著者名: | 石田祐三郎 著 |
ISBN: | 978-4-425-85291-8 |
発行年月日: | 2007/11/28 |
サイズ/頁数: | 四六判 158頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,760円(税込) |
葉緑体やミトコンドリアは別の生き物だった!きらめくサンゴ礁を支えているのは何か?光も酸素もない深海底に生物がひしめいていた!生命活動、進化、地球環境の維持から健康維持まで、驚異と不思議に満ちたミクロの共生の世界。
【はじめに】より
生き物は程度の差こそあれ、互いに助けあったり、潰しあったりして生きている。
本書に取り上げた海洋におけるサンゴと褐虫藻、海綿と微生物、ハオリ虫と最近等々は、大変興味深い「助け合い」の共生関係にある。ただ、主役である微生物が肉眼で見ることが難しいなど、一般の読者には馴染み難く、専門用語も読者の理解を得にくいのではないかと思い、本書をまとめるのに二の足を踏んでいた。
自然環境には途方もないほど多くの未知の微生物が生存している。それにも拘らず、近年までパスツールやコッホの開発した従来の培養法による分離・培養によってしか微生物を研究の対象にできなかった。しかし、最近では微生物の種類を識別するのに、遺伝子DNAの塩基配列を調べれば容易に判別できるようになり、さまざまな微生物が関わる「共生」の真の姿が浮かび上がってきた。
最近では新聞などで、サンゴの白化と地球温暖化の関係や海底熱水孔の奇妙な生物の話などが取り上げられるようになった。おかげで陸上生物に較べ、海洋生物では、注目度が限りなくゼロに近かった「共生」が一般の方々の興味をそそるようになってきた。とは言え、これらの共生関係がすべて解明されたわけでもなく、まだまだ宿主と共生微生物の関係は推理の範囲を出ないものが多い。本文でもしばしば曖昧な表現で、読者に歯がゆく感じさせる内容が多いかと思う。
本書の執筆にあたり、「ベルソーブックス」シリーズの方針に従って高校生や大学生、一般の方々にも理解できるように努めたが十分とは言えないかもしれない。そのときは、難しいと感じた部分を読み飛ばしても、本書の核心である『微生物がさまざまな生物の生存に何処かで大きな寄与をしている』ことをお分かりいただけると思う。本書は、共生についてのほんの入り口である。願わくはこの本が「海洋微生物の共生」の啓発書になり、読者がこれらの共生関係への興味を深めていただくことになれば、この上もない幸せである。
2007年10月
著者
【目次】
第1章 共生とは―生物たちの様々な付き合い方―
1-1 共生と共生系
(1)共生
(2)共生系
1-2 共生のいろいろ
(1)相利共生―共生の代名詞―
Study1 ムコ多糖類
(2)片利共生―片方だけが得をする―
(3)寄生関係―利益と被害―
(4)捕食関係―食物連鎖―
(5)種間競争―餌の奪い合い―
Study2 キレート化合物,錯体
第2章 生命は海で生まれた
2-1 生命の誕生
(1)地球の誕生
(2)生命の誕生は深海で
Study3 ラン藻と古細菌
(3)光合成の始まり
2-2 共生に関わる進化の道筋
(1)一次共生―細胞内共生による真核生物の誕生―
Study4 リン・マーギュリス博士(Lynn Margulis)
Study5 グラム陰性細菌
(2)二次共生―一次共生体の原生動物への共生―
Study6 放散
Study7 ヌクレオモルフ
第3章 生物はエネルギーを獲得する―その3つの手段―
3-1 化学合成独立栄養生物―無機物を酸化してエネルギーを得る
3-2 光合成独立栄養生物―太陽光を化学エネルギーに変換する
(1)酸素非発生型光合成
(2)酸素発生型光合成
3-3 従属栄養生物―有機物をエネルギー源と炭素源とする
第4章 サンゴと褐虫藻―偉大なミクロの同居人―
4-1 代表的な共生微生物
4-2 サンゴ礁の黒幕「褐虫藻」
Study8 有光層
4-3 サンゴにとっての共生メリット
Study9 放射性同位元素「14C」
4-4 共生による褐虫藻のメリットは何か?
4-5 大気中のCO2削減,地球温暖化抑制に貢献
4-6 地球温暖化とサンゴの白化との関係
(1)造礁サンゴの生育のための温度範囲
(2)地球温暖化によるサンゴの白化と褐虫藻
Study10 エルニーニョ現象
(3)水温上昇と褐虫藻の放出
(4)白化したすいサンゴ・しにくいサンゴ
4-7 褐虫藻にはどのような種類がいるのか
(1)褐虫藻のDNA遺伝子による系統分類
Study11 クレード
Study12 rDNAを用いた種類間の分子識別法
(2)宿主と褐虫藻のパートナー選び
4-8 褐虫藻以外の共生藻
(1)緑藻クロレラ(ズークロレラ)の共生
Study13 潮間帯・潮下帯
(2)シンビオディニウム以外の渦鞭毛藻類の共生
(3)「星砂」に共生する珪藻
4-9 サンゴの薬理物質は褐虫藻製?
Study14 造礁サンゴと宝石サンゴ
4-10 サンゴと褐虫藻に学ぶ
第5章 海綿は微生物のマンション
5-1 海綿はもっとも原始的な動物
5-2 海綿の分類方法
5-3 共生微細藻類のいない海綿
(1)ガラス海綿
(2)肉食の海綿
5-4 共生微細藻類のいる海綿
(1)浅い海の海綿「偏性共生型」
(2)共生しなくても生きられる「混合栄養型」
5-5 共生への道
(1)捕食から共生へ
(2)寄生から共生へ
5-6 海綿に棲む微生物たち
(1)細菌の共生
(2)ラン藻の共生
(3)海綿をサンゴ礁へ定着させる褐虫藻
5-7 海綿の薬剤生産と共生微生物の寄与
(1)海綿が持つ薬理物質の不思議
(2)薬理物質の製造元は共生微生物か
5-8 なぜ海綿は微生物と共生するのか
第6章 海底熱水孔周辺に棲む奇妙な生物
6-1 深海熱水孔周辺に「奇妙な生物」を発見
6-2 熱水噴出域と冷水湧出域
(1)熱水噴出孔の仕組みとタイプ
(2)多くの生物が暮らす熱水噴出域
Study15 南海トラフの生物相
(3)冷水湧出域
6-3 深海熱水孔にひしめく「奇妙な生物」
Study16 一次生産者と微生物ループ
6-4 ハオリムシと硫黄細菌の共生
(1)硫黄細菌の役割
(2)硫化水素を運ぶハオリムシ・ヘモグロビンの秘密
Study17 ハオリムシ類(英語名tube worm)
(3)硫黄細菌にとっての共生のメリットは?
6-5 シロウリガイ,シンカイヒバリガイと共生細菌
(1)硫化水素を解毒するシロウリガイ
Study18 シロウリガイ類(英語名large white clam)
(2)シンカイヒバリガイに必要な硫化水素
Study19 シンカイヒバリガイ類(英語名sea mussle)
6-6 熱水孔周辺のその他の生物たち
6-7 日本が誇る深海探査技術
第7章 光る魚の秘密
7-1 深海の闇で光る生物たち
(1)海が光る
(2)発光する理由はなにか
Study20 発光器を持つ生物―自力発光
7-2 発光細菌と宿主の関係
(1)発光細菌はビブリオ菌の仲間
(2)生まれる前から決まっているパートナー
Study21 株(strain)
7-3 発光のメカニズム
(1)基本的な仕組み
(2)ミミイカの発光
(3)魚類の発光
(4)発光システム「クオラム・センシング(細胞密度感知システム)」
7-4 発光は魚介類の生存に役立っているのか
第8章 腸内に同居する細菌
8-1 腸内細菌の研究のあゆみ
(1)腸内細菌無用論と有用論
Study22 ヨーグルトの不老長寿説
(2)魚類の腸内細菌研究の経緯
8-2 魚類に共生する腸内細菌
(1)「胃」のある魚―マダイ,ハマチ
(2)「胃」のない魚―フグ,カワハギ
(3)発酵工場を持つ魚―イスズミ
(4)海・川両用―サケ科の腸内細菌
8-3 腸内細菌の役割
(1)不飽和脂肪酸EPAとDHA
(2)魚病菌の感染予防
(3)ビブリオは生きた消化剤・栄養補助剤
(4)アワビと腸内細菌
Study23 アルギン酸
8-4 番外編―人間の腸内細菌
(1)ヒトの成長過程での腸内細菌相の変遷
Study24 偏性嫌気性細菌と通性嫌気性細菌
(2)腸内細菌は健康に必要か
8-5 緒についたばかりの腸内細菌研究
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