氷海工学−砕氷船・海洋構造物設計・氷海環境問題−


978-4-425-71351-6
著者名:野澤和男 著
ISBN:978-4-425-71351-6
発行年月日:2006/3/28
サイズ/頁数:A5判 452頁
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海氷の性状を基本に、流体・構造・材料・破壊・熱などの各力学、極地の環境、砕氷船、リグ等、北極圏の開発に必要となる工学を纏めた内容。

【まえがき】より  1973年10月に勃発した第4次中東戦争が原因となった石油価格の大幅な引き上げは第1次オイルショックを起こし、さらに第2次オイルショック(1978年)へと発展した。この出来事は世界の経済界に大きな打撃を与えた。特に、中東に石油エネルギーの大部分を依存する日本では安定供給を揺るがす重大問題となった。一方、Canada、Alaskaの北極圏では、North Slopeの石油発見(1968年)を端緒としてArctic Ocean沿岸に膨大な量のエネルギー資源が埋蔵されている事が確認され、開発が進められていた矢先であった。日本では俄に北極圏の安定した石油・LNG資源の輸入が大きな関心事となり、氷海資源開発・船舶輸送等の氷海関連の工学的興味を急激に高揚させることになった。
 造船大国の日本は大型砕氷タンカーやLNG船を建造してArctic Oceanの分厚い氷を砕き、Bering Str .を抜けて石油を輸入するという壮大な計画を立てた。また、Canada、Alaska氷海域開発の国際プロジェクトが次々と開始され、日本に砕氷商船の引き合いが到来して氷海関連研究が盛況を極めた。著者は、それらの研究の重要なブレイクスルー(breakthrough)技術の一つであった砕氷船舶や氷海構造物の開発設計、とくに砕氷抵抗や氷荷重の研究に携わったが、これが砕氷工学との最初の出会いであった。
 砕氷工学はその基本が複雑な性状を持つ海氷の強度にあり、しかも、船舶流体力学、材料力学、構造力学、破壊力学、熱力学などと境界領域を形成する新しい工学である。そのため適当な参考書が極めて少なく、僅かにB.Michel著「Ice Mechanics」、久保義光著「氷工学序説」、田畑忠司著「海氷」、東晃著「寒地工学」などがあるのみで、初心者であった著者が切望した船舶・海洋構造物の砕氷工学について記述された本は皆無であった。このため試行錯誤で関連論文を収集し、研究を進めるごとに多くの困難にぶつかった。このことが、入門書であってもよいから砕氷工学として、纏まった著書を残しておこうと考える動機となった。
 北極点を中心に据えて地球を地軸の方向から眺めると、永久氷や流氷で覆われる面積約1,400万平方kmの北極海がその周りに拡がっており、これを取り囲むRussia連邦、Alaska、Canada、Greenland、Scandinavia諸国等の国々が北極圏(北緯66°33’以北)に乗り出す形で対峙している事がわかる(口絵1)。北極圏とはどんなところか? この問いに対して想起するものーそれは著しく高緯度で分厚い海氷や氷山に覆われた地域、極寒で長く暗い冬と冷涼で短い夏、樹木のないツンドラ地帯、白熊やセイウチなどの生息地ーであろうか。
 北極圏と人間との係り合いが出てきた歴史を概観してみると、その発端は870年頃とされ、Scandinavia人がRussiaのBarents Seaに面したコラ半島(Kola Pen.)を初めとして、Icelad、Greenlandや北アメリカ大陸まで航海士、狩猟や植民地の確保をした事が歴史に残されている。商業や交通の舞台として北極圏が登場するのはそのずっと後の16世紀初頭になってからのことである。北極圏のアザラシや白熊の毛皮に目をつけた毛織物業者達はこれらの加工製品で極東の富みを手に入れるために、極東への最短航路である北東航路(Northeast Passage:EuropeからSiberia沿岸の海を経由して極東に出る航路)や北西航路(Northwest Passage:EuropeからCanada北極海を経由して極東に出る航路)の完航が強く望まれた。このような商業・交通上の要望により多くの地理学上の発見がなされた。
 北東航路では、1594年にBarents(バレンツ)がBarents Seaを発見してKala Seaに入った。1609年にHudson(ハドソン)がBarents Seaを航海し、1725〜1742年にはBering(ベーリング)がBering Seaを通過した。SwedenのNordenskiold(ノルデンショルド)は357tの小さな「Vega号」では1878年から1879年の2年の歳月を費やして北東航路を完航した。しかし、一夏でこの航路を完航したのは53年後の1932年U.S.S.R.の砕氷船「Aleksander Sibiriyakov号」によってである。
 北西航路では、1576年のFrobisher(フロビッシャ)以降、多くの探検を経て1845〜1848年にU.K(イギリス)のフランクリン隊とロス隊が北西海岸を探検し、1854年Mclure(マクルアー)らの科学的探検を経て、1903〜1906年NorwayのAmndsen(アムンセン)が「Gjoa号」で完航した。こうして、約350年余の年月を経て念願の北東航路と北西航路の扉が開かれた。
 北極点への到達の試みは1893〜1896年NorwayのNunsen(ナンセン)によりなされ北緯86°13’まで達した。また、1894年Jackson(ジャクソン)は北極の島々の地図を作成した。U.S.A.のPeary(ペアリー)は1891年以来数回にわたって犬橇で試み、ついに1909年Greenland北部から北極点到達に成功した。空路による試みでは、1926年U.S.A.のByrd(バード)がSpitsbergenから到達した。その2日後AmndsenとNobile(ノビレ)がSpitsbergenから北極点経由でAlaskaまでの横断飛行に成功した。その後、1958年にはU.S.A.海軍の原子力潜水艦「Nautilus号」がHawaiiのPearl Harborを出港、Bering Str.を経てArctic Oceanに入り、海氷の下から初めて北極点に到達してU.K.のPortlandに到着した。また、1977年にはU.S.S.R.の原子力砕氷船「Arktika号」が水上船による北氷洋横断を試み、初めて北極点通貨に成功した。Arctic Oceanのちずには多くの著名な探検家の名前が珠玉の如く散りばめられ、ロマンに満ちた探検物語を思い出させる。このように北極地方はごく一部の人々との係わりを除き、我々の日常生活からは遠い存在であった。
 しかし、2度のオイルショックは我々をして工学的、経済的関心の目で北極圏を眺めさせることになった。資源輸送の要請に応えるべく氷海関連のさまざまな研究が極地工学として活発に行われるようになってきた。即ち、海氷の分布、成長、漂流、基礎性状(物理的、機械的性質)、掘削用人工島や氷海構造物、砕氷船舶と氷海航行、港湾、パイプライン、氷海気象観測および居住施設などに関する研究である。氷海再現水槽を使用した模型実験や実機実験による研究ならびに理論的研究が数多く行われ、国際会議で活発に発表された。これらの成果は近代的な砕氷船や氷海構造物の設計・建造に活用された。しかし、その後、オイルショックは収束したため巨大砕氷タンカーの建造はないまま21世紀を迎えることとなった。
 最近、新たな氷海関連の話題が出てきている。世界の輸送量の99%以上を受け持つ船舶輸送の効率向上の観点から、Russia北極圏航路の国際利用研究(INSROP〕、Azipod(全方位電気駆動ポッドプロペラ)の砕氷船への応用、Double Acting Tanker(DAT)の開発、Caspian Sea北部の石油開発に伴う砕氷支援船、地球環境をも守備範囲とする多目的砕氷船、日本への石油・LNGの安定供給をもたらすサハリン・プロジェクト、氷海資源開発による油流出問題とその対策、氷海観測技術の発展等である。
 南極条件で守られているAntarctic OceanとAntaectic(南極大陸)については、当然ながら氷海開発の話題はなく、科学研究の拠点として世界中の多くの国が南極観測を行っている。南極が認識されたのは18世紀後半のJ.Cook(クック)の大陸周航からといわれる。その後Bellingshausen(ベリングスハウゼン)やRoss(ロス)の探検を経て20世紀初頭多くの探検が続くが、1911年12月14日のAmndsenと翌年1月17日のScott(スコット)による熾烈な南極点到達競争はそのクライマックスとなった。当時、日本の白瀬隊も30mの小さな「開南丸」でRoss Seaから大和雪原を横断し、南緯80°05’に達した(1912-1/28)。第2次世界大戦後はByrd隊の活躍があった。1957年からその翌年にかけての第3回国際地球観測年以降、各国の南極観測が盛んになった。日本も1956年、観測船「宗谷」を使用した南極観測にはじまり、観測船「ふじ」、「しらせ」と砕氷馬力の増強を図り、今日に至っている。
 本書は、極地工学の中で特に砕氷船舶や氷海構造物と海氷との工学的係り合いについて、砕氷工学、氷海航行、氷海環境問題を対象とした「氷海工学」という立場から纏めたものである。その構成は次の通りである。

第1章 (序論)
    北極圏の概要、極地工学、氷海工学の位置づけ
第2章 (氷海域と海氷)
    海氷の分布と分類、海氷の発生・成長、海氷の物理的・機械的性質
第3章 (氷板の載荷力)
    浮遊結氷板の曲げ、応力および載荷力、氷の有効利用法
第4章 (砕氷模型実験)
    砕氷現象の相似則、氷海氷槽、模型氷の特性、模型実験
第5章 (砕氷船工学)
    砕氷船概要、砕氷抵抗、積雪やリッジ(氷丘脈)におる抵抗増加、
    砕氷船の馬力、ラミングと操縦性能、特殊砕氷装置、アイストルク
第6章 (氷海構造物に作用する氷荷重)
    構造物の形態、氷荷重と破壊パラメータ、各種の構造物と氷荷重
第7章 (氷海技術の新しい進展)
    国際北極海航路計画、ポッド型プロペラ、DAT、最新の砕氷船と
    砕氷支援船、サハリン石油開発、大型氷海構造物、海氷観測技術、
    氷海域の環境問題と海氷変動予測

 第1章で北極圏の概要と氷海工学の目的・課題を総論的に述べた上で、第2章から第6章まで砕氷工学を構成する課題を各論的に示し、第7章で環境問題を含めた氷海工学の最近の興味ある話題と応用例を示した。本書が氷海工学を志す研究者の入門書としてのみならず、氷海工学関連研究者の参考書としてその理解に僅かなりとも役立つならば著者の望外の喜びとするところである。
 GermanyのHamburg船型研究所(HSVA)元副所長ヨアヒム・シュワルツ博士には著者が同研究所滞在時にその快活な会話を通して氷海工学への強い関心を抱く動機を与えていただきました。同氷工学研究室のイェンツ・ホルガー・ヘルマン博士には貴重な論文や写真を提供していただきました。また、独立行政法人海上技術安全研究所氷海技術部の宇都正太郎博士には海氷観測技術の現状解説と各種文献の提供を、同研究所泉山耕博士には文献と各種情報の提供をしていただきました。シップ・アンド・オーシャン財団今義男理事長にはINSROP国際シンポジウムのご案内や貴重な資料提供をいただきました。ここに記して深く感謝いたします。なお、本書の出版にあたっては(株)成山堂書店小川實社長に終始、懇切丁寧なお世話と激励をいただきました。ここに御礼申し上げます。

2006年
著者記

【目次】
第1章.序論
 1.1 北極圏と南極圏の概要
  1.1.1 地軸の傾斜と日照時間
  1.1.2 北極地方の気温
  1.1.3 北極圏の定義
  1.1.4 北極圏周辺の地形と地質
  1.1.5 海 流
  1.1.6 海洋の塩分分布
  1.1.7 海洋の水温分布
  1.1.8 海上輸送
  1.1.9 原住民と生物
  1.1.10 南極大陸
 1.2 極地工学
  1.2.1 極地工学とその関連分野
  1.2.2 氷海工学とその課題

第2章.氷海域と海氷  2.1 海氷の分布
  2.1.1 北極海
  2.1.2 アラスカ・カナダ北極海
  2.1.3 セントローレンス湾の海氷
  2.1.4 ベーリング海の海氷
  2.1.5 オホーツク海の海氷
  2.1.6 バルト海の氷状図
 2.2 海氷の分類
 2.3 海氷の発生と成長
  2.3.1 海氷の発生と構造
  2.3.2 相変化と組成
  2.3.3 海氷の成長
 2.4 海氷の諸性質
  2.4.1 結氷温度と密度
  2.4.2 海氷の構造モデル
  2.4.3 海氷の機械的性質

第3章.氷板の積荷力  3.1 弾性基礎上の平板の撓み
  3.1.1 軸対称な曲げ
  3.1.2 いろいろなモデル
 3.2 弾性基礎上の梁の撓み
  3.2.1 梁の曲げ
  3.2.2 いろいろなモデル
 3.3 弾性理論の応用
  3.3.1 氷板の弾性率と曲げ強度の算定
  3.3.2 弾性基礎上の片持梁の撓み
  3.3.3 無限氷板への載荷
  3.3.4 剪断応力に基づく推定法
 3.4 浮遊結氷板の積荷力
  3.4.1 破壊応力に基づく推定法
  3.4.2 応 用 例
 3.5 氷の有効利用

第4章.砕氷模型実験  4.1 砕氷現象の相似則
 4.2 氷海水槽
 4.3 模型氷の特性
  4.3.1 製氷技術の進展
  4.3.2 結氷試験
 4.4 砕氷模型実験
  4.4.1 砕氷船舶の模型試験
  4.4.2 氷海構造物の模型試験

第5章.砕氷船工学  5.1 砕氷船舶の概要
  5.1.1 砕氷船舶の変遷
  5.1.2 主要目の傾向
  5.1.3 氷海域の船舶航行
 5.2 砕氷抵抗
  5.2.1 Level ice中の砕氷抵抗
  5.2.2 Broken ice中の砕氷抵抗
 5.3 有効水力と馬力
  5.3.1 有効推力
  5.3.2 馬  力
 5.4 氷中模型試験の実施例
 5.5 砕氷抵抗の増加と要因
  5.5.1 積雪の影響
  5.5.2 Ridge(氷脈)の影響
 5.6 ラミング性能
  5.6.1 最大砕氷能力
 5.7 操縦運動
  5.7.1 方向転換
 5.8 特殊砕氷装置
  5.8.1 特殊船首形状
  5.8.2 特殊装置
 5.9 アイストルク
  5.9.1 ミリング時のアイストルク
  5.9.2 氷塊による衝撃トルク
  5.9.3 プロペラ設計とアイストルク
  5.9.4 氷海プロペラの強度設計

第6章.氷海構造物に作用する氷荷重  6.1 氷海構造物の形態
  6.1.1 氷海構造物の種類と特徴
  6.1.2 将来の氷海用人口島
 6.2 氷海構造物に作用する氷荷重
  6.2.1 氷荷重に関するパラメーター
  6.2.2 垂直構造物
  6.2.3 傾斜構造物
  6.2.4 凝 着
  6.2.5 複合物体(多脚型構造物)

第7章.氷海技術の新しい発展  7.1 国際北極海航路計画(INSROP)
  7.1.1 INSROPの構想と目的
  7.1.2 NSRの氷況と航路の選定
  7.1.3 INSROPによるNSR運航の経済的評価
  7.1.4 INSROPの結論
 7.2 ポッド型プロペラ
 7.3 Double Acting Tankaer(DAT)
  7.3.1 DATの概念
  7.3.2 DAT砕氷商船「Tempera」,「Mastera」
 7.4 砕氷船
  7.4.1 USCGC「Healy」
  7.4.2 CCGS「Louis S St.Laurent」
  7.4.3 海上保安庁砕氷型巡視船「そうや」と「てしお」
  7.4.4 「New Mackinau」
 7.5 砕氷支援船
  7.5.1 「Arcticaborg/Antarcticaborg」
  7.5.2 「Fennica」
  7.5.3 「Botnica」
  7.5.4 「Tor Viking?」
  7.5.5 「Newwerk」
  7.5.6 「Fesco Sakhalin」
  7.5.7 非対称砕氷船
 7.6 サハリンプロジェクト
  7.6.1 サハリン(Sakhalin)とは
  7.6.2 サハリン・プロジェクト
  7.6.3 生産設備と周辺の氷況
  7.6.4 ConvoyによるBulbous Bow付大型耐氷タンカーの安全測度
 7.7 大型氷海構造物
  7.7.1 氷海構造物 Morikpaq(モリクパク)の氷励起振動事例
  7.7.2 北極海での石油開発用氷海構造物の現状と課題
 7.8 海氷観測技術
 7.9 氷海域の環境問題
  7.9.1 Baltic Seaの油流出の事例
  7.9.2 サハリン・プロジェクトにおける油流出汚染の対策
  7.9.3 海氷変動の予測システムの例

(海事図書)


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カテゴリー:造船 
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