現代交通問題 考


978-4-425-92851-4
著者名:衛藤卓也 監修 根本敏則・後藤孝夫・大井尚司 編著
ISBN:978-4-425-92851-4
発行年月日:2015/12/4
サイズ/頁数:A5判 304頁
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価格¥3,960円(税込)
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「交通」の研究者や学生はもちろん、公共交通・地方交通、流通に関わる企業人、そして行政や政策に携わる方たちに。種々の交通問題を解決に導くため20人の研究者が、専門知識の一端を提供するものである。

【まえがき】より 交通は、私たちの社会を支えるもっとも基本的で不可欠な基盤のひとつを形成している。人や物の移動という交通現象がすべての国や地域で観察されるわけであるが、その中身・内容は当然のことながら国や地域によって異なっている。
わが国では、人の移動の面で、交通手段や情報技術などのイノベーションによってハイレベルなモビリティ(移動)社会が実現されており、総体的にみて、交通が円滑に不自由なく行われている。多くの人々が適切な負担のもとで公平に、質の高い安全なモビリティを享受することができるようになっている。物の移動である物流の面においても、ソフト(制度・仕組み)、ハード(道路、港湾などのインフラ施設や輸送具など)の両面で改善・改革が進んでおり、ハイレベルな物流社会が形成されている。
しかしながら、高度のモビリティ社会と物流社会のなかにあっても人や物の移動過程のなかでさまざまな現象が発生し、それらが表面化・重大化すると、各種諸現象に対して多くの人々が強い問題意識を持つようになる。現象の多面性・重大性・複雑性が強く意識されるわけである。その結果、交通現象は、その多面性・重大性・複雑性に起因して交通問題として位置づけられ、考察と分析の対象となってくる。
そこで、本書では、多面的な交通問題のなかから各執筆者が関心を持つ問題をテーマとして設定し、各自の立場から考察と分析を加えている。そこでは、各執筆者がとり上げた交通問題が論理整合的に考察されており、専門的な知識として整理され結実している。それぞれの交通問題について専門的な考察を加えること、つまり深く“考える”ことであるという観点から、書名を『現代交通問題 考』とした。
交通問題を“考える”ということは、2つの意味が込められている。1つ目は、交通問題の実態ないし事実の解明を行うこと、すなわち、どうしてそのようなことが起きているのか、その因果関係または背景(本質)を論理的に明らかにすることである。解明された知識は、「あるがままの姿」としての交通問題に光を当てるものであり、現実を映す写像となる。2つ目は、実際に直面する交通問題をどのようにしたら解決することができるのかについて、あるべき方向性ないし「あり方」を追究することである。そのために、理想的な理念・目標を提示し、それを達成するための手段・方策についてどのような手段があり、どのようなメリット・デメリットがあるのかの評価分析を行い、そのうえで、問題解決の方策・処方箋を導き出すことである。そこで得られた知識は、「あるべき姿」としての解決策を提示するもので、現実を改善する「道標」となる。
本書は、こうして、さまざまな交通問題の実態を映し出す「写像」として、さらに交通問題の解決を方向づけ、解決に導く「道標」として、そのための専門知識の一端を提供するものである。本書が、交通問題に対する読者の皆さまの理解と認識を深め、自身の考え方や見方の形成に少しでも寄与することができれば大きな喜びとするものである。
ところで、私たち執筆者が所属する大学という場は、学生が教養知、専門知を吸収し蓄積するところである。私は、もうひとつ経験知も大切であり、3つの知の蓄積が重要であると考えている。学生時代における知識量の増加は、同時に多くの疑問点の増加をもたらすことになるが、それは当然のことであり、また望ましいことでもある。いずれにせよ、学生の知識量が増加することは、量的な“知”の力を身に付けるだけでなく、自身の論理的思考力と分析力、大局的・総合的な“ものの見方”、バランスのとれた判断力、コミュニケーション力など質的な“知”の力を装着させることになる。知識量の増加はまた、倫理観、正義感、責任感、忍耐力など“心”の力を磨くことにもなり、トータルとしてみれば、その人の知性・感性・品性・人間性を向上させるであろう。「大学とは若者が人生を豊かなものにする最大の機会なのである」とロソフスキーが述べているように(ロソフスキー著『大学の未来へ』TBSブリタニカ、1992、138頁)、学生が学生時代に豊かな“知”と“心”を自ら身に付ける努力を惜しまれないよう期待する一人である。
もちろん、長い人生何事もいろいろな知識の吸収・蓄積だと考えれば、上述のことは何も学生に限ったことではなく、他の多くの方がたにも当てはまることである。要は、本書が、学生だけでなく、さまざまな分野の方がたにも手にとっていただき、交通問題を考える一助となってくれればと願うものである。
本書は、日本交通学会に所属する学会員20名の執筆者によってまとめられた成果物である。各執筆者はそれぞれ、交通問題に関する多様なテーマの研究にすでに取り組んでおられる方がたであるが、執筆者の関心にしたがって選択された研究テーマの論稿が本書に収録されている。交通問題は極めて多様性・多面性に富んでおり、広範囲の問題領域を抱えているが、20名の執筆者によって完成された本書では、多くの問題領域のなかの一部に考察の焦点が当てられていることになる。
本書は、私が2015年(平成27年)に古稀の節目の年を迎えたことから、日本交通学会の一部メンバーの方がたに執筆をお願いしてでき上がったものである。各執筆者の方がたには、心温まるご協力に対して衷心より厚くお礼を申し上げる次第である。
また、本書の編集に関しては、一橋大学教授の根本敏則先生(編集代表)、近畿大学准教授の後藤孝夫先生、大分大学准教授の大井尚司先生の3人の先生方に、企画から出版に至るまでの過程において多大なご負担をおかけすると同時にいろいろとご助言、お力添えをいただいた。深く感謝申し上げたい。
最後に、本書の出版を快諾していただいた成山堂書店の小川典子社長、さらに編集から出版に至るまで熱心にお世話いただいた同書店の編集部の方がたに対し、心より謝意を表したい。

2015年11月
監修者として
衛藤 卓也

【目次】
第1部 交通の枠組みと交通問題
第1章 交通の枠組みと交通問題の所在位置
 1.1 はじめに
 1.2 交通の枠組み―物理的枠組みと制度的枠組み
 1.3 交通問題の本質と所在位置
 1.4 おわりに

第2章 交通問題へのアプローチ  2.1 はじめに
 2.2  2つの認識目的
 2.3  2つのアプローチ
 2.4 交通問題と2つのアプローチ―地方交通の問題を例に
 2.5 おわりに

第3章 整備新幹線の整備手法と交通事業における公民連携の推進  3.1 交通事業分野における規制緩和
 3.2 交通インフラの整備と交通政策の変化
 3.3 整備新幹線にかかわる検討内容
 3.4 整備新幹線の経済効果と地域に及ぼす影響
 3.5 公民連携による交通インフラの整備
 3.6 新たなインフラ整備手法の導入
 3.7 今後の課題と展望

第4章 交通政策基本法の制定と地域交通の維持のあり方  4.1 はじめに
 4.2 地域公共交通を支える制度の変遷
 4.3 地域公共交通の維持における課題
 4.4 まとめにかえて―今後の地域交通の維持のあり方

第2部 交通インフラ
第5章 人口減少時代の道路容量管理
 5.1 はじめに
 5.2 道路容量管理に影響を与える人口の減少と偏在
 5.3 道路の老朽化と道路事業費の減少問題
 5.4 道路政策の転換
 5.5 望ましい道路容量管理の考え方
 5.6 道路舗装費用に着目した道路容量管理
 5.7 おわりに

第6章 大都市圏高速道路の料金政策―首都圏三環状をケースとして―  6.1 はじめに
 6.2 首都圏の高速道路料金の問題点
 6.3 短期的に実現すべきシームレス対距離料金
 6.4 中期的に実現すべき定期見直し型混雑料金
 6.5 おわりに―長期的料金施策を見据えて

第7章 日本における交通需要管理政策の現状と課題―道路公害地域での交通需要管理―  7.1 はじめに
 7.2 交通需要管理政策の導入と国土交通省の施策
 7.3 道路公害地域での交通需要管理政策の模索<
 7.4 環境ロードプライシング
 7.5 国道43号線の走行規制問題
 7.6 おわりに

第8章 英米における混雑対策とロード・プライシング  8.1 はじめに
 8.2 混雑対策とロード・プライシング
 8.3 英国―ロンドンの混雑料金
 8.4 米国―HOV レーンとHOT レーン
 8.5 おわりに

第9章 都市におけるロジスティクスの現状と課題  9.1 都市におけるロジスティクスとは
 9.2 日本国内の物流の現状
 9.3 都市内物流における問題に関する分析
 9.4 都市内物流における課題と対策

第10章 EUにおける線路使用料の実態とEU の役割  10.1 はじめに
 10.2 線路使用料の役割と設定
 10.3 EUにおける線路使用料設定の実態
 10.4 EUにおける線路使用料の検証
 10.5 おわりに

第11章 港湾の民営化と港湾ガバナンスの変化  11.1 はじめに
 11.2 港湾の民営化の流れ
 11.3 日本の港湾の管理と運営における公共と民間の役割分担
 11.4 おわりに

第3部 交通サービス
第12章 都市公共交通整備の費用負担について
 12.1 はじめに
 12.2 都市鉄道整備における費用負担構造―わが国のケース
 12.3 都市鉄道整備における費用負担構造―欧米のケース
 12.4 上下分離と費用負担構造

第13章 IC カードが公共交通ネットワークの再生と活性化に果たす機能と役割  13.1 ICカードによるマーケティングと公共交通のシームレス化
 13.2 ICカードのネットワーク機能
 13.3 ICカードによる公共交通の再生と活性化
 13.4 おわりに

第14章 地方鉄道の現状と将来展望  14.1 はじめに
 14.2 わが国の地方鉄道の現状
 14.3 地方鉄道の経営要因
 14.4 地方鉄道への補助制度
 14.5 需要創出に向けた取り組み
 14.6 地域社会にとっての鉄道存続の意義
 14.7 今後の地域社会と鉄道

第15章 規制緩和後のバス市場の変化  15.1 はじめに
 15.2 規制緩和後のバス市場
 15.3 補助政策とサービス廃止プロセス
 15.4 需要応答型輸送(DRT)によるサービス維持
 15.5 新たな高速バス制度と事故対策
 15.6 おわりに

第16章 タクシー事業における規制政策の課題  16.1 はじめに
 16.2 タクシー市場の規制政策
 16.3 タクシー事業に対する規制政策の経済学的検討
 16.4 おわりに

第17章 物流に関する今日的課題  17.1 はじめに
 17.2 物流の仕組み
 17.3 物流の今日的課題
 17.4 おわりに

第18章 米国航空市場におけるLCCの参入と構造変化  18.1 はじめに
 18.2 CAB規制下の参入制限と競争制約
 18.3 市場参入と新規企業の動向―4つの波
 18.4 参入パターンと参入活動の変化
 18.5 LCCの上位路線と新路線への参入・路線構造の変化
 18.6 事業ビジネスモデルの典型と変容
 18.7 NWCの競争対応
 18.8 おわりに

第19章 国際物流における海空モーダル競争  19.1 はじめに
 19.2 海空モードの棲み分けと競争
 19.3 海空モーダル競争の実証
 19.4 モーダル競争と物流循環

第20章 補論――ネットワーク外部性を考慮した最適道路整備  20.1 はじめに
 20.2 混雑税と外部不経済の内部化
 20.3 ネットワーク外部性と開発利益の還元
 20.4 道路整備政策のあり方
 20.5 おわりに
カテゴリー:物流 
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