マリントキシン ー海洋生物がもつ自然毒ー


978-4-425-88731-6
著者名:長島裕二・荒川修・高谷智裕・糸井史朗 編集
ISBN:978-4-425-88731-6
発行年月日:2026/3/28
サイズ/頁数:A5判 244頁
在庫状況:予約
価格¥3,080円(税込)
数量
マリントキシンとは海洋生物がもつ毒素の総称である。魚介類だけでなく微生物やプランクトンなどの有毒微細藻類や海藻類にも存在する。また、クラゲの毒のように有毒生物自身が毒素をつくるものもある。本書は、さまざまなマリントキシンを、その毒素別にとりあげ解説する、マリントキシンの入門書。総勢17名の専門家により、最新研究も紹介する。

【はじめに】 マリントキシンとは海洋生物がもつ毒素の総称で、英語ではmarine biotoxinsという。マリントキシンは種類が多く複雑で、毒素の化学構造や作用機序も大きく異なる。そして、さまざまな生物に分布し、魚介類だけでなく微生物やプランクトンなどの有毒微細藻類や海藻類にも存在する。また、クラゲの毒のように有毒生物自身が毒素をつくるものもあれば、貝毒やフグ毒のように毒保有生物が毒素をつくるのではなく、プランクトンや微生物が毒素を産生し、これを貝や魚などの動物が取り込み、食物網ならびに食物連鎖を経て上位の動物に濃縮、蓄積されるものもある。このため、系統的にマリントキシンを分類することは難しいが、イモガイやクラゲ、エイ、ミノカサゴなどのように人を刺傷させて被害を与える刺毒と咬毒およびフグや貝類を食べたときに中毒を起こす食中毒原因毒に分けることができる。前者の刺毒・咬毒は公衆衛生上、後者の食中毒原因毒は食品衛生上の問題となり、刺されたり咬まれたりしたときに被害を与える魚介類や毒素と、食べて危ない魚介類や毒素とでは、対処の方法やリスク管理の方策が異なる。しかしながら、どちらも毎年被害があり、ときには死者が出ることもある重大な健康危害であることは共通している。
近年、地球温暖化から気候変動、さらには気候危機へと加速度的に危険度が上がり深刻な問題となっている環境変化は、海洋および海洋に棲む生物と生態系に影響を及ぼし、漁業や水産業のみならず水産物を扱う加工業、食品産業にまで被害を与える。こうした環境変化は、とりわけ高齢化と人口減少の課題を抱える水産を基盤とする沿岸地域で打撃が大きい。環境変化はマリントキシンにも例外なく影響し、マリントキシンの分布を地理的にも生物種間においても拡大させ、そのうえ毒性が強化しているという報告もある。具体的な事例については本書内で言及するが、筆者が特に懸念しているのはシガテラ中毒である。シガテラは、熱帯・亜熱帯海域を中心に発生する世界最大規模の魚類による食中毒だが、日本沿岸を含む温帯域(もはや日本の夏は熱帯地域と変わらない)でも発生するようになり、遊泳する魚類だけでなく毒素を産生する微細藻類までもが北上している。また、シガテラ毒は海洋生物がもつ毒素の中で最も毒性が強い部類に属しており、今後シガテラ毒魚がさらに高毒性化した場合、被害の重篤化が予想され、水産物の安全に対する脅威を高めるものと危惧している。こうした背景のもと、マリントキシンに興味をもち、海洋や水産、食品分野の勉学を志す初学者に向けて、マリントキシンの基礎的な解説と最近の研究や知見をまとめた入門書の作成を企画した。
本書はマリントキシンの“ 入門書” を目指したが、最新の研究成果も知っていただきたく、やや専門的な内容も含んでいる。長年の謎であったフグ毒テトロドトキシン生合成解明の挑戦や海洋渦鞭毛藻類と淡水藍藻による麻痺性貝毒生合成の違いなど、現在進行中の最先端の情報が盛り込まれている。こうした研究情報は各章末に参考文献としてできるだけ多く掲載しているので、QRコードで読み取りアクセスしていただきたい。研究は日進月歩で進歩しているが、まだまだマリントキシンの不思議がたくさん残っている。本書を読んだ学生、生徒の方々が将来これらの不思議に挑み、謎を解き明かしてくれる日が来ることを期待している。
本書では、食中毒の原因となるマリントキシンが多いため、基礎知識として1章で食中毒の概要を述べ、2章以降で紹介される主要なマリントキシン以外について概説する。2章から4章は魚類のマリントキシン(2章テトロドトキシン、3章シガトキシン、4章パリトキシンとその類縁体)、5章から8章は貝類のマリントキシン(5章麻痺性貝毒、6章下痢性貝毒・アザスピロ酸、7章記憶喪失性貝毒、8章神経性貝毒)、そして、9章は刺毒について、ミノカサゴ類を中心とした魚類(1節)と刺胞動物(2節)の毒素を紹介しているので、興味あるページから読み始めていただければ幸いである。
本書刊行にあたり、株式会社成山堂書店 後藤祥子氏には企画から出版まで絶え間ない激励とご支援をいただいた。そして、マリントキシン研究の普及ならびに被害防止と安全確保の啓蒙のため、企画の趣旨に賛同し、多忙な中、執筆くださった各著者ならびに斬新な表紙デザインを創作していただいた安斉俊氏に厚くお礼申し上げる。最後に、ともにマリントキシン研究に携わりながらも、広島大学教授在職中に病に冒され不帰の客となった学友浅川学氏に本書を捧げたい。

2026年3月
長島裕二

【目次】
第1章 海洋毒の概要
 第1節 食中毒 1
  1.1.1 食中毒の分類
  1.1.2 自然毒食中毒
  1.1.3 魚介類による食中毒
 第2節 食中毒の原因となるマリントキシン
  1.2.1 魚卵毒 ジノグネリン
  1.2.2 コイ胆のう毒 5α- シプリノール硫酸エステル
  1.2.3 ビタミンA
  1.2.4 異常脂質
  1.2.5 巻貝唾液腺毒 テトラミン
  1.2.6 バイ中腸腺毒 ネオスルガトキシン、プロスルガトキシン
  1.2.7 アワビ中腸腺毒 ピロフェオホルバイドa
  1.2.8 タイラギ類の毒 ピンナトキシン
  1.2.9 オゴノリ類の毒 アプリシアトキシン、ポリカバノシド

第2章 テトロドトキシン  第1節 分布・起源・動態
  2.1.1 テトロドトキシンの毒性とフグ類における局在
  2.1.2 テトロドトキシンの分布と起源
  2.1.3 テトロドトキシンの動態
  2.1.4 ヒラムシ類におけるテトロドトキシンの保有状況
  2.1.5 予期せぬ生物におけるテトロドトキシン類の保有
  2.1.6 人間活動に伴うテトロドトキシン保有生物の分布域の拡大
 第2節 中毒・フグの食用規制
  2.2.1 フグ中毒の発生状況
  2.2.2 近年のフグ中毒の発生状況
  2.2.3 フグ取り扱いの規制
  2.2.4 フグ以外のフグ毒(テトロドトキシン)中毒
  2.2.5 中毒症状
  2.2.6 治療法と回復
 第3節 類縁体の分析法・化学構造と生合成・構造活性相関
  2.3.1 海洋生物におけるテトロドトキシン類縁体と本節の概要
  2.3.2 テトロドトキシン類縁体の分析法
  2.3.3 海洋生物におけるテトロドトキシン類縁体と生合成経路の推定
  2.3.4 テトロドトキシン類縁体の構造活性相関
  2.3.5 陸上生物におけるテトロドトキシン類縁体
  2.3.6 陸上生物におけるテトロドトキシン類縁体の生合成経路の推定
 第4節 麻痺性貝毒との共存
  2.4.1 フグ
  2.4.2 オウギガニ科のカニ
 第5節 保有生物における機能
  2.5.1 テトロドトキシン保有生物におけるテトロドトキシンの機能
  2.5.2 テトロドトキシンの生体内での機能

第3章 シガトキシン  第1節 起源・分布・中毒
  3.1.1 シガテラ中毒とは
  3.1.2 シガテラ中毒の発生分布
  3.1.3 シガテラ中毒の原因生物
  3.1.4 シガテラ中毒の症状
 第2節 シガテラ毒産生微細藻類
  3.2.1 Gambierdiscus 属を起点とした魚介類の毒化機構
  3.2.2 出現動態
  3.2.3 種組成
  3.2.4 分布
  3.2.5 毒性・毒産生能
  3.2.6 増殖特性
  3.2.7 将来の分布予測
 第3節 化学構造・分析法
  3.3.1 シガトキシン類の構造解析
  3.3.2 シガトキシン類の分析法

第4章 パリトキシンとその類縁体  第1節 起源・分布・中毒・化学構造・分析法
  4.1.1 起源・分布・中毒
  4.1.2 化学構造・分析法・規制
 第2節 パリトキシン様毒
  4.2.1 有毒魚種と中毒発生状況
  4.2.2 中毒症状
  4.2.3 生化学的性状
  4.2.4 起源
  4.2.5 ハフ病との関連

第5章 麻痺性貝毒  第1節 起源・分布・中毒
  5.1.1 毒の起源と有毒プランクトンの分布
  5.1.2 麻痺性貝毒産生プランクトン
  5.1.3 麻痺性貝毒中毒
 第2節 化学構造・分析法・規制
  5.2.1 麻痺性貝毒の化学構造とそれらの相互変換
  5.2.2 麻痺性貝毒の分析法
  5.2.3 麻痺性貝毒の規制
 第3節 生合成
  5.3.1 藍藻
  5.3.2 渦鞭毛藻

第6章 下痢性貝毒・アザスピロ酸  第1節 起源・分布・中毒
  6.1.1 毒の起源とプランクトンの分布
  6.1.2 下痢性貝毒オカダ酸群・アザスピロ酸群による二枚貝の毒化状況と中毒の発生状況
 第2節 化学構造・分析法・規制
  6.2.1 下痢性貝毒・アザスピロ酸の化学構造と性状
  6.2.2 下痢性貝毒・アザスピロ酸の分析法
  6.2.3 下痢性貝毒・アザスピロ酸の規制

第7章 記憶喪失性貝毒  第1節 起源・分布・中毒
  7.1.1 記憶障害を伴う奇妙な食中毒
  7.1.2 ドウモイ酸の起源
  7.1.3 駆虫薬としての海藻から見つかったドウモイ酸
  7.1.4 ドウモイ酸をもつ生物
  7.1.5 中毒症状と記憶障害のメカニズム
  7.1.6 ドウモイ酸の毒性と規制値
 第2節 化学構造・分析法・生合成
  7.2.1 記憶喪失性貝毒の化学構造
  7.2.2 記憶喪失性貝毒の分析方法
  7.2.3 記憶喪失性貝毒の生合成

第8章 神経性貝毒  第1節 起源・分布・中毒
  8.1.1 神経性貝毒中毒とは
  8.1.2 神経性貝毒の起源と毒化生物
  8.1.3 神経性貝毒中毒の発生分布
  8.1.4 食中毒の症状
  8.1.5 食中毒以外の健康影響
 第2節 化学構造・分析法
  8.2.1 神経性貝毒の化学構造
  8.2.2 神経性貝毒の分析法

第9章 刺毒  第1節魚類
  9.1.1 魚類の刺毒とは
  9.1.2 エイ目刺毒魚の毒成分
  9.1.3 ナマズ目刺毒魚の毒成分
  9.1.4 ガマアンコウ目刺毒魚の毒成分
  9.1.5 スズキ目刺毒魚の毒成分
 第2節 刺胞動物を中心とした刺毒
  9.2.1 近代的な刺胞動物の毒素研究の幕開け
  9.2.2 刺胞動物と刺胞の関係
  9.2.3 刺傷被害時の刺胞の毒針の長さの重要性
  9.2.4 刺胞動物の食性とヒト刺傷被害の関係性
  9.2.5 刺胞動物の毒素の全体像
  9.2.6 刺胞動物のポリペプチド毒素
  9.2.7 刺胞動物のタンパク質毒素
  9.2.8 刺胞動物のペプチド毒素(神経毒)
  9.2.9 クラゲ刺傷によるアレルギー反応
  9.2.10 魚類・刺胞動物以外の刺毒


書籍「マリントキシン ー海洋生物がもつ自然毒ー」を購入する

カテゴリー:水産 
本を出版したい方へ