交通インフラ・ファイナンス 日本交通政策研究会研究双書27


978-4-424-92831-6
著者名:加藤一誠・手塚広一郎 編著
ISBN:978-4-424-92831-6
発行年月日:2014/3/31
サイズ/頁数:A5判 300頁
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価格¥3,520円(税込)
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1980年代以降、わが国では国鉄と日本道路公団が民営化された。近年は交通インフラのなかでも、国管理空港の運営の民間委託が進められようとしており、所有形態に関していっそうの議論が求められている。さらに、交通インフラが建設から運営の時代へと変わりつつある。交通インフラの今後の展開を考えるうえで、格付けの手法や考え方を学ぶことも重要である。本書は、交通インフラの所有形態、課金のあり方および資金調達に関する研究をひとつにまとめている。わが国の交通インフラの未来を見据えた1冊。

【まえがき】より  第二次大戦後、わが国の道路事情はワトキンス調査団の指摘にもあるように劣悪であった。その後、道路は揮発油税や自動車重量税もはじめ、自動車ユーザーの負担が財源となった。有料道路は言うまでもなく通恋雨量がはいっている。また、国内の資本不足を補うように、名神高速道路や東名高速道路は世界銀行からの借款で建設された。1951年に民間航空が再開されたとき、9つしかなかった空港も、航空機燃料税や空港使用料および航行援助施設使用料という利用者の負担が財源となっている。つまり、わが国の道路と空港インフラは利用者の負担によって整備されてきた。
 1980年代以降、国鉄と日本道路公団が民営化され、近年は国管理空港に民間の力をいれる改革が進んでいる。しかし、わが国の有料道路事業は民営化されたとはいえ、運営会社の株式は国が保有する公的色彩のきわめて強い内容である。独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が発行する債権は、市場では民間事業会社の債権ではなく、国債とのリンクが非常に強いとみなされていることはひとつの証拠であろう。
 わが国の国管理空港が指向するのも完全民営化ではなく、運営の民間委託であり、国の関与の強さは契約によって担保されることになっている。また、土地は国が所有したままであるから、民間事業者が運営しても、第三者からは公の関与が強いとみなされるだろう。アメリカの空港は公有公営であるが、空港内には競争が随所に取り入れられ、「民間的な発想」で経営されているところが多い。ここには、航空会社間の競争があること、空港運営が地元政府から一定の独立性を担保されていること、債券市場から資金を調達するために、経営の透明性が確保されていることが大きい。そして、空港のなかでも入札は当然になっているし、空港間競争にさらされている。ところが、民営化にあたって海外の事例に言及されることが多く、その場合、ヨーロッパに範を求めることが多いようにみえる。ヨーロッパでは民営の有料道路事業が展開され、空港の民営化も進んでいるからであろう。わが国の制度はアメリカから学んだものが多いが、いま一度アメリカからも見習う事柄は多いのである。
 民間という側面や採算性ばかりがマスコミに取り上げられ、筆者はイメージやムードのみでジャーナリスティックに語られる風潮に危機感をもっている。現在、分フラはわが国の数少ない成長分野と言われ、維持管理を含めてわが国の技術力は強い競争力を有する。インフラの領域は交通、上水道、発電、通信など広範におよび、それらはハードだけではなく、運営も含めてはじめて付加価値の高い財・サービスとなる。
 本書はこうしたインフラの所有運営形態、課金のあり方および資金調達に関する研究をまとめたものである。とくに、わが国では本格的に導入されていないレベニュー債や債券格付けに関する実務家と研究者による論稿は、類書にはみられない特色となっている。
 本書の前半では、今日のインフラの所有形態に関する議論とその理論的根拠、インフラのプライシングがとりあげられる。これは、インフラは誰が供給するべきか、供給者の違いによって経済効率に差が生じるのか、また、固定費の大きいインフラの課金水準をどうすべきか、という問題意識から書かれたものである。その後、公的資金で道路や空港が整備されるアメリカにおける民間資金の導入の考え方や現状が述べられている。
 後半では、レベニュー債と債券格付けの論稿がならぶ。わが国の地方債は一般財源保証債であるが、レベニュー債はむしろ日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債に近い債権である。アメリカのレベニュー債も政府や公的機関(公社なども含む)が発行し、事業の料金収入が債務の返済原資となっているからである。わが国の保有機構も料金収入を元手にしたNEXCO各社からの貸付料を担保に債権を発行しており、類似した仕組みをもつ。日米で異なるのは政府の関与の程度にある。機構が発行する財投機関債は財投債とは異なり、明示的な政府保証がつかないものの、暗黙の政府保証がある。これまでの研究で財投機関債は実質的に政府保証のある財投債とかわらないことも明らかになっている。
 他方、レベニュー債には政府保証もなく、債権の発行体が債務の返済に窮すれば破綻を逃れ得ない。たとえば、完全民営でスタートしたワシントンDC郊外のダレス・グリーンウェイ(有料道路)は1999年に破綻した。しかし、債務の返済期間の延長と通行料の値上げによって事業は現在も継続され、レベニュー債を発行している。また、アメリカの有料道路事業ではフロリダ州のサンタローザ・ベイ・ブリッジ・オーソリティが2011年に破綻した。このオーソリティは1本の橋を運営する事業体であるが、特定議員のペットプロジェクトとも呼ばれた。加えて、コンサルタント企業による需要予測のミスなど特別な要因が重なった破綻事例であるため、特例とみるべきかもしれない。とはいえ、レベニュー債の発行体はたとえそれが公的主体であっても、市場の規律が働く仕組みが備わっている。規律を支えるのが債権の信用度を示す格付けである。
 債券格付けは、アメリカのサブプライム関連証券のように市場からの信認を失わない限り、債権金利を左右するため、投資家への投資情報となる。そして、インフラ運営主体(債権の発行体)にとっては将来の利払いを示す経営情報なのである。格付け記号の定義や手法が格付け会社によって異なり、会社間で格付けにも差が生じることがある。とはいえ、現時点では格付けに代わるべき指標はないし、およそ80年の継続が格付け(会社)に対するしんようといってよい。
 しかし、金融危機において格付けは厳しい批判を受けた。それは、金融機関の損失は証券化によってリスクが分散された分だけ深く大きくなり、証券化商品にはAAAやAaa格の信用度の高い(優先)債権も含まれており、信用度の低い(メザニンやエクイティといわれる)債権の評価を反映できなかったというものであった。なによりも、批判の中心は依頼者に格付けを付与するという依頼格付けの信頼性や公平性にあったが、依頼格付けを放棄すれば、格付け会社の収益源のほとんどを失うことになり、会社の存続は不可能になる。
 社会的な批判の高まりを受け、S&PとMoody’sは格付け基準を改善したり、これまで非公表であった領域の格付け基準を公表し、格付けの透明性を高めてきた。これは、格付けに対する信頼性の回復による企業の生き残り戦略とも言えなくもない。
 しかし、格付けの考え方にはこれまで公的金融の色彩が強かったインフラの今後の展開を考えるうえで貴重な含意があり、研究対象とする価値がある。経営の破綻確率を示す格付けの手法や考え方を学ぶことは、インフラが建設から運営(経営)の時代にはいったからこそ、重要なのである。
 本書は公益社団法人日本交通政策研究会の研究プロジェクトの成果であり、執筆者は研究会のメンバーあるいは発表者である。本書は論文集の形態をとっているものの、著作物としての統一性をはかるため、執筆者にお願いした内容は、執筆内容、章立てから表記にいたるまで数多い。執筆者の方々には大変なご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げる。また、日本交通政策研究会からは研究会出版事情が大変厳しい折、毎年の研究会への助成、さらにはこのたびの出版助成を頂戴した。個人的には筆者が研究者としての道を歩み始めたことから今日までの長きにわたり研究や議論の場を頂戴し、育てていただいた。このような組織を維持してくださった一般社団法人日本自動車工業会と先輩諸氏に対しては、どのような感謝の言葉も十分ではない。
 なお、本書の執筆、編集作業を進めている2013年7月、研究会メンバーで編者の育ての親である榊原胖夫同志社大学名誉教授が事故のため急逝された。榊原先生はすでに玉稿を提出されており、本書には遺稿を収録している。本書は研究会のメンバーから榊原先生へ捧げる書でもある。

2014年2月
執筆者を代表して
加藤一誠

【目次】
まえがき
第1章 インフラのファイナンス手法と公・民の役割
 1.1 はじめに
 1.2 インフラの資金調達
 1.3 公と民の役割分担

第2章 交通インフラの維持・整備のための課金原則  2.1 交通システム費用
 2.2 交通インフラ与件で最適交通量を実現する短期限界費用価格形成
 2.3 交通インフラ与件で収支均衡を目指す短期平均費用価格形成
 2.4 長期限界費用を用いた交通インフラ容量最適化
 2.5 短期限界費用価格形成による段階的な交通インフラ容量の増加・縮減
 2.6 おわりに

第3章 維持・更新時代に向けた道路課金の転換  3.1 道路課金の現状
 3.2 道路課金の変遷と根拠
 3.3 従来の道路課金が抱えてきた課題
 3.4 道路課金の転換に期待される政策目標と課題
 3.5 おわりに

第4章 交通インフラの民間参画に関する論点  4.1 はじめに
 4.2 交通インフラの性質とガバナンス
 4.3 PFIの基本的な特徴
 4.4 PFIにおけるVFMと契約のあり方
 4.5 英国のPFI道路事業にみる支払方法の比較
 4.6 おわりに

第5章 道路の所有形態と効率性  5.1 はじめに
 5.2 形態(A):公共による垂直統合された所有と運営
 5.3 形態(B):利潤最大化を目的とする会社によって垂直統合された所有と運営
 5.4 形態(C):異なる民間による予習と運営の上下分離
 5.5 形態(D):公共の所有と民間企業による運営
 5.6 結論

第6章 わが国における拘束道路網の資金調達方式の変遷  6.1 はじめに
 6.2 有料道路制度の変遷
 6.3 高速道路のファイナンス手段
 6.4 高速道路のファイナンス・スキームの変遷
 6.5 含意

第7章 アメリカの交通インフラ整備における官と民  7.1 初期アメリカのターンパイク会社
 7.2 20世紀のアメリカ

第8章 アメリカにおける最近の動き  8.1 MAP-21の成立とTIFIA予算の拡大
 8.2 アベイラビリティ・ペイメント
 8.3 フロリダ州I-595改築プロジェクトの事例紹介
 8.4 おわりに

第9章 リース・ファイナンス  9.1 リース・ファイナンスの重要性
 9.2 航空機のリース・ファイナンス
 9.3 鉄道のリース・ファイナンス

第10章 インフラファイナンスと信用保証  10.1 交通インフラ整備の特徴とその資金調達
 10.2 信用保証とは
 10.3 信用保証の背景
 10.4 信用保証の長所
 10.5 保証機関
 10.6 アジア債券市場育成イニシアティブと信用保証基金

第11章 アメリカの地方債市場における格付けとデフォルト  11.1 地方債の信用保証(信用補完)
 11.2 アメリカの地方債の概要
 11.3 地方債のイールドとデフォルト
 11.4 おわりに

第12章 アメリカのレベニュー債に対する市場の評価  12.1 はじめに
 12.2 地方債の格付け評価とインフラ事業
 12.3 地方債に対する市場の評価
 12.4 まとめ

第13章 日本の道路事業におけるレベニュー債導入の検討  13.1 はじめに
 13.2 日本の地方債とレベニュー債の比較
 13.3 日本の道路事業におけるレベニュー債の導入可能性について
 13.4 結論と今後の課題

第14章 道路・空港セクターにおけるS&Pの信用力分析の枠組みと海外事例  14.1 はじめに〜S&Pの信用格付け
 14.2 プロジェクト・ファイナンスの格付け分析の枠組み
 14.3 事業会社の格付け分析の枠組み
 14.4 今後の展望

第15章 有料道路債と空港債の格付け基準の考え方  15.1 交通インフラの公と民
 15.2 有料道路債の格付けと格付け手法
 15.3 空港債の格付けと格付け手法
 15.4 わが国の空港評価に対するインプリケーション
カテゴリー:物流 
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