逐条解説 海上衝突予防法


978-4-425-29111-3
著者名:河口長弘 著
ISBN:978-4-425-29111-3
発行年月日:2020/11/18
サイズ/頁数:A5判 440頁
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大型船操船者に向けた法令解説書 法の施行から40年以上が経つ「海上衝突予防法」を現場の立場から逐条的に解説。とくに切迫した状況の操船において「船員の常務」をどのように運用させるか、大型船の船長に加えて4,000隻以上を導いた水先人としての経験を踏まえて考察した。

【はじめに】 1972年の海上における衝突の予防のための国際規則の規定に準拠して、現行海上衝突予防法(昭和52年6月1日 法律第62号)が施行されてから既に四十数年が経っています。この間、海上では様々な衝突事故が発生しており、その中には、わずかな注意を払えば事故発生を防げたものが多くみられます。しかし、より困難なのは、船舶のふくそう海域や視界制限状態における大型船の操船です。針路の大幅な変更や減速は、条文としては存在します。ただ、具体的に、どの時点で、どの程度の動作を行うかは条文にはなく、その場に即して合理的に考慮されなければなりません。また、時としては、危険が伴うものの相手船の操船者の心理を読むことも必要となります。この点、参考書等では、船舶の操縦性能、気象・海象の状況、海域の広狭、船舶のふくそう状況を考慮すべき等々と書いてありますが、初学者に対してはともかく、現実に操船する者にとりましてはほとんど役に立ちません。そこに水先人を強制している大きな理由もあると考えています。筆者も、大阪湾パイロットとして計4,239隻程度の船を長年嚮導してきましたが、早朝における漁船の一斉出漁、大阪湾を埋め尽くす程の二叟曳きの漁船群、友ヶ島水道に収斂する無謀な操船の数々に冷や汗を流したことが幾度かあります。
以上から、操船者のための法律書たるべきものとするには、個々の状況に即した、より具体的な指針が望まれるでしようし、さらに、海難審判などを見据えた法的な論点追求も極めて重要なものとなってきます。このため、判例や裁決例も、本書の記述ををサポートするものとして、あるいはそれら自体を批判の対象として取り入れました。また、大型船の船長、水先人として培ってきた経験も、これらの法的評価に加えることができたと信じます。
なお、上述しましたように、本法は、1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約を批准するために制定されたものであります。このため、本法の解釈に争いや疑義がある場合には、この国際規則の文言を読み込まなければなりません。加えて、現在では海上技術者が陸上勤務をする機会も少なくなく、そこでは国際的な衝突事件など海難事故の紛争処理に携わることも多いと思われます。中には、法律の専門家になられる人もおられる筈です。このため、本書では、便宜のため、各条ごとに条文の冒頭に続けて72年国際規則の英文を付してあります。参考にしていただければ幸甚です。
 最後に、本書を上梓できたのは望外の喜びでありますが、ただ生来の非才と浅学を嘆くのみであります。本書の出版にあたり、ご理解、ご協力いただいた成山堂書店小川典子社長に厚くお礼を申し上げます。

2020年9月
河口長弘

【目次】
第1章 総則
  1.海上衝突予防法の特色
  2.海上衝突予防法の基本原則
  3.海上衝突予防法の構成
 第1条 目的
  1.海上衝突予防法の目的
  2.「海上における船舶の衝突を予防し」の意味
 第2条 適用船舶
  1.適用水域
  2.航洋船
  3.適用船舶
 第3条 定義
  1.船舶
  2.動力船
  3.帆船
  4.漁ろうに従事している船舶
  5.水上航空機等
  6.運転不自由船
  7.操縦性能制限船
  8.喫水制限船
  9.航行中
  10.長さ
  11.互いに他の船舶の視野の内にある
  12.視界制限状態

第2章 航法 第1節 あらゆる視界の状態における船舶の航法
 第4条 適用船舶
  1.第4条の立法趣旨
  2.第4条の射程範囲
  3.定型的航法適用の条件
 第5条 見張り
  1.第5条の立法趣旨
  2.航海当直基準
  3.適切な見張り
  4. 海上衝突予防法においてレーダー情報の使用を要求する規定
 第6条 安全な速力
  1.第6条の立法趣旨
  2. 他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができる安全な速力
  3. 安全な速力の決定に当たって特に考慮すべき事項
 第7条 衝突のおそれ
 第7条の立法趣旨
  1. 他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断するため、その時の状況に適したすべての手段
  2. 他の船舶と衝突するおそれがあることを早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査、探知した物件のレーダープロッティングその他の系統的な観察等
  3. 不十分な情報
  4. コンパス方位の明確な変化
  5. 他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを確かめることができない場合
 第8条 衝突を避けるための動作
  1.衝突を避けるための動作の基本
  2.衝突を避けるための針路または速力の変更
  3.広い水域において行う針路のみの変更
  4.安全な距離を保つ避航動作とその確認
  5.周囲の状況の判断等のための動作
  6. 他の船舶の通航又は安全な通航を妨げないための動作
   (1) 72年国際規則 第8条の追加規定
   (2)通航妨害禁止義務
  7.通航妨害禁止義務と避航義務との関係
   (1) 各船舶の義務
   (2) 通航妨害禁止義務と避航義務との調整
   (3) PART-B の規定以外での処理
 第9条 狭い水道等
  1.狭い水道等における右側端航行
  2.航行中の動力船と帆船の間の航法
  3. 航行中の船舶と漁ろうに従事している船舶の間の航法
   (1) 規定の形式
   (2) 航法
   (3) 72年規則第8条⒡と本法第9条第3項
   (4) 72年規則第9条⒞と本法第9条第3項
  4.追越し船と被追越し船の間の航法
  5.狭い水道等の横切り制限
  6. 長さ20メートル未満の動力船の通航妨害禁止義務
  7. 互いに他の船舶の視野の内にある船舶に適用される規定
  8. 狭い水道等のわん曲部等に接近する場合の航法
  9.狭い水道におけるびょう泊の禁止
 第10条 分離通航方式
  1.分離通航方式
  2.通航路における航法
  3.通航路の横断の禁止
  4.沿岸通航帯の航行禁止            
  5.分離帯への進入、分離線の横切り禁止
  6.動力船と帆船の航法
  7. 航行中の船舶と漁ろうに従事している船舶の間の航法
  8. 長さ20メートル未満の動力船の通航妨害禁止義務
  9. 互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用
  10.分離通航帯の出入口付近の航法
  11. 分離通航帯及びその出入口付近のびょう泊禁止
  12.分離通航帯を航行しない船舶の航法
  13.操縦性能制限船に関する航法規定の適用免除
  14.通航分離方式の周知
第2節 互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法
 第11条 適用船舶
  1.第11条の立法趣旨
  2. 互いに他の船舶の視野の内にあることの意味
 第12条 帆船
  1.帆船の航法
  2.風上の定義
 第13条 追越し船
  1.追越し船の航法
  2.追越し船の定義
  3. 追越し船であるかどうかを確かめることができない場合
  4. 第13条に優先して適用される港則法・海上交通安全法の規定
 第14条 行会い船
  1.行会い船の航法
  2. 真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合の判断
  3.確かめることができない場合の判断
 第15条 横切り船
  1.横切り船の航法に関する基本事項
   (1) 横切り船
   (2) 横切り船の航法
   (3) 横切り船の航法が適用されない場合
 2.横切り船の航法に関する諸問題
   (1) 互いに他の船舶の視野の内にあること
   (2) 横切り船の航法適用の要件と時期
   (3) 衝突のおそれ
   (4) 新たな危険
   (5) 適用航法の不変更性の原則
   (6) 船員の常務
 3.特別法適用水域における横切り船航法
   (1) 海交法適用水域
   (2) 港則法適用水域
 第16条 避航船
  1.避航船
  2. できる限り早期に、かつ、大幅に動作をとらなければならない
  3.避航船の航法
 第17条 保持船
  1.保持船の航法
  2.第17条第2項の保持義務からの離脱
  3.最善の協力動作
  4.第17条第2項と同条第3項との関係
 第18条 各種船舶間の航法
  1.一般動力船と各種船舶との避航関係
  2.帆船と各種船舶間の航法
  3. 漁ろう船と運転不自由船・操縦性能制限船の航法
  4.喫水制限船に対する通航妨害禁止義務
  5.第18条第5項の喫水制限船の注意義務
  6.水上航空機等の航法
  7. 動力船と漁ろうに従事する船舶との衝突事故
第3節 視界制限状態における船舶の航法
 第19条 視界制限状態における船舶の航法
  1.適用船舶
  2.機関の用意
  3. 第1節の規定による措置を講ずる場合の考慮事項
  4. レーダーのみにより他の船舶の存在を探知した船舶の航法
   (1) レーダーによる他船の早期発見
   (2)  他の船舶に著しく接近すること又は衝突するおそれの判断
   (3)  著しく接近すること又は衝突のおそれのある場合の動作
  5.一定方向への転針の禁止
  6. 針路を保つことができる最小限度の速力・停止
   (1) 衝突するおそれと衝突の危険
   (2)  他の船舶に著しく接近することを避けることができない場合
   (3)  他の船舶に著しく接近することが避けられない場合の措置

第3章 灯火及び形象物  第20条 通則
  1.法定灯火
  2. 視界制限状態等における法定灯火の表示
  3.形象物の表示
  4. 灯火及び形象物の技術上の基準並びに位置
 第21条 定義
  1.マスト灯
  2.げん灯
  3.両色灯
  4.船尾灯
  5.引き船灯
  6.全周灯
  7.せん光灯
 第22条 灯火の視認距離
  1.第22条の立法趣旨
  2.視認距離
 第23条 航行中の動力船
  1.航行中の一般動力船の灯火
  2.エアクッション船の灯火
  3.特殊高速船の灯火
  4.長さ12メートル未満の動力船の灯火
  5.長さ7メートル未満の動力船の灯火
  6. 長さ12メートル未満の動力船のマスト灯の位置
  7. 長さ12メートル未満の動力船の両色灯の位置
 第24条 航行中のえい航船等
  1. 船舶その他の物件を引いている航行中の動力船の灯火・形象物
  2. 船舶その他の物件を押し、又は接げんして引いている航行中の動力船の灯火
  3. 要救助船をえい航している動力船の灯火
  4. 他の動力船に引かれている航行中の船舶その他の物件の灯火・形象物
  5. 他の動力船に引かれている航行中の船舶その他の物件であって、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものの灯火・形象物
  6. 他の動力船に引かれている船舶その他の物件が灯火又は形象物を表示できない場合の代朁措置
  7. 他の動力船に押されている船舶及び他の動力船に接げんして引かれている航行中の船舶の灯火
  8. 押している動力船と押されている船舶とが結合して一体となっている場合の灯火・形象物
 第25条 航行中の帆船等
 第25条の立法趣旨
  1.航行中の長さ7メートル以上の帆船の灯火
  2.長さ7メートル未満の航行中の帆船の灯火
  3.長さ20メートル未満の航行中の帆船の灯火
  4.航行中の帆船の追加灯
  5. ろかいを用いている航行中の船舶の灯火
  6. 機関及び帆を同時に用いて推進している動力船の形象物
 第26条 漁ろうに従事している船舶
  1.トロール従事船の灯火又は形象物
  2. トロール船以外の漁ろう船の灯火・形象物
  3. 長さ20メートル以上のトロール従事船であって、他の漁ろう船と著しく接近した場合の追加灯火
  4. 2そうびきの長さ20メートル以上のトロール従事船であって、他の漁ろう船と著しく接近した場合の探照灯の照射
  5. 長さ20メートル以上のトロール従事船以外の漁ろう船が表示することができる追加灯火
  6. 漁ろうに従事している船舶が表示すべき灯火・形象物についての一般的注意事項
 第27条 運転不自由船及び操縦性能制限船
  1.運転不自由船の灯火・形象物
  2.操縦性能制限船の灯火・形象物
  3. 困難なえい航作業に従事する操縦性能制限船の灯火・形象物
  4. 他の船舶の通航の妨害となるおそれがある水中作業に従事している操縦性能制限船の灯火・形象物
  5. 潜水夫による作業に従事している操縦性能制限船の灯火・信号板
  6. 掃海作業に従事している操縦性能制限船の灯火・形象物
  7. 第27条第7項による長さ12メートル未満の運転不自由船及び操縦性能制限船の灯火・形象物表示の緩和規定について
 第28条 喫水制限船
 第29条 水先船
 第30条 びょう泊中の船舶及び乗り揚げている船舶
  1.びょう泊中の船舶の灯火・形象物
  2.甲板の照明
  3.乗り揚げている船舶の灯火・形象物
  4. 長さ7メートル未満のびょう泊中の船舶の灯火・形象物の免除
  5. 長さ12メートル未満の乗り揚げている船舶の灯火
 第31条 水上航空機等
 第3章の灯火及び形象物に関する総括
  1.灯火の表示基準
  2.灯火・形象物に関する条文表現
  3.形象物の種類及び表示例
  4.各条における適用除外船舶

第4章 音響信号及び発光信号  第32条 定義
 第33条 音響信号設備
  1.船舶が備えるべき音響信号設備
  2.小型船舶の特例
  3.号鐘及びどらの技術上の基準並びに汽笛の位置
 第34条 操船信号及び警告信号
 第34条の立法趣旨
  1.操船信号(針路信号)
  2.操船信号としての発光信号
  3.発光信号の継続時間及び間隔
  4.追越し信号及び同意信号
  5.警告信号
  6.わん曲部信号
  7.複数の汽笛の同時吹鳴の制限
  8.発光信号に使用する灯火
 第35条 視界制限状態における音響信号
  1.霧中信号の履行義務
  2. 航行中の動力船が行う霧中信号(対水速力を有する場合)
  3. 航行中の動力船が行う霧中信号(対水速力を有しない場合)
  4. 航行中の帆船、漁ろう船、運転不自由船、操縦性能制限船、喫水制限船、他の船舶を引き及び押している動力船の霧中信号
  5. 他の動力船に引かれている航行中の船舶の霧中信号
  6. びょう泊中の長さ100メートル以上の船舶の霧中信号
  7. びょう泊中の長さ100メートル未満の船舶の霧中信号
  8.漁 ろう船及び操縦性能制限船の霧中信号
  9. 乗り揚げている長さ100メートル以上の船舶の霧中信号
  10. 乗り揚げている長さ100メートル未満の船舶の霧中信号
  11. 長さ12メートル以上20メートル未満の船舶の特例
  12.長さ12メートル未満の船舶の特例
  13.水先業務に従事する船舶の霧中信号
  14. 結合して一体となっている船舶に関する見做規定
 第36条 注意喚起信号
  1.注意喚起信号
  2.注意喚起信号に関する規制
  3.注意喚起信号と警告信号(疑問信号)
 第37条 遭難信号
  1.遭難信号を行う場合
  2.遭難信号の種類

第5章 補 則  第38条 切迫した危険のある特殊な状況
  1.第38条の立法趣旨
  2.第38条の構造
  3.一般的注意義務の内容
   (1) 運航上の危険
   (2) 他の船舶との衝突の危険
   (3) 切迫した危険のある特殊な状況
   (4) 十分に注意しなければならないの意味
 4.本法の規定からの離反
   (1) 本法離反の措置をなすための要件
   (2) 第17条第3項と第38条第2項との関係
   (3) 極限の状況における措置
   5.第38条の問題点
 第39条 注意を怠ることについての責任
  1.責任
  2.第39条の構造
   (1) 第39条は行為規範性を持つか
   (2) 本法各条項の具体的規定を怠ることについての責任
   (3) 一般的注意義務に違反することについての責任
   (4) 「船員の常務として必要とされる注意」と「その時の特殊な状況により必要とされる注意」の区別
  3.注意等を怠ることについての内容
   (1) 適切な航法で運航し、灯火若しくは形象物を表示し、若しくは信号を行うことを怠ること
   (2) 船員の常務として必要とされる注意を怠ること
   (3) その時の特殊な状況により必要とされる注意を怠ること
  4. 裁決例、判例にみる第39条解釈の傾向
 第40条 他の法令による航法等についてのこの法律の規定の適用等
  1.第40条の立法趣旨
  2.第40条の構造
  3. 第20条第4項、第34条第4項から第6項までの規定は、他の法令について定められた事項について適用され得るか
 第41条 この法律の規定の特例
  1. 港則法及び海上交通安全法に関する特例
  2.水上航空機等に関する特例
  3.特別事項についての特例
  4.特別事項に関する二重適用の防止
 第42条 経過措置
  あとがき
  参考文献
  索引
  判例・裁決例索引


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カテゴリー:法令 
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