沿岸域の安全・快適な居住環境 海洋建築シリーズ


978-4-425-56131-5
著者名:川西利昌・堀田健治 共著
ISBN:978-4-425-56131-5
発行年月日:2017/4/8
サイズ/頁数:B5判 188頁
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価格¥2,750円(税込)
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海洋建築工学は、建築学の中の新しい学問領域であると同時に海洋工学の中の1つの分野です。日本や世界の人工の過半は沿岸域に居住しています。本書は沿岸域の居住空間の特徴を解説し、快適な空間づくりを目指して記されています。

【まえがき】より 沿岸と人類のつながりの歴史を想起してみると、地球を取り巻くオゾン層の発生により紫外放射が弱まり、海から海岸線をへて、生態系は陸上にあがることができた。そして長い年月を経て、アフリカ中央部に現代人の祖先が生まれ、世界中に拡散して行った。拡散する行程で沿岸域は重要な役割を果たした。すなわち人類は内陸から、発生の原点である沿岸域へ戻ってきたといえる。人類は何万年にもわたり、沿岸域で海の持つ恵みである食糧を得て子孫を増やし、同時に脅威である津波・高潮・強風への対処も学んだ。高所に住むこともその一つである。しかしそれら貴重な人類の教訓を、近代は一挙に葬り去った。その結果、現代は自然からの深刻な反発を受けている。私たちは未来に向けて子孫達のために、もう一度人類の貴重な教訓を思い出し、現代の知識を加えて再構築する必要がある。
2011年3月東北地方を襲った津波により、太平洋の沿岸域に生きる人々の尊い命が失われた。また沿岸域に立つ建築物は大きな被害をうけた。沿岸域は人間にとって危険な地域ではあるが、同時に人間を生かす地域でもある。人類は海から食糧を得て生存してきた長い歴史があり、日本でも沿岸域に多数の建築物が存在し何千万もの人々が生活している。日本は海岸が入り組んでおり、海岸線が極めて長く、その建築空間としての利用の仕方も多様である。沿岸域の建築物とは、沿岸域の持つ特性の影響を受ける建築物をいう。沿岸域という風土にはどのような建築物が適切であるかを、著者らは建築環境工学の立場から考究してきた。近代、建築材料や建築設備の発展によって、風土を深く考察しなくても人間の居住空間である建築物が成立するようになった。その結果、寿命が短かったり、快適でない建築物も出現するなどの問題が生じている。もう一度、風土と建築物について再考する時期が来ているといえよう。
2015年、日本建築学会は「海洋建築の計画・設計指針」を刊行した。沿岸海域に立つ建築物について学識経験者が集まり長い討議の末、完成した計画及び指針である。本書は同書の内容を参考にし、主に海岸線や沿岸陸域に立つ建築物について、建築環境工学の立場から記したものである。とくに沿岸域が居住環境としてどのような特徴を持っているか明らかにした。内容は、第1章沿岸域の気候、第2章沿岸域と人間、第3章沿岸域と建築、第4 章沿岸域の塩分、第5 章沿岸域の空気と湿気、第6章沿岸域の温熱、第7章沿岸域の光・色、第8 章沿岸域の紫外放射、第9章沿岸域の災害と建築環境、から成り立っている。
従来、沿岸域の建築物は、地理的、社会的、歴史的、技術的な制約から、沿岸域の特質を十分に生かしきっていなかった。これらの制約を乗り越えるための科学的な検討が十全でなかったからで、今後学術的進展が一層要請される。本書がその第一歩の役割を果たすべく、沿岸域に人間が居住・行動する際、配慮すべき事項を幅広く扱った。沿岸域の建築環境工学は発展途上の学問であるため、本書は教科書的記述と学術論文が混在している。学術論文は第2章第4節、第5節、第4章第2節、第7章第2節、第3節、第9章第2節にあり、学術研究の方法論を学んでいただければ幸いである。本書を基に沿岸域に安全で快適な建築物が建設されることを希っている。なお沿岸域に建築物を建設する場合に、強風、高潮、波浪、津波、土質など力学的な安全性の為に考慮すべき事項があるが、それらは構造力学の範疇にあり、海洋建築シリーズの他書に詳細に解説されている。ご参考にしていただければ幸いである。

2017年3月   
川西利昌
堀田健治

【目次】
第1章 沿岸域の気候
 1.1 沿岸域
  1.1.1 沿岸域の定義
  1.1.2 沿岸海洋の基礎
  1.1.3 海岸線と海岸地形
 1.2 沿岸域の気候とクリモグラフ
  1.2.1 日本の気候
  1.2.2 沿岸域の都市とクリモグラフ
  1.2.3 沿岸域の気象と気候区

第2章 沿岸域と人間  2.1 気候と風土
 2.2 沿岸域と人間の歴史
 2.3 沿岸域と生気象
 2.4 沿岸域の波の音
  2.4.1 波と可聴音
  2.4.2 沿岸域の波と超音波
 2.5 タラソテラピー
  2.5.1 タラソテラピーと実験
  2.5.2 心拍変動

第3章 沿岸域と建築  3.1 沿岸域と建築物
  3.1.1 沿岸建築物の定義と分類
  3.1.2 沿岸建築物と気候
  3.1.3 沿岸域にある建築物の事例
 3.2 浮遊式海洋建築物の動揺
  3.2.1 動揺と居住性
  3.2.2 動揺の評価

第4章 沿岸域の塩分  4.1 沿岸建築物の塩害と対策
  4.1.1 建築物の塩害と距離
  4.1.2 塩害と対策
 4.2 海塩粒子と海岸形態
  4.2.1 塩害の調査
  4.2.2 海塩粒子の捕集・分析
  4.2.3 消波構造物背後の海塩粒子
 4.3 沿岸域の飛砂

第5章 沿岸域の空気と湿気  5.1 沿岸域の相対湿度と結露
  5.1.1 相対湿度と空気線図
  5.1.2 建築物の結露と防止
  5.1.3 沿岸域の相対湿度
 5.2 建築材料の汚れと保守率

第6章 沿岸域の温熱  6.1 沿岸域の気候とデグリーデー
 6.2 建築物と海面・地物反射日射
  6.2.1 太陽直達、天空日射、反射日射の計算
  6.2.2 沿岸建築物の外壁面の入射熱量

第7章 沿岸域の光・色  7.1 海岸の景観
  7.1.1 沿岸域の風景
  7.1.2 視対象の性質
  7.1.3 沿岸建築物と視線
 7.2 海面反射光
  7.2.1 サングリッタと物理的特性
  7.2.2 サングリッタの評価
  7.2.3 サングリッタ階級表
 7.3 水中色と色彩
  7.3.1 水中色の計測
  7.3.2 水中色の変化

第8章 沿岸域の紫外放射  8.1 海浜の紫外放射被爆
  8.1.1 乳幼児の行動調査
  8.1.2 紫外放射対策に関するアンケートと提案
 8.2 海浜砂の紫外反射率
  8.2.1 紫外反射率の測定法
  8.2.2 アルベド法による紫外反射率測定
 8.3 海浜の紫外反射
  8.3.1 海浜の紫外反射計算
  8.3.2 建築物内の紫外放射
 8.4 紫外放射防御と日除け
  8.4.1 日射と紫外放射
  8.4.2 紫外放射日除けチャートとASPF

第9章 沿岸域の災害と建築環境  9.1 沿岸域の災害と建築環境工学
  9.1.1 災害と建築環境
  9.1.2 土壌、施設、海岸林
 9.2.  海浜の放射線量
  9.2.1 海浜の放射線
  9.2.2 海浜の指向性線量率測定
付録1.  海流別の都市のクリモグラフ
付録2.  日本建築学会編「海洋建築の計画・設計指針」(環境関連抜粋)
付録3.  空気線図
付録4.  紫外放射日除けチャート


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カテゴリー:気象・海洋 
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