操船の理論と実際(増補版)


978-4-425-47122-5
著者名:井上 欣三 著
ISBN:978-4-425-47122-5
発行年月日:2021/3/8
サイズ/頁数:B5判 340頁
在庫状況:予約
価格¥5,280円(税込)
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船舶の安全運航に必要な操船の理論と、実際の船の動きを結び付け体系化。近年の船型の多様化と大型化に対応した新しい操船の教科書。

★本書のポイント★
●船舶の安全運航に必要な、操船の「理論」と「実際」を結び付け体系化。
●操船に関する科学的知識を踏まえ、海上で
 「実際に船はどう動くのか」を実務的観点から詳細に解説。
●近年の船型の多様化と大型化に対応した新時代の操船の教科書。
●現場で有用な各種船舶の操船性能をデータベース化。
 シミュレーションでの研修にも役立つ。

【『操船の理論と実際』増補版発刊にあたって】 「操船の理論と実際」の増補版について執筆の打診を得たのは,2020年6 月の終わり頃だったと思う。まだコロナの影響が及んでいたころと思われるが,結局,年をまたいだ2020年3月に増補版発刊となった。「操船の理論と実際」は2011年に初版が発行され,そして,2014年に重版された。この種の教科書や参考書の類は,一度書いたら事実が変わらない限り内容は不変であるべき,という考えのもとで,2014年は,文章には手を加えず,誤植の修正にとどめた。
今回は,改訂版を,というリクエストだったが,第一編と第二編の操船の原理に関する部分については手を加えず,第三編「操船の実際」の箇所に〔Ⅲ〕港内操船の項を設けて,操船者が船を操船する場としての港湾を安全に設計する観点から,操船実務者が操船安全上知っておくべき事項について追記することとした。『増補版』としたのはそうした意味からである。
港湾管理者が港湾整備をすすめるにあたっては,国土交通省港湾局の「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」に即して行うが,日本港湾協会は,そのための技術的基準として「港湾の施設の技術上の基準・同解説」を監修しており,これは港湾施設の設計に関する事実上のガイドラインとなっている。その概略の手順は,先ず計画船型が設定され,その要目に対して水域施設のディメンジョンが設計される。海上交通面に関係ある部分としては,航路の水深(計画船喫水の10%の余裕水深),航路の幅(交通状況によって異なるが計画船船長の1 ~1.5倍の幅),船回し場の面積(タグ支援を受ける場合は計画船船長の2倍の直径の円),そのほか岸壁延長,ビット係駐力,フェンダーの性能等々がこの基準に従って設計されていく。
計画船型はおおむね10年先の次期計画改訂を見越して設定されるが,実際にはこれとは無関係に,時代とともに次々と大型化が進んでいく事実がある。そうしたときに港湾管理者は,時代の趨勢に取り残されないためにも大型船型船を受け容れたいとするものの,一方では港湾技術基準との不整合が生じるというジレンマに直面し解決に苦慮することになる。
この場合,港湾管理者の側では,航行安全委員会を設置して,これに安全行政の代表者とともに操船の代表者も参加して,運用方法や安全対策などの意見調整を行うことがある。そのとき,水域施設の設計基準とそれが操船者に課す安全性および困難性の負荷の大きさとの相互関連性が,操船者と港湾関係者がそれぞれに理解可能な共通の評価指標のもとで定量化され,同時にその指標値がどれくらいの値なら許容可能かを示すことが大切である。
そのために開発されたのが,これまで操船者自身にしかわからなかった(操船者自身が主観的に感じてきた)操船上の安全性や困難性を科学的・定量的に指標値化して表現し,これらの数値指標の下で第三者にも共有できるようにしたUSモデルとESモデルである。
航行安全委員会は,黒白付けがたい問題について科学的検証を行って解決を図る場であり,学識経験者を中心とした海事関係者が専門的検証を行い,そのプロセスから見出される安全運用の対策案について関係者による合意形成を図る場として機能する必要がある。
関係者が集まって安全を審議し対策を立案することを制度的に運用するこの仕組みは海上にしかない。河川行政にも,鉄道にも,道路にもない,特殊ではあるがきわめて重要な仕組みとして誇るべきである。
USモデルやESモデルの出力は,「港湾の施設の技術上の基準」における設計基準と運用上のコンフリクトの議論に科学的な目安を与えるといえる。今後は,利害が異なる関係者が集まる航行安全委員会等の場において,水域施設の設計基準の目安を定める際に,また,運用方法や安全対策などの意見調整に,これらのモデル出力値が拠り所として,行事役を担う可能性は高い。
この「操船の理論と実際」増補版は,主としてこのような観点から記述をすすめた。
最後に,今回は,第一編と第二編の操船の原理に関する部分については手を加えず,第三編「操船の実際」の箇所に〔Ⅲ〕港内操船の項を設けて,操船者が船を操船する場としての港湾における水域施設を安全に設計・維持する観点から,操船者が実務者として安全上知っておくべき事項について追記することとした。今後,第一編と第二編の操船の原理に関する部分については,時代に合わせて書き直した方が読みやすいとなった時には書き直すかもしれない。その際には全体を再構成して,全面的に内容を書き換えたいと思っている。

2021年2月
著者 井上欣三

【まえがき】より 操船とは、与えられた船を与えられた環境条件のもとで、安全かつ能率よく所定の位置に移動、または、停止させる行為である。実際の操船における具体的なものは、保針、変針、避航、出入港、着離桟、係留、錨泊などがあり、操船者は、このような操船を安全かつ効率的に達成するための「技術の使い手」としての役割を担う。そのため、操船者は浮揚性、安定性、操縦性、耐航性に関わる力学的、運動学的諸現象を理解し、風・潮流・波等から受ける自然的外乱、または、その他の外乱が船体運動に及ぼす影響を予測、勘案して操船できるように、関連の科学的知識を身につけなければならない。そして、操船者が発揮する技術は、深い理論と知識に裏付けされた経験の合理的応用に基づくものでなければならない。
その意味から、本書は、操船実務者、または、これから操船を理解しようとする人にとって、基本的に必要となる操船に関する科学的知識をできるだけ理論的に学べるように、内容を整理して構成している。そのなかで、先達の手によって著わされてきた静的つりあい力学に基礎をおいた解説については、従来の操船論の教科書と齟齬のないように留意した。そのうえで、とくに本書において意を用いた点は、「そのような力が作用するとして、その後、実際に船はどううごくのか」といった関心にも理解が届くような解説を心がけた点である。具体的には、シミュレーション手法による時間領域での運動の動的解を提示しながら、将来の船の動きを予測できる解説を心がけた。なお、本書の内容には数機も含まれる個所も多々あるが、これらは読み飛ばしても差し支えないように配慮している。
操船者が実際に操船する船は多種多様である。どのような船を操船するにせよ、事前にそれらの船の操船特性を把握しておくことは、データに裏付けされた操船の実践には欠かせない。その意味から、本書では、第4編に、各種船舶の操船性能についてデータベース化を図っている。ここにとりまとめた操船性能データベースが、「操船の理論」と「操船の実際」をむすぶ橋渡しになることを願っている。
長年にわたり蓄積されてきた『操船論』は、操船者自身の知識と技術を高めることに主眼を置いた学問的体系化の成果である。しかし、これからの操船者は、自船1隻を安全に操縦する視点に加えて、さらに、海の社会を予防安全に導くプロフェッショナルとしての意識に立つことが望まれる。そのためには、操船者としての「知識−技術」を体系化した本書とともに、海技者としての「技術−意識」を体系化した『海の安全管理学(成山堂書店)』も合わせてお読みいただくことをすすめたい。
なお、操船性能のデーターベース化に際しては、「操船性能データベース化検討会」のメンバーが協力し、神戸大学海事科学部操船研究室が所有する操船シミュレータ(?日本海洋科学製)ならびに?日本海洋科学が所有するファストタイム操船シミュレーションシステムを使用して、必要な試行操船と計算を行ってデータを収集した。

2011年2月
著者

【目次】
第1編 序論
〔1〕操船と操船者
 第1章 操船の定義と操船者に求められる知識・技術
  1.操船における船・人・環境の関わり
  2.操船の定義
  3.操船者に求められる知識・技術
 第2章 操船の実際と操船者に要求される能力
  1.微妙な制御が必要な操船
  2.船のうごきを目で検知
  3.視覚、体感感覚による情報の補正
 第3章 操船者の社会的役割
  1.海の安全
  2.安全達成への3要素
  3.安全に対する姿勢
  4.操船者に求められる自己変革
  5.操船者に期待される課題解決への視座
〔2〕船体運動と浮揚安定性
 第1章 船体運動の特徴
  1.6自由度の運動
  2.6自由度の運動と復原力
  3.運動の達成
 第2章 船の浮揚安定性
  1.浮力
  2.安定な釣り合いを保つ条件
  3.安定性の指標としてのGM
  4.GMの符号と安定性
  5.安定性の確保

第2編 操船の原理 〔1〕舵による操船
 第1章 舵
  1.舵の機能
  2.舵の性能
  3.舵の効果
 第2章 操舵
  1.操舵応答特性
  2.操縦性指数
  3.回頭性能
  4.直進性能
 第3章 操舵に伴う船体運動
  1.操舵後の旋回
  2.船尾キック
  3.ドリフトアングル
  4.速力低下
  5.横傾斜
  6.転心
 第4章 操縦性能試験
  1.Z操縦性試験
  2.スパイラル試験
  3.旋回試験
〔2〕主機・プロペラによる操船
 第1章 主機
  1.主機の種類
  2.操船特性
 第2章 プロペラ
  1.プロペラの形状
  2.プロペラの種類
  3.プロペラによる推進力
  4.プロペラ流の作用(右回り1軸船)
  5.舵とプロペラの総合作用(右回り1軸船)
  6.2軸船におけるプロペラ流の作用
 第3章 速力・惰力
  1.速力
  2.惰力
  3.クラッシュアスターンによる急速停止
〔3〕スラスター・タグによる操船
 第1章 スラスターによる操船
  1.スラスターの装備
  2.バウスラスターによる船体運動
  3.船速増加に伴うバウスラスター推力の減少
  4.バウスラスターを使用した操船
 第2章 タグによる操船
  1.タグによる操船支援
  2.タグの特性
  3.タグを使用した操船
〔4〕外力影響下での操船
 第1章 風の影響
  1.風圧力の推定
  2.船首船尾の向風性と離風性
  3.風が操船に及ぼす影響
 第2章 流れの影響
  1.流圧風の推定
  2.流れが操船に及ぼす影響
  3.流れの中でのそうせんい対する対処
 第3章 制限水路影響
  1.浅水影響
  2.側壁影響
  3.船間相互影響
 第4章 波浪外力が操船に及ぼす影響
  1.波浪中の操船において生じる危険な現象
  2.波浪中における特有の危険な現象
  3.同調同様の回避

第3編 操船の実際 〔1〕航行・着離岸
 第1章 保針操船
  1.保針操船の要領
  2.リーウエイ
  3.リーウエイの大きさ
 第2章 返針操船
  1.変針操船の要領
  2.新針路距離
  3.新針路試験
 第3章 避航操船
  1.避航操船の要領
  2.避航開始距離
  3.他船を入れたくない安全領域
 第4章 着離岸操船
  1.着離岸操船におけるロープの利用
  2.着離岸操船における錨の利用
  3.着離岸操船法
 第5章 行き脚の制御、寄り脚の制御
  1.アプローチ操船における行き脚の制御
  2.接岸操船における寄り脚の制御
 第6章 緊急時の操船
  1.転落者救助と操船措置
  2.事故への対応とその手順
  3.事故の通報と救助体制
  4.事故の種類とその処置
  5.曳航時の操船措置
  6.荒天時における操船措置
〔2〕係留・錨泊
 第1章 係留
  1.係留用ロープの働き
  2.ロープによる係留力
 第2章 錨泊
  1.錨と錨鎖
  2.錨泊法
  3.投揚錨法
  4.錨の把駐性能
  5.荒天時の錨泊
  6.走錨危険度
  7.走錨とその対策
  8.安全な錨泊への備え
〔3〕港内操船
 第1章 これからの港内操船は外部支援型
  1.パイロットによる操船支援
  2.タグ・スラスターによる操船支援
  3.ポートラジオによる情報支援
 第2章 港内操船における操船の労力軽減
  1.完全自動化船は操船者の労力軽減の究極の姿
  2.ジョイスティック操船による操船負担の軽減
 第3章 水域施設の設計基準
  1.操船困難性評価指標の開発
  2.航路の設計基準(水深、幅員)
  3.泊地の設計基準(水深、面積)
  4.外郭施設の設計基準(防波堤のレイアウト、港口幅、港口の方向)
  5.バース延長の設計基準(バースの長さ)
  6.橋梁高さとのクリアランス

第4編 操船性能データベース 〔1〕操縦性能
 第1章 供試船
 第2章 操舵操船
  1.Z操縦性試験
  2.スパイラル試験
  3.旋回試験
  4.操舵応答
〔2〕操船性能
 第1章 供試船
 第2章 惰力性能
  1.発動惰力・停止惰力
  2.急速停止惰力
 第3章 クラッシュアスターン操船
 第4章 外力が操船に及ぼす影響
  1.風が操船に及ぼす影響
  2.流れが操船に及ぼす影響
  3.浅水影響
 第5章 港内操船に関する性能
  1.舵効きを失う限界速力
  2.機関後進に伴う停止距離、船首偏向
  3.ブースティングによる回頭性能
  4.横シフト操船の性能
  5.キックに伴う船尾の振り出し

(海事図書)
カテゴリー:船舶(航海・機関・運用) 
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