新訂 水産資源解析学


978-4-425-82443-4
著者名:田中栄次 著
ISBN:978-4-425-82443-4
発行年月日:2012/3/27
サイズ/頁数:A5判 164頁
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価格¥2,420円(税込)
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本書はモデルや観測量などのダーティデータを重視、取扱う水産資源解析学の基本概念を十分に説明し、統計学的側面にも注目した入門書。

【はしがき】より  本書は水産資源解析学の、学部生及び博士前期の大学院生のための、教科書ないしは参考書として書かれたものである。旧版は山田作太郎東京海洋大学教授(現在は名誉教授)との共著であったが、新版は田中栄次が1人で改訂を行うことになり、山田名誉教授が書かれた部分は新たに作成した。
 言うまでもなく、現在の日本の漁業を取りまく環境は大変きびしいものがある。戦後から昭和40年代のわが国の漁業は開発の時代にあり、多獲のための技術開発や漁場開発が数多く行われた。その意味では開発科学の時代ともいうべき時代であった。その後、事実上の200海里時代になって、諸外国沿岸での操業は限定され、水平的な新漁場生物資源は未開発といえども、現状では集約的に漁獲し商品化するための技術革新を期待することはできない。鉛直的開発や生態学的低次生産資源の開発が進まない限り、当面は現在利用している限定された浅海資源の有効利用を図ることを考えなければならない。今日の漁業は、資源の維持・管理のための科学技術、すなわちメンテナンスの科学の時代であるといえよう。その維持・管理のための科学的基礎を与えるのが、水産資源解析学の目的である。
 水産資源は森林資源と同様にうまく利用すれば半永久的に利用できる生物資源である。なぜなら、それは自ら子孫を残し、再生産を行うという特色をもっているからである。この点は、採取してしまえば減少する一方である鉱物資源とは性格が大きく異なっている。では、いつ、どこで、なにを、どれだけ、どのように取ればよいのか。この課題に対し、水産資源解析学は生物学的情報を用いて数値的な基礎を与える。
 しかしながら、水産資源の解析にはかなり難しい側面がある。工業と異なり、自然の中で操業する漁業では条件を統一した標本抽出調査などありえず、陸上動物と異なり直接見ることも難しい海洋生物を捕獲の対象とする。このため、最小単位のデータの変動は著しく大きい。広い海洋の、刻々と変化する中で、空間的にも時間的にも局所的に得たデータが漁業からのデータの単位である。漁業が選択的であるという点を除けば、この事情は科学的調査であっても変わらない。データの質はよくないがそれを克服するための創意工夫がこの分野の課題であるといっても過言ではない。
 従来から水産資源解析学の名著はいくつかある。水産資源解析学の背景には生物資源の持続的利用という理想あるいは哲学があり、単なる解析手法の体系ではなく、そのための基本概念を十分に理解することは大切である。著者が本書の執筆を思い立った理由は、近年の水産資源解析学の研究におけるさまざまな統計的手法や、コンピュータを駆使した推定・シミュレーション技術の導入を直視し、これを勉学の初期段階から意識し、基礎的概念と先端的研究の橋渡しをしたいともったからである。しかしながら、著者の非才ゆえに、ごくごく一部についてこの立場を説明しただけに終わったことについては読者諸賢の批判を仰がなければならない。
 こうした次第で、本書は水産資源解析学の入門書であるが、基本概念を十分に説明し、水産資源解析学における統計的側面やコンピュータ利用も重視し特色を出そうと努めた。本書は学部学生、大学院生のみならず、水産資源解析にかかわっておられる研究者諸氏にも十分に役立つものと信じている。
 本書を刊行するにあたって、出版の機会を与えて下さった(株)成山堂書店の小川典子社長をはじめ、東京海洋大学海洋科学部の資源解析学研究室の関係者ら多くの方々にお世話になった。ここに各氏に対して深くお礼申し上げます。

平成24年3月
田中栄次

【目次】
第1章 漁業生物学

 1.1 系群
 1.2 年齢・成長
  1.2.1 体長組成法
  1.2.2 年齢形質法
 1.3 成熟・産卵
 1.4 分布・回遊

第2章 漁獲の過程と漁獲尾数
 2.1 漁獲強度と漁獲率
 2.2 生残率、漁獲率および自然死亡率
 2.3 1つの年級群の数の減少の過程と漁獲尾数
 2.4 漁具の選択性
  2.4.1 底曳き網の選択曲線
  2.4.2 刺網の選択曲線

第3章 成長
 3.1 von Bertalanffy の成長式
 3.2 logistic, Gompertz, Richards の成長式
 3.3 パラメーターの推定
  3.3.1 定差式を用いる方法
  3.3.2 最尤推定法
 3.4 アロメトリー

第4章 成長生残モデル
 4.1 Russellの方程式
 4.2 平衡漁獲重量と平衡資源量
 4.3 非平衡状態における漁獲量
 4.4 再生産曲線

第5章 余剰生産モデル
 5.1 余剰生産モデルの仮定
 5.2 余剰生産モデルその資源動態モデル
 5.3 持続生産量(SY)
 5.4 資源量の時間的変化
 5.5 余剰生産モデルのパラメータ推定
  5.5.1 平衡状態を仮定する方法
  5.5.2 平衡状態を仮定しない方法1
  5.5.3 平衡状態を仮定しない方法2
  5.5.4 数値例

第6章 資源量指数
 6.1 CPUEと平均資源量の関係
 6.2 地理的分布が不均一性の場合の資源量指数
 6.3 その他の資源量指数

第7章 資源量の直接推定
 7.1 区画調査による推定
 7.2 産卵量からの親資源量の推定
 7.3 目視調査による資源量推定
 7.4 魚群探知機による推定

第8章 漁獲統計を用いたパラメータ推定
 8.1 年齢分布の推定
 8.2 VPA
  8.2.1 推定方法
  8.2.2 数値例
 8.3 除去法

第9章 標識放流実験による推定
 9.1 1回放流、1回再捕の場合
 9.2 多回放流の場合
 9.3 移動の推定
 9.4 移動率の推定



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カテゴリー:水産 
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