海上貨物輸送論


978-4-425-34071-2
著者名:久保雅義 編著 斎藤勝彦・水井真治・淺木健司・笹 健児 共著
ISBN:978-4-425-34071-2
発行年月日:2008/3/28
サイズ/頁数:A5判 176頁
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価格¥3,080円(税込)
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輸送中の貨物損傷をいかに抑えるかは、物流が発生してから今日に至るまで続く古くて新しい課題でです。
これまで、さまざまな知識の集積や施設・設備の充実などによって基本的には改善されている方向にあり、「名人芸」を必要とする場面も少なくなっています。
その一方で、国際物流が活発化し、様々なレベルの船員・荷役関係者が混在する昨今、海上貨物輸送に関する基礎教育の重要性が改めて見直されつつあります。
本書は、海上輸送の歴史的役割から、荷役設備、損傷実態、コンテナの概要、動揺、船体強度などの基礎知識について図表を多く用いてわかりやすく解説したものです。
著者は、神戸商船大学(神戸大学)で長年貨物の物理的災害を研究してきた久保雅義教授を中心にして、商船高専や海技大学校で教鞭をとる5名の教授陣で構成されています。
学生が海上輸送システムを学ぶためのテキストとして最適な内容である一方、実務においても常備図書として、また現場への応用などに役立つ一冊です。

【序】より  海上貨物輸送は多くのシステムから構成される。これをすべての視点で表現することはまず困難である。このような前提で私がこれを扱うときにどのような視点でまとめるべきかを考えた。
 神戸商戦大学卒業後すぐに商船学部附属船貨輸送研究施設に勤務ささせいただき、神戸大学との統合で船貨輸送研究施設が幕を閉じるまでの35年間研究させていただき、神戸大学として4年半の長きに亘って研究をさせていただいた。この研究施設には載貨研究部門と防災研究部門があり、私は載貨研究部門で仕事をした。この部門では、貨物の物理的災害に焦点を当てていた。振り返ってみれば、貨物災害が何故生じるのかと言う視点から貨物輸送を眺めていたことになる。
 これに関連して、汗漏れ、振動、衝撃、船体動揺に基づく荷崩れ、波による船体運動とそれに伴う荷役限界等を研究対象にしてきた。この背景には基本的に力学を対象にしており、その視点から従来の貨物輸送をまとめるのが私に適したことであると感じている。そこで力学に視点をおいて貨物輸送を整理してみることを今回の出版の根幹にすることにした。
 いろいろな研究を行うに当たって、多くの方々と共同研究という形で関わりを持つことができた。それを生かして出版することにした。出版に当たっての各章の分担は、担当者の現在の専門に最も近い部分を担当していただくことにした。
 以下で各章を執筆するに当たっての背景を紹介することとする。
 第1章は久保が担当した。ここでは海上貨物輸送の歴史的展開を振り返った。海上輸送システムは歴史と深い関わりをもって変化してきたので、海上輸送の変化が歴史に与えた影響を紹介した。最近でも海上輸送と国の経済の深い結びつきの関係は続いている。さらに海上輸送に携わる人々の役割についても記述した。ここでは詳細に触れることはできなかったが、海上輸送を考える上でどのような問題の捕らえ方があるかを最後に示している。
 第2章は笹が担当した。雑貨貨物の海上輸送の携帯は雑貨船からコンテナ船まである。最近ではコンテナ船が大勢と占めているが、依然として雑貨船輸送も存在している。ここでは荷役設備を中心に記述している。
 第3章は水井が担当した。ここでは船舶貨物の損傷の実態を述べている。最近では、コンテナは陸上を含めて世界中を動き回っている。貨物は輸送過程で様々な外力を受ける。そのために様々な損害を受けることになる。この損害の形態を理解しておくことは貨物を安全に顧客に届けるための大前提になる。
 第4章は水井が担当した。コンテナはどの国の船でも運べるようにIMO規格で統一されており、その重要性を述べている。今や多くの種類の貨物がコンテナで輸送されている。そして貨物により損害の形態も異なってくる。コンテナ貨物損害を減らすには貨物の性質に合わせてコンテナを開発することになった。コンテナ貨物とそれに適したコンテナの種類について述べている。さらに、コンテナ内部の強度、コンテナ内部の貨物積み付け方法、コンテナの固定、強度計算などについて記述している。
 第5章は斎藤が担当した。海上輸送においてもっとも特徴的な災害は船の転覆事故である。これは貨物を全損に至らしめる。船は復元力があるために転覆しない。この復元力を理解するためには船の重心、貨物積付けに伴う重心の変化、浮力、浮力中心等の考え方を理解することが必要になる。ここでは船体の安定性について記述している。
 第6章は斎藤が担当した。船がどれだけの貨物を積めるかは喫水で決まる。また積み方によってはトリムと呼ばれる船首喫水と船尾喫水との差が大きくなる。これは入出港時の船底接触や船体抵抗に大きな影響を与える。これらはいかにして決まるのかをここで記述している。
 第7章は淺木が担当した。船荷貨物をどれだけ積んだかは荷主と船社で相互が確認することが重要である。荷主がいう数字を鵜呑みにして、揚荷港で荷物を荷受人に渡す時少なければ船社の責任になる。これを避けるためには船側は貨物積載量を船の喫水変化から正確に求める必要がある。ここではこれを詳細に記述している。
 第8章は斎藤が担当した。船は造船技術の進歩に伴って徐々に大型化していった。船の長さと大洋で発生する波の長さが同程度になると船にホグ・サグで大きなせん断力や曲げモーメントが発生することになる。事実このために船が折れるという海難が昭和50年代に発生した。これを契機に船の強度計算が義務付けられるようになった。ここでは、強度計算の方法を理解するために、強度と荷重および変形の関係を、基礎的な材料力学の考え方に基づいて理解していく。
 第9章は笹が担当した。貨物を安全に輸送するためには船体動揺の知識も必要となる。なぜならば船は必ずしも静穏な時に運航できるとは限らず、荒天中の航海もたびたび余儀なくされるからである。船体動揺はxyz軸に沿った運動と軸周りの運動の6種類あり、航海中この中で最も卓越するのは横揺れと縦揺れである。縦揺れは船が細長体であるために大角度の振幅は生じないが、船体に大きな衝撃力が生じる運動と言われている。また横揺れは船の幅に比例する運動のため、大きい時には40度程度になり、船の転覆危険性につながる運動とも言える。横揺れが卓越する場合、積載している貨物の移動が発生することが多い。フェリーやRORO船などは車両貨物が主であるため、直接的に貨物損害につながる事例も多く報告されている。これを防止するにはラッシングを行っている。このため、船体運動の概要とラッシングの現状・効果について記述している。
 最後に力学的背景についてはできるだけ丁寧に説明することを心がけた。読者が海上貨物輸送を学ばれる一助になれば幸いである。また遅々として進まない執筆作業を根気よく督励され、いろいろとお世話いただいた株式会社成山堂書店に心から御礼申し上げる。

平成20年2月
久保雅義

【目次】
第1章 海上貨物輸送の概要
 1.1 国際貨物輸送の仕組み
  1.1.1 輸送の発生
  1.1.2 地球規模での輸送における貨物の流れ
 1.2 海上輸送の重要性
 1.3 歴史の転換点で輸送が果たした役割
  1.3.1 世界の事例
  1.3.2 日本の事例
  1.3.3 輸送の原動力の変化
 1.4 日本の貿易推移から見た最近の社会変化
  1.4.1 第一の波ー石油ショック
  1.4.2 第二の波ープラザ合意
  1.4.3 第三の波ー金融ビックバン
 1.5 アジアにおける貨物の伸び
 1.6 国際輸送における書類の流れ
  1.6.1 輸出業者の手続き
  1.6.2 輸入業者の手続き
  1.6.3 保険手続き
 1.7 輸出価格の決め方
  1.7.1 FOB(free on board)
  1.7.2 C & F(cost & freight)
  1.7.3 CIF(cost,insurance & freight)
 1.8 輸送の管理?
  1.8.1 輸送費用の最小化(cost minimize)
  1.8.2 輸送時間の最適化(just in time)
  1.8.3 工場、物流基地、港湾等の最適配置問題
  1.8.4 輸送中の貨物事故への対応
  1.8.5 新規海上輸送貨物の創造

第2章 海上貨物輸送の変遷と荷役設備  2.1 荷役用具
  2.1.1 ダンネージ(dunnage、荷敷き)
  2.1.2 その他の荷役用具
 2.2 揚貨装置
  2.2.1 装置の種類
  2.2.2 デリック
  2.2.3 ヘビーデリック(heavy derrick)
  2.2.4 特殊なデリック
  2.2.5 クレーン(crane)
 2.3 船積みする予定量の求め方
  2.3.1 重量がち貨物を積み込む場合
  2.3.2 容積がち貨物を積み込む場合
  2.3.3 同一貨物を積み込んで重量、容積とも満船にする場合
  2.3.4 2種の貨物を積み合わせて重量、容積とも満船にする場合(full and down)
  2.3.5 不明重量とその算出

第3章 船舶貨物の損傷実態  3.1 貨物の種類と事故発生割合
  3.1.1 貨物の種類と事故発生割合の変化
  3.1.2 貨物の種類と事故発生割合の輸送船別比較
 3.2 貨物の種類と損害額
 3.3 航路別の貨物事故
  3.3.1 航路別の貨物事故発生割合の変化
  3.3.2 航路別の貨物事故発生割合の輸送船種別比較
 3.4 損害原因について?
  3.4.1 損害原因の変化
  3.4.2 損害原因の輸送船別比較

第4章 コンテナによる輸送  4.1 コンテナの歴史
 4.2 コンテナの標準規格
 4.3 コンテナの各部の名称
 4.4 コンテナの強度
  4.4.1 外力に対するコンテナ強度
  4.4.2 コンテナ内部の強度
 4.5 コンテナの種類
 4.6 貨物密度
 4.7 必要コンテナ数の算出方法
  4.7.1 必要コンテナ数概算
  4.7.2 コンテナに適した寸法
  4.7.3 コンテナ内部の貨物積み込み計算
 4.8 コンテナ貨物の固定方法?
  4.8.1 概説
  4.8.2 ラッシング強度および資材の計算

第5章 船体の安定性  5.1 重心の位置
 5.2 重心の移動
  5.2.1 一部分の重量が移動する場合
  5.2.2 重量の付加
  5.2.3 重量の除去
  5.2.4 まとめ
 5.3 浮力
 5.4 船の復原モーメント
 5.5 船の横傾斜
  5.5.1 一部の重量が移動する場合
  5.5.2 積荷、揚荷による横傾斜

第6章 トリム  6.1 海センチ排水トン数
 6.2 トリムと浮面心
 6.3 毎センチトリムモーメント
 6.4 積荷、揚荷に伴う喫水の変化

第7章 喫水と排水量  7.1 はじめに
 7.2 排水量等表
  7.2.1 排水量データの読み取り
  7.2.2 排水量等表の使用上の留意点
 7.3 喫水の読み取り
 7.4 排水量計算
  7.4.1 船首尾喫水修正(stem & stem correction) 
  7.4.2 トリム修正(trim correction)
  7.4.3 船体の撓みに対する修正(deflection correction,hog.or sag.correction)
  7.4.4 海水比重修正(density correction)
  7.4.5 排水量計算の補足説明
 7.5 計算表による排水量計算

第8章 船体強度  8.1 概説
 8.2 荷重
 8.3 応力とひずみ
 8.4 はりのせん断力と曲げモーメント
 8.5 曲げ応力
 8.6 船体に加わる断力と曲げモーメント

第9章 船体動揺と貨物の移動防止  9.1 海上輸送中における船体動揺
  9.1.1 船体動揺の種類
  9.1.2 3軸に沿った並進運動
  9.1.3 3軸まわりの回転運動
  9.1.4 波浪によって卓越する船体動揺(耐航性)
  9.1.5 風・波・潮流によって卓越する船体動揺(操縦性)
 9.2 貨物の移動を引き起こす傾斜偶力
  9.2.1 操舵直後の内傾偶力
  9.2.2 定常旋回時の遠心力による外傾偶力
 9.3 貨物の移動防止
  9.3.1 フェリーおよびRORO船の貨物の安全管理に関する現状
  9.3.2 貨物の移動防止に関する対策

(海事図書)


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