―海洋科学分野では、たとえばCLIVAR(Climate Variability and Predoictability Study)という国際プロジェクトが現在走っている。海洋生態系、漁業資源の分野での国際研究組織であるPICES(North Pacific Marine Science Organization)やGLOBEC(Global Ecosystem Dynamics)の中心的な研究テーマは、レジーム・シフトである。
 欧米では、レジーム・シフト関連の学術書が、近年次々と刊行されているが、このレジーム・シフトの最初の発信地である日本では、多くの研究実績があるにもかかわらず、まとまった成書が出ていないのが現状である。そこで私は、日本における業績を中心にした本を出して、世界に向って発信しようと考えた。
この本を作るにあたっては、3人の研究者に編集に参加していただいた。そして、川崎 健(漁業科学)、花輪公雄(海洋生物学)、仁平 章(水産資源学)の4人で、編集委員会を構成した。私の最初の提案は、英文の書物を作って世界に問おう、というものであった。相談の結果、まず日本語版を作り、それを基盤にして国内で議論を行い、その議論をbrush up してから、英語の本を作ろう、ということになった。日本語では、残念ながら、世界に認めてもらえないのである。revised English version の作製が次の目標となる。
 本書は、4つのパートから構成されている。すなわち、総論、?海洋環境、?海洋生態学、?魚類資源およびその管理、である。各分野で活躍している中心的な研究者に、執筆をお願いした。総論は川崎が担当した。?は花輪が編集し、大気・海洋の物理を扱っている。?は谷口が編集し、海洋の栄養塩からプランクトン生産について論じている。?は二平が編集し、マイワシを中心とする浮魚資源、イカ類資源、サケ類資源、底魚資源、管理モデル、漁業政策を論じている。?と?については、それぞれの第1章を編集者執筆の総論に充てた。?については、第8章を“「資源管理・漁業管理」をめぐる座談会”とし、川崎、渡邊良朗、二平が総括的なディスカッションを行った。かくして本書は、レジームシフトを巡る関連研究分野を、おおむね網羅的に捉え得たと考えている。
 本書が期待する読者層は、広範である。気象学・気候学・海洋物理学・海洋生物学・漁業科学・水産資源学、漁業経済学などの研究者、海洋政策・漁業政策の立案者や行政官、さらにこの問題に関心を持つ多くの方々である。
 この本が、地球システム学・環境科学・政策科学の進歩、環境管理・資源管理のメカニズム構築に寄与することを期待したい。
 なお私事にわたるが、私は2007年6月に沖縄県宜野湾市で行われた第21回太平洋学術会議において、“太平洋の海洋生物における顕著な貢献”として、畑井メダルを受賞した。畑井メダルは、東北大学理学部生物学教室の初代教授であり、パラオ熱帯生物学研究所の創立者である畑井新喜司博士の海洋生物学における卓抜した業績を顕彰するために1966年に創設された海洋生物学に対する国際賞であり、太平洋学術協会から授与される。これまでに12人が受賞しているが、日本人としては、私は20年振り2人目である。
 私が受賞した理由は“レジーム・シフトを初めて指摘し、その理論の発展に寄与したこと”である。私の受賞は、私個人の問題というよりも、レジーム・シフト理論が国際学会によって公式に認知されたことに意義があると言えよう。本書の発刊とも関連があると考えて、一言付け加えた。

2007年夏  川崎 健

【目次】 〔総論 レジーム・シフト―地球システム管理の新しい視点―〕
  1.レジーム・シフト―地球システム変動の新しい概念
  2.レジーム・シフト理論に基づく地球システム管理の基本理念
  3.気候とレジーム・シフトの崩壊点
  4.大気―海洋系の管理
  5.漁業資源の管理

海洋環境
第1章 海洋環境のレジーム・シフト
 1.はじめに
 2.レジーム・シフトと気候のジャンプ
 3.気候の十年/数十年変動とレジーム・シフト
 4.約20年周期変動の実態解明と一つの仮説
 5.おわりに

第2章 過去100年間の全球海面水温場に出現したレジーム・シフト  1.海面水温
 2.レジーム・シフトの検出
 3.レジーム・シフトに伴う海面水温場の変化
 4.ENSOイベントとの関係
 5.卓越変動モードとの関係
 6.メカニズム

第3章 中緯度大気海洋結合モードと数十年スケール変動  1.はじめに
 2.太平洋10年規模変動のシグナル
 3.大気海洋結合モード
 4.Stochastic reddening
 5.中緯度SSTから大気への影響
 6.結合モードと大気ノイズの役割
 7.見えてきた描像
 8.おわりに

第4章 物理的環境におけるレジーム・シフトと十年スケール変動のメカニズム  1.物理環境のレジーム・シフト
 2.海洋システム
 3.大気海洋結合システム
 4.まとめと議論

海洋生態系
第1章 低次生産層にみられるレジーム・シフトの特色
 1.はじめに
 2.海洋生態系の特性とその理由
 3.レジーム・シフトの影響が低次生産層ではめだたないわけ
 4.動物プランクトン現存量と浮魚漁獲量の長期変動の実像
 5.むすび

第2章 北太平洋におけるレジーム・シフトとメソ動物プランクトン  1.はじめに
 2.変動パターンの地理的差異
 3.変動プロセス
 4.おわりに

第3章 北太平洋の栄養塩変動と生態系レジーム・シフト  1.はじめに
 2.北太平洋亜熱帯循環における栄養塩と低次生態系変動
 3.親潮域における栄養塩と低次生態系変動
 4.生態系内部における物理フォーシングの伝達過程
 5.今後の生態系レジーム・シフト研究

第4章 水産研究動物プランクトン長期変動データから読みとるレジーム・シフト  1.はじめに
 2.東北区水産研究所における動物プランクトン長期データ解析
 3.プランクトン変動と気候変動
 4.ODATEプロジェクト
 5.データベースの公開
 6.調査継続の必要性
 7.おわりに

魚類資源およびその管理
第1章 レジーム・シフト理論に基づく小型浮魚資源の管理
 1.海洋生態系の正しい認識へのバリア―平衡理論に基づく資源管理論―
 2.魚類のバイオマスは全球スケールで大きく変動する
 3.大気―海洋系も数十年スケールで変動している
 4.浮魚群集のバイオマス変動の二重サイクル
 5.レジーム・シフト理論に基づく小型浮魚群集の管理
 6.地球環境管理としての漁業資源管理

第2章 レジーム・シフトを含む気候変化に応答するイカ類の資源変動  1.はじめに
 2.海洋環境変化とイカ類資源変動研究の始まり
 3.なぜイカ類は、海洋環境変化に敏感に反応する?
 4.スルメイカ類の資源変動と気候変化
 5.ヤリイカ類の資源変動と気候変化
 6.スルメイカ類の再生産の特徴
 7.レジーム・シフトとスルメイカの資源変動
 8.本当の産卵場を探す
 9.なぜ寒冷年が続くとスルメイカが減る?
 10.気候変化に応答するスルメイカ資源変動と魚種交替の予測は可能か?

第3章 サケ類の生態系ベースの持続的資源管理と長期的な気候変動  1.はじめに
 2.長期的な気候変動とサケ類の環境収容力
 3.長期的な気候変動とサケ類の生活史戦略
 4.今後の課題

第4章 イワシ類の生態とレジーム・シフト  1.対照的に変動するマイワシ類とカタクチイワシ類
 2.変動する資源と安定な資源

第5章 レジーム・シフトと底魚資源  1.底魚類と大陸棚環境
 2.親潮と水温環境の長期的変動
 3.底魚類資源の変動
 4.大陸斜面分布種の資源変動
 5.資源豊度の高い発生年級と適水温環境
 6.1987年/88年のレジーム・シフトと底魚類の応答
 7.動物プランクトン量の増加シフトと底魚類の生き残り
 8.アリューシャン低気圧の長期的変化と親潮
 9.レジーム・シフトと魚類の適応生存戦略
 10.レジーム・シフトと底魚類の漁獲管理

第6章 レジーム・シフトによって大変動する魚種交替資源の管理理論  1.魚種交替資源と従来の資源管理
 2.予測不可能な大変動に対応するための3つの方策
 3.魚種交替資源の管理の実例
 4.変動を前提とした新しい管理モデル

第7章 レジーム・シフトと漁業政策  1.はじめに
 2.漁獲管理と過去のMSY理論
 3.戦後の漁獲政策
 4.漁業管理の経緯
 5.レジーム・シフト理論への初歩的疑問
 6.レジーム・シフトが起こったとき漁業経営は?
 7.これからの漁業管理
 8.レジーム・シフトと縮小再編
 9.おわりに

第8章 「資源管理・漁業管理」をめぐる座談会(2006年9月12日)
カテゴリー:気象・海洋 タグ:気象 
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