雨の科学−雲をつかむ話− 気象ブックス015


978-4-425-55141-5
著者名:武田喬男 著
ISBN:978-4-425-55141-5
発行年月日:2006/7/28
サイズ/頁数:四六判 212頁
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気象の身近な関心事「雨と雲」の教養書。雨粒から地球規模までさまざまな空間スケールで雨をとらえ、自然環境に大切な現象の仕組を学ぶ。

【まえがき】より
雲が空をふわふわと漂いながら、その形を様々に変えていく様を見て、日本では昔から、物事が漠然としてとらえどころがないことの例えとして、「雲をつかむような話」と言ってきました。また、青空が見えていた空に黒い雲が現れ、見る間に空一面を覆うようになり、激しい雨が降ってくることもあり、変化が激しいことを、「雲となり、雨となる」と言ってきました。
雨は日常見慣れた現象です。そして、お天気雨という言葉はあるものの、誰もが雲から雨が降ってくることをよく知っています。しかし、子供達に、「空からどうしてあんなに雨が降ってくるの?」、「どうして雨は滝のようにつながって落ちてこないで、粒になって落ちてくるの?」、「どうして暑い夏に、雨でなくて、氷でできているひょうが降ってきたりするの?」、あるいは「雲が水的でできているのだったら、雲はどうして落ちてこないの?」と、改まってたずねられたらどう答えたらよいのか戸惑うのではないでしょうか。
雲や雨は、地球という水惑星を特徴づける大変興味深い現象ですが、常日頃あまりに見慣れた現象であるため、多くの人はそれほど疑問に思うことはないかもしれません。むしろ、昔の人の方が、雨が降ることについていろいろなことを不思議に思い、現在のような観測機器がなくても、こと細かく観察をしていたような気がします。数十年前に、「雨(岡田武松著)」、「降水の物理学(高橋喜彦著)」、「雨の科学(磯野謙治著)」などの優れた書物が出版されています。それらの中には、その頃の雨の科学と共に、昔の人たちが雨という現象をどのように考えていたかも興味深く描かれています。
これらの書物が書かれた時から現代までに、多種多様な科学技術が開発され、雨の科学はさらに進歩し、雨の降り方もかなり正確に予報されるようになりました。雨を理解するには、当然それが降ってくる雲のことを理解しなくてはなりません。近年の研究の大きな変化は、「雲をつかむような話」と例えられてきた雲について、ミクロスケールから地球規模までの様々な空間スケールで調べることができるようになったこと、ミクロな現象と地球規模の現象が密接に関わりあっていることが分かってきたことでしょう。特に、リモートセンサーとコンピュータの進歩は、雲や雨を雲のありのままのスケールで「雲をつかむ」ように調べることを可能にしました。
雲や雨の科学の一つの特徴は、1000分の1ミリ前後の非常に小さな現象や過程が大きな働きをしていることです。人工的に雨を降らせる、あるいは人為的に気象を改変させることは気象学の一つの夢でしたが、雲と雨のミクロな物理は、20世紀半ば頃からは人口降雨の科学的な基礎としても発展してきました。それらの研究は、主に、関連する過程の室内実験、雲の中の航空機観測などにより行われていました。一方、強風、集中豪雨、豪雪、雷、ひょう、竜巻、陣風、突風、あるいは台風など激しい大気現象は、毎年地球上の各地で甚大な災害をもたらしています。これらの現象は、非常に発達した雲に関係するものです。雲と雨の科学の一部は、このような自然災害の予報と防止を大きな目標として発展してきました。それらの研究では、特に、レーダーというリモートセンサーが大変有力な観測手段でした。
雲や雨の科学を飛躍的に発達させたのはコンピュータの進歩でした。雲がつくられ、それから雨が降ってくる現象は、ミクロな物理と気流の力学などが複雑にからみあった現象です。そのように複雑な相互作用を雲全体で調べることは、大掛かりな数値計算を高速に行うことができるコンピュータがあって初めて可能なことです。つまり、「雲をつかむ研究」は、一つには、コンピュータを用いた雲の数値シミュレーションにより可になったわけです。
もう一つの大きな進歩は、人工衛星による雲や降水の観測です。気象の観測の多くは自分を中心として周りを観るものでした。人工衛星による気象観測が始まってから、まだせいぜい20年ですが、それは雲の観測を大きく変えました。集中豪雨をもたらす雲群はさしわたし数100キロにも及ぶ大きなもので、従来の手段ではその全貌を把握することができませんでした。しかし、人工衛星を用いれば豪雨が起こるかなり前からその雲群の全体を観ることができます。また、自分がいる場所から遠く離れた地域の雲も、リアルタイムで観ることができます。これまでも、世界各地の雨は地域により気候域によりいろいろと異なり、それに伴い生活、習慣などが異なることは知られていました。今は、それらの雨をもたらす各地域の雲の変化をリアルタイムで比較することもできます。いわゆるグローバルな視点を誰もが自然にとれるようになりました。
複雑な地球の自然の理解する際、しばしば個々のプロセスに分解してそれらを理解することにより、それらの組み合わせとして全体を理解しようとします。しかし、現象を丸ごと観て理解していく立場も大切です。それは生物の理解には、遺伝子科学にもとづく理解と同時に、動物行動学のような全体的な理解が必要なのと同じです。人工衛星による雲の観測は広範囲の雲の姿をありのままに観ることを可能にしました。まさに、「丸ごと理解」を雲や雨の科学でも可能にしたということができます。
現在、地球環境問題を大きな契機として地球環境の科学が急速に発展していますが、そこでは、地球規模の自然環境の維持において微生物、微量な気体成分などが大切な働きをしていることが明らかにされています。同じように、雲、雨のミクロな物理もまた地球規模の現象において重要な働きをしています。
この本では、ミクロスケールから地球規模まで、様々な空間スケールで雨をとらえながら、新しい知識もまじえて、地球の自然環境にとっても大切な雨という現象の面白さを示していきたいと考えています。? 地球に降る雨のミクロな特徴、? 雲の組織化、? 雨の気候学は、それぞれが別々の科学なのではなく、互いに密接に関係しながら、そのいずれもが地球上の雲と雨を理解していく上では大変大事なものです。この本を読んで、地球上の雨の面白さ、大切さに改めて関心をもって頂けたら幸いです。
私は、2002年8月から愛知医科大学血液内科に入院しました。一時退院がありましたが、この本の原稿は1年に及ぶ入院生活の間に、毎日、病室の窓から空の雲を眺めながら少しずつ書き下ろしたものです。私の病気に対して行きとどいた治療と看護をしてくださると共に、この原稿の執筆を励ましてくださった血液内科の坪井一哉先生、高木繁先生、伊藤公人先生、そしてナース・ステーションの方々に心から感謝いたします。

2003年9月
武田喬男

【目次】
1 地球に降る雨のミクロな特徴
第1章 雨粒の形と大きさ
 1・1 球形の雨粒
 1・2 雨粒が落ちる速さ
 1・3 雨粒の分裂
 1・4 垂直風洞
 1・5 雨粒の温度

第2章 雨の強さと雨粒の大きさ分布
 2・1 雨の強さ
 2・2 雨粒の大きさ分布
 2・3 レーダによる雨の観測
 2・4 雨粒の粒径分布の測定

第3章 雨が降る雲、降らない雲
 3・1 雲粒と雨粒
 3・2 雲の種類
 3・3 凝結のみでは雨粒はできない
 3・4 衝突併合により雨粒がつくられる
 3・5 雲粒は小さな種からできる

第4章 多くの雨は雪が融けたもの
 4・1 雲のままで降るか、雨になるか
 4・2 雪粒子のタイプと大きさ
 4・3 氷粒子の成長
 4・4 雲粒は凍りにくい
 4・5 種まきをする雲

第5章 雨の降り方は人間活動によって変わる
 5・1 気象の人工調節は人類の夢?
 5・2 都市とその周辺の降雨の変化
 5・3 地球温暖化の鍵をにぎる雲
 5・4 飛行機雲も種まきをする

2 雲の組織化
第6章 積乱雲の生涯
 6・1 積乱雲は強い雨をもたらす
 6・2 積乱雲がつくられ、発達するための条件
 6・3 強い雨とともに勢いよく下降する気流
 6・4 積乱雲の観測

第7章 生物のような積乱雲
 7・1 積乱雲は自己増殖する
 7・2 まわりの風の動き
 7・3 規則的な構造を持つ積乱雲
 7・4 積乱雲の地域的な違い

第8章 集中する豪雨
 8・1 ごく局地的な豪雨
  小さくてもスーパーセル
 8・2 線状に並ぶ積乱雲の群
 8・3 集中豪雨の具体例
  2000年9月に発生した東海豪雨
  1972年7月に発生した西三河東濃地区の豪雨
 8・4 集中豪雨が発生する条件
  雨の集中化の謎

第9章 人工衛星から観る雲の群れ
 9・1 メソスケールの現象
 9・2 クラウド・クラスターの具体例
  足の遅いクラウド・クラスター
 9・3 強い雨をもたらす雲システムの階層構造

第10章 地形の働きによる降雨の強化と集中
 10・1 雨量分布は地形の影響を受ける
 10・2 地形性豪雨の具体例
  豪雨と種まき
 10・3 地形効果による積乱雲の変質
  積乱雲は上陸前後で変身する

3 雨の気候学
第11章 気候域と雨量
 11・1 雨の降り方は地域によって違う
 11・2 雨の降り方は緯度によってかなり違う
 11・3 熱帯域の降雨
 11・4 温帯域の降雨、降雪

第12章 亜熱帯域の降雨
 12・1 北緯35度線周辺の雨
 12・2 亜熱帯湿潤気候域
 12・3 メソスケールの降雨現象
 12・4 日本の降水の特徴
  危うい日本の水資源

第13章 雨のテレコネクション
 13・1 人工衛星による雨の観測
  画期的な熱帯降雨観測衛星TRMM
 13・2 異常多雨
 13・3 テレコネクション
  インターネットとデータセット

第14章 雨の経年変化
 14・1 地球温暖化
  地球温暖化と雲
 14・2 降雨の経年変化
  日本の降水の経年変化

第15章 水惑星の水問題

(気象図書)
カテゴリー:気象ブックス タグ:天気 気象 気象ブックス 
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