| 著者名: | 澤 喜四郎 著 | 
			
				| ISBN: | 978-4-425-92871-2 | 
			
				| 発行年月日: | 2017/3/28 | 
			
				| サイズ/頁数: | A5判 216頁 | 
			
				| 在庫状況: | 品切れ | 
			
				| 価格 | ¥2,860円(税込) | 
		
	 交通を見れば文化がわかる!
多彩な特徴をもつアジアの交通と文化にスポットを当てる。インド、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、香港、台湾、中国、韓国の交通や乗り物から観察される交通文化を抽出し、その特長は何か、なぜそのような文化が形成されたのか、どうして定着したのかなどについて解説する。
【はじめに】
文化とは一般に、人間が学習によって社会から習得した生活の仕方の総称とされ、衣食住をはじめ技術、学問、道徳、宗教など物心両面にわたる生活形成の様式と内容を含むとされています。ここにいう社会とは、あらゆる形態の人間の集団生活とされ、その主要な形態には家族や村落、教会、会社、階級、政党、群衆、国家などがあり、自然に発生した集団もあれば、人為的に特定の利害目的などに基づいて作られたものもあります。そのため、社会が違えば文化は違い、国家を社会と捉えるならば、それぞれの国にそれぞれの文化があります。
文明とは一般に、文化的特徴や現象の集合体とされていますが、人間の精神的活動の所産が「文化」、人間の技術的・物質的活動の所産が「文明」とされ、あるいは人間の知識が開け、社会が進んだ状態が「文明」と呼ばれることもあります。これは、西洋的な発想に基づく概念で、西洋を人間の知識が開け、社会の進んだ文明国とし、アジアやアフリカを野蛮で未開の非文明国と位置づけ、征服・支配するための思想とされていました。アジアの植民地時代には西洋文化や白人文化は優れ、アジアの文化を劣ったものとし、「優等人種である白人が劣等人種である非白人に文明を与えるのは義務である」「優れた白人が劣った有色人種を征服することは自然の摂理である」とされていました。
このような西洋的価値観が植民地時代にアジアの文化を破壊し、また西洋文化が国際儀礼として国際標準化されたため、現在でもアジアの文化の破壊と消滅が続いていると言われています。しかし、戦後に西洋の植民地支配から独立したアジアの国々では、伝統的な文化の復活や、新しい固有の文化が生み出されているのも事実です。
他方、私たちの生活にもっとも密接な交通にも文化があり、それは交通文化と呼ばれています。西洋的思想でいう「文明国」であろうと、「野蛮で未開の国」(非文明国)であろうと、また資本主義国であろうと社会主義国であろうと、それぞれの国にはそれぞれの交通文化があります。文化の定義にしたがえば、交通文化とは一般に人間が学習によって社会から習得した交通の仕方の総称とされ、具体的には人の移動や貨物の運送という交通の形成様式や内容とされています。
たとえば、鉄道とは鉄輪を備えた電車や汽車がレール上を走行するという事象(あるいは車両などを含む施設の総称)とされ、それは西洋であろうとアジアであろうと、どの国でも同じです。しかし、同じ鉄道であっても、それがどのような社会体制のもとで運行されているのか、どのような主体によって管理・運営されているかは国によって異なり、そこに住む人々が鉄道をどのように利用しているのかも異なります。さらに、人々が同じ距離を地理的に移動する場合、どのような交通手段を利用するかは国や地域によって異なります。そのため、交通文化論における研究は、交通の形成様式や内容を観察することから始まるとされています。
本書では、インド、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、香港、台湾、中国、韓国が取り上げられ、交通や乗り物から観察される文化つまり交通文化を抽出し、その特徴は何か、なぜそのような文化が形成されたのか、どうして定着したのかについて解説されています。近隣諸国との交通文化の類似性や異質性を把握しやすいように、日本の西方に位置するインドから東へ向かう順に論が展開されています。なお、本書では文化の基層部に潜む「隠れた文化」も抽出されていますので、「悪口ばかり書いてある」との印象を与え、批判を受けそうですが、社会科学に正解はなく、事実に対する解釈は種々さまざまで、本書の解説はそのひとつです。
ここで、各章の内容を簡単に紹介しておきます。
序章「アジアの交通と文化」では、アジアの宗教と文化、アジアの政治と経済、交通とアジア的貧困をテーマに、宗教と文化の多様性、消えるアジアの文化、経済と民主主義と汚職の関係、乗用車と貧富の差、三輪自転車とアジア的貧困などについて解説されています。また、アジアが世界の二輪車生産台数の90.1%を占め、アジアが二輪車の一大文化圏であることも紹介されています。
第1章「インドの動物とヒンドゥー文化」では、動物とヒンドゥー教、オート・リクシャーと国民性、巨大人口とインド鉄道をテーマに、牛とヒンドゥー教、動力としての人とカースト制、バイクとインド人気質、巨大人口と近郊鉄道の混雑などについて解説されています。また、窃盗犯や強姦犯が警察に引き渡される前にリンチで殺害され、女性に対する暴力が後を絶たないというインドの異質性や後進性についても紹介されています。
第2章「ミャンマーの仏教と僧侶優先社会」では、貧富の差と貧困、外国人料金と仏教文化、サイカ―と信仰心、トラックバスと恐妻社会などについて解説されています。また、後発開発途上国とされるミャンマーの本当の貧困、女性と仏教の関わり、女性の社会進出についても紹介されています。
第3章「タイのトゥクトゥクと微笑み文化」では、サムローとトゥクトゥク、バスと寛容の心、運河交通と仏教文化をテーマに、自動車型サムローと感謝の心、トゥクトゥクと貧富の差、モーターサイと捨の心、ソンテオと運賃交渉制、運河交通とタンブン、水上マーケットと托鉢の商業化などについて解説されています。また、薬物を摂取したり、売春をしたりする僧侶の問題や、約30万人いると言われる肥満僧侶の問題についても紹介されています。
第4章「カンボジアの地政的孤立と仲間意識」では、バイクと小乗仏教、長距離バスとルーモーと貧困、鉄道と地政的孤立とスラムをテーマに、モトドップと仲間意識、小乗仏教と個人主義、タクシーと貧困、ルーモーと犯罪、鉄道の復活と地政的孤立、ノーリーとスラムなどについて解説されています。また、後発開発途上国のカンボジアの貧困に関連して、教育の現状と、貧困ゆえに横行している、母親が娘を売るという児童買春についても紹介されています。
第5章「ベトナムの家族主義とムラ社会」では、バイクと貧富の差、バスと階級秩序と妬みの文化、家族主義とかかあ天下をテーマに、自転車と貧富の差、セオムと貧困層の生業、バスと階級秩序、タクシーと妬みの文化、女性と階層社会、モーターセロイと家族主義などについて解説されています。また、人口問題に関連して「二人っ子政策」や、ベトナムの強固なコネ社会についても紹介されています。
第6章「マレーシアのイスラム教と民族主義」では、バイクとインシャラ―意識、バスと貧富の差、鉄道と民族的優位性をテーマに、トライショーと「のんびり性」、ブミプトラ政策と民族主義、バスと文化のずれ、クアラルンプールと観光ツアー、長距離列車と貧富の差、KTMコミューターとイスラム教などについて解説されています。また、多民族国家のマレーシアでの民族と宗教・職業の結びつき、イスラム国のテロについても紹介されています。
第7章「シンガポールの厳罰主義と超多民族社会」では、交通機関と超多民族社会、交通管理と自己責任、汚職の撲滅と国家資本主義をテーマに、都市鉄道と厳罰主義、路線バスと超多民族社会、自家用車の抑制と交通管理、ダックツアーと自己責任、観光開発と汚職の撲滅、トライショ―と国家資本主義などについて解説されています。また、厳罰主義との関係でシンガポールの刑法や、汚職行為防止法についても紹介されています。
第8章「インドネシアの貧富の差とアパアパ文化」では、鉄道と「どうってことないよ」というアパアパ文化、バスと国民性と公衆道徳、バジャイとベチャと貧富の差をテーマに、国有鉄道と遅延の常態化、無賃乗車とアパアパ文化、トランスジャカルタと国民性の三悪、アンコットと公衆道徳、ベチャと貧富の差などについて解説されています。また、高速道路の建設をめぐる中国とのいがみ合い、「私に関係ない」という言い訳文化についても紹介されています。
第9章「フィリピンの貧困とハロハロ文化」では、バイクと「混ぜこぜ」というハロハロ文化、バスと貧富の差、鉄道と貧困の文化をテーマに、賄賂の常態化、ジプニーとハロハロ文化、タクシーと顧客の囲い込み、タクシーと貧困のシステム、フィリピン国鉄と投石対策、スケーターとスラムなどについて解説されています。また、「法律は厳しく、運用は適当」という「いい加減文化」、貧困との関係でスモーキー・マウンテンについても紹介されています。
第10章「香港のトラムと消える英国文化」では、トラムと住民差別、バスと英国文化の消滅、香港の中国化とスラムをテーマに、トラムと向空中、ピークトラムと英国階級社会、英国風の2階建てバス、中国風のミニバス、香港返還と鉄道の一元化、英国風地下鉄とスラムなどについて解説されています。また、国民教育(愛国教育)の導入に抗議する大規模デモ、行政長官の選挙制度に反対する大規模な反政府デモ(雨傘運動)についても紹介されています。
第11章「台湾のスクーターと負けず嫌い」では、自転車とスクーター文化、バスと負けず嫌い、鉄道と儒教と賄賂をテーマに、スクーターと行政、敷居の高い市内バス、豪華バスと負けず嫌い、鉄道と儒教、對號列車と易姓革命思想、高速鉄道の建設と賄賂などについて解説されています。また、日本の統治時代を知る台湾人によって台湾語で語られる「日本精神」や、在台中国人の残虐性を表すとされる台湾大虐殺についても紹介されています。
第12章「中国の階級格差と賄賂」では、階級格差と偽物、三輪車と経済重視、鉄道と賄賂と奴性をテーマに、公共バスと政治的階級、タクシーと身分階級、人力三輪車と出稼ぎ労働者、三輪バイクと学歴的格差、長距離列車と農民蔑視、地下鉄と賄賂、高速鉄道と奴性などについて解説されています。また、農民蔑視に関連する戸籍制度や、国民に浸透しているとされる拝金主義についても紹介されています。
第13章「韓国の差別と優等文化」では、優等バスと優等文化、鉄道の反日文化と賄賂、高速鉄道と両班文化をテーマに、優等高速バスと差別文化、観光バスと事大主義、地下鉄と反日文化、空港鉄道と賄賂、高速鉄道KTXと恨みの文化、両班文化と手抜き工事などについて解説されています。また、韓国のポピュリズムやケンチャナヨ精神など韓国人の三大精神についても紹介されています。
本書の構成と内容は以上のとおりですが、本書で紹介することのできなかった国も残され、また本書での解説や紹介が不十分な個所も残されています。本書で取り合上げた国々で観察される交通文化つまり交通の形成様式や内容の特徴を抽出するという本書の狙いがどの程度まで成功しているかは読者の皆さんのご批判を待たねばなりません。また、所々の脚注などで記述されているように、衣食住や政治、経済などを観察することによって本書とは異なる文化の抽出もできます。
なお、本書ではネット上を含め、多くの辞書や事典、機関や団体のホームページ、雑誌や新聞、論文やレポートなどを引用・参照させて頂きましたが、一般論的なものについては紹介するという客観的記述方式をとり、その出所については記載を省略させて頂きました。関係の方々のご理解とご海容をお願い申し上げる次第です。
最後に、本書の出版を快くお引き受け下さいました(株)成山堂書店の小川典子社長、編集や校正で大変お世話になりました編集部の方々をはじめ、スタッフの方々に厚くお礼申し上げます。
平成29年2月
著者記す
 
【目次】
序章 アジアの交通と文化
 1 アジアの宗教と文化
  アジアとは
  宗教と文化の多様性
  消えるアジアの文化
 2 アジアの政治と経済
  政治と民主主義
  汚職と幸福
  経済と民主主義と汚職
 3 交通とアジア的貧困
  乗用車と貧富の差
  二輪車の一大文化圏
  三輪自転車とアジア的貧困
第1章 インドの動物とヒンドゥー文化
   1-1 動物とヒンドゥー教
    馬と牛の神聖視
    牛とヒンドゥー教
    動力としての人とカースト制
   1-2 オート・リクシャーと国民性
    バイクとインド人気質
    オート・リクシャーと個人主義
    バスと婦人専用席
   1-3 巨大人口とインド鉄道
    長距離列車と貧富の差
    巨大人口と近郊鉄道の混雑
    地下鉄と植民地時代の名残
第2章 ミャンマーの仏教と僧侶優先社会
   2-1 貧富の差と貧困
    自家用乗用車と貧富の差
    公務員の汚職と貧困
    道路と軍閥企業
   2-2 外国人料金と仏教文化
    鉄道と外国人料金
    庶民の足と中古バス
    タクシーと仏教文化
   2-3 僧侶優先社会と恐妻社会
    サイカーと信仰心
    軽トラバスと僧侶優先社会
    トラックバスと恐妻社会
第3章 タイのトゥクトゥクと微笑み文化
   3-1 サムローとトゥクトゥク
    サムローと微笑みの国
    自動車型サムローと感謝の心
    トゥクトゥクと貧富の差
   3-2 バスと寛容の心
    モーターサイと捨の心
    ソンテオと運賃交渉制
      バスと所得格差
   3-3 運河交通と仏教文化
    運河交通とタンブン
      乗合船と労働観
    水上マーケットと托鉢の商業化
第4章 カンボジアの地政的孤立と仲間意識
   4-1 バイクと小乗仏教
    バイクと事故と渋滞
    モトドップと仲間意識
    小乗仏教と個人主義
   4-2 長距離バスとルーモーと貧困
    長距離バスと貧富の差
    タクシーと貧困
    ルーモーと犯罪
   4-3 鉄道と地政的孤立とスラム
    内戦と鉄道の荒廃
    鉄道の復活と地政的孤立
    ノーリーとスラム
第5章 ベトナムの家族主義とムラ社会
   5-1 バイクと貧富の差
    自転車と貧富の差
    バイクと資産と汚職
    セオムと貧困層の生業
   5-2 バスと階級秩序と妬みの文化
    バスと階級秩序
    長距離バスと外国人料金
    タクシーと妬みの文化
   5-3 家族主義とかかあ天下
    女性と階層社会
    モーターセロイと家族主義
    戦争と農業とかかあ天下
第6章 マレーシアのイスラム教と民族主義
   6-1 バイクとインシャラー意識
    トライショーと「のんびり性」
    ブミプトラ政策と民族主義
      バイクとインシャラー意識
   6-2 バスと貧富の差
    バスと文化のずれ
    クアラルンプールと観光ツアー
    タクシーと貧富の差
   6-3 鉄道と民族的優越性
    長距離列車と貧富の差
    KTM コミューターとイスラム教
    都市鉄道と地域格差
第7章 シンガポールの厳罰主義と超多民族社会
   7-1 交通機関と超多民族社会
    都市鉄道と厳罰主義
    LRT と移民の管理・制御
    路線バスと超多民族社会
   7-2 交通管理と自己責任
    自家用車の抑制と交通管理
    タクシーと交通管理社会
      ダックツアーと自己責任
   7-3 汚職の撲滅と国家資本主義
    観光開発と汚職の撲滅
    環境保全と民族的迷信
    トライショーと国家資本主義
第8章 インドネシアの貧富の差とアパアパ文化
   8-1 鉄道とアパアパ文化
    国有鉄道と遅延の常態化
    無賃乗車とアパアパ文化
    高速鉄道と貧者的駆け引き
   8-2 バスと国民性と公衆道徳
    トランスジャカルタと国民性の三悪
      バスと道路混雑
    アンコットと公衆道徳
   8-3 バジャイとベチャと貧富の差
    タクシーと所得格差
    バジャイとプーラン文化
    ベチャと貧富の差
第9章 フィリピンの貧困とハロハロ文化
   9-1 バイクとハロハロ文化
    トライシクルと排気ガス問題
    バイクと賄賂と「いい加減文化」
    ジプニーとハロハロ文化
   9-2 バスと貧富の差
    中・長距離バスと貧富の差
    タクシーと顧客の囲い込み
    タクシーと貧困のシステム
   9-3 鉄道と貧困の文化
    フィリピン国鉄と投石対策
    都市鉄道とテロ
    スケーターとスラム
第10章 香港のトラムと消える英国文化
   10-1 トラムと住民差別
    トラムと向空中
    ピークトラムと英国階級社会
    ヒルサイド・エスカレータと住民差別
   10-2 バスと英国文化の消滅
    英国風の2 階建てバス
    中国風のミニバス
    英国風のタクシー
   10-3 香港の中国化とスラム
    香港返還と鉄道の一元化
    中国直通列車と抵塁政策
    英国風地下鉄とスラム
第11章 台湾のスクーターと負けず嫌い
   11-1 自転車とスクーター文化
    自転車と自転車道
    スクーターと文化
    スクーターと行政
   11-2 バスと負けず嫌い
    敷居の高い市内バス
    豪華バスと負けず嫌い
    タクシーと現実主義
   11-3 鉄道と儒教と賄賂
    鉄道と儒教
    對號列車と易姓革命思想
    高速鉄道の建設と賄賂
第12章 中国の階級格差と賄賂
   12-1 階級格差と偽物
    公共バスと政治的階級
    連節トロリーバスと地理的階級
    タクシーと身分階級
   12-2 三輪車と経済重視
    人力三輪車と出稼ぎ労働者
    三輪バイクと学歴的格差
    三輪自動車と経済重視
   12-3 鉄道と賄賂と奴性
    長距離列車と農民蔑視
    地下鉄と賄賂
    高速鉄道と奴性
第13章 韓国の差別と優等文化
   13-1 優等バスと優等文化
    高速バスと優等文化
    市外バスと差別文化
    観光バスと事大主義
   13-2 鉄道の反日文化と賄賂
    優等列車と民族性
    地下鉄と反日文化
    空港鉄道と賄賂
   13-3 高速鉄道と両班文化
    高速鉄道KTX と恨みの文化
    両班文化と手抜き工事
    自尊心と権威主義