海洋計測工学概論 【改訂版】


978-4-425-56032-5
著者名:田口一夫・田畑雅洋 共著
ISBN:978-4-425-56032-5
発行年月日:2001/3/18
サイズ/頁数:A5判 344頁
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価格¥4,840円(税込)
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潮流・温度・海底の形態などを計測する各種機器の特性や計測方法について説明。豊富な図表で海洋計測機器全般を解説したハンドブック。

【はじめに】より  我々の緑豊かな地球は、急増する人口があふれようとしている。これを救うには、母なる海の開発によらねばならない。昭和40年代に叫ばれた、海洋開発の掛け声は既に失せているが、それは海の障害がいかに厳しいかの教訓と受け止めるべきであろう。これに対比して語られるのが、宇宙開発の急速な進歩である。その違いは、人間の目で直接見ることのできる情報量と、海水という苛酷な環境に由来するといえよう。しかし、先人のモットーである「海を愛し、海を恐れず、海を拓け」を掲げて、海を拓く努力は続けていきたい。
 しかしながら、海洋技術の基礎としての海洋計測工学は、未だに陸上技術を要求の度に、海に転用することが多く、海の特性を理解して、総合的視点より研究されたとは言い難い。従って、思考の過程には潮の香りがないから、当然考慮されているべき海の工学的見識が欠けてしまう。それでも、海面より上の成果では、データの取得が比較的容易なことと、蓄積された使用経験により、相当の進歩が見られる。これに対して、海中の行動は、かなりの困難が伴うために、手探りの域を脱し得ない分野があるのも否定できない。
 こうした観点から、筆者らは「海洋計測工学」なる言葉を作り、これに相応した内容と、その領域の確立を試行してきた。しかし、対象となる分野は非常に広く、これを完全にカバーすることができないのは当然であるから、本書では物理系の仕事を、主として工学的視点から記述した。さらに、読者が海洋計測の現場(in-situ)の雰囲気に慣れるように、心掛けて表現した。既述の方針は、広く使われている技術と基本原理においたので、先端分野あるいは使用者の少ない機器は省略した。なお、計測工学の分野には、互いに共通する技術が多いので、これらの基本知識を最初にまとめて解説した。
 記述に当たり、留意した点は、いわゆる5W、1Hという、科学論文の大原則である。従来、わが国の技術系図書は、初めに機器ありきの立場で、歴史的背景がないため、その機器の導入、ひいては利用目的が理解され難い、トレード・オフ的評価も困難である。そこで、機器の製作の発想のあり方を述べ、その目的達成の手法を記した。さらに、それらの理解を助けるには描画を多く、しかもできるだけ立体化した図が必須であるから、正確を期するために大部分を筆者らが描いた。図の表現に工夫をこらし、新奇性を持たせて読者の興味を得るように努力した積りである。
 参考文献類の範囲は極めて多用であり、数も多いので、容易に入手しやすい主要な最近の発表に限定した。
 本書の執筆は、第3章の海洋物理センサを田畑が主としてまとめ、残りは田口が分担した。両人とも海洋計測には長い経験があるので、全般にわたり相互の目を通して、できるだけ既述の偏りをなくしたが、完全な内容を記することは真に困難である。なお本書の試みは新しい分野だけに、記述の不足あるいは不十分な点を懸念している。読者諸氏の教示・助言などを頂きながら、より内容の充実を図っていきたい。
 本書の領域は非常に広く、しかも新分野が多いので、読者にとり関連する機器も目新しいものが多いと思う。このため研究所、機器メーカおよび関係商社などの各位から、多大の援助を頂いたことに深く感謝したい。

平成9年1月
著者ら

【改訂版発行に寄せて】より  本書の刊行後4年で改訂する運びとなった。著者らは新しいジャンルに挑んだ心算であったので、その点は些か認めて頂けたようである。しかし、初版の不備な点と満足度に欠けた文章もあり、内心忸怩たるものがあった。この4年間の新技術の発展は著しく、再版を機に改訂が好ましいと考えた。本版では初版で意をつくせなかった点を努めて訂正し、新分野には言及しない。
 とは言え、海洋測位におけるGPSは精度向上と小型軽量化により、使用者は激増して測位の主役となったので、これらの訂正と追補をした。GPSは従来の測位の概念を一変させたが、その比重が大きいだけに、軍事システムに依存する危うさと対策も考慮しておく必要がある。

平成13年2月
著者ら

【目次】
第1章 海洋計測工学とは
 1.1 海洋計測という仕事
 1.2 海洋計測センサの概念と技術的進歩
 1.3 センサの精度と使用環境
 1.4 海洋センサ・システムの総合的配慮

第2章 海洋計測工学の基礎
 2.1 電波伝搬
  2.1.1 地表波伝搬の基本
  2.1.2 伝搬様式(モード)
  2.1.3 地表波の伝搬
  2.1.4 導電率の影響
  2.1.5 大地電気定数の影響−LF・VLF帯の伝搬
 2.2 人工衛星の運動と軌道
  2.2.1 公転周期と高度
  2.2.2 軌道の種類
  2.2.3 衛星の可視範囲
  2.2.4 衛星の働くトルク
 2.3 ジャイロ・コンパス
  2.3.1 ジャイロスコープとコンパスの基礎理論
  2.3.2 プレセッション
  2.3.3 地球上でジャイロスコープをコンパスにするには
  2.3.4 ジャイロ・コンパスの基本構造
  2.3.5 ジャイロ・コンパスの構成

第3章 海洋物理測定センサ
 3.1 塩分
  3.1.1 塩分計
  3.1.2 電極型塩分計
 3.1.3 誘導型塩分計
 3.2 水温
  3.2.1 水銀温度計
  3.2.2 抵抗温度計およびサーミスタ
  3.2.3 赤外線放射
 3.3 深度
  3.3.1 金属ストレーン・ゲージ
  3.3.2 半導体圧力センサ
 3.4 水深・水温複合測定機器
  3.4.1 自記水温水深計;バシサーモグラフ
  3.4.2 投げ捨てバシサーモグラフ
  3.4.3 サーミスタ・チェーン
  3.4.4 STD/CTD
 3.5 流向・流速
  3.5.1 流向と流速測定のあらまし
  3.5.2 流速センサ
  3.5.3 インペラ型流速計
  3.5.4 ロータ型流速計
  3.5.5 回転式流速計の流速・流向検出機能
  3.5.6 電磁誘導現象による流速計
  3.5.7 曳航式電磁流速計
  3.5.8 電磁ログ
  3.5.9 電磁流向流速計
  3.5.10 投げ捨て型電磁流速計
  3.5.11 超音波トップラ流速計
  3.5.12 ADCP
  3.5.13 漂流ブイ
 3.6 海面水位変化
  3.6.1 潮汐観測
  3.6.2 津波観測
  3.6.3 波浪観測−波高観測
  3.6.4 波向観測
  3.6.5 沖合の波浪観測

第4章 海底調査
 4.1 海底調査の概要
 4.2 測深と音波の水中伝搬特性
  4.2.1 測深の概念
  4.2.2 音波の水中伝搬特性
 4.3 音響測深機の基本
  4.3.1 音響測深機の機能
  4.3.2 測深レンジとシフト・レンジ
  4.3.3 ビーム幅
  4.3.4 パルス幅
 4.4 測深機の機能向上
 4.5 測深画像解析
  4.5.1 パルス幅効果
  4.5.2 ビーム幅効果
  4.5.3 ビーム幅効果による双曲線画像
 4.6 測量用測深機
  4.6.1 浅海用精密測深機
  4.6.2 多素子音響測深機
  4.6.3 海図作成用デジタル音響測深機
 4.7 深海用精密測深機
  4.7.1 歴史的背景
  4.7.2 ナロー・ビーム測深機
  4.7.3 シー・ビーム2000
  4.7.4 浅海用ナロー・ビーム・マルチ・チャンネル測深機
  4.7.5 極浅海用ナロー・ビーム・マルチ・チャンネル測深機
 4.8 海底面探査
  4.8.1 海底面探査の考え方とサイド・スキャニング・ソナー
  4.8.2 走査ビームの使用可能範囲
  4.8.3 SSソナーの画像特性と探査範囲
  4.8.4 デジタルSSソナー
  4.8.5 広域SSソナー
  4.8.6 狭域小型ソナー
 4.9 海底下地層探査
  4.9.1 地層探査の手段
  4.9.2 音響測深機方式
  4.9.3 水中放電方式
  4.9.4 電磁誘導方式
  4.9.5 高圧空気の放出
  4.9.6 軟泥層探知機
  4.9.7 低周波音波の受信装置

第5章 リモート・センシング
 5.1 リモート・センシングの考え方
 5.2 リモート・センシングの基本システム
 5.3 リモート・センシングの原理
 5.4 観測センサ
  5.4.1 データ収集−センサの基本原理
  5.4.2 測定範囲の設定と画像走査
 5.5 受動センサによる観測
  5.5.1 機械走査
  5.5.2 電子走査
 5.6 観測センサの基本
  5.6.1 光学センサの基本
  5.6.2 光学センサの実際
  5.6.3 マイクロ波センサの基本
  5.6.4 マイクロ波センサの実際
 5.7 映像レーダ
  5.7.1 サイド・ルッキング・レーダ
  5.7.2 実開口レーダ
  5.7.3 レンジ方向処理
  5.7.4 合成開口レーダ

第6章 海洋測位
 6.1 海洋測位の基本
  6.1.1 測地系と測位
  6.1.2 海図の図法
 6.2 測位センサ
  6.2.1 角度測定
  6.2.2 磁気コンパスとジャイロ・コンパス
  6.2.3 速度−距離(航程)センサ
 6.3 位置決定法
  6.3.1 角度測定機器と距離測定機器
  6.3.2 天体・陸上物標の可視測定
  6.3.3 セキスタントによる物標の水平交角測定
  6.3.4 陸上からの船の位置測定
  6.3.5 天文測位
 6.4 電波測位
  6.4.1 電波測位の基本
  6.4.2 双曲線航法の概観
  6.4.3 双曲線航法の原理
  6.4.4 双曲線航法の実際
  6.4.5 ロランCシステム
  6.4.6 ロランC電波の伝搬
  6.4.7 ロランC受信機
 6.5 マイクロ波による測位
  6.5.1 マイクロ波測位の基本
  6.5.2 レーダの機能
  6.5.3 レーダ信号の特性−映像解析
  6.5.4 電磁波測距儀
 6.6 衛星測位とGPS測位
  6.6.1 衛星測位
  6.6.2 GPSの構成
  6.6.3 GPS設計の基本
  6.6.4 測位の方法
  6.6.5 航法用受信機
  6.6.6 航法用受信機の測定の実際
  6.6.7 デファレンシャルGPS(DGPS)
  6.6.8 GPS測量
 6.7 海中位置測定システム
  6.7.1 海中位置測定の基本
  6.7.2 装置の基本構成
  6.7.3 簡易測位方式
  6.7.4 船位測定システム
  6.7.5 携帯用ピンガー位置探知装置
  6.7.6 海中機器切り離し装置



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カテゴリー:気象・海洋 
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