船舶で躍進する新高張力鋼―TMCP鋼の実用展開―


978-4-425-71551-0
著者名:北田博重・福井 努 共著
ISBN:978-4-425-71551-0
発行年月日:2014/2/26
サイズ/頁数:A5判 308頁
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価格¥5,060円(税込)
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日本の造船界、学会、船級協会ほかが技術を結集して開発してきたTMCP鋼と呼ばれる高性能の鋼材について、
安全性確保の検討・評価を船級規則からの視点でまとめた一冊!船会社、造船所、製鉄所、船級協会の若手技
術者や船舶の設計、施工、材料の開発実務者の方にオススメです。

【まえがき】より  日本の造船業は、高度成長期の1960年代中頃には新造船の建造量で全ヨーロッパを抜き、世界の建造量の約50%を占めるまでに成長した。その後2度の造船不況に見舞われたが、1990年以降のグローバルな経済発展に伴う船舶需要拡大により日本の建造量は右肩上がりで増加し、トップシェアを韓国に明け渡すまで世界第1位を維持してきた。
 2000年代に入って日本の造船各社は、長期化する円高や台頭する韓国・中国との過酷な競争に対応するため、事業規模とグローバルな競争力を確保すべく徹底的な固定費削減、さらには分社化・事業統合の時代に突入した。2008年のリーマンショック後は、特に世界的な船腹過剰による需給ギャップが海運・造船の市況不況として造船需要の激減、船価低迷等をもたらす一方で、最近では円安基調や今後順次導入予定の国際的な環境関連規則の強化と燃料価格の先高感を背景に、日本の造船界はその高い技術力を生かして競争力のある環境対応船・高燃費船(いわゆるエコシップ)の開発・実用化、需要喚起等を強力に押進めており、新造船の市況回復を含むグローバルな競合優位性の確保が期待される昨今にある。
 ところで、鋼材価格が船価に与える影響は非常に大きく、一般に新造船の建造原価の約30%は船体用鋼材の調達費用が占めているとされている。これに関連して1980年代以降、省エネルギー対策の一環で船舶の大型化・高性能化・軽量化がより一層求められる中、鋼材価格を抑制しつつ厳しい設計要件と建造・施工効率の向上を同時に実現する新鋼材の開発・実用化のニーズが高まった。これを受け、世界トップクラスの規模を誇る船会社、世界最高の技術力を有する造船所・製鉄所に船舶検査(新鋼材の規格化を含む)を担う船級協会が加わる国内海事クラスターの主力がその総力を結集し、世界初となる種々のTMCP型高張力鋼の開発・実用化を展開した。新鋼材としてのTMCP鋼の実用は、これまで新造船建造に係るコスト競争力と当該船舶の安全性の両面の確保に寄与し、結果として日本の海事産業全体の成長・発展に多大な貢献を果たしてきた。同時に、この活用はパイプライン、建築、圧力容器等の他分野にも波及するに至った。
 本書では、この新しいTMCP型高張力鋼を対象として、実用化検討の基礎を具体化し種々の実用例をその過程に沿って取り纏めている。特に船舶の安全性の確保や強化の根幹をなす脆性破壊防止策の各種検討・評価において、破壊力学的手法の活用を主体とする技術論を船級規則からの視点で展開するのが本書の特長である。
 本書の主たる読者としては船会社、造船所、製鉄所および船級協会の若手技術者を想定し、特に船舶の設計・施工・材料の開発実務者を対象にしている。しかれども、関係者の個々の業務や活動を拘束するものではない点に留意願いたい。
 本書の構成は以下の通りである。
 第1章では、著者が所属する船級協会の役割と種々の活動について概説した
 第2章では、船級規則の体系・概要と船体用鋼材関連規則の変遷について述べた。
 第3章は本書の核となる章で、新鋼材の実用化検討の基礎として、船体用鋼材に必要な基本性能を含め、破壊力学的手法活用の考え方と同手法を用いた新鋼材実用化検討の具体化について述べた。
 第4章から第7章までは、第3章で述べた新鋼材に係る検討手法に基づき実用化した、TMCP型のYP32・YP36鋼、高強度YP40鋼、高強度極厚YP47鋼およびアレスト鋼についてそれぞれ述べた。
 本書の執筆にあたっては。1970年代から現代までの約40年間に亘るTMCP鋼の実用展開の総括とすべく、各章の記述が可能な限り首尾一貫した表現になるよう留意した。加えて、この40年余の間に開発の種々のTMCP型高張力鋼の実用化について、これまでの公表論文を基に船級規則からの俯瞰的な技術視点で調整し、さらにその時点での考え方や内容を極力尊重した。船舶分野で類書のない現状を見ると、この意味で本書はいささかの意義を持つものと思料する。
 本書で使用する図表、用語、記号、単位等については、出来るだけ統一を図ったが一部でその用法が混在している。また、第4章から第7章では、実用の具体例を各章毎に独立させたため検討手法や考え方に重複あるいはその内容に粗密が若干生じている。この天については、本書執筆の趣旨も換鑑みご容赦願いたい。
 本書が、船舶を始め他分野においてもTMCP鋼の実用展開に係る基礎知識・資料を提供する技術書ないし解説書として迎えられ、関係者の知識向上とさらなる新鋼材の実用化の契機に資すれば、著者にとってこれ以上の喜びはない。

【目次】
第1章 船級協会の役割
 1.1 船級および船級協会とは
 1.2 IACS等国際組織の概要
 1.3 NK船級協会の活動

第2章 船級規則の体系  2.1 船舶に係わる規則全般
  2.1.1 規則全般の概要
  2.1.2 規則の制定・導入の手順
 2.2 船体用鋼材関連規則の変遷
  2.2.1 鋼材・溶接と材質選定の規格
  2.2.2 TMCP鋼の規格導入
 2.3 船体用鋼材関連の規則化の動き

第3章 新鋼材の実用化検討の基礎  3.1 船舶における鋼材の基本性能
  3.1.1 鋼材に必要な基本性能
  3.1.2 脆性破壊事例
  3.1.3 靭性要求の基本
 3.2 鋼材規格に対する従来の評価
  3.2.1 靱性要求の実際と背景
  3.2.2 定量的評価事例
 3.3 破壊力学的手法活用の考え方
  3.3.1 合理的な靱性要求の実現
  3.3.2 破壊力学的手法の活用
 3.4 新鋼材実用化検討の具体化
  3.4.1 検討課題設定の考え方
  3.4.2 脆性破壊の防止対策その1(発生特性関連)
  3.4.3 脆性破壊の防止対策その2(アレスト性能関連) 

第4章 TMCP型YP32・YP36鋼の有効利用  4.1 TMCP鋼の有効利用
 4.2 TMCP鋼の実用に伴う適合性評価
  4.2.1 基本的な評価方針
  4.2.2 TMCP鋼の使用区分
  4.2.3 TMCP鋼大入熱溶接継手部の要求吸収エネルギー
 4.3 TMCP鋼の材質性能評価
  4.3.1 母材および大入熱溶接継手の強度特性
  4.3.2 現場施工を考慮した溶接性・加工性
  4.3.3 TMCP技術の活用
 4.4 TMCP鋼の実用による船体構造の高張力鋼化

第5章 TMCP型高強度YP40鋼の実用  5.1 高強度YP40鋼実用の考え方
 5.2 YP40鋼の破壊靱性値推定手法
  5.2.1 基本的な検討方針
  5.2.2 V-ノッチシャルピー衝撃試験結果の吸収エネルギー〜温度遷移曲線
  5.2.3 V-ノッチシャルピー衝撃試験結果からの破壊靱性値推定手法とその妥当性
  5.2.4 船体用鋼材母材および大入熱溶接継手部の最低破壊靱性値の推定
 5.3 YP40鋼の使用区分
  5.3.1 基本的な検討方針
  5.3.2 YP40鋼に対する要求破壊靱性値
  5.3.3 YP40鋼各グレード材の最低破壊靱性値
  5.3.4 YP40鋼の使用区分
  5.3.5 IACS規則に対するYP40鋼の使用区分の適合性評価
 5.4 YP40鋼の溶接継手部に必要な破壊靱性値
  5.4.1 基本的な検討方針
  5.4.2 YP40鋼大人熱溶接継手に対する要求破壊靱性値
  5.4.3 YP40鋼大人熱溶接継手部の破壊靱性値
  5.4.4 YP40鋼大人熱溶接継手部の要求吸収エネルギー
 5.5 YP40鋼の材質性能評価
  5.5.1 YP40鋼に対する要求性能
  5.5.2 母材の強度特性とその評価
  5.5.3 大入熱溶接継手の強度特性とその評価
  5.5.4 疲労強度特性とその評価
  5.5.5 現場施工を考慮した溶接性・加工性の検討とその評価
 5.6 YP40鋼の実用実績と評価
  5.6.1 YP40鋼実用大型船の実績
  5.6.2 YP40鋼実用大型船の評価

第6章 TMCP型高強度極厚YP47鋼の実用  6.1 高強度極厚YP47鋼実用の考え方
 6.2 YP47鋼の使用区分および溶接継手部に必要な破壊靱性値
  6.2.1 基本的な評価方針
  6.2.2 YP47鋼の破壊靱性値推定手法
  6.2.3 YP47鋼の使用区分
  6.2.4 YP47鋼の溶接継手部に必要な破壊靱性値
 6.3 YP47鋼のアレスト性能を考慮した構造配置
 6.4 YP47鋼の材質性能評価
  6.4.1 YP47鋼に対する要求性能
  6.4.2 母材および大入熱溶接継手部の強度特性とその評価
  6.4.3 脆性破壊強度特性とその評価
  6.4.4 脆性破壊伝播停止特性とその評価
  6.4.5 疲労強度特性とその評価
  6.4.6 現場施工を考慮した溶接性・加工性の検討とその評価

第7章 アレスト鋼の活用  7.1 アレスト鋼活用の考え方
 7.2 TMCP型アレスト鋼の性能評価
  7.2.1 通常運航時を対象としたクラックアレスターの評価
  7.2.2 非常時を考慮したクラックアレスターの評価
  7.2.3 高強度極厚鋼のクラックアレスターとしての評価
 7.3 脆性亀裂アレスト設計
  7.3.1 脆性亀裂アレスト設計の策定
  7.3.2 大型コンテナ船を対象とした脆性亀裂アレスト設計策定の技術的背景


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カテゴリー:造船 
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