現場で役立つ鉄道ビジネス英語


978-4-425-96341-6
著者名:東日本旅客鉄道株式会社 国際事業本部 著
ISBN:978-4-425-96341-6
発行年月日:2022/11/8
サイズ/頁数:B5判 184頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,860円(税込)
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海外で鉄道ビジネスに携わるには、鉄道の技術や経営に関する高度な知識・ノウハウが求められると同時に、国際社会で通用するビジネス言語としての英語に関する知識・ノウハウも 必要となります。本書は、JR 東日本およびそのグループ会社がこれまでの海外ビジネスで蓄積した知識やノウハウを、多くの事例を用いながら丁寧に解説しています。

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【はじめに】

本書は、海外での鉄道ビジネスに用いられる英語(以下「鉄道ビジネス英語」)に関する知識やノウハウについて紹介することをねらいとしている。
日本では、整備新幹線や大都市部の既存のネットワークを補完する路線を除き、新たな鉄道の新線建設プロジェクトは非常に少なくなっている。一方で、世界の鉄道マーケットは、開発途上国の経済発展、地球環境保全の観点からの鉄道の役割の再評価等に伴い、今後も着実な成長が見込まれる。したがって、日本の鉄道関係業界が鉄道ビジネスを拡大していくためには、海外への進出が不可避となる。海外での鉄道ビジネスに携わる人には、鉄道の技術や経営に関する高度な知識やノウハウが求められるが、同時に、国際社会で通用するビジネス言語としての英語に関する知識やノウハウも必要となる。
本書は、当社(東日本旅客鉄道株式会社、通称「JR 東日本」)およびそのグループ会社が海外鉄道プロジェクトでの経験から得たものを中心に、鉄道ビジネス英語に関する知識やノウハウをまとめわかりやすく解説したものである。本書の特徴は以下のとおりである。

 1 海外鉄道ビジネスの現場の英語に特化。
 2 「書く英語」に重点。
 3 国際規格の重要性に焦点。
 4 「覚える」のではなく「考え方を知る」ことを重視。
 5 鉄道ビジネス英語に特化した勉強の方法を紹介。
 6 通訳、翻訳会社の活用など、ビジネス実践のノウハウを紹介。

当社にとっても、このように鉄道ビジネス英語に関する知識やノウハウを体系的に整理してみたのは初めてのことである。
当社グループは近年、多くの組織の庇護やご助力の下、タイ・バンコクの都市鉄道「パープルライン」への車両供給や現地法人による車両・地上設備のメンテナンス、インドネシア・ミャンマーの鉄道事業者への中古車両譲渡や技術支援、インド高速鉄道プロジェクトの支援など海外の鉄道プロジェクトに参画してきた。その過程で、英語のスキルも含め海外ビジネスのノウハウを身につけた人材が着実に育ってきている。しかし、今後の海外展開の拡大のためには、これまでにも増して海外ビジネスに対応できる人材の育成が急務となっている。
そのためには、これまでのように鉄道ビジネス英語に精通した社員が海外ビジネスの現場で必要が生じた時に場当たり的に他の社員に伝えるということでは不十分だ。社員がそれぞれに蓄積してきた知識やノウハウを整理し、共有し、継承することにより、一層システマティックに取り組んでいくことが求められている。その第一歩として今回、鉄道英語に関する当社の知識やノウハウについて文書化を試みた。
また、これを本書のような形で出版し、一般に公開することとした。本書は、当社の社員に限らず、これから海外での鉄道ビジネスに関わっていこうとする日本の鉄道関係者一般にとっても役に立つ内容を少なからず含んでいると思う。本書の刊行によって、海外鉄道ビジネスに参画する方々と鉄道ビジネス英語に関わる知識やノウハウが共有でき、すぐれた技術を誇る日本の鉄道の海外展開にわずかながらでも貢献することができれば幸いである。なお、本書の執筆にあたっては、長岡技術科学大学名誉教授の平尾裕司先生にご助力をいただいた。この場をお借りして深くお礼申し上げる次第である。

2022年10月
執筆者代表

【目次】

第1章 「鉄道ビジネス英語」について  1 「鉄道ビジネス英語」に特化した学習を
 2 書く英語を勉強する
  2-1 海外ビジネスは書く英語
  2-2 鉄道の専門家らしい英語を書く
 3 国際規格と鉄道ビジネス英語
  3-1 国際規格の鉄道用語を知る
  3-2 国際規格に適切な英語表現を盛り込む
 4 英語表現を選び、考え、工夫する
  4-1 英語表現を選ぶ
  4-2 英語表現を考え出す
  4-3 英語表現を工夫する
 5 技術英語の基本-正確な情報伝達に必要な3要素-3Cs(Correct/Clear/Concise)-
  5-1 Correct:正確に書く-技術英語で最も重要な要素
  5-2 Clear:明確に書く-具体的に書き、読み手を正しい理解へ導く
  5-3 Concise:簡潔に書く-短く書けば、わかりやすくなる

第2章 基本的な鉄道用語  1 「鉄道」は英語でなんというか?
   【コラム1:線路は続くよどこまでも】
 2 さまざまな構造の鉄道
 3 地下鉄などの都市鉄道
   【コラム2:地下鉄はどこ?】
 4 欧州規格での鉄道の分類
   【上級編コラム1:EN 17343 における鉄道の分類と定義】 
 5 新幹線と在来線
   【上級編コラム2:欧州では「高速鉄道以外の鉄道」を何と呼ぶか?】
   【コラム3:外国からのお客さまに「在来線」をご案内する】
 6 「線路」、「線(路線)」など
 7 「車両」、「列車」、「電車」など
 8 「運転士」と「車掌」
  8-1 ちょっと付け足してより明確に伝える
   【コラム4「車掌= conductor」が通じない?】
  8-2 「運転士」「車掌」にもいろいろな言い方がある
 9 「ダイヤ」の表現
 10 さまざまな「○○列車」
   【コラム5 回送列車】
 11 「電気」関係の用語
  11-1 「 電気部門」の表現-「電気(電力+信号通信)」は英語では一言で表現できない
   【コラム6 信号通信がないぞ―「電気部門」の意味】
  11-2 英語の“electric(al)” の2つの意味
  11-3 “electric(al)” 以外の「電力」を表す英語表現
  11-4 英語名称に見るインド高速鉄道への「電気システム分野」での支援
 12 「施設」・「設備」-「軌道」、「土木」、「建築」など

第3章 注意すべき鉄道用語  1 注意すべき技術用語
  1-1 けん引(意味に応じてhauling またはtraction)
  1-2 入換えと軌道短絡(どちらもshunting)
  1-3 現示(意味によりaspect またはindication)
  1-4  落下(occupancy, de-energization, fall)と扛上(vacancy, energization,raising)
  1-5 負荷と荷重(どちらもload)
   【コラム7:荷重も電力の負荷もload だった】
  1-6 線形と通り(どちらもalignment)
  1-7 分岐器関係の用語
  1-8 標準化関係の用語・表現
  1-9 ハザード(hazard):分野による意味の違い
   【上級編コラム3:「ハザード」の用法に注意!】
  1-10 略語いろいろ
 2 国による鉄道用語の違い
  2-1 英米の鉄道用語の違い
  2-2 インド独特の表現
   【コラム8:postpone の逆はprepone ? -インド英語を攻略せよ-】
  2-3 日本独特の用語
   【上級編コラム4:「効かない!?」ブレーキの英語訳- Part 1】
   【上級編コラム5:「効かない!?」ブレーキの英語訳- Part 2】

第4章 英語表現を調べる・考え出す  1 英語表現の調べ方
  1-1 鉄道総研の「鉄道技術用語辞典」
  1-2 JISの鉄道関係規格
  1-3 国際規格
  1-4 参考になる和文付き英文資料
  1-5 外国の用語集など
 2 辞典にない用語を工夫して表現する
  2-1 組織や業務に関する部内用語
  2-2 運転に関する用語
  2-3 新幹線施設の保守に関する用語
 3 英語検索ツールの活用
  3-1 検索で鉄道用語を確認
  3-2 どのGoogle の検索サイトを使えばよいか?
  3-3 検索で文章表現を確認

第5章 鉄道ビジネス英語の文章表現  1 正しく伝わる文章を書く
  1-1 「旧車」はold car ?
  1-2 「単車で運行する車両」はどう書く?
  1-3 「非常運転」を行うのはどんな場合?
  1-4 「き電を停止する区間が支障しない」とは?
 2 便利な文章表現
  2-1 「~とは~をいう」
  2-2 「~を~という」
  2-3 「ただし、~はこの限りではない」
  2-4 「~が~するような方法」
  2-5 「~する装置を設けるものとする」
  2-6 「~が~できるようにする」
  2-7 「~に該当する」
  2-8 「~することを目的とする」
  2-9 「~を満たす(=~に従っている)」
  2-10 「~により」・「~による」
  2-11 「(機器、装備などを)備える」
  2-12 「~に影響を及ぼす」
  2-13 さまざまな「など」の表現
 3 誤訳をチェックする
  3-1 日本中にあふれる誤訳
  3-2 用語の混同に注意(交換、配線、軌道、改札)
  3-3 文章の誤訳をチェックする
 4 英語表現を統一する

第6章 鉄道の海外業務の実践的ノウハウ  1 交渉シーンでの英語表現
  1-1 「難しい」
  1-2 「すみません」
   【コラム9:「すみません」は本当に謝るときだけ】
  1-3 「わかりました」
   【コラム10:わかりました、でも、合意していません】
  1-4 「どれくらいありますか」
   【コラム11:カントとは何ですか?】
  1-5 その他の間違いやすい用語
  1-6 技術文書のshall とshould
 2 メールでの文章表現
  2-1 「お世話になっています」
  2-2 「教える」
  2-3 「お送りします」
   【コラム12:“Please find attached the ~” はなぜこの語順なのか?】
  2-4 「お願いします」
   【コラム13:“I would appreciate it if you would ~” の“it” はなぜ必要か?】
  2-5 「ありがとう」
 3 通訳者とよい関係を築く
  3-1 通訳者は神様ではない ―短く切って話す―
  3-2 通訳者と専門分野の用語や背景事情を共有
  3-3 通訳者との関わり方
 4 翻訳会社とよい関係を築く
 5 ネイティブ・チェッカーとよい関係を築く
 6 機械翻訳の活用法

終章 日本の鉄道をもっと世界へ!  1 鉄道ビジネス英語の勉強法について
  1-1 鉄道英語の学習
   【コラム14:海外の論文で学ぶ】
  1-2 ビジネス英語の学習
  1-3 英語は気合と場数 -英語学習の心構え
 2 日本の鉄道をもっと世界へ!



この書籍の解説

翻訳アプリのなかった頃、外国人観光客に「ここへはどうやって行くのですか?」と英語で尋ねられたことがあります。駅の中だったので駅員さんに繋いでしまいましたが、「各駅停車に乗れば次の駅ですよ。でもその駅を通る路線のホームはこの駅の最も深いところにあり、一駅分近く歩かないといけません」と、英語でどう説明したらいいんだろう?としばらく悩みました(それぞれの駅名、わかりますでしょうか?)。
現役の駅職員であればこのような問い合わせは日常茶飯事のはずです。また外国を相手に鉄道の仕事をする方なら、さらに多くの情報を正確に伝え、質問に答える必要があります。現在ではリアルタイム翻訳の技術は進歩していますが、言葉の知識があるのとないのとでは説得力に格段の違いがあるのではないでしょうか。
今回ご紹介する『現場で役立つ 鉄道ビジネス英語』は、基本的には鉄道会社で働く人々向けの本です。鉄道技術をどう解説し、納得してもらい、ビジネスを成功させるか。現場の交渉役の責任は重いものです。本書は基本用語、注意すべき用語、英語表現の調べ方、文章の組み立て方について説明したあと、実践編として英語業務の実際と海外セールスの心構えを解説します。日本で外国人客の案内を行う鉄道会社のスタッフにも、役立つ場面があることと思います。
もちろん、私(担当M)のような鉄道ファンにも、この本はたくさんのことを教えてくれます。「相対式ホーム」は“opposite platform”だと通じないとか、インド英語では「保線員」を“gangman”と呼ぶとかいうことは、この本を読むまで知りませんでした。
普段取り扱う鉄道のあの設備、あの業務、あのシステムを、英語でどう表現すれば正確に、簡潔に伝えられるのでしょう?奥の深い鉄道ビジネス英語を、実際に海外の現場で交渉してきたJR東日本の人々の経験から学べます。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『現場で役立つ 鉄道ビジネス英語』はこんな方におすすめ!

  • 鉄道会社に勤務する方
  • 鉄道会社で海外業務を行うことを目指す方
  • 鉄道ファン

『現場で役立つ 鉄道ビジネス英語』から抜粋して3つご紹介

『現場で役立つ 鉄道ビジネス英語』からいくつか抜粋してご紹介します。海外鉄道プロジェクトの現場では、どのような英語表現が求められるのでしょうか。日本の高い技術や相手先国との違いを正確に知ってもらうには、どんな表現が必要?通訳と良好な関係を築くには?JR東日本と関連会社が生の現場から持ち帰った知識とノウハウが、海外鉄道プロジェクトを勝ち抜く人材を育てます。

「車両」、「列車」、「電車」など

①車両:(a)rolling stock(集合名詞扱い)
(b)car、vehicle(個別の車両)

「車両」は日本語では「車両」でしかありませんが、英語には“rolling stock”という表現があります。この表現は、英語話者でも鉄道関係者でなければ馴染みのないものです。機関車、客車、貨車、電車などの「車両」は何でも“rolling stock”で表せます。車両基地は“rolling stock depot”です。
この“rolling stock” は、「車両群全体」を指し、集合名詞として使われます。集合名詞には“family”“people”などがありますが、複数でも“s”をつけなくても複数の意味になります。
最近では防災関係でも「ローリングストック」という言葉がよく見受けられますが、これは非常食の管理方法に関する和製英語です。

車両の単体を指す場合は“car”“vehicle”を使いますが、これをどう使い分けるかは、実は法則性がありません。実際の国際業務では、表現の統一が必要です。

②編成:trainset
「編成」は「電車、気動車で1両または複数の車両を組成し、まとまって運用される単位」のことです。英語では“trainset”で1単語です。

③列車:train
「列車」は1または複数の編成が蘇生されて本線上を走行するものです。

④電車:(a)EMU (electric multiple unit)
    (b)electric car (electric railcar と書かなくてよい)
    ※(a)がより広く使われる。気動車はDMU(diesel multiple unit)

「電車」は電気を動力として走行する車両で、多くは編成として運用されます。一般的な英語表現の“electric car”は電気自動車も指すので、鉄道関係以外の場面では“electric railcar” と呼び分けてもよいでしょう。
しかし、「電車」を指す用語としてより広く使われるのは、“electric multiple unit”です。省略形の“EMU”が広く通用します。“multiple unit”は、複数の車両が蘇生されて走行するものが想定されていると思われます。

「電車に乗る」と言われると、鉄道ファンの多くは(ほんとに?)と思います。その列車が本当に電車なのか実は気動車なのか、少なくともその人のいる場所などがわからないと特定できないからです(非電化区間で旅行者がうっかり「電車」と口にすると、「汽車だよ!」と怒られることもあります)。本書でも同様の場面が想定されていて、そういう場合は“train”を使うんだよ、という解答が示されています。

インド独特の表現

《インド独特のビジネス英語表現》 JR東日本は高速鉄道プロジェクトでインドとの関わりが増え、インド独特の英語に触れる機会が増えているそうです。現場で社員が実際に見聞きしたインド英語をご紹介します。

①prepone:日程を早める postpone(日程を遅らせる)の逆
“post”の逆だから“pre”としたようです。辞書で調べたら、「インド英語」と記載されていました。
② revert:返答する( = reply)
メールのやりとりでは、「返答する」の意味で “revert” という動詞が使われます。一般的な英語表現では “reply” とするところです。 “I will revert to you later.” (追って返答します)などと言うように使います。
③ the same:it (それ)の代わりに使う
「それを送ってください」をインド人は “Please send the same to me.” とよく書きます。この “the same” は “it” の意味です。
④ do the needful:必要な対応をする
「必要な対応をする」 を “do the needful” というのも独特の表現です。依頼をした結果、“I will do the needful.” と相手が言ってくれると安心です。
⑤ ~ji: ~さん
メールでは宛先のこちらの名前の後に “ji” がついていることがあります。 日本語の「さん」に当たる言葉で、親しみのこもった表現です。

⑥ achcha(または theek hai):了解・わかった
英語ではなく現地の言葉だそうですが、 “achcha” (アチャー)という感嘆詞があります。「了解・わかった」 という意味で、相槌に使います。このほか、“theek hai”(ティケ)も同じように使われます。
《インド独特の鉄道英語の表現》 インドでは、鉄道に関する英語にも独特の表現があります。こうした鉄道用語は、インドの鉄道ファン団体 Indian Railways Fan Clubのサイトでも確認することができます(https://www.irfca.org)。
① loco pilot:機関車の運転士
インドは貨物輸送が盛んで、旅客列車の多くも機関車が客車を牽引するものです。機関車の運転士を”loco pilot” といいます。
② footplate training (イギリス式英語):乗務実習
運転士に関わる用語に、“footplate training” があります。運転士の「乗務実習」のことです。蒸気機関車の機関士が上に立って機器を操作する 「踏板 (footplate)」が、この言葉の由来となっています。蒸気機関車がなくなった今でも、この言葉は現役で使われています。厳密にいえばイギリス英語なので、イギリスがコモンウェルス諸国で使われます。
③ rake:(列車)編成
“rake”という表現は、列車の編成を指します。機関車にけん引される組成された一連の貨車または客車、電車の編成全体を指すのに使われます。

④ gangman:保線員
“gangman” は、線路の検査・整備を行う保線員のことです。悪者のギャングではなく、「一団(gan)」を成して行動することが名前の由来のようです。

⑤ ghat section:山岳区間
“ghat section”は、急こう配を有する山岳区間を指します。“ghat”は現地の言語で「山」のことです。

インドは多言語国家で、州レベルの公用語でも21もの言語が話されています。連邦公用語はヒンディー語ですが、英語も広く使われています。元々のイギリス英語そのままの言葉もあれば、現地語と混ざって独特な使い方をされる言葉もあります。ところで、インドの鉄道というと、扉がなくて屋根にまで人の溢れた過積載どころではない列車を想像してしまいますが、都市部の地下鉄は近代化されていて快適だそうです。

辞書にない用語:部内用語をどう表現する?

一般的な鉄道の英語表現ではないので、辞典や既存の用語集では見つけられない鉄道用語があります。鉄道会社の社内で使われる部内用語などです。しかし、海外鉄道プロジェクトにおいて自社の鉄道業務を説明する際には、先方に伝わるように表現しなくてはなりません。

組織や業務に関するJR東日本の部内用語を例に説明します。コツは、一度英語から日本語に戻してみること、字面にとらわれず、本来の正しい意味を表す言葉を選ぶことです。鉄道用語表現を、「作る」のです。

①運輸区:train crew depot(乗組員の基地)
「運輸区」は、『鉄道技術用語辞典』には掲載されていません。試しにGoogle翻訳にかけてみると、“transportation zone”になりましたが、この言葉で完全一致検索をかけると、スクールバスに関する文章などがヒットしました。日本語に戻すと「運送区域」となります。これでは正確に意味が伝わりません。
こういうときは、「運輸」や「区」という言葉を一旦離れ、「運輸区とは何か」を考えます。「運輸区」は、「乗組員の基地」です。「基地」を「事務所」と考えれば“office”でもいいかもしれませんが、元々鉄道英語では基地のことを“depot”というので、それを採用し、“train crew depot”とします。ちなみに「車両基地」は、“rolling stock depot”です。
念のため“train crew depot”で完全一致検索や画像検索をすると、まさに「乗組員の基地」の意味で使われている例がヒットしました。このように、文字上の見た目が全然違うものになっても、正しい意味を表していればそれでいいのです。

②当直:train crew management office(乗組員の管理を行う部署)
「当直」を一般的な辞書で引くと“duty”などが出てきます。しかし、この“duty”は病院の当直医などに用いられていて、運輸区の「当直」にはそぐわないのです。運輸区の「当直」は、「乗務員の(業務の)管理を行うところ」だからです。そのため、“train crew management office”としました。

③系統:division(部門)
JR東日本では、運転、車両、(線路の)施設、電力、信号通信などの業務の部門のことを「系統」と呼びます。辞典で調べると、”system”が出ますが、これは電力や神経などの「系統」です。しかし“route”だと、バスの路線の「系統」です。どれもぴったりきません。「系統」の用語を離れて考えると、「部門」なら正確に表すことができそうです。そのため、“division”を採用しました。

企業の内部で使われている用語は、外から見てみると独特な使われ方をしている場合がよくあります。私(担当M)も鉄道趣味を少し齧ったばかりの頃、「運輸区」の意味がよくわかりませんでした。普通に考えたら運転エリアのような意味じゃないの?と首を傾げたものです。このような独特な使われ方の用語を英語に翻訳して伝えるには、まず日本語の中で「翻訳」することが必要なのですね。

『現場で役立つ 鉄道ビジネス英語』内容紹介まとめ

海外鉄道プロジェクトを円滑に進めるためには、こちらの意図や仕様を正確に伝える語学や交渉のスキルが必要です。JR東日本とそのグループ会社が現場で蓄積したノウハウと英語表現のコツを、基本用語、注意すべき用語、表現方法の面から解説。単なる用語・文例集ではなく、「英語の考え方」に則って「正確に伝える」ことに重点を置いています。海外プロジェクトに関わる鉄道人必携!

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カテゴリー:鉄道 
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