それゆけ、水産高校!−驚きの学校生活と被災の記録−


978-4-425-88611-1
著者名:平居高志 著
ISBN:978-4-425-88611-1
発行年月日:2012/12/10
サイズ/頁数:A5判 200頁
在庫状況:在庫有り
価格¥1,980円(税込)
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水産にかかわった事のない普通の国語教師が、新たに着任した水産高校での生活を写真と文章で綴ったも内容。もともとは、自身が着任当時(平成22年)からスタートした、ブログ「水産高校だより」がベースになっている。独特な授業内容や施設、純朴な生徒や熱意ある教員との接触など、水産高校のもつ魅力が描かれている。題材は、著者の好奇心のままに選ばれているものの、観察と記述には自身の興味と学校や生徒への愛着が素直に描かれている。本書を読めば、あまり知られていない水産高校の魅力を知ることができる。付録として「東日本大震災 被災の記録」を掲載している。

【はじめに】 私は平成元年に宮城県の高校で「国語」の教諭となりました。その後、普通科の高校で、22年間にわたって勤務しましたが、そのうちの多くを、「進学校」と言われる比較的成績のいい生徒が集まる高校で過ごしました。
最初は、生徒たちの受験勉強につきあうのも自分の仕事と思っていましたが、やがて疑問を感じるようになってきます。多くの生徒の関心は、偏差値の高い、ブランドと言ってよいような有名大学に入ることにばかりあるようでした。生徒はそれで仕方がないとしても、自分たちの学校について教員が、県や地域を代表し、そこをリードする人材を輩出すると言う一方で、大学入試の内容と結果を、教える際の物差しにしている状況は、私には非常に違和感の強いものでした。
自分の高校時代はさておき、大人になってからの私にとって、「学ぶ」というのは、今まで知らなかったことを知り、できなかったことができるようになるという純粋な喜びを得るためのものであり、正しいと思われていることに疑いを差し挟み、真実を見出すことによって、社会的正義を実現するための手段となるべきものでした。上手な世渡りの方法を身に付けることが目的になってはいけません。「優秀な」生徒が集まる学校ほど、です。
ブランド志向の教育は、非常に打算的で気位の高い生徒を生み出しているのではないかという疑問と、それが本当の教育なのかという違和感と、そのような疑問や違和感を持ちながら、その状況を変えることができず、むしろ流されつつある自分に対する罪悪感とは、年々強くなっていきました。そして、平成21年秋に、私はとうとう「今とできるだけタイプの違う学校に異動させて欲しい」という願いを出したのです。
これは少し勇気のいることでした。なぜなら、「今とできるだけタイプの違う学校」とは、少なくとも成績があまりよくない生徒の集まる学校を意味しますが、そういう学校は、大抵問題行動が多発し、授業や学校行事を成り立たせることに大きなエネルギーが必要だからです。しかし、「優秀な」生徒に受験指導をするよりも、そうではない生徒に基本的な読み書きを身に付けさせる方が、より一層、教育の理念には忠実な気がします。思い通りにいくかどうかは別として、一度そのような原点を確かめる作業に取り組んでみることは、自分にとって意味のあることなのではないか、私はそのように思いました。
翌平成22年3月、私に知らされた異動先は「宮城県水産高等学校(略称:宮水)」でした。私は教員になりたての頃に、その近くにある高校に勤務していましたから、なんとなくイメージがわきます。しかし、それは「浜の荒くれ者を集めた学校」というものでした。さすがに気が重くなりました。
しかし、少し時間が経つと、あれこれと不安を感じる一方で、強い好奇心が心の中に芽生えて来ました。
私にとって高校というのは「普通科」でした。よく考えてみると、「国語」という教科が、制度的に全ての高校で必修となっている以上、どんな実業高校にでも私の居場所はあるはずなのですが、自分が「普通科」出身だったということもあり、たまたま「普通科」でしか勤務したことがなかったこともあって、私は、高校と言えば、どうしても「普通科」しか思い浮かびませんでした。偶然、水産高校に異動が決まることによって、私の視野の中に、生まれて初めて普通科以外の高校が入ってきたのです。
「水産高校」であるからには、「水産」を教えていることは分かりますが、具体的には一体どんなことをしているのだろう? 仮に生徒が「浜の荒くれ者」だったとしても、水産を教えている先生というのは、私の知らない世界をたくさん知っていて面白そうだ、という疑問と期待が心の中に高まってきます。
実際に勤務を始めてみると、少し拍子抜けがしました。「浜の荒くれ者」はどこにいるのでしょう?確かにだらしない面はあるのですが、純朴で人なつこい生徒が多く、「怖い」というほどの生徒は見当たりませんでした。一方、「水産」は想像以上に知的刺激に満ちた世界で、私はそれなりに喜んで学校に通うことになったのです。1年間で、私がいったい何時間の実習に参加し、水産の授業を受け、何回艇庫や栽培実習場に通ったのかは分かりません。しかし、できる限りの場面に立ち会ったつもりです。
私が40代半ばになるまで、「普通科」の高校しか視野に入っていなかったのと同様、多くの人にとって「水産高校」は未知の世界だと思います。同じ実業高校でも、「商業高校」や「工業高校」が、どのようなことをしているのかイメージしやすいのに比べ、「水産高校」で何が行われているかは、イメージしにくいのではないでしょうか? それは、決して幸せなことではありません。今から高校に進学する中学生にしてみれば、知っていて選ばない(選ぶ)のと、知らないから選ばないのとでは、決定的な違いがあるでしょうし、 社会人にしてみれば、我が国の食糧生産や水産海運業を考える上で、人材をどう育てるかは表裏一体の重要な要素です。水産高校を知ることは、水産業を知ることでもあるのです。
この本は、「普通科」の一教員が、突然「水産高校」という未知の世界に飛び込んで、新鮮な驚きの日々を過ごした記録です。この本によって、水産高校という場所が広く知られ、進路選択や日本の産業・社会を考えるきっかけとなれば幸いです。

【目次】 はじめに
水産高校だより
東日本大震災 被災の記録
そして、いま? あとがきにかえて


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