クジラを追って半世紀−新捕鯨時代への提言−


978-4-425-88421-6
著者名:大隅清治 著
ISBN:978-4-425-88421-6
発行年月日:2008/4/28
サイズ/頁数:四六判 250頁
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最大の動物であるクジラは保護すべき愛玩動物なのか、それとも優良な動物タンパク源なのだろうか。かつて世界をまたにかけてクジラを追い、激減させた国々が強硬に捕鯨を反対するのは何故なのだろうか。偏った保護活動によって生態バランスが崩れてしまった例はいくつもあるというのに。
本書は、50年以上クジラ研究・調査に携わり、今なお現役の学者である著者の足跡を記したものです。それはそのまま我が国の鯨類研究と国際的な捕鯨問題の歴史になっています。過激な環境団体のニュースが連日世間を賑わせているが、我が国が歩むべき道はどれが正しいのか、国際的な取り決めはどうなっているのか、本書を読んで考えていただきたいと思います。

【はじめに】より
イルカを含む鯨類は、生物学的にも、社会学的にも、とても魅力的な存在である。彼らは一生を水の中で過ごし、本来は陸上動物である人間とかけ離れた生活をしているので、理解が難しい故に魅力的である。クジラの中には動物では地球最大の種類がある。洗練された流線型の体型をし、迫力あるジャンプをし、華麗なショーを演じる。大型で大量の良質の油と肉を生産することができるので、太古から人間によって利用されて、捕鯨業が発達してきた。また、その魅力的な姿と迫力ある行動を楽しむために、水族館やホエールウオッチングが産業として成立する。反捕鯨国が多数を占める最近の国際捕鯨委員会の年次会議は、70か国以上、数百人の代表者が集まって不毛な議論を繰り返し、それに多数のNGOや報道陣が加わって、お祭り騒ぎをするだけである。さらに、反捕鯨団体は、クジラの魅力を利用し、捕鯨やイルカ漁業に対してばかりでなく、日本が南極海で実施している、条約に基づく科学調査にも、過激なテロ攻撃まで行い、人々の感情に訴えることによって、多額の運動資金を稼いでいる。
そのようなクジラの魅力の様々な側面を語るだけで、優に一冊の本が書ける。しかし、本書は半世紀以上もの間、クジラの資源調査、研究に取り付かれてきた、クジラに魅せられた一人の男の軌跡のいくつかの断面を記録に留めたものである。
“光陰矢の如し”という諺を年寄りがよく使うが、私にとっても、それは現在の実感である。私は20歳のとき、偶然の機会に鯨類研究の道に迷い込んでから、クジラにすっかり魅せられてしまい、それからは鯨類研究一筋に歩んできた。そして、あっという間に半世紀以上が過ぎてしまった。それでも今も、クジラの魅力は私の心から一向に失せないでいる。それどころか、年を取るに連れて、魅力はますます大きくなるとともに、若い研究者の新鮮な研究発表を聞く度に、私が今もクジラについてほとんど無知であることに気付かされ、さらなる興味が湧く。
私は元来フィールドワーカーである。若い時から捕鯨船団や沿岸捕鯨基地の、数多くの調査現場に長期間従事し、それらによって集めた研究材料と資料を用いて、これまでに鯨類に関する200編以上の研究論文を発表してきた。研究者は優れた研究論文を発表して、それを世に問うのが本分であるが、その成果を一般の人にも理解していただくことも責務であると考えるので、鯨類と捕鯨に関する一般向けの著書や訳書も、共著を含めて多くを出版した。また、クジラについての講演やテレビ出演する機会もできるだけ持つように努めた。そして、新聞、雑誌などにクジラや捕鯨に関して数多く寄稿してきた。さらに、国際捕鯨委員会年次会議をはじめ、種々の国際会議に参加し、鯨類資源の合理的利用と資源管理の強化のために活躍する、日本政府の行政当局を科学面から支える、“縁の下の力持ち”となって努めてきた。本書の巻末にこれまでの自分の出版物を纏める過程で、それらの思い出が今、走馬灯のように私の頭の中で回っている。
完成していない仕事がまだ山積していて、過去のことを振り返る余裕もないし、そんな歳でもまだないと自分では思っているのだが、「そろそろ遺言を書いて置くべきですよ」と口の悪い後輩から直言されるようになってきた。そう言われてようやく重い腰を上げ、残務整理の心算で、少しずつ過去を振り返り、未来に希望を託して、いくつかの文章に纏めてみた。そして、この度、成山堂書店の温かいご好意によって、やっと出版することができた。
したがって本書は、私自身が歩んできたクジラ研究の道の途中で時々佇んで、思い起こした内容をまとまりなく記述してある。それぞれについて、関連した文章を私が過去に数多く書いているので、それらを直接に掲載するほうが、生々しさがあって、読者に正しく伝わると思うのだが、そうすると、本が分厚くなりすぎる。それらの原著を巻末に表記したので、興味を持たれた方は、それらの拙文にも目を通していただけると有りがたく思う。

平成20年3月
大隅清治

【目次】
1.人間、その可塑的な存在
2.クジラ研究の「トキワ荘」時代
3.クジラの過去帳
4.泳いでいるクジラを初めて見る
5.最初と最後の捕鯨母船乗船調査
6. 捕らえられた「白鯨」の後裔
7.クジラの処女懐胎
8.鯨類の年齢査定国際競争に参加する
9.私のマッコウクジラ研究
10. セミクジラの特別捕獲調査
11. カルチャーショック
12. 初めてのIWC年次総会への参加
13. 外国でクジラを食べる
14. リストラされて鯨研から遠洋水研へ
15. クジラ研究の恩師の方々
16. IWCの変質の過程に身を置いて
17. 米国イシイルカ公聴会とINPFC
18. IDCRからSOWERへ
19. 日本鯨類研究所の発展ともに
20. 鯨類捕獲調査
21. 鯨類の捕食量
22. 致死的調査と非致死的調査
23. これからの捕鯨
24. 先祖返りをしたイルカ
25. クジラを家畜化する夢
26. クジラグッズ展
27. 運、鈍、根、健


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カテゴリー:水産 
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