河川工学の基礎と防災 気象ブックス040


978-4-425-55391-4
著者名:中尾忠彦 著
ISBN:978-4-425-55391-4
発行年月日:2014/9/22
サイズ/頁数:四六判 204頁
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洪水を防ぐための堤防や水の流れの調節など、見慣れた川にも多くの技術が隠されています。川と人とのかかわりを、科学技術の方面から追求する河川工学の実務者が、基礎知識から洪水ハザードマップまで、よどみなく解説している、「川の取扱説明書」です。

【はじめに】より  河川をめぐっては昔から左岸と右岸、上流と下流の利害が対立しがちであった。洪水時に片方の堤防が決壊するととたんに水かさ(技術的には「水位」という)が下がり、危なかった対岸はじめ近隣堤防が安全になるということがある。水かさが増して堤防を乗り越えそうになると人々は土のうを積んで越水(川の水があふれ出ること)を防ごうとする。対岸の堤防が切れると自分の方が助かるという、せっぱ詰まった状況にあった。
 図1は、元荒川の堤防上にある「御定杭」である。洪水時に両岸の間でしばしば険悪な争いになるので代官所が調停して平時から堤防を一定の高さに制限したそうである。その高さを表示するのに杭を打った。「蓮田市史」によると、もとは木杭であったのを、1909(明治42)年に石の杭に植え替えたものという。明治政府による利根川の改修が始まった後の時点でもそういうことが行われていたわけである。
 河川は身近な自然であって、多くの人にかかわりがある。河川と人とがどのようにかかわってゆくかを科学技術の方面から追求するのが河川工学である。河川工学は個々の河川にどのように手を加えるか、あるいは、加えないか、というところに応用されるが、それらの行為は近代においては行政行為の一環として行われる。これに対して国民の意見をもっと活かすべきであるとの意見が強まり、各地でそのように運用されてきている。流域での議論を実りあるものとするためには河川工学の考え方と内容をとりまとめておくのが有効であると考え、本書を発表することとした。
 本書の第1章では河川工学の課題として、河川工学の成り立ちについて述べる。本書では日本以外の事例とも対比して日本の河川工学について述べたいので、日本の治水の歴史についても簡単に紹介する。
 河川工学の基礎としては水の流れを扱う水理学や水文学に加えて、土質力学や構造力学、さらには生物学や生態学など広範囲なものが考えられる。社会科学や人文科学の素養も欠かせない。そのなかで特に、河川工学は水を扱うものであるから、第2章と第3章では基礎事項として、河川水文学と河川水理学についての概略と水文観測について述べる。水文観測については、測定が科学の始まりであり、近代の河川工学も定量的な観測から始まった。特に著者の最近の活動はこの分野であり、アメリカの研究者Costaらの、「河川流の定量的な把握は経済的・社会的そして政治的な安全のために欠かせない。“Quantification of streamflow is essential for economic, social, political security.”」という発言もあることから、いくぶんか詳しく説明したい。
 第4章では河川のグランドデザインとして、河道計画の基本と、川の姿を規定する最も重要な構造物である堤防について述べる。第5章では水流を制御する水門と堰、河岸と堤防を水流の浸食から護る護岸などについて個別に説明する。
 第6章は、河道をはじめとする要素をどのように配置・整備して水害を防ぐか、河道の計画高水流量の定め方を軸に洪水防御計画の立て方について述べる。
 第7章は、情報を広く提供することによって洪水被害を軽減するための手段として洪水予報と洪水ハザードマップについて述べる。
 河川が日々その機能を発揮するためには、日常の管理が必要である。第8章では河川の管理について水管理・環境管理とあわせて法的な側面についても述べる。
 本書が河川をめぐる人々の相互理解の一助となれば幸いである。

2014年8月
中尾 忠彦

【目次】
第1章 河川工学の役割
1・1 河川の機能
1・2 河川工学の役割
1・3 日本の治水の歴史

第2章 雨が海に流れ出るまで 河川の水文学と水理学
2・1 降った雨が川に出てくるまで 河川水文学の過程
2・2 水かさを計算する 水理学

第3章 川を知る水文観測
3・1 流域への入力 降水量観測
3・2 川の血圧 水位観測
3・3 質量とエネルギーの流れ 流量観測
3・4 生活環境と健康の指標 水質観測
3・5 水文観測データの整備

第4章 川のグランドデザイン 河道と堤防 4・1 河道の計画
4・2 堤防のはたらき
4・3 土の堤防とその設計
4・4 特殊堤と高規格堤防

第5章 水流を制御する河川構造物 5・1 河川構造物の特性
5・2 水門で水を止める
5・3 堰による水位・流量の調整
5・4 内水処理
5・5 護岸で水流に対抗する
5・6 水制で水の勢いを弱める
5・7 床止めで河床の深掘れを防ぐ
5・8 動物や船の通り道 魚道と閘門

第6章 洪水防御計画の考え方
6・1 水文データの統計解析
6・2 基本高水ハイドログラフの算定
6・3 河道による洪水流下
6・4 ダムによる洪水調節
6・5 遊水地による流量低減
6・6 放水路・捷水路・分水路による洪水流量の分担
6・7 計画高水流量の決定
6・8 総合治水対策

第7章 洪水予測、予警報と洪水ハザードマップ
7・1 洪水予報と水防警報
7・2 洪水予測の技法
7・3 洪水ハザードマップ

第8章 河川の機能を維持・保全する
8・1 河川の法的管理
8・2 水管理
8・3 環境管理


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カテゴリー:気象ブックス タグ:気象 気象ブックス 気象災害 防災 
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