さけ・ますふ化場−15年間の体験記−


978-4-425-88571-8
著者名:田中哲彦 著
ISBN:978-4-425-88571-8
発行年月日:2012/2/20
サイズ/頁数:A5判 290頁
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さけ・ますふ化事業黎明期の貴重な体験をまとめた書!
戦後日本の水産業を支えてきたさけ・ますふ化放流事業。第一線の現場で試行錯誤してきた著者による、ふ化場全盛期の貴重な体験記録。

【プロローグ】より 私がさけ・ますふ化場に入った昭和38年(1963年)は、北海道でサケ・マスのふ化放流事業が本格的に始まった年(明治21年)から数えて75年目に当たっていた。また、国が法律に基づいて自らふ化放流事業を行うことになった昭和27年から10年が過ぎた年であった。この長い歴史に加え、国が実施した新体制も整い、また、高度経済成長を背景とした予算措置の充実で新しい技術や事業への取組みも進み、正にふ化放流事業は飛躍の時代に入っていた。
このようにふ化放流事業が新たな躍進を遂げていた時期に、私はふ化場の職員として15年間にわたって勤務し、サケ・マスに関して体験したことを何かに書き残し、サケ・マスの生態や、その資源を増やすためのふ化場放流事業に関する知識などを多くの人に伝えたいと思い、その準備を始めようとしていた。その矢先にふ化場を去ることになった。
このため、私の思いは中断を余儀なくされた。そこで北海道を去るに当たり、いつの日にか、その実現を期待して手持ちのサケ・マスに関する資料はできる限り捨てずに残そうと数個のダンボール箱に詰め込まれた。その後、箱は開かれることなく、異動などのたびに各地へ持ち運ぶことになった。
それから30年以上が過ぎ、私は定職から開放されて自由の身となった。そこでようやく資料が取り出され、懐かしい昔がよみがえってきた。こうした未整理の資料に目を通しながら、少しずつ資料を片付ける機会がやってきた。そうして、このサケ・マスの資料と自分の記憶とを整合させながら、北海道でのふ化放流事業を通して得た当時の体験を再現させ、これを体験記としてまとめようという気持ちになった。
とは言え、今日では、サケ・マスを紹介した本などは数多く出版されており、何もいまさらと言う気がしないでもなかった。しかし、私が書こうとしているものは、従来のサケ・マスの本とは少し趣を異にし、ふ化場での15年間を通して、私自身が体験したことを中心にして、当時、さけ・ますふ化場が取り組んできたふ化放流事業の新しい諸施策や推進や、これを支える野外調査・研究などによってサケ・マス資源が飛躍的に増大してきたことを主なテーマにまとめた。加えて、こうした事業展開の場面に登場したサケ・マスの生態、事業や調査・研究に係わった人たち、ふ化場の界隈、河川などの環境、当時の時代背景、それに体験者として多少の私的な話なども盛り込んでまとめました。
ただ、私がサケ・マスと付き合っていた時代は、既に30年以上も前の話であり、当時の記憶を思い出すことはますます難しくなっていた。しかし、持ち合わせていた資料と、それに差し込まれていたメモや書き込み、さらには、非常に断片的ながら残されていた日記まがいのメモ、と言ったあらゆる痕跡を探しながらサケ・マスとともに暮らした当時の記憶の確認と再生に多くの時間が費やされてしまった。当初はのんびり3年ぐらいでまとめたいと思っていたが、作業を中断したり、大幅な書き直しをしたりしたため、書きだしてから5年以上も過ぎ、ようやく書き上げることができた。
こうした昔の記録が、今どういう価値があるかは分からない。しかし、当時、ふ化放流事業が急速に発展し、最も輝きだしていた時代でもあったので、これを何とか記録に残して置くことは重要と考えたい。幸い、この時代にふ化放流事業に携わってきた一人として、私の体験が何かの約に立つこともあるかと思い、ここにふ化場生活15年間の体験記を残した。
なお、本書の出版にあたり、成山堂書店編集グループ長の板垣洋介氏には、当初から原稿を見てもらい、長期間に亘って辛抱強く、ご指導・ご助言を頂いた。
また、本書の内容である私のふ化場生活15年間においては、かなり昔の話になってしまいましたが、当時、一緒に仕事をさせてもらったふ化場職員の皆さんには大変なお世話になりました。ここに厚くお礼申し上げます。
特に、これらの皆さんのうち、渡島支場時代の全期(4年)と本場事業第二課時代(1年)の麓龍司氏、十勝支場時代の全期(2年)と本場事業第二課時代(3年)の石川嘉郎氏の両氏には、直接の上司として、公私に亘って大変お世話になった。また、本場事業第一課、第二課時代の上司だった坂野栄市氏、ふ化場一年生の時から、サケ・マスの調査研究について色々と教えを受けた調査課(当時)の小林哲夫氏、慣れないふ化場一年生の時代に何かと支えてくれた企画課(当時)の佐々木正夫氏には大変お世話になった。
また、ふ化場生活と、この本の出版を支えてくれた妻まき子に感謝する。

【目次】
第1章 旅立ち
 1 北への旅立ち
 2 初めて見る北海道

第2章 ふ化場1年生  1 さけ・ますふ化場本場
 2 再生産曲線とタイガー計算機
 3 初めての出張
 (1)北見地方のふ化場と増殖河川を見学
 (2)茶路川でサケ卵の埋没ふ化作業を体験
 (3)網走事業場で立体式ふ化方式を学ぶ
 4 8億粒計画
 5 若人寮
 6 サケの頭を叩いてみないか

第3章 十勝の生活  1 大正町
 2 十勝支場と十勝事業場
 (1)卵輸送車
 (2)マイナス32度
 (3)ふ化盆の塗装
 (4)ふ化作業の四季
 (5)2人のベテラン事業場長
 3 千代田堰堤
 (1)採卵場駐在の記
 (2)グロテスクな石との出会い
 4 十勝川系サケの大豊漁
 (1)卓越年級群
 (2)サケ卵の大規模な移殖
 (3)サケ親魚の沿岸回遊の経路
 5 降海したサケ稚魚
 6 水産孵化場の事業を体験
 (1)摩周湖のニジマス採卵
 (2)然別湖のオショロコマ採卵
 7 旅立ちに当たって贈った川柳

第4章 本場の生活  1 二度目の札幌
 2 事業第二課
 3 岩尾別事業場での体験
 4 放流稚魚の生残り対策
 (1)稚魚への給餌
 (2)河口を通過する稚魚の観測
 (3)降河する稚魚の保護
 5 新しい資源を造成する試み
 (1)マスノスケ資源
 (2)ベニザケ資源
 6 サケ卵のヘリ輸送
 7 推進整備計画
 8 北洋へ
 (1)出 港
 (2)漁場と水揚げ
 (3)監督官の業務
 (4)サケ・マスの魚体測定
 (5)出会った海鳥と海産哺乳動物
 (6)母船生活の断面
  その1 母船
  その2 船医
 9 本州へのマス卵移殖
 (1)新潟県へのカラフトマス卵移殖の旅
 (2)富山県へのサクラマス卵移殖の旅
 10 サケ親魚の沿岸域での標識放流
 11 渡島支場への接近

第5章 渡島の生活  1 八雲町
 2 渡島支場と八雲事業場
 3 遊楽部川のサケ
 (1)ふ化事業の歴史
 (2)親魚捕獲数の推移
 (3)?直営捕獲場
 (4)密漁取締り
 4 遊楽部川のカラフトマス
 (1)造成された資源
 (2)捕獲と採卵
 (3)卵の移殖
 5 道南地方のサクラマス
 (1)尻別川のサクラマス
 (2)保護水面などによるヤマベの保護
 (3)その他河川のサクラマス
 6 遊楽部川の各種調査
 (1)稚魚の標識放流と回帰調査
 (2)河口通過稚魚観測事業
 (3)河川の餌生物調査
 (4)サケの品種改良試験
 (5)ギンザケの放流試験
 (6)遊楽部川と噴火湾におけるサケ・マス稚魚の生態調査
 7 知内川の仮設ふ化とふ化場適地調査
 8 民間ふ化場
 (1)茂辺地ふ化場
 (2)民間ふ化場の育成

第6章 本場に戻っての生活  1 三度目の札幌
 2 企画課
 3 後期計画(昭和51〜55年)
 4 常呂川と斜里川の環境調査
 (1)?常呂川の調査
 (2)?斜里川の調査
 5 川は海から山に上る
 6 支笏湖のヒメマスに原因不明の病気
 7 幻のイトウ
 8 南米チリでのサケ増殖計画
 9 本庁への配置換

第7章?回帰  1 飛行機の中で
 2ふ化場から新しい職場へ

補 遺  1 オンコリンカス
 2 母川回帰
 付 図 サケ・マス増殖河川図



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カテゴリー:水産 
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