都市を冷やすフラクタル日除け−面白くなくちゃ科学じゃない−気象ブックス037


978-4-425-55361-7
著者名:酒井 敏 著
ISBN:978-4-425-55361-7
発行年月日:2013/7/9
サイズ/頁数:四六判 224頁
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価格¥1,980円(税込)
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雨風をしのげない不思議な日除け、一見、役立たずに見えるが・・・。
樹木の形状を模したまったく新しい形の日除け。
隙間だらけのスカスカの構造が、木陰のような
涼しく爽やかな空間を創り出す!
都市を暑くするヒートアイランド対策の救世主
ともいうべきフラクタル日除けにたどりついた
京大ならではの発想と、「科学する」ことの
楽しさがぎゅっと詰まった一冊。
組み立ててフラクタル日除けを実感できる
「シェルピンスキー四面体」のペーパークラフト付き!

【はじめに】より 「フラクタル日除け」は、樹木の形状を模した全く新しい形の日除けです。普通の日除けとは違い、隙間だらけの不思議な構造をしています。このスカスカの構造が、木陰のような涼しく爽やかな空間を創りだします。都市を暑くするヒートアイランド現象と、このフラクタル日除けが、この本のテーマです。
 これまで、都市のヒートアイランド対策としては、都市の「気温を下げる」ことが主眼に置かれていました。しかし、このフラクタル日除けは気温を下げません。気温ではなく、日陰を作ることで、都市の表面温度を下げることを目的としています、また、日除け自体の温度を上げないために、遮った太陽エネルギーは大気に放出します。それでは反対に気温が上がってしまい、暑さ対策の意味がないのではないかと思われるかもしれませんが、実はこれが本質的に重要なのです。
 フラクタル日除けは、自然の樹木の形を真似しています。植物は形じゃなくて水を蒸発させることが重要なんじゃないの、と思うかも知れません。確かに、植物の蒸発効果は重要ですが、それだけでは夏の太陽からの熱に対応することはできません。夏の太陽熱は、降水量の数倍の水を蒸発させるだけの力があります。つまり、蒸発熱ではなく、熱を直接大気に放出する方策が絶対に必要で、そのためには、その形が重要だったのです。
 都市の表面温度の話にしても、植物の
話にしても、これまでいろいろ言われてきた話と違うじゃないか、と思うかも知れません。そうです、ちがいます。だから面白いのです。そもそも、常識を変えるのが科学ですから。ということは、これは、定説ではありません。そのうち定説になると私が思う話です。定説にならなかったら、ごめんなさい。
 よく「どうしてこんなこと思いついたんですか?」と聞かれます。私自身、ほんの数年前まで、フラクタルがヒートアイランドと関係があるとは、夢にも思いませんでした。でも、科学とはもともとこんなものなんじゃないかと思います。わかってしまえば、そんなに難しい話じゃないけど、それを思いつくのはそんなに簡単じゃない。意外なところで、意外な答えを見つける。これが面白いのです。また、「京大らしいですね」とも言われます。でも、これは、ちょっと複雑な気持ちです。私自身、几帳面なヒートアイランド対策とは違って、雨も風もしのげない穴だらけのフラクタル日除けの、ちょっと間抜けで「ゆるい」感じが好きです。だから、この言葉はうれしくもあります。しかし、最近の京大にはその「ゆるさ」がなくなって面白くなくなってきてしまいました。やっぱり、京大にはこういうものが似合うと思うんだけどな、と寂しさとともに悔しさを感じます。
 世間の人々が「京大らしい」と感じるところを一言でいえば、馬鹿正直に正攻法で攻めるるのではなく、人とは違う考え方にこだわるところだと思います。これは関西人独特のお笑い精神と見る向きもありますが、もう少しまじめな表現をすれば、所詮人間の考えることは、ちっぽけである、ということを前提に、ちっぽけな人間が考えた「正解」とは違う解を探すことを目指していると言ってもよいでしょう。本当の科学の醍醐味は、予定調和ではなく、予想外の答えを見つけることにあると思うと、むしろ、これが正攻法かもしれません。でも、予想外の答えはそう簡単には見つかりませんから、たいていの試みは失敗に終わります。あまり肩肘張って真面目な顔をしていると、失敗した時に格好悪いし、プレッシャーばかりかかるので、それから逃れるための「ゆるさ」でもあるのです。
 そもそも、自然界は予定調和ではありません。基本的に予測不可能なせかいです。その中で生き物は、長い時間をかけて地球とともに進化してきました。一方、人類は高度な思考能力で科学技術を急速に進歩させました。しかし、その歴史は、地球の歴史に比べれば一瞬でしかありません。我々が、地球や地球上の生き物の仕組みについて、知っていることはまだまだ極僅かでしかないのです。我々にはコンピューターという有力な道具がありますが、コンピューターは現在我々が持っている知識に基づいて、計算するだけなので、基本的にわかっていることしかわかりません。自然科学はやはり、未知の法則を求めるところが面白いのです。そして、未知のアイデアはコンピューターの中ではなくて、自然の中にまだまだたくさんあるはずです。
 そういう自然と付き合うには、一休さんのように、ゆる?く構えるのが一番なわけですが、それでも相手は格段に上手なので、たいていはうまくいきません。あまり失敗ばかりしていると格好悪いので、普通、失敗談はあまりせずに、うまくいった時だけ、後から格好のよい理屈をつけて、さも最初から論理的に狙い澄まして成功を導いた「ふり」をします。私もフラクタル日除けの説明を求められると、大抵はそのような説明をします。そのほうが簡単で、わかりやすいからです。
 ところが、この「ふり」がうまく機能しすぎたのか、最近では、だんたん世間が失敗を許してくれなくなってしまいました。百発百中を求められるのです。本当は、百発中一発あたれば、大成功ですし、本当の面白さは、失敗も含めたどんでん返しの展開にあるのです。そこで、この本では、本当の面白さをわかっていただくため、後付の言い訳はやめて、あえてそのような失敗や裏事情も含めて正直に書きたいと思います。
 したがって、本書は論理が一筋ではなく、あちこちに飛びます。コラムが異常に多いのも、そのためです。読みにくいと思いますが、しばらくお付き合いください。

【目次】 はじめに

それ、ほんと?【疑問編】  はなしの始まり
  コラム1 天空率
  コラム2 プランクの法則とステファン・ボルツマンの法則
 専門はなんですか?
  コラム3 古き良き大学「アホなことせい」
 遊園地の管理人
  コラム4 教育はアホになるチャンス
  コラム5 目的外使用 一流の鉄則
 みんなの地球科学
  コラム6 ペンクのまじない
 つくって・はかって・新発見! こども気象探偵団計画

やってみらたええやん!【実践編】
 理科離れなんかしていない
  コラム7 端っこ理論 人間の多様性
 京都都市ヒートアイランド観測計画
  コラム8 百葉箱の咲く枝
 測器の設計製作
  コラム9 黒い百葉箱
 観測結果

マジで!?【理解編】  大気境界層の基礎
  コラム10 1=2? ザックリ考えよう
 昼間と夜の境界層
  コラム11 空気は断熱材?
 雲の影響
  コラム12 観測用コスプレ
 熱慣性の測定
  コラム13 放射温度計と空の温度
 素材の熱慣性
 人工排熱
 風が都市を冷やす
 過去の研究をレビューしてみたら
  コラム14 オーク先生のまじない
  コラム15 待てば海路の日和あり
 都市の表面はなぜ熱い?
 黒球温度計
  コラム16 国家公務員は病気をしない
 ピンポン玉式黒球温度計
 小さいものは熱くならない
  コラム17 熱境界層
 mとcmでは大違い
 役に立たない数学
 フラクタルの誕生
  コラム18 フラクタル次元
 研究科長からの電話
 三次元空間の中の二次元立体
 シェルピンスキー四面体は最適か?
  コラム19 ランダム配置とフラクタル配置
 暖簾に腕押し

行き当たりばったりの出たとこ勝負【完成編】  八方塞がり
 特許出願
  コラム20 シーズって種だよね
 四畳半実験
 イノベーションジャパン出展
 新風館(リアルオープンカフェ)
  コラム21 走りながら考える
 樹木の次元
 日本科学未来館
 自然は完璧を求めない

その後のはなし  世の中、二種類の人間がいる
 これで終わらない
 京都大学文化遺産
  コラム22 スケールフリーネットワーク
  コラム23 酸素は毒だった
  コラム24 ナマコ理論

(気象図書)


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