海の安全管理学−操船リスクアナリシス・予防安全の科学的技法−


978-4-425-35321-7
著者名:井上欣三 著
ISBN:978-4-425-35321-7
発行年月日:2008/10/8
サイズ/頁数:A5判 154頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,640円(税込)
数量
これまでの海の世界の安全管理は、自然を相手にした予測の難しい事象が多かったこともあり、現実的には事が起きてから対策を取らざるを得ないことが多くありました。しかし、現在ではさまざまな情報が蓄積され、予測技術や解析手法などが飛躍的に発達し、予防安全の実効性が広く認められるようになってきています。
その一方で、予防安全を絵に描いた餅に終わらせないためには、現場の海技者が安全管理の概念から実践的な手法まで習得し、船舶運行能力とともに高度な安全管理能力を身につける必要があります。
本書は、海事における「安全」「管理」「予防安全」の概念を指針的に解説するとともに次世代の海技者に求められる安全管理技法、リスクアナリシス技法などについても実例を交えて実践的に解説したものです。特にBRM(Bridge Resource Management)、FTA(Fault Tree Analysis)、M-SHELLモデルなど、操船者が事故を起こさないために必要な知識や技術に関する記述は、実務マニュアルや安全ガイドラインとしても利用できる内容になっています。
学生が安全管理を学ぶためのテキストとして最適な内容であるのはもちろん、実務においても常備図書として、また現場への応用などにも役立つ実践的な一冊です。

【はじめに】より
1999年に国際海事大学連合(International Association of Maritime Universities, IAMU、大学院を有する世界の海事系大学の連合体)の創立にかかわることとなり、IAMUの活動理念を提案する機会を得た。このとき私が提案した採択された設計理念は次のようなものであった。これからの海事系大学の卒業者には船の上で船を動かすことだけの職責を社会は求めているわけではない。これからは会場を離れた後のセカンドキャリア?として、陸上から海運企業を中心とする海事関連産業を支える活躍が期待されている。つまり、片方の翼に海上での船舶運航業務に従事できる能力を、他方の翼に陸上での安全管理業務に従事できる能力を身につけた、いわゆる『ボスウイングス能力』を備えた人材を期待しているのである。したがって、IAMUの活動は、このボスウイングス能力をどのように具体的に設計するかを目標とすべきであり、これを海運先進国の海事系大学が協力連携して研究していこうとする趣旨のものであった。
このコンセプトは、いまになってさらに現実味を帯び始めている。海運先進国におけるこれからの船員は、片翼に先進的な船舶運航技術を、他翼に科学的な安全管理技術を併せ持った新時代の技術者として活躍することが期待されている。その意味ではもはや単に船員と呼ぶのではなく、このようなボスウイングス能力を備えた人材を『海技者』と呼び分けるのがよい。
海上事故の絶滅、環境保全に向けた対策は、本来は事故発生の機先を制する予防安全に意識を向けなければならない。海の世界に安心と安全をもたらすのは、古来から船を用いて海を交易の道として使ってきた海運に従事する者、そして、海運の目的を達成するために船を操ってきた者こそが『予防安全の担い手』とならなければならない。その意味からも、次世代の海技者には予防安全の意義を理解し、そして、その実践を通じて大きな視野から海の安全を考えることのできる管理者として活躍することが期待されている。
本書は、海を舞台にした人間活動を安全な状態で行えるように関連する事象や仕組みをどのように「管理」するか、そのプロセスの具体的な方法論を解説することを目的としている。予防安全の実践に必要な科学的手順や技法を学ぶ人たちへの教科書として、また、これからの海の社会の安全を支える人たちへの指針書として利用されることを期待して執筆した。

2008年8月
著者

【目次】
序章
 基礎安全から予防安全へ
 海の世界の安全管理は予防安全の実践
 リスクアナリシスは安全管理の実践手法
 本書の構成

第一編 海事社会の変革と次世代海技者
第一章 海運先進国への途
 かわらないもの
  我が国の海上貿易依存性
  海運企業を中心とする海事関連産業の集積
  安全運航に対する配慮
  船員の需要
 かわりゆくもの
  海運を取り巻く変化
  便宜置籍船と激減する日本船籍
  外国人船員の雇用と激減する日本人船員
 海運企業は国際的バトンリレー
  日韓の比較
  日韓の対応
 海運先進国としての役割と責任

第二章 次世代海技者に託される使命
 日本人船員増加の施策
  交通政策審議会の審議
  海洋基本法の制定
 高度な付加価値を持つ日本人船員
  日本人船員が担う価値
  ボスウイングス能力を備えた海技者
 ボスウイングス能力の第一翼
  高度な船舶運航技術の発揮
  ハイテク化への対応
 ボスウイングス能力の第二翼
  管理者としての能力
  管理者としての人材像

第二編 安全管理の方法
第一章 「安全」「管理」
 安全という用語
 管理という用語

第二章 管理の哲学  安全管理は自発的
 安全管理の対象
 安全管理の根幹
 安全管理の推進
  海技者の役割
  リーダーシップとフォローシップ
 科学的技法に基づく安全管理

第三章 安全管理の手順  リスクアナリシスの概念
 リスクアナリシスの手順
  PLANNING
  POLICY ALTERNATIVES
  ASSESSMENT
  IMPLEMENTAION
  CHECK
 リスクアナリシスにおける科学的技法

第四章 安全管理の実践例  IMOにおけるFSA手法の導入
  IMOの組織
  条約ベースの安全管理
  Formal Safety Assessment(FSA)手法の導入
 海上交通の安全管理
  操船論と海上交通工学の融合
  海上交通の安全管理の実践
  海上交通の安全管理の施策対象

第三編 安全管理の技法
第一章 操船リスクアナリシスの実践
  操船リスクアナリシスの手順
  操船リスクアナリシスの実践に必要な三つの技法
  操船リスクアナリシスの実践に必要な技法

第二章 安全管理のテクノロジー?  危険の種を洗い出す技法
  操船者が直面する事故危機の種類
  事故の背後に潜在する危険の同定法
 FaultTree Analysis(FTA)による分析技法
  FTAの概要
  FTAの実施例
 M-SHELモデルによる分析技法
  ヒューマンファクター(Human Factors)
  M-SHEL分析の概念
 M-SHEL分析の実際
  防波堤接触事故を例としたM-SHEL分析
  (1)分析対象事故
  (2)分析目的
  (3)分析手順
  (4)分析結果
   〔1〕L自体(事故当事者:船長)に関する要素
   〔2〕L-L(人間と人間の関係:船長と乗組員)に関する要素
   〔3〕L-S(人間とソフトウエアの関係:運航基準)に関する要素
   〔4〕L-H(人間とハードウエアの関係:操船支援システム)に関する要素
   〔5〕L-E(人間と環境の関係:強風、防波堤配置)に関する要素
   〔6〕L-M(マネジメント要素:組織的風土、社会的風土)に関する要素
 事故防止に向けての取り組み事項の総括
 対策実施へのリコメンデーション
M-SHEL分析の活用

第三章 安全管理のテクノロジー?  危険の芽を摘み取る技法
  対策安立案の考え方
  事故の原因のほとんどはヒューマンエラー
  チーム力による安全管理の必要性
  チーム力による安全管理の必要性
  チーム力を高めるためのTeam Resource Management(TRM)研修
  危険の芽を摘む技法は三段階
 ハザードマネジメント
  ハザードマネジメント研修
  チーム力によるハザード管理
  ハザードの種類
 エラーマネジメント
  エラーマネジメント研修
  ヒューマンエラーの発生原因
  ヒューマンエラーとエラーチェーン
  チーム力によるエラー管理
  チームの一員としての意識と行動
  チームとしての意識と行動
 スキルマネジメント

第四章 安全管理のテクノロジー?  危険度レベルを予測する技法
  危険度レベル予測の対象
 錨泊中における走錨危険度の推定
  錨泊安全性の定義
  ストレスストレングスモデル
  ストレスストレングスモデルに基づく走錨発生確率の計算
  計算例
  走錨危険を軽減するために
 岸壁係留中における索破断危険度の推定
  係留安全性の定義
  動的信頼性モデルに基づく索破断確率の計算
  計算例
  索破断危険を軽減するために
 バースへのアプローチ操船中におけるオーバーラン危険度の推定
  安全余裕の概念
  安全余裕度の計算
  オーバーランの危険を軽減するために〔アプローチ操船時の速力低減ガイドライン〕
 寄り脚調整ミスに伴う岸壁への衝突危険度の推定
  安全余裕度の計算
  岸壁衝突の危険を軽減するために〔横移動操船における寄り脚調整ガイドライン〕
 制約水域・輻輳水域における操船困難度の推定
  環境ストレスモデル(ESモデル)
  環境ストレス概念
  操船環境ストレス値の計算法
  交通環境ストレス値の計算法
  操船環境と交通環境の同時評価
  操船者が感じる危険感と許容感の関係
 環境ストレスモデルの適用
  操船環境ストレス値(ESL)の計算
  交通環境ストレス値(ESS)の計算
  ESモデルの夜間航行への拡張
  水路航行中の操船環境ストレス値(ESS)の昼夜差
 乗り揚げ・衝突事故危険度の推定
  不安全操船モデル(USモデル)
  ハインリッヒの法則を背景にした事故発生の確率推定
  不安全操船の概念
  不安全操船の検出法
  不安全操船の検出例
  不安全操船発生率と事故確率の関係

(海事図書)


書籍「海の安全管理学−操船リスクアナリシス・予防安全の科学的技法−」を購入する

カテゴリー:海運・港湾 
本を出版したい方へ