海が日本の将来を決める


978-4-425-53052-6
著者名:村田良平 著
ISBN:978-4-425-53052-6
発行年月日:2005/1/28
サイズ/頁数:四六判 374頁
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価格¥2,420円(税込)
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近年、わが国周辺海域を舞台に日本の国運に係わる大きい問題がいくつも発生しています。外国軍艦による領海侵犯、工作船の活動、東シナ海の石油・ガス開発、密漁、海賊問題と大きく報道された事件だけでも枚挙に暇がありません。しかしながら、依然としてわが国には政府として一元的に海洋問題に取り組む組織は無く、国民全体としても海洋国家としては、海に対する意識が低いと言わざるをえない状況が続いています。このよう折、改めてわが国にとっての海の重要性を説き、海との関わり方はどうあるべきなのかを示した本書を発行しました。
著者の村田良平氏は、外務省出身で、駐米大使・日本財団特別顧問等を歴任した重鎮。平成13年には「海洋をめぐる世界と日本」(平成16年度吉田賞受賞『吉田茂国際基金』)を著しています。本書は、この本をベースにして近年の海洋における様々な変化を取り入れ、全面的に内容を改めたものです。米国同時多発テロや北朝鮮工作船事件なども旧著発行後に発生しており、わずか4年の間にいかに大きい変化があったのかを再認識させられます。
海運・造船・漁業・軍事・法律・条約・環境問題など海洋に関する様々な事象の歴史・現状・将来展望を分かりやすく解説しており、海洋国家日本の国民として知っておくべき事柄を網羅しています。
海事思想の啓蒙書としてはもちろん、わが国の海洋政策・外交問題の現状と将来を見据える書としても極めて意義深い一冊です。

【はしがき】より
本書が日本財団会長(当時理事長)笹川陽平氏の勧めを受けて、「海洋をめぐる世界と日本」と題して上梓されてから、はや四年以上となりました。本来私の目的は、海洋に関し基礎的な事項を広く読者に紹介することにあり、叙述も平易を心がけ、そういう著書として版を重ね、原著は、私の他の一著とともに、財団法人吉田茂国際基金より平成16年度の「吉田賞」を受けました。もと外交官として大先輩たる吉田茂総理の名を冠する賞を得たことは、私にとり、望外の喜びでありました。
先般出版元の成山堂書店より重版の話が寄せられましたので、加筆の要否の検討を兼ねて、日本にとっての海、あるいは国際政治や経済から見た海という立場から過去僅か四年余りを改めて振り返ってみました。そして大変大きい変化が起っていると感じました。
そこで、原著を下敷きにしつつも、重要な変化点を中心に思い切った改訂と加筆をくわえたうえで、このたび『海が日本の将来を決める』と改題し、改めて海についての私の見方を世に問うこととしました。

「四面海もて囲まれし、わが敷島の秋津島」と歌われるように、日本は島国です。わが国は6800以上の島々から成り立っています。この国は時として内に閉じこもり、「島国根性」と言う言葉も生まれましたが、ざっと3000年の歴史において、常に漁業により食を得、船で国内沿岸を移動するなど、島国として生きてきたのみならず、時として外洋進出型の「海洋国家」でもありました。特に、明治維新以来僅か約40年余りの間に、日本は世界第三位の海軍国となりました。大東亜戦争で敗れはしましたが、戦前戦後を通じ、日本は世界第一位の漁業国、造船国、捕鯨国となったことがあります。いまでも、日本は有力な海運、海洋研究国であり、総体として、一流の海洋国と自負できます。日本の防衛は、主として海および空において行われていなければならない宿命を帯びています。
世界政治、経済の絶えざる流れと共に、日本の海洋活動は制約を受けるようになりました。海運、ことに死活的に重要な石油や天然ガスなどの輸送のシー・レーンの安全は、広くは日米安全保障条約に基づく米国海空軍の力に、狭くは海賊等に対する沿岸国の協力にますます依存するようになりました。国連海洋法条約は1994年に発効し、日本は同97年7月に締約国となりましたが、同条約はそれまでの海についての国際ルールを大幅に変えたものです。特に、200カイリの排他的経済水域(EEZ)の創設は根本的な変化をもたらしました。一面では、沿岸諸国がそれまで公海であった海の大きい部分を管轄、管理するようになったことが日本に不利を齎しましたが、他方、国土面積に比べて約12倍もの水域が日本の管理下となったことは、多くの利益を排他的に得る所以となりました。EEZの活用の重要性はあくまで一例に過ぎず、私は、21世紀の日本の安全、繁栄の大きい部分は、私たちがこれから海とどう係ってゆくかに依存すると思っています。
他国も海洋の利用、活用に必死の努力を払っています。同時多発テロ以降、米国は国際過激テロおよび大量破壊兵器の拡散防止を最重要の安全保障の課題と見なしていますが、このためには同盟国や他の友邦との協力は欠かせず、海での対応はかかる協力の重要な一部ですし、米軍の世界規模の再編(トランスフォーメーション)は、海と空による輸送の迅速化と、海からの作戦行動の強化を前提としています。この数年間中国は軍備一般を増強していますが、重点は海と空にあり、2005年8月のロシアとの合同演習もかかる趨勢と一致するものです。2004年11月には中国潜水艦の日本領海侵犯事件も起りました。中国に加え北朝鮮の核ミサイル保有も勘案すれば、日本に対する脅威は、冷戦時代以上に身近となっています。また、中国は急激な経済成長を支えるため、世界中で石油、天然ガス等のエネルギー資源を探し廻っているといってよい国となりましたが、その結果としての近年の東シナ海での大陸棚資源の探査さらには採掘に向けての中国の動きは日本として十分監視しなければなりません。
米国と中国の動きのほんの一部を紹介しましたが、果たして日本国民の何割がかかる動向に注目しているでしょうか。識者は別として、国民全体にこれら海洋主要国の海洋政策への関心がそもそもあるでしょうか。海洋国家なのに、日本に「海洋戦略」と呼ぶに足る構想は果してあると言えましょうか。初等、中等、高校レベルで海あるいは海事および領土問題について十分満足すべき教育は行われているのでしょうか。
海は驚くほど多面的なのですが、政府として、一元的に海洋問題に取り組む組織は無いのが現状ですし、日本の海洋での諸権益を自衛力を行使して守るための法的根拠は十分整備されていないのです。
7月20日が「海の日」として国民の祝日であることはご存じでしょう。しかし、その由来はよく知られてはいないようです。1867年(明治9年)6月から7月にかけて、明治天皇は北関東、東北、北海道へ行幸されました。戊辰戦争で戦場ともなったこれら地域を中央集権の新しい日本へしっかり組み入れる目的の行幸でしたが、帰路は函館からその三年前英国で建造されたばかりの「明治丸」と言う船で海路を取られ、7月20日無事横浜にお着きになりました。明治天皇が当時はまだ決して安全とは言えなかった海路を敢えてとられたことは、それまでの島国日本が海洋国家として雄飛しようとの意気込みを示されたものでした。これが、1941年(昭和16年)から7月20日を「海の記念日」とすること、さらに平成7年の祝日法の改正によりこの日を国民の祝日とすること(その後の法改正で、7月の第三月曜日となる)の理由です。しかし、海そのものを祝日としているのは、私の知る限り日本だけなのに、関係機関等の祝賀行事は行われているものの、他の幾つかの祝日に比して「海の日」には、国を挙げて盛大な行事は行われていません。
今後は是非、“海の恩恵に感謝すると共に、海洋国家日本の繁栄を願う(祝日法の規定)”ために盛大な行事をとり行いたいものです。今世紀の日本の盛衰はこれから本書の各所で著者が説明するように、海との係り方により決まってくるのです。

平成17年12月
村田良平

【目次】
【1】総論
はじめに
 1 航海と造船
 2 海洋資源
 3 その他の海洋の利用
 4 海洋から発生する自然災害
 5 海洋に関連する環境問題
 6 海洋と日本の安全保障および海洋秩序の維持
 7 領土問題
 8 島嶼国との関係
 9 海洋に関連する国際機構
 10 日本の海洋政策の問題点

【2】各論
1.航海と造船
 (1)日本の航海と造船
   a.太古から戦国時代まで
   b.江戸時代
   c.幕末の頃
   d.明治維新以降
 (2)アジア・アラブ世界の航海
 (3)欧州の中世までの航海
 (4)大航海時代以降
 (5)第二次世界大戦後の日本の海運
   a.海運と航空の差異
   b.「海運の自由」とは何か
   c.政府による海運業育成
   d.海運同盟への参加
   e.OECDへの加盟
   f.開発途上国およびソ連の問題
   g.日本海運の現状と便宜置籍船
 (6)造船
   a.造船産業の特色
   b.欧米造船業の歩み
   c.日本の近代造船業

2.海洋資源
 (1)漁業資源
   a.日本の漁業の歴史と現況
   b.漁業をめぐる諸外国との問題
   c.溯河性魚種
   d.流し網問題
   e.高度回遊性魚種
   f.捕鯨
 (2)非生物資源

3.海洋環境の保全
 (1)地球的規模の環境問題の基本
   a.人口の増加と消費動向
   b.都市化の進展
   c.森林破壊、砂漠化、有害化学物質
 (2)海洋の汚染対策
   a.汚染対策
   b.海洋への投棄防止
 (3)地球温暖化問題
   a.地球温暖化の基本問題
   b.温暖化が海洋に及ぼす影響
   c.国際的取り組み
 (4)オゾン層破壊、酸性雨
 (5)海洋の生態系(動植物)保護
 (6)海岸の保全とゴミ問題

4.海洋と安全保障
 (1)海洋戦略とシー・パワー
 (2)海戦の様相の変化および関連する国際法
   a.海をめぐる戦争態様
   b.新兵器の登場
   c.米国による「軍事革命」
   d.海戦法規
 (3)自衛隊の役割とその変化
   a.変わり行く自衛隊の役割
   b.湾岸戦争の経験
   c.9月11日のテロ事件以降の変化
 (4)憲法と集団的自衛権と日本の防衛
   a.集団的自衛権
   b.さけられない憲法改正
 (5)在日米軍基地

5.海洋の秩序
 (1)海洋における秩序維持の重要性
 (2)不審船の行動と拉致問題
 (3)密輸と密入国の取り締まりと海難の救助
 (4)現代の海賊とテロの脅威
 (5)海洋調査のルールの遵守
 (6)核をめぐる諸問題
   a.核実験、非核地帯
   b.非核三原則
   c.核物質の輸送
   d.軍事用核物質にからむ問題

【3】海洋に関する国際法
1.国際法全般
 (1)国際法の当事者と法源
 (2)国際法と日本国憲法
 (3)条約の種類と締結手続き
 (4)欧州における国際法の発展
 (5)国際法の非キリスト教国による受入れ
 (6)第二次大戦後の国際法

2.国際法および外交と日本の立場
 (1)日本と欧米の法意識の類似点
 (2)日本の国際法のとらえ方
 (3)国際法と日本の海洋外交のとるべき指針

3.海洋法の歴史的発展
 (1)欧州諸国の海洋支配の進展
 (2)海賊と私椋船
   a.海賊の特質
   b.欧州の海賊
   c.私椋船の禁止
 (3)領海制度の変化
 (4)各種海洋関連国際法の整備
 (5)国連海洋法条約の成立

4.国連海洋法条約の主たる内容
 (1)領海,接続水域
 (2)国際海峡
 (3)郡島国,郡島水域
 (4)排他的経済水域
 (5)大陸棚
 (6)境界画定
 (7)公海
 (8)その他の規定
   a.島と岩
   b.船舶
   c.海賊、奴隷の運送、麻薬取引
 (9)深海底
 (10)海洋汚染防止,海洋調査,紛争処理
 (11)海洋法条約の将来

5.南極と宇宙
 (1)南極
 (2)宇宙?


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カテゴリー:気象・海洋 
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