私たちの足元を流れる水が「見えて」くる! 【Section2:井戸による地下水の利用】

  • 2021.03.06 

前回から、『地下水・湧水の疑問』についてお話してきました。基本編であるセクション1では、地下水がどんなもので、どのように流れ、どこへ辿りつくのか、地球の水循環においての地下水の位置づけ等も絡めながら解説してきました。今回は、地下水の利用をイメージするときに最初に思いつく「井戸」についての疑問に答えていきます。

【井戸にはどんな種類がある?】

「井戸」と呼ばれるのは、地下水が対象のものだけではありません。井戸とは地下を流れる液体を採取するために地面を掘削して作られる構造物で、水井戸、油井、ガス井、蒸気井、温泉井等があります。

特殊な用途のものとしては、地盤沈下防止や地下水保全を目的とした地下水の人工涵養のための井戸もあります。こちらは地下水を採取するのではなく、注水を行います。また、採取ではなく観測を目的とした井戸もあります。

浅い井戸と深い井戸の明確な区別はありませんが、一般的には30m程度が目安となり、それより浅いものを淺井戸、深いものを深井戸と呼んでいます。

掘り方・構造で分類すると、人間が穴に入って掘る「掘り井戸」、管を地中に深く入れて被圧された帯水層から取水する「掘り抜き井戸」、浅井戸ポンプの吸水館をそのまま地中に打ち込んで井戸とした「打ち込み井戸」等がありますが、現在一般的なのは機械を用いた機械掘りです。

井戸にはまっすぐに掘られた縦穴だけでなく、すり鉢状のものや、トンネル式になっているものもあります。

【井戸はどうやって掘る?】

井戸の掘り方は、歴史的に変遷してきました。順を追って簡単に説明します。

・掘り井戸:人間が穴に入って掘り進む。井戸の周囲が崩れないよう保護する井筒部分の素材は、丸太や木枠から瓦等に変化してきた。

・掘り抜き井戸:竹や鋼管などを地中に深く差し入れ、被圧帯水層から取水する。竹に代わって鉄製の錐が用いられるようになり、安価かつ容易に井戸が作られるようになった。千葉県上総地方に伝わった技術は「上総掘り」と呼ばれ、現代の掘削技術のもとにもなっている。

・機械掘り:日本においては、1913年にロータリー式の掘削機を用いて初めて行われた。過程で重要になるのは、⑴地層を掘削する、⑵地層の掘り屑を孔外へ排出する、の2つ。地層を掘る道具として、パイプやワイヤの先端に刃のついたビットという器具を用いる。

機械掘りの方法は、大まかに次の3つがある。

・パーカッション式:ワイヤーロープの先端にビットをつけ、上下させる
・ロータリー式:ドリルパイプの先端にビットを取り付けて掘る
・エアハンマー式:先端にエアハンマーとビットを取り付け、ビットが往復打撃 運動を繰り返すことで掘削する

掘削を行った後は、井戸管を挿入して仕上げる。井戸管は穴のない筒の部分(無孔管、ケーシング)と、地下水を井戸内に取り込むだめの細かい穴が開いた部分(有孔管、スクリーン)に分かれる。

【水が吹き上がる井戸の不思議】

が吹き上がってくる井戸のことを、「自噴井」と呼びます。なぜ水が吹き上がってくるのか、そのメカニズムを解説したQ&Aをご紹介します。

Q:水が湧き上がる井戸があるのはどうしてですか?

A:簡単に解説すると、飲み物が入った紙パックを横から押したところにストローを刺したときと同じことが地下で起きています。紙パックのように圧力のかかっている場所が地下にも存在していて、そこに井戸を掘ると地下水が吹き上がってくるのです。

粘土などの難透水層に挟まれた帯水層には、圧力がかかっています。このような帯水層を被圧帯水層と呼びます。圧力を受けていない不圧帯水層に井戸を掘れば、地下水面は井戸の水面と一致します。しかし被圧帯水層に井戸を掘ったとき、場合によっては強い圧力によって井戸の水面が地表面より高くなることがあります。そのとき、水が噴き出してくるのです。

【井戸はどこまで深く掘れる?】

ほぼ同じ場所に二つの井戸を掘り、片方だけをどんどん深くしていくと、深く掘った方の井戸の水面が変化します。山地と平地では現れ方が違いますが、地下水が流れているために起こる現象です。

また、実は井戸水の味も井戸の深さによって変わります。山地では味見してわかるほどの変化はみられませんが、平野部では井戸を深くしていくと井戸水の塩分量が明らかに増えてきます。一般的に、地下水は浅層では淡水ですが、深層に向かって徐々に塩水に変わっていくというパターンがみられます。

これは、平野部の地層が元々海の底に堆積した砂や泥であるため、その塩分が残っていることと関係があります。地層の浅い部分は雨によって塩分が流されますが、深い部分では地下水の流れが非常にゆっくりであるため、地層中の塩分が完全には流されていないのです。

【井戸水はなぜ枯れる?】

地下の帯水層の広がりが大きく層が厚いほど、地下水は豊富に存在していると考えられます。しかし、時には井戸から汲める水の量(揚水量)が減り、完全に揚水できなくなることがあります。この状態を「井戸枯れ」と呼びます。原因としては次のようなものが考えられます。

・過剰揚水
・井戸におけるスクリーンの目詰まり
・周辺での掘削を伴う工事や汲み上げ
・渇水
・地震

井戸枯れを防ぐためには、日頃から井戸の状態を知ることが重要です。具体的には、井戸内の地下水位の測定や井戸水の使用量などを記録しておくことです。さらに井戸周辺で大規模な掘削工事が行われるかどうかも知っておけば安心です。工事を実施する側が地下水の保全対策を適切に行えば、悪影響を防ぐことができます。

地下水を枯渇させることなく、汚染を防いで永続的に利用できるかどうかは、利用者のひとりひとりが地下水保全を意識することが重要なのです。

【井戸水が濁った!悪臭がする!その理由は?】

井戸水は地層を通過する際にろ過されるので、濁りや悪臭の問題が生じることはまれです。しかし、次のような場合には、濁りや臭いが生じることがあります。

・鉄やマンガンが多く地下水中に含まれるとき:金属臭
・帯水層中の粒子が地下水中に混入したとき:白色や灰白色の濁り
・地表からの粒子が井戸を伝って直接混入したとき:豪雨や劣化で雨水等が混入
・井戸内に濁り・異臭の原因物質が生成され、これが剥離したとき:吸水口等のごみ
・硫化水素が地下水中で発生したとき:腐敗臭
・有害物質が地下水中に溶出、混入したとき:工場からの有機化合物による汚染

今回は、「井戸」についての疑問についてかいつまんで解説してきました。井戸が生活に密着した地域で暮らしている方なら、自宅や農地の井戸を確認してみるのもよいかもしれません。井戸の水面はどのくらいか、昔と比べて水の量はどうか、今も毎日のように水を使用しているか?味や臭いはどうでしょう?地下水を知り。使い方を意識してみることが、地下水保全の第一歩であると著者たちは述べています。

次回は、井戸からより視点を広げた地下水・湧水の利用と、その維持保全の取り組みについて解説していきます。地下水は誰のもので、どうすれば守れるのでしょう。