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2012年11月8日  

著者へのインタビュー【バイオロギング 内藤先生・佐藤先生】

著者へのインタビュー【バイオロギング 内藤先生・佐藤先生】
「バイオロギング」という言葉をご存知ですか? 海の中でペンギンやアザラシなどの動物がどんな行動をしているのかを探る研究。今回はその研究を続けている内藤先生と佐藤先生にお話をお伺いしました。

バイオロギングの分野に興味をもったきっかけを教えてください。

内藤:
学生の頃にはよく海に潜っていて、それがきっかけで海の中や海の中の生き物の行動など、どうなっているのかを知りたくなりました。当時は房総半島を一周しながら、あっちこっちと素潜りですが潜っていました。

佐藤:
子どもの頃は昆虫少年かつ恐竜好き。その後釣りキチ少年、淡水魚飼育マニアを経て、好きな釣りを職業にできないだろうかと思い、大学は水産学科に進みました。そこで、たまたま始まったばかりのバイオロギングにでくわしました。ウミガメに装置をつけようと一生懸命試みたのですが、残念ながら最初の2年間はうまくいきませんでした。いろいろな工夫を凝らし、試行錯誤の日々があり、ようやく3年目に成功するという経験を経て、すっかりやみつきになってしまいました。
お金を払ってでも体験したいと思うようなことをして給料がもらえるのですから、こんなうれしいことはありません。世間には私のような子供たちが大勢いるのではないかと想像しています。そんな子供たちに「こんなすばらしい職業があるよ」ということを伝えたく、本務である研究以外にも著作活動や講演活動を熱心にやっています。

この分野を研究していて、おもしろいことはなんですか?

内藤:
新たな発見があると、「この研究をしていておもしろいな」と思います。特に困難と思われていることを解決したときなどです。みんながやっていないことはまだまだたくさんあるし、できないこともたくさんあります。そのなかで「ちょっとやったらできるんじゃないなか」と思うことはたくさんあります。
でも、いろいろと試してみましたが、そう簡単に世の中がビックリするような発見がでてくるわけではないということがわかりました。
それを実現させるにはツールと解析が必要です。そのために、日々ひとつひとつ積み重ね、繰り返しやっていくしかありません。

佐藤:
世界中の僻地に出かけていって野生動物を捕まえて、データロガーという小型の装置を取り付けて、動物たちの暮らしぶりを調べています。それぞれの動物が、なぜそのように振る舞うのか、その理由を知りたいと思っています。
「きっとこうなっているはず」とか「動物はこう動くだろう」などと、いろいろな予想を立てて調査するのですが、時として全く想定していなかった結果がでてきます。最初は「実験に失敗したのだろうか?」と思うことも多いのですが、じっくりとその現象について反芻していると、実はちゃんとした理由があってその結果になっていたことがわかったりします。それは最高に愉快な瞬間です。
内藤:
バイオロギングとはまだまだ若い学問であって、自分たちが水の中の動物の研究をやっていてわかっていないことが多く、より知りたいと思い、「何かやらなくては」と単純にやりはじめたことです。
大きな仮説があったわけでもなく、仮説をつくるにも材料がなにもありませんでした。
闇の中に何があるか、見えている世界では何とでも言えるけど、見えてない世界では何も言えません。
闇に光を照らすような気持でやりはじめました。
道具は始めた頃から比べると発達しましたが、まだまだ改良は必要です。海の中にはもっと複雑な世界が沢山あります。より精度の高い時空間分解情報が必要です。

佐藤:
研究の新しいテーマや疑問はデータを見てから思いつくことが多く、最初のデータが取れてからはじまります。最後にそれを証明するために操作実験を行います。わかってしまえば簡単なことですが、それがなかなか出てこない。そこに面白さがあります。

本書の出版のきっかけを教えてください。

内藤:
最初は違う内容を書こうと思っていましたが、当時の国立極地研究所の所長の藤井さんから「バイオロギングについて書いてくれないか」との依頼があったので、最初に考えていた内容を変更して書き始めました。始めたのはいいのですが、発行までの期限が短かったため取りまとめるのが大変でした。この本は私を含め4名で執筆をしましたが、高橋先生、渡辺先生はこの時期とても忙しくて大変であったため、佐藤先生がいなかったらこの本はできなかったと思います。

佐藤:
過去に広く世間の人々にこのおもしろい世界を知らせたいと思い、過去に新書を2冊ほど書きました。書いてからわかったことですが、新書を読む人の多くは、すでに社会に出た大人です。多くの人たちから「もし人生をやり直せたら、自分もこの分野に進みたい」という嬉しい感想を聞くことが多いのですが、「もしやり直せたら」ではなく、これからどの分野に進もうかということを考えている若い人たちに、本を読んでもらいたいと思うようになりました。きっと本書は専門書のコーナーに並ぶことでしょう。本書の美しい表紙が、生物の分野に興味を持つ中学生から大学生くらいの若者の目にとまり、「バイオロギングって何だろう?」と思った人に読んでもらいたいと思っています。

製作で苦労したことは?

内藤:
書く人がみんな材料をもっていたから間に合ったと思います。文献を調べつつ、一から書き始めたら大変です。あとは渡辺先生が南極へ行かなければならかなったので、それまでに急いで書かなければならなかったことも大変なことでした。

佐藤:
4人の著者で「だれがどの章を分担するか」という相談が大変でした。4人の専門分野は完全に分かれていないため、きっとお互い「俺ならもっとこう書くのだがなあ」と思っていることでしょう。

この本を出して、反響はいかがでしたか? または良かったことは?

内藤:
バイオロギングという分野はまだ広く知られていないため、これといった反応はありませんが、今後、この本をきっかけに広まっていくことを期待しています。

佐藤:
2012年3月末の日本水産学会大会の書籍売り場で、何人もの学生が手に取ってくれたと聞いていますが、まだ、直接反響を受け取ったことはありません。「この本を読みました」と言って研究室の門をたたく人が訪れる日を待っています。
以前、国立科学博物館に来る人に「バイオロギングを知っていますか?」とアンケートをとったことがあり、回答者の3%が「知っている」と答えました。一般には知られていないものの、確実に知っている人が増えているなと実感しました。

この本で一番伝えたいことはなんですか?

内藤:
海の中を知られるようになったのはまだ日が浅いですが、ようやく全体がどうなったかわかってきて、おもしろくなってきたということを伝えていきたいです。

佐藤:
水中の世界がいかにわかっていないかということです。自分たちが「この研究は楽しいよ」ということを伝え、「好きだからやっていますよ」ということ、それに共鳴してくれる人が出てきてくれると嬉しいです。

読者へのメッセージをお願いします。

内藤:
中学生、高校生に読んでもらい興味をもって楽しんでもらえれば嬉しいですし、読者から直接の声を聞きたいです。

佐藤:
この本は専門書コーナーに並べて欲しいです。「大学でなにをやろうかな」と思っているちょっとレベルの高い高校生が読む可能性が高いだろうし、それを期待しています。そして、この本を読んで、私たちのことを知り、その後ネットなどの情報を調べた上で研究室への門をたたいてくれると嬉しいです。
最近は外国帰りの若い学生の問い合わせが多く、海外にいるときにネットで私の研究室のホームページを見て、帰国後に訪ねてきます。
そういった人たちのためにも、ホームページは気合を入れてつくりました。
ホームページの内容は私の思いを表現したので、普通の学生には抵抗があるようですが、逆に意気込みがある学生に来て欲しいです。
⇒佐藤先生のホームページ

●編集後記

第一線を退いたとはいえ、探究心あふれる内藤先生。バイオロギングを広めていこうと果敢にチャレンジする佐藤先生。お二人とも、研究のお話をされているときは真剣な眼差しの中にも、子供のようなキラキラとした楽しそうな笑顔も見受けられました。「バイオロギング」と聞いても、それが何のことを言っているのか想像つかない人のほうが多いと思います。しかし、いざ足を突っ込んでみると、これが意外とおもしろい。海の中でのペンギンやアザラシの行動を探ってみませんか?
(編集グループ内藤、営業グループ小川)
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