天気予報いまむかし 気象ブックス022


978-4-425-55211-5
著者名:股野宏志 著
ISBN:978-4-425-55211-5
発行年月日:2008/10/8
サイズ/頁数:四六判 212頁
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本書は天気予報の背景にある学問分野の紹介、観測・通信・予報技術の進歩、さらに近年の天気予報の自由化と気象予報士の登場まで、変わり行く天気予報を文化・学問・技術の3つの視点から述べています。
 一般向けに天気予報を体系的にまとめたものとして類書はなく貴重な資料といえるでしょう。巻末に天気予報関係の年表が収録されているのもうれしいポイントです。著者は気象庁OBで、数値予報の実現など、長年にわたり予報畑で勤務してきた経験を持っています。
天気予報の歴史書として、気象予報士はもとより、天気予報を利用するすべての人に読んでもらいたい一冊です。

【はじめに】より
 “天気予報 いまむかし”と言っても、むかし(昔)をいつにするか大変難しい。天気俚諺(ことわざ:夕焼けは晴れなど)の時代まで遡るのか、現代の科学的天気予報が始まった時代まで遡るのか、それとも天気予報が自由化されて気象予報士が社会に登場した1990年代を境にするのか、いずれにせよ、それによって話の中身が大きく変わってくる。そして、最も新しい2000年代以降に限っても、“天気予報 いまむかし”を語れるほど、天気予報の中身と外見は大きく変わっている。
 たとえば、最初の天気予報士試験実施に向けて気象庁が1994年2月17日に公示した[気象予報士試験について]の中に掲載した参考図書例は10冊を超えるが、10年も経たないうちに、これらの参考例のほとんどが受験用参考書としての価値を失った。
 ちなみに、気象予報士試験の学科試験の科目は予報業務に関する一般知識と専門知識の二科目であるが、一般知識の科目の水準は大学教養課程の一般気象学で、前記参考図書例のうち、小倉義光博士の『一般気象学』が現在も受験者必読の聖典とされ、合格者のほとんどがこの書物をボロボロになるまで読み尽くしたと言う。一方、専門知識の科目では日進月歩の予報技術に関する新しい専門用語が毎回次々と問題文に登場している。
 それで、気象予報士試験合格者(6000人以上)と現在受験勉強中及び受験勉強経験の集団を併せると5万人を超える高度の気象知識層が社会に形成されている。このような社会状況を考えると、この『天気予報 いまむかし』が最新の予報技術を含めた予報技術の解説書や歴史書と誤読されるかも知れないので、そうではないことを予めお断りしておく。そのような解説書や歴史書はその道の専門家にお任せし、この『天気予報 いまむかし』は以下に述べるような観点から天気予報を語ることをご承知願いたい。
 さて、天気予報の典型的な道具立ては新聞の天気欄に見られるように天気図・概況・各地天気一覧表の3点セットである。テレビ時代に入ると、この3点セットの内容が気象解説者によって視聴者に文字通り視聴覚的に伝えられ、天気予報の情報価値が高くなった。しかし、この場合の天気は気象庁本庁(東京)と各地の気象台が府県単位(北海道と沖縄県は支庁単位)で予報した天気で、解説者は予報内容を変えることはできなかった。
 しかし、1993年に気象業務法(1952年制定の法律)が改正されて天気予報が自由化され、テレビでも気象予報士が独自予報を毒に解説できるようになった。すなわち、気象庁の資料などを利用して気象予報士が独自に作成した一般向けの局地天気予報が社会に提供されるようになったのである。この天気予報自由化の謳い文句は“欲しい時に欲しい所の天気予報が入手できる”ということであった。流行語を借りて端的に言えば、天気予報の自由化は“天気予報のユビキタス化”である。事実、既に誰もが携帯電話で欲しい時に欲しい所の天気予報を入手し、目的地の予報された天気に応じて服装や持ち物を整えている。このようなユビキタス天気予報の時代で最も大切なことは、予報を作る側と予報を利用する側が天気のイメージを共有することである。
 考えてみると、天気予報が発展した基礎は歴史に名を残す多くの気象学者によって造られたものであるが、学説を建てた学者、その学説を天気予報に応用して技術化した後世の気象学者、その技術を使って実際に天気を予報する予報者との間には時の流れを超えて共感できる気象のイメージがある。このイメージは物理学の眼を通して見たものであるから、それが天気予報としてたとえば、“明日の天気は南西の風、曇り、最高気温何々、湿度何々、降水確率何々”と表現されても、それを利用する一般の人々が、天気を具体的にイメージすることは難しい。そのため、テレビ時代になって気象解説者の存在価値が一段と高くなった。
 ユビキタス天気予報の時代では、気象予報士が独自の局地天気予報を独自に解説できるので、キメ細かい予報と解説はさらに情報価値を高めることになる。そのためには、予報を作る側も利用する側も自然の空を眺めて天気のイメージを共感することが“いまもこれからも”必要である。しかし、現代は空を眺めることに親しむ気持ちが人々から薄れているように思われる。ところが、季節変化に富んだ日本では先人が優れた洞察力で気象に対して抱いたイメージを和歌や俳句に残している。たとえば、古今和歌集の
   冬ながら 空より花の 散りくるは
       雲のあなたは 春にやあらむ (清原深養父)
は、太平洋側に雪を降らした南岸低気圧が伴う前線の南には春の気団が控えている天気図を見通したような秀歌で、作者の清原深養父のイメージは現代の予報官や気象予報士さらには一般の人々にも共感されるのではなかろうか。このような共感できるイメージは内外の音楽家や詩人の作品にみることができるので、筆者はその例を集めて成山堂書店の『気象ブックスシリーズ005 気象と音楽と詩』に収めた。この機会に是非一読を願いたい。ちなみに、もっと広い観点から気象学の理念を人間の知性の結晶である言葉に見出され、これを人類文化の一形態として捉えられた廣田勇博士(京都大学名誉教授)は、これを珠玉の随筆にまとめて同じく『気象ブックス017 気象のことば 科学のこころ』に収めておられる。これも是非一読願いたい。
 文芸作品は情緒的として科学の世界から疎まれるが、文芸作家が科学者にも劣らぬ洞察力で自然に対するイメージを作品に残している。従って、中世の先人よりも素朴に大気の底で生活を営んだ天気俚諺の時代の先人が気象と天気に対して抱いたイメージは現代人にも共感できる貴重な無形文化遺産と言える。それで、この『天気陽報 いまむかし』では、天気予報の文化的側面を天気俚諺の時代に遡って序章とし、本論では天気予報の学問的背景と技術的側面に見られる人間の知性の結晶と言える気象と天気に対するイメージについて述べることにした。
 読者の皆さんが天気予報を利用されるに当たり、心豊かに天気に対するイメージを抱かれることに本書が少しでもお役に立てれば望外の幸である。

2008年8月
股野宏志

【目次】
第1章 天気予報の文化的側面
 1 暦(こよみ)と聖(ひじり)と日和見(ひよりみ)
  (1)暦
  (2)聖と日和見
 2 空の気色(けしき)と気(け)
  (1)ろらの気色
  (2)気
 3 気象
 4 気象学
  (1)気圧の測定
  (2)温度の測定
   ア 華氏温度(F)
   イ 摂氏温度(C)と列氏温度
   ウ 絶対温度(K:ケルビン温度)
  (3)気候の変化(気温の永年変化)
 5 総観気象学
  (1)気象の変化(暴風の構造)
  (2)天気図の総観気象学
  (3)天気予報と国際協力
 6 気象と通信のクロスオーバー(電気通信学):ルヴェリエの功績
  (1)ルヴェリエの生きた時代
  (2)海王星の発見
  (3)定時観測の励行
  (4)黒海の嵐
  (5)電信気象学
  (6)ルヴェリエの気象観

第2章 天気予報の学問的背景
 1 気象学の課題
  (1)規則性
  (2)広域の気象状態と天気分布の対応
  (3)気象学の発展
 2 大気物理学
 3 大気力学
  (1)断熱変化
  (2)偏向力
 4 気象力学
  【コラム】V・ビヤークネスとノーベル賞
 5 総観気象学の力学化
  (1)気象力学の天気予報への回帰
  (2)総観気象学の力学化
 6 数値予報
  (1)客観解析と解析図の作成
  (2)数値予報の原理
  (3)数値計算上の制約
  (4)数値予報の応用化
 7 天気予報は気象学のシンデレラ
  (1)受難の天気予報
  (2)脚光を浴びる天気予報
  (3)数値予報の復活
  (4)数値予報は天気予報のシンデレラ
  (5)天気予報も気象学のシンデレラ
  【コラム】傾度風と地衝風と旋衝風

第3章 天気予報の技術的側面
 1 観測技術
  (1)地上気象観測
  【コラム】百葉箱
  (2)高層気象観測
  (3)気象レーダーによる気象観測
  (4)気象衛星による気象観測
  【コラム】日本最初の現業用気象レーダー
 2 通信技術
  (1)気象資料伝送網
  (2)天気図とファクシミリ(FAX)
  (3)航空用天気図とファクシミリ(FAX)
  (4)気象資料は予報官の手を離れて独り歩きする
 3 予報技術
  【コラム】予報の空振りと見逃し

第4章 情報通信時代の天気予報(情報通信気象学)
  (1)天気予報の多様化
  (2)気象予報士の登場
  (3)読み書きソロバン天気予報
  【コラム】日本初空襲 その気象的背景

(気象図書)


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