統計からみた気象の世界 気象ブックス041


978-4-425-55401-0
著者名:藤部文昭 著
ISBN:978-4-425-55401-0
発行年月日:2014/10/9
サイズ/頁数:A5判 160頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,200円(税込)
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猛暑や豪雨が多くなったのは地球温暖化のせい?
世の中そんなに単純ではありません。
刻々と移り変わる気象をどうやって切り取り、観測データから何が見えてくるか。
数字で読み解く気象の世界。


【はじめに】より

「夕焼けは晴れ」「太陽が暈をかぶると雨」 「西風日いっぱい」。これらは気象に関ることわざである。それらの中には、今の気象学の知識にちゃんと合っているものが少なくない。たとえば「西風日いっぱい」とは、冬の季節風が昼間は強く吹いていても、日が落ちると弱まることを指す。これは、日が暮れて気温が下がるにつれ、大気が安定になって風が弱まる傾向があることを表している。このようなことわざは、天気予報がなかった時代に、長年の経験の中で得られた知識を表している。日ごろの経験の中には、偶然や思い過ごしの類いもあるだろう。しかし、科学的根拠のないものは長い年月のうちに現実と合わなくなって廃れ、ちゃんとした根拠のあるものが経験に裏打ちされることによって生き残ってきたのであろう。
統計と聞くと堅苦しい感じがするが、経験に相当することをデータに基づいて数量的に扱うこともその役割の1つである。言い換えると、統計はただ平均値を計算したり、それを表や図に表したりすることだけでなく、多くのデータの中から法則性を見つけたり、現象の背後にある因子を探り出したりすることにも活用できる。計算手段がそろばんと計算尺ぐらいだった時代には、1つの地点の数年感のデータを調べるのも大変だった。しかし、計算機器が進歩するにつれて大量のデータを短時間で処理できるようになり、統計的な調査研究の可能性が大きく広がった。今はデータが手に入れば、全国に数百ある観測所(アメダス)の30年間以上の観測結果をパソコンで処理することができる。
統計学についてはたくさんの解説書が出ている。それらに書かれていることは、データを使った統計を行うときの基本になるものである。ただ、統計的な手法は使い方を誤るとまちがった結論に至ることもあり、それぞれの特性をよく弁えておく必要がある。また、気象の統計に特有の問題もある。それらは数学というより実務に関ることも多く、些末で科学の本質とは関係なさそうなものもあるが、統計の世界では一見ばかばかしいことが致命傷になって、結果を台無しにしてしまうこともあるのだ。本書では、気象に関るデータや統計結果を紹介しながら、その見方や問題点、注意すべき点などを議論する。統計学の本でも気象学の解説書でもないので、中途半端になってしまったかも知れない。しかし、教科書には書かれていないような、気象統計の舞台裏を紹介する機会になったと思う。
普通、統計といえばテストの点数や世論調査のように同時期の多数のデータを扱う。しかし、気象の分野では現象の時間的な変化・変動が大事であり、長い基幹にわたるデータ(時系列データ)を使って変化傾向やその特徴を調べることもよく行われる。こうした時系列的な解析を含め、気象統計についてのきちんとした解説書としては、「気象学と海洋物理学で用いられるデータ解析法」(伊藤久徳・見延庄郎著)がある。また、「気象解析学」(廣田勇著)は、気象データを使って研究をするときの物の見方を深い洞察に基づいて述べた名著である。併せて紹介しておきたい。

2014年9月
藤部 文昭

【目次】

第1章 大雨は夜に多いかー統計で見えてくるものー  1.1 大雨と時刻の関係
 1.2 休日は気温が低い
 1.3 気象観測とデータ・レスキュー

第2章 地球温暖化を捉えるー気候変動の検出ー
 2.1 今年の暑さは地球温暖化のせい?
 2.2 「コンマ以下」の大切さ
 2.3 ヒートアイランドと地球温暖化の関係
 2.4 増加率をめぐって
 2.5 異常気象は増えているか

第3章 「ゲリラ豪雨」はヒートアイランドのせいかー統計と因果論ー  3.1 工業化で降水が増えた?
 3.2 夏の暑さと熱中症の関係
 3.3 極端現象と地球温暖化の関係

第4章 気象台の気温と街の中の気温ー観測データの代表性ー  4.1 観測データの空間代表性
 4.2 観測所の移転とデータの補正
 4.3 分刻みで変動する気温
 4.4 最低気温が平均気温よりも高い日ー観測時刻の問題ー

第5章 データの信頼性を生み出すものー品質情報の大切さー  5.1 取り消された世界記録
 5.2 雨量計と捕捉率
 5.3 雪と気象観測
 5.4 昔と今の台風は違う?
 5.5 竜巻は多くなったか

第6章 平均値、変動、極値ー統計の基本事項ー
 6.1 平年値と特異日
 6.2 変動の尺度ー標準偏差と順位ー
 6.3 統計的検定と正規分布
 6.4 極値統計ー再現基幹と異常値



この書籍の解説

「夕焼けの次の日は晴れる」「太陽が暈をかぶると雨になる」など、天気に関する言い伝えを聞いたことがある人は多いと思います。これらの言い伝えの中には、今の気象学の常識でも同じことがいえるものが少なくありません。このような言い伝えは、天気予報技術が発達していなかった時代にも、人々の長年の経験の中で得られてきた知識です。今の世まで伝わっているものは、のちに科学的根拠を得て妥当性が証明されたものなのです。
気象に関する統計は、こうした経験則をデータに基づいて数量的に分析し、検証することも含まれています。「ゲリラ豪雨が起こるのは、ヒートアイランドのせいだ」「今年の暑さは地球温暖化の影響だ」こういった話はもっともらしく聞こえますが、本当にそうなのでしょうか?ある現象とある現象との間に、簡易に因果関係を作り上げてしまっていないでしょうか?こういったことを丹念に検証することで、データから導き出される結果に信頼性が生まれるのです。
今回ご紹介する『統計からみた気象の世界』では、気象に関わるデータや統計結果を紹介しながら、気象データの見方や注意すべき点などを解説します。気象の分野では、現象の時間的な変化や変動が重要です。また、長期間にわたるデータを用いて変化の傾向や特徴を調べることも頻繁に行われます。
今経験している私たちの周りの天気は、長期的に見たらどの程度なのか?この現象の原因といえるものは何なのか?観測結果に影響しているものは何か?日々の観測結果を積み上げた数字の読み方をマスターすれば、気象がより身近になるでしょう。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『統計からみた気象の世界 気象ブックス041』はこんな方におすすめ!

  • 気象予報士を目指している方
  • 気象予報士を目指している方
  • 気象統計学に興味のある方

『統計からみた気象の世界 気象ブックス041』から抜粋して3つご紹介

『統計からみた気象の世界』から抜粋していくつかご紹介します。降雨の時間帯、地球温暖化、ゲリラ豪雨といった身近なトピックについての統計データを紹介し、分析にあたって起こりがちな勘違いや読み間違いなどを通して、気象統計学のエッセンスを学んでいきます。最後に、統計の基本事項の解説も行っています。

大雨は夜に多いか

枝葉末節にとらわれて全体がつかめなくなった時、データに適切な統計処理を施すことによって、ひとつひとつのデータからは読み取れない情報が見えてくることがあります。ここでは、統計データの見方と問題点について解説します。

集中豪雨は夜に多いといわれます。深夜の大雨で大きな被害が出た事例は少なくありません。しかし、このことから大雨は本当に夜に多いということができるでしょうか?夜の大雨が災害を起こしやすいとしても、雨そのものは時刻に関係なく降るのかもしれません。

この疑問に答えるための方法の1つは、長期間のデータを使った統計です。アメダスの長期的データを見てみると、強いにわか雨や雷雨が夕方に多く、大雨が夜間に多いことがわかります。しかし、この計測期間にたまたま夜間の大雨が多かったという可能性はないでしょうか。統計によって何かの特徴が見つかったときには、それが偶然のせいであるかどうかを見極めることが大事です。その特徴が偶然によって現れる確率を計算するのです。確率が十分に小さければ、その特徴が偶然に現れたとは考えにくくなります。このことを、その特徴が統計的に有意であるといいます。

要注意なのは、この計算の中にいろいろな仮定が入ることです。仮定の置き方が違えば、結果も変わってきます。気象の統計にあたっては絶対に正しい仮定というものはなく、どれが最良かを決めるのも困難です。問題は、仮定が明らかにおかしい場合です。また、偶然に過ぎないことを有意と判定してしまうこともあり得ます。

特に大事なのは、データの独立性と均質性です。独立性とは、データが互いに無関係であることです。雨のデータを例にとると、地点ごとではなく年ごとにデータを見ることで、大雨は夜に有意に多いという分析結果を導くことができます。

また均質性とは、データが知りたい対象をまんべんなくカバーしていることです。アメダスの観測所は平地や盆地に多いため、結果が偏っている可能性があります。しかし山地には観測所が少ないため、データを得ることはできません。データに偏りがあることを認識して結果を見るのが現実的です。

なお、大雨が夜に多い理由ははっきりとは分かっていません。一般に、熱帯の海域や夏の海洋上の雲は夜から明け方にかけて発達しやすく、台風の雲も明け方に強まる傾向があります。一方、降水が多い時間帯は地域や季節によって違います。九州の西岸や本州の日本海沿岸など西側に海を控えた地域では朝に大雨が多く、夏の南西諸島周辺では日中に雨が多くなっています。

統計データを注意深く読み解いていくには、仮定を置いてデータを検証することが必要です。アメダスの場合、データの取られた「面(地域)」に注目してしまうと、同じ雨雲の下にある地域の観測結果は連動してしまいますが、「年」で分けて「ある年の結果は前や次の年に影響しない」と仮定を置いたことで、有意な結果が得られました。

ゲリラ豪雨はヒートアイランドのせいか

「風邪をひいて熱が出た」という文章は、科学的には問題があります。熱が出た原因は風邪に間違いないでしょうか?この場合科学的には「熱が出た。風邪をひいたらしい」と言うべきです。事実と解釈を分けることが、科学の基本です。

しかし事実を認識できても、その解釈につまずくことがあります、気象の変化には多くの因子が関わるので、統計結果を見るときには1つの見方だけに捉われないように気をつけねばならないのです。
シカゴの東にあるラポート市で、降水量が1920年代の後半から増え始めました。ラポートの降水量が増えた時期は、工業活動が盛んになった時代と重なります。降水量の増加は工業化と関係があるのでしょうか?論争が巻き起こりました。

論点は2つです。1つは、ラポートの降水量が本当に増えたのかどうかという事実に関するものです。降水量の増加は、何か観測上の問題による見かけのものではないのでしょうか?2つめは、降水量の増加がシカゴの工業活動のせいかどうかという因果に関する問題です。ミシガン湖に近いラボートは、湖による影響を受けます。降水量の変化は湖に関係しているのではないでしょうか?

論争に決着はつきませんでしたが、このことは、結果に関わる因果論について、研究者の間でも意見が一致しない場合があることを示しています。統計結果の因果論に当たっては、事実の確認と解釈の両方が大事です。中でも、地球温暖化や都市化の影響に対しては世の関心が高く、その分早まった議論を見かけることがあります。

仮にラポートの降水の増加がシカゴ工業地帯の影響だったとしたら、そのメカニズムは何でしょうか。当時の文献には、工場からの微粒子や水蒸気・熱の放出を挙げた上で「どれがどう効くかの決めるのは難しい」と書かれています。

最近では、工業地帯というより、世界全体の気候に与える微粒子の影響が盛んに研究されています。一方、都市と降水の関係という観点からは、熱の影響すなわちヒートアイランドが局地的な降水を起こしやすくする可能性が注目されるようになってきました。

ヒートアイランドが降水を増幅させるといわれるのはなぜでしょう? 都市の水蒸気量は自然状態に比べてむしろ小さい傾向がありますが、それにもかかわらず都市で雨が降りやすいとすれば、水蒸気を集中させ、上空に持ち上げて雲の発達を促す効果が何か働いているはずです。

統計データから、市街地で積雲が発生しやすい傾向があることは確かめられます。東京の調査結果を見ると、夏の午後に強い雨の多いことも示されています。従って、都市が短時間の、あるいは局地的な降水を増す効果を持つ可能性があります。しかしこれらの研究結果を見ると、都市の影響はわりに限られており、「ヒートアイランドによってゲリラ豪雨が激増」と決めつけてしまうのは早いように思われます。

都市気候は、ともすれば誇大に捉えられる面があります。都市の影響を検出し実証してみせることに研究の目的が置かれる傾向があるからです。何か変化が検出されたという研究成果ばかりが発信されて、できなかったという研究結果は捨てられ、都市気候について実際以上に肥大したイメージを社会に与えてしまう傾向があるのです。都市気候研究が発展した今、検出の成否に捉われすぎず、都市気候のありのままの姿にも目を向けていくべきでしょう。

都市の気候については、短時間で起こる局地的な変化がセンセーショナルに取り上げられがちです。「〇〇は△△の影響である」という結論を出すためには、長期的な観測と多面的な分析が必要です。都市気候とゲリラ豪雨の関係については、当社の『積乱雲』に詳しく載っていますので、ご参照ください。

気象台の気温と街の中の気温

ニュースや天気予報で「A市で最高気温32℃を記録した」などと聞くことがあります。これらはそれぞれの市にある気象官署やアメダス観測所で測った値です。では、A市内のどこでもすべて、気温が32℃まで上がったのでしょうか?

観測値がどれぐらいの範囲の値を表すか、その度合いのことを「代表性」といい、気象データに関わる重要な要素の1つです。ここでは観測値の代表性について考えてみましょう。
気象観測の目的は、天気予報や防災情報のためのデータを得ることと、長い期間のデータを蓄積してその土地の気候の特徴を知ることです。どちらにしても、その地域の気象状態を代表するデータを取ることが必要です。そのため、気象観測は土地の起伏などの影響をできるだけ避け、風通しや日当たりの良い場所で行うこととなっています。

観測所のデータはその周辺の気象状態をそれなりに代表します。しかし、気象状態がどこも全く同じだというわけではありません。市内の別の場所にある気象台との間に差があってもおかしくないのです。観測場所に局地的に冷気が取り残されることや、局地的に強い雨が降ることもあります。豪雪地帯では、山地での大雪がその市全体の積雪量であると誤解されてしまうこともあります。
しかし、気象状態が広い範囲で一様に近いことも当然あります。いずれにせよ、観測データを扱うときにはその目的に応じて観測値の空間代表性に気をつける必要があるのです。

気温や風に比べると、気圧は空間代表性が高くなっています。気圧は空気の荷重であって、上空の大気の状態を反映し、局地的な変動は小さいからです。天気予報で気圧が重視され、天気図に気圧の分布が描かれるのは、これが広域の状態を捉えるのに適しているからなのです。

気候変動を捉えるという観点からすれば、冷気層や局地的な夕立のように、どの時代にも変わりなく起きる現象はあまり問題になりません。注意を要するのは、環境の変化が作り出す局地的なバイアスです。例えば、ヒートアイランドの進展による都市気候への影響や、都市緑地の周囲との気温差などです。観測所が緑地にあるか市街地の中にあるかで気温の観測値に影響が出る可能性があります。また筆者たちの調査によって、気温の観測値は周囲の建造物の存在に大きく影響することが分かっています。

しかし、気象官署やアメダスの温度計はそうした周囲の影響の強い場所に設置されているわけではないので、こうした調査結果は気象観測にとっていかに環境条件が重要であるかを示すものであり、観測値の空間代表性を確保する上では、相応の広さを持つ露場がなくてはならないことを表しているといえます。

「〇〇市で最高気温が~」というニュースを見ると、「この辺りもそのくらい暑い気がするけどなあ」と思ってしまうのは、気温が計られている場所の環境によるものです。加えて、人間が実際に感じる体感気温は、さらに周囲の環境の影響を強く受けます。地方の開けた風通しのいい直射日光の下と、都市の無風地帯でアスファルトの照り返しを受ける状態とでは、暑苦しさが格段に異なるのです。

『統計からみた気象の世界 気象ブックス041』内容紹介まとめ

気象に関わる統計は、現象の時間的な変化や変動を捉えることが重要です。また、時系列データも頻繁に扱います。計測された場所によって、観測結果に差異が出ることもあります。こうした特徴をもつ気象データの分析における注意点や誤解の起こりやすい点を解説し、気象統計学の考え方を学びます。

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