海洋物理学概論 【4訂版】


978-4-425-53045-8
著者名:関根義彦 著
ISBN:978-4-425-53045-8
発行年月日:2003/7/18
サイズ/頁数:A5判 152頁
在庫状況:品切れ
価格¥2,200円(税込)
品切れ
潮流・温海洋波動から潮流、海流、海洋大循環まで様々な現象を流体力学、熱力学等の分野より解説。大気と海洋の相互作用をふまえて詳説する。

【まえがき】より
海洋は大きなスケールで見ると地球表面の約7割を被う極めて薄い膜です。しかし、地球に比べてはるかに小さい人間にとっては広く深い大海原であり、台風時には高潮がみられ、地震の発生に伴い津波も生じます。反面、海や魚や海藻などの貴重な食糧をもたらし、また陸地と比較して気候を温和にするありがたい面もあります。さらに、地球上の生物が太陽からのX線や紫外線などを通さない海中で発生したことも特筆されます。海中の植物プランクトンの光合成により大気中の酸素が増え、太陽からの紫外線により大気中のオゾン層が形成され地面に達する紫外線が少なくなった後、植物そして動物の順で陸に上がりました。人間の血液や母体内で赤ん坊が育つ用水の成分と海水の成分がよく似ていることもかつて我々の遠い先祖が海にいた証拠であり、我々の遠い先祖はかつての住み家の海水を体内に持って陸に上がったことが推量されます。
本書は、海洋に興味を持っておられる方、気候変動や温排水の海洋拡散などの海洋環境問題に興味を持たれる方、海洋の環境アセスメントを仕事とされる方、さらに海洋関連の勉強をされる学生諸君を対象に海洋物理の基礎を紹介するものです。
海洋物理学は風波やうねりなどの海洋波動から潮流や海流などの流れ、水温や塩分分布などの基本的性質やその変動過程を物理学を基礎に理解する学問です。海洋物理学では流体力学や熱力学などの基礎知識が必要ですが、これらについてはこの本の中でその要点を簡単に説明します。
現在、地球上の生物を守っているオゾン層の破壊に加えて、二酸化炭素などの増加による地球の温暖化や植物を枯らす酸性雨などが大きな環境問題となっています。先進国の大量化学物質放出と発展途上国の人口増加に伴う森林の現象や砂漠の拡大などで地球環境の破壊は進んでいます。仮に温暖化による全南極の氷が全部溶けると海面は現在より約50メートル程度上昇し、食料生産や都市が集中する重要な平野の大半が水没します。しかし海水の比熱が大きいため、全大気の熱容量は海水の熱容量に換算すると高々3メートル程度です。したがって、海洋が温暖化した大気を冷却すれば海洋の温暖化はわずかです。仮に大気の気温が10℃上昇しても、海面から30メートルまでの海水が大気を冷却すれば海水温の上昇は1℃であり、300メートルの層が冷却すれば0.1℃です。心配無用といいたい所ですが、風呂の水温分布からも連想される通り、大気に接する海面近くの海水が暖められると密度が小さくなって海面近くに滞在し、それ以後大気の冷却作用は極めて小さくなります。しかし、風が吹いて海面近くの温暖化した海水を別の場所に移動すれば、下層の冷たい海水が海面に持ち上げられて大気を冷却できます。この場合、風の吹く時間、風向および風速と冷たい下層の海水が海面に持ち上げられる割合などの量的な関連が重要になります。これらの定量的議論の基礎となるのが海洋物理学です。
大気と海洋は気体の差はありますが流体という点で共通し、両者をまとめて地球流体、その力学を地球流体学(geophysical fluid dynamics)として一括した議論や講義が行われています。天気予報と温排水の拡散範囲の推定は全く別のことのように思えますが、地球流体学的な将来の予知という点で大きな共通点があります。この面で本書は地球流体学の入門書でもあります。この本を通じて海洋現象のみならず大気変動や気候学などの理解を深め、海洋や大気を中心とする地球環境問題を考える基礎を学んでいただければ幸です。また本書の原稿に対していりろと有役なコメントをいただいた、松山優治博士、柳哲雄博士、武岡英隆博士、久保川厚博士に深く感謝します。
2003年7月
関根義彦

【目次】
第1章 海洋と海水
 1-1 海洋の形状と分類
 1-2 海水の性質
 1-3 海洋の水温・塩分分布とその時代変化

第2章 海水運動の基礎方程式
 2-1 運動の方程式、連続の式
 2-2 乱流状態にある海洋の運動方程式
 2-3 水温と塩分の保存式
 2-4 地球の自転の影響(コリオリの力)
 2-5 海洋現象の力学的分類

第3章 海洋波動
 3-1 地球の自転の影響が無視できる鉛直波動
  3-1-1 風波
  3-1-2 うねり
  3-1-3 内部波
 3-2 地球の自転(コリオリの力)の影響が重要となる波動
  3-2-1 慣性波(慣性振動)
  3-2-2 慣性重力波
  3-2-3 ケルビン波
  3-2-4 惑星ロスビー波と地形性ロスビー波

第4章 沿岸海洋
 4-1 沿岸海域の特徴
 4-2 海洋潮汐
 4-3 潮流
 4-4 河川と沿岸海洋

第5章 海洋大循環の基礎力学
 5-1 海流の基本力学(地衡流平衡)
 5-2 地衡流調節
 5-3 ポテンシャル過度保存則
 5-4 流れの不安定問題
  5-4-1 順圧不安定
  5-4-2 傾圧不安定

第6章 海洋大循環
 6-1 風成循環
  6-1-1 エクマン境界層
  6-1-2 スベルドラップ平衡
  6-1-3 西岸境界流
 6-2 熱塩循環
 6-3 風成循環と熱塩循環の関連

第7章 日本周辺の海流
 7-1 黒潮
 7-2 親潮
 7-3 日本海の海洋循環
 7-4 津軽暖流と宗谷暖流

第8章 海洋環境アセスメントと海洋観測
 8-1 数値モデルと水理モデル、数値実験と数値シミュレーション
 8-2 基礎方程式の数値解法
 8-3 初期条件と境界条件
 8-4 海洋観測
  8-4-1 船からの海洋観測
  8-4-2 人工衛星による海洋観測


書籍「海洋物理学概論 【4訂版】」を購入する

品切れ
カテゴリー:気象・海洋 
本を出版したい方へ