改訂 生鮮水産物の流通と産地戦略


978-4-425-88552-7
著者名:濱田英嗣 著
ISBN:978-4-425-88552-7
発行年月日:2018/3/28
サイズ/頁数:A5判 168頁
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価格¥2,970円(税込)
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硬直している生鮮水産物流通機構に、風穴をあける。
はたして、その取り組みは成功しているのだろうか?生産者、販売者側の独りよがりになってはいないだろうか?
産直、SCM、地域ブランドの取り組みなど、生鮮水産物の流通の変化と産地戦略の実態を探り、今後の生き残り戦略を提案する。

【改訂版発行にあたって】 本書は2011年に出版されたので、7年が経過している。本書の執筆にあたり,生鮮水産物流通の実情を広く紹介したいということよりも,流通経済論・商業論・マーケティング論の知見を生鮮水産物流通にあてはめ,工業製品や農産物とも違う生鮮水産物流通の特質なり独自性を明らかにし,併せて漁業者や漁業生産者団体による産地の市場対応,販売戦略に対して疑問に思う点を指摘することで,より効果的な取り組みを目指してもらいたいということを狙いとした。そういう意味では「辛口」の文体となったが,まず改訂版を出版できることについて御礼申し上げたい。
改訂に際しては,時間的制約や紙幅面での制約があり,とくに第3章の「地域ブランド化に関する評価」に絞り,内容を全面的に書き直した。初版ではブランド研究成果を幅広く紹介したが,今回の改訂版では削除し,代わりにブランド理論を水産物ブランドに落とし込み,現場で水産物ブランド化に取り組んでおられる方々の目線から,水産物ブランド独自の論理化を意識して可能な限りわかり易く書き直した。
第3章の通奏低音としてブランド価値に照準を当て,その価値源泉として理論的に地代論(レント)を据えた。また,水産物ブランド成功事例も高級ブランドの下関フグに加えて,大衆ブランドであるノルウェーサーモンを追加した。これらの加筆修正の結果,第3章のタイトルも「水産物ブランド化の論理」に変更している。つまり,水産物のブランド化は工業製品ブランド化戦略に該当する品目もあるが,全く当てはまらない品目もあることを改訂版では示し,水産物特有のブランド化戦略の提起を目指した。
我が国の豊かな社会経済が今後も継続される中で,生鮮水産物流通が演ずべき役割がさらに変貌を遂げることは間違いない。流通が果たす基本的機能は「需給調整」である。この「需給調整」の中でブランド化を含め量的調整機能ではなく,質的調整機能をどのように強化すべきか,生鮮水産物流通がかつてのような輝きを取り戻せるかどうかは,この一点にかかってくると思う。この点からの理論,実体両面の探求が生鮮水産物流通研究のポイントとなろう。最後に,改訂版の出版にあたり,ご助言頂いた成山堂書店の宮澤俊哉氏にも深謝の意を表したい。

2018年2月
濱田英嗣

【序言】 水産物流通において,大きな変化が進行中である。中央卸売市場の集荷力や価格形成力が明らかに低下し,スーパー主導の流通体制が構築された。大手スーパーが漁業者団体と直接取引するという動き,漁業者(団体)が地方自治体等と連携して直販所を設置する動き,地場水産物の地域ブランド化を目指す動き等,新たな取り組みがとくに2000年以降に活発化している。これらに対するマスコミ等の取り上げ方は,硬直化している生鮮水産物流通機構に対して,「風穴を開ける」動きが開始されたというものが基調となっている。
しかしながら,世間の耳目を集めた大手スーパーと生産者団体の取り組みは,かつての産直に酷似し,また生産者による直販所は意義を認めつつも,流通機構全体への影響力という視点にたてば極めて限定的なものに留まらざるを得ない。地域ブランド化の取り組みについても,成功の鍵を握る消費者観察を徹底して行うというより,業界・行政による,業界・行政のための,業界・行政に対する取り組みという性格が強く,本来のブランド戦略から大きく外れたものが大半で,現状では大半が失敗するのではないか,と予測している。
低価格化が完全に浸透し,厳しい産地流通の状況下で,生産者団体としてどのような戦略を講じるべきか,そのためには現実に生じている生鮮水産物流通(機構)の変化について冷静に考察し,その変化の中で,生産者団体が今後講じるべき課題を検討することが求められていると思う。本書のテーマを「生鮮水産物の流通と産地戦略」とした所以である。
本文中でも触れているが,2000年以降のわが国の生鮮水産物流通状況は,1900年前後のアメリカの製造業者が置かれていた流通・消費環境と近似している。当時アメリカの製造業者は,既存販売先対応の「流通」と決別し,「マーケティング」という新たな世界を開拓し,経営を発展させていった。自らが流通過程に関与することで突破口を見いだしたのであった。
2000年以降に活発化している漁業生産者団体による取り組みは,流通機能を取り込むことで,生産サイドの価格形成関与を狙うという共通項がある。価格形成に生産者側が関与しなければ,漁業経営が維持・存続できないという認識が生まれているのである。ただし,価格形成に関与するための劇的な処方箋はどこにも存在しない。各組織が地道に創意工夫し,流通機能を内部に取り込む以外に方策はないのである。自らがマーケティング活動を意識し,適正価格を求めて閉塞状況を突破する行動を一歩一歩進む以外に,「起死回生」策はないと考えたほうがいい。また,それ以外に生き残る途は残されていない。
本書は,生産者団体の新たな取り組みに対する私なりの評価である。少し辛口となっているが,それは新たな取り組みにおいて,最も重要と思われる「消費者視点」が希薄と感じていることによる。生産者団体が生き残りをかけて流通に関与するのであれば,「消費者視点」が前面に出てしかるべきである。しかし,取り組みの大半はなお消費者不在なのではないか。この点を本書の「下味」としているが,不足している点は読者に補って頂くことをお願いしたい。なお,“第4章第2節 対韓輸出ビジネスの実態”は,長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科山本尚俊氏との共同執筆である。山本氏と共同で国内のタチウオ流通調査を実施し,山本氏の原稿をもとに著者が若干加筆修正している。
最後に,出版にあたり適切な助言を頂いた(株)成山堂書店の編集部の方々にお礼申し上げたい。

2011年11月
著者

【目次】
第1章 生鮮水産物流通機構の概要と産地流通問題
 1 生鮮水産物流通機構の仕組みと活動
  (1)産地卸売市場の構成者と機能
  (2)消費地卸売市場の構成者と機能
  (3)卸売市場の種類と管理・運営体制
 2 生鮮水産物流通機構の歴史
  (1)流通近代化とその意味
  (2)中央卸売市場の変質による生鮮水産物流通の変化
 3 スーパーの成長と産地流通問題の深刻化
第2章 直売所,産直,SCMの評価
 1 直売所の躍進とその評価
  (1)直売所の意義と限界
  (2)水産版SPAとしての直売所
  (3)直売所におけるPDCサイクル(Plan Do Check)の必要性
 2 産直の模索とその評価
  (1)産直の始まりとその取り組み
  (2)今日の産直の評価と課題
 3 SCM(サプライチェーン・マネジメント)とその評価
  (1)SCM(Supply Chain Management)待望論
  (2)水産版SCM事業の諸論点
  (3)水産版SCMの展望
 4 新たな生鮮水産物流通への期待と課題

第3章 水産物ブランド化の論理  1 水産物ブランド品とはなにか
  (1)ブランドの定義
  (2)ブランドを生み出す現代社会
  (3)水産物のブランド類型
 2 水産物ブランド化の成功事例
  (1)下関フグのブランド価値と成功要因
  (2)ノルウェーサーモンのブランド価値と成功要因
  (3)日本における柑橘系養殖ブリブランド化の評価
 3 水産物ブランド化の取り組み課題
  (1)ブランド化する意味,目的の明確化
  (2)ブランド基準の甘さ
  (3)情報量・質ともに圧倒するブランド産地
  (4)確立されたブランドを巡る進化の課題
 4 京都に地域ブランド化のヒントあり

第4章 生鮮水産物輸出-タチウオの対韓輸出の効果とビジネス-  1 東アジアにおける水産物消費市場圏の形成
  (1)流通グローバル化に関する4説
  (2)2つの流通グローバル化の流れ
 2 対韓輸出ビジネスの実態
  (1)S水産の例
  (2)F社の例
  (3)YG社の例
 3 韓国内の流通ルート
 4 対韓輸出に伴う日本国内への影響
 5 ケーススタディーで得られた評価と課題

第5章 スーパーによる生鮮水産物システム化の困難さ  1 業態開発とスーパーの成長要因
 2 スーパー間の競争構造の推移
  (1)スーパー展開の時期区分
   Ⅰ期 1975~1984年/Ⅱ期 1985~1994年/Ⅲ期 1995年~
  (2)スーパー間の競合の諸相
   競争の激化と過剰な情報化投資/仕入・商品政策の見直し
 3 「焼畑商業」としてのスーパー
 4 スーパーによる生鮮水産物取扱事例
  (1)Kスーパーの例
   概要/水産物仕入れ・販売実態とその特徴/小括
  (2)Hスーパーの例
    概要/水産物仕入れ・販売実態とその特徴/小括
 5 ケーススタディーより得られた結論
  (1)POS・EOS等情報システム活用の課題
  (2)スーパーの本部と各店舗の情報共有の課題
  (3)スーパーの生鮮水産物取扱の総合評価
 6 補説 大手スーパーの功罪-管理型商業組織に対する評価-
  (1)管理型商業組織への移行-「文化的流通」から「文明的流通」への移行-
  (2)管理型商業組織に対する反動

第6章 生鮮水産物流通における多段階システムの強さと問題点  1 多段階流通の必然性
  (1)生鮮水産物取扱商人(商業)の特性
  (2)商業者による売買集中の原理
  (3)販売可能性の濃淡と段階分化
  (4)品揃え形成の特質
 2 多段階流通のきしみとその評価
  (1)分業を巡る環境変化
   成長神話の完全喪失/消費者購買価格の低落と多段階コスト体質問題の顕在化/トレーサビリティの社会的要請
  (2)分業から派生する課題
   多段階流通の現段階的評価/市場外流通と市場流通の比較論的整理

終論 生鮮水産物流通の展望と産地戦略  1 先行する工業製品の流通変化
 2 生鮮水産物流通の展望と産地戦略
  (1)水産物市場の縮小と流通多段階性
  (2)生鮮水産物流通機構の展望
  (3)新たな産地戦略の取り組み
  (4)産地発展戦略としてのマーケティング


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カテゴリー:水産 
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