| 著者名: | 今田千秋 著 |
| ISBN: | 978-4-425-88452-0 |
| 発行年月日: | 2026/3/28 |
| サイズ/頁数: | A5判 260頁 |
| 在庫状況: | 予約 |
| 価格 | ¥3,300円(税込) |
海洋微生物について、海洋サンプリング、微生物の分離、培養と微生物の特徴などのほか、その利用について事例を用いながら紹介する。
環境浄化への活用、話題の海洋深層水からの微生物の分離、細胞融合による新しい微生物の作出方法など、豊富な図で詳細に解説。
は じ め に
『海の微生物の利用―未知なる宝探し』という本を上梓したのは2009年であった。あれから17年ほど経過した。筆者が東京海洋大学に在籍したその間にも、新たな知見が得られてきた。そこで、これらの新たな知見をまとめ、前述の書籍の続編となる、『新訂 海の微生物の利用―未知なる宝探し』の企画を出版社に相談したところ、前著をベースにして、新たに得られた知見を加筆、「海の微生物」の初学者から一般の方までを広く対象にした新著を著すことになった。
この本を通して、まだあまり研究がされていない「海洋微生物」の応用研究に興味を持っていただければと考えた次第である。本書は12章から構成されているが、それぞれ独立した内容となっている。それゆえ、興味のあるいずれの章からでも読みはじめていただけるようにしたつもりである。さて、最近の微生物学のトレンドとして、微生物の遺伝子解析が主流になりつつあり、さまざまな分野で活用されている。しかし、こうした遺伝子解析を活用する前に、まず必要なのは、有用物質を作り出してくれる「優等生」の微生物をみつけることが重要なのである。筆者にとっても、広大な海洋環境から、「人間を助けてくれる微生物」=「宝物」をみつける瞬間に最も幸せを感じる。生きた微生物を分離・培養し、有用微生物を探索する。日々、彼らと向き合っていると、だんだん彼らの「声」が聞こえてくるようになり、彼らが私たちと同じように「生きている」ことを実感するのだ。このように微生物たちと会話をすることが、筆者にとってはこの上なく楽しいのである。
世の中には、微生物の恩恵から生まれた医薬品や健康食品などがたくさんあるが、読者の皆様が、それ以前の「生身の」生き物として「微生物」をみていただければうれしく思う。
微生物の分離は、「魚釣り」とよく似ている。珍しい魚を釣ろうと思えば、他の人が思いつかない「餌」や「仕掛け」を使い、「釣り場」を工夫する必要がある。この「餌」とは「分離培地」であり、「仕掛け」は「培養条件」、「釣り場」は微生物の「サンプリング場所」である。微生物を分離培地から単離することを「釣菌」というが、英語でいうと「fishing」である。まさに微生物分離は魚釣りではないか。陸上微生物に比べると、海洋微生物はあまり研究が行われていないことから、「釣り場」を海洋環境に設定して、海洋微生物に焦点を当てた研究を一貫して行ってきた。筆者の在籍していた東京海洋大学には、研究練習船や付属臨海実験所があるためにそれらを有効活用して、深海から浅海までのさまざまな環境から海洋微生物の採集を行った。得られた微生物を各種条件で培養し、さまざまな生理活性物質の探索や健康食品、化粧品への応用研究、鉱物油の分解やキレート剤の分解など、環境にやさしい微生物の分離を行ってきた。
微生物の培養はある意味、犬や猫のようなペットを育てるのとよく似ている。全く同じように培養していても、温度や湿度が微妙に変わったりすると機嫌を損ねる。培養が進まず、物質の生産性も大きく低下することなども、筆者はしばしば経験した。
また、飼い主(実験者)によっても微生物の性質が変わることもある。大学院生時代であったが、大切な微生物を培養する際には、心配のあまり徹夜をして培養の様子を見守ることもあった。微生物はペットと同じで愛情を注げば、それに応えてくれるし、逆に愛情を注がずに放置すると大きなしっぺ返しを受けることもある。そんな人間臭い微生物に筆者は心を惹かれて、これまで研究を行ってきたが、いくつかの面白い新知見が得られた。本書ではこれらの海洋微生物の素顔を紹介していきたいと思う。
2026年2月
今田千秋
【目次】
第1章 海洋の特徴と微生物採集
1.1 微生物の大きな力
1.2 海洋微生物の特性と採集
【 コーヒーブレイク① -1】船の一日
【 コーヒーブレイク① -2】サンプリングの様子とサンプリング機器
【 コーヒーブレイク① -3】東京湾でのサンプリング
【 コーヒーブレイク① -4】大槌湾でのサンプリング
1.3 微生物分離
1.4 まとめ
第2章 微生物の培養と保存
2.1 微生物の培養
2.2 製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター
2.3 まとめ
第3章 海洋細菌の分離と諸性状
3.1 海洋環境における細菌の分布
3.2 微生物の培養
【 コーヒーブレイク③ -1】ミニシェーカーと振盪培養
3.3 海洋細菌の生産する抗菌物質
【 コーヒーブレイク③ -2】ストレプトマイシンの抗菌活性
【 コーヒーブレイク③ -3】各種抗生物質の生育阻止円径
3.4 海洋細菌の生産するプロテアーゼインヒビター
3.5 海洋細菌の生産するキチナーゼインヒビター
3.6 海洋細菌の生産する抗癌物質「ビスカベリン」
3.7 海洋環境から分離した細菌の生産する新規種子発芽阻害物質「bacilosarcin A」
3.8 世界の魚醤
第4章 微生物を用いた環境浄化①
4.1 海水からのEDTA 分解菌の分離と諸性状
4.2 海洋環境からの鉱物油分解微生物の単離と応用
4.3 揮発性有機化合物(VOC)に対する生物学的分解能評価
第5章 微生物を用いた環境浄化②
5.1 実海域におけるLED 光照射による貧酸素環境の改善効果
5.2 海洋環境からの耐塩性テルル還元細菌の分離と諸性状
第6章 海洋環境からの乳酸菌の分離と応用研究
6.1 海洋環境由来の乳酸菌
6.2 海洋植物由来乳酸菌の分離
6.3 S-1 菌によるおからの乳酸発酵と低糖質焼き菓子の試作
6.4 海洋由来「植物性」乳酸菌の探索
第7章 海洋放線菌の諸性状①
7.1 放線菌の特徴
7.2 新規生理活性物質が示す生理活性とその生産菌の分布
7.3 放線菌由来の実用化された化合物
7.4 海洋細菌と海洋放線菌
7.5 ヒアルロニダーゼとそのインヒビター
7.6 海洋放線菌の生産するアミラーゼインヒビター
第8章 海洋放線菌の諸性状②
8.1 海洋放線菌の特徴と応用
8.2 海洋放線菌による難分解性ケラチンの分解
8.3 アルギン酸リアーゼ生産海洋放線菌の分離とリアーゼの精製
8.4 コレステロールエステラーゼ生産放線菌の分離と諸性状
8.5 コレステロールエステラーゼの熱安定性とpH 安定性
8.6 コレステロールエステラーゼの基質特異性
第9章 海洋糸状菌の分離と応用
9.1 海洋糸状菌の特徴
9.2 美白スキンケアとチロシナーゼインヒビター
9.3 チロシナーゼインヒビターを生産する海洋糸状菌と産業への応用
【 コーヒーブレイク⑨ -1】わが国における美白剤の変遷
【 コーヒーブレイク⑨ -2】ハイドロキノンモノベンジルエーテル
9.4 食品添加物としてのH1-7 株チロシナーゼインヒビターの効果
9.5 天然由来酵素阻害剤による釣り餌用生エビ類の劣化防止効果
第10章 海洋深層水からの有用微生物分離
10.1 海洋深層水とは
【 コーヒーブレイク⑩ -1】海洋深層水の産業への応用例
【 コーヒーブレイク⑩ -2】海洋中層水
【 コーヒーブレイク⑩ -3】海洋深層水の各種加工水の検査結果
【 コーヒーブレイク⑩ -4】海洋深層水の取水・加工とその産業利用
10.2 海洋深層水からの有用微生物分離
10.3 伊豆赤沢海洋深層水からの乳酸菌分離
10.4 伊豆赤沢の海洋深層水からの酵母の分離
10.5 伊豆赤沢海洋深層水から分離された酸化ストレス耐性物質を生産する微生物の特性
【 コーヒーブレイク⑩ -5】飲 用海洋深層水で調製した昆布とかつお削り節だ
しのうま味強化とタイトジャンクション関連タンパク質の遺伝子の発現変動
【 コーヒーブレイク⑩ -6】3 種の供試水で調製した一番だしの官能評価とうま味評価比較
【 コーヒーブレイク⑩ -7】2 種類の供試水で調製した一番だしのうま味関連成分比較分析結果
【 コーヒーブレイク⑩ -8】D SW water で調製した各種だしが腸管上皮モデル
のタイトジャンクション関連タンパク質の遺伝子発現に及ぼす影響
【 コーヒーブレイク⑩ -9】海 洋深層水による正常ヒト線維芽細胞の石灰化抑制
第11章 微生物の特殊な培養
11.1 アミノ酸アナログ耐性により分離した新奇海洋性Bacillus 属細菌のアミノ酸アナログ依存性抗生物質生産
11.2 微生物の高圧培養
11.3 相模湾および遠州灘の海底堆積物の採集地点のデータ
第12章 プロトプラスト融合(細胞融合)による新しい微生物の創出
12.1 プロトプラストの形成、細胞融合および再生
12.2 アミノグリコシド(AG)抗生物質生産放線菌のアミノグリコシド抗生物質耐性パターンについて
12.3 放線菌Streptomyces tenjimariensis とStreptomyces griseus のプロト
プラスト融合による新放線菌の創出 231
12.4 融合株(SK2-52 株)の生育、抗生物質生産および培地のpH の経時変化
12.5 SK2-52 株培養液からの抗生物質の単離・精製および構造解析
12.6 インドリゾマイシンの抗菌スペクトル
12.7 海洋細菌と大腸菌のプロトプラスト融合および融合株の特性
12.8 海洋性発光細菌Shewanella sp. のVBNC 状態への誘導および大腸菌とのプロトプラスト融合
12.9 カタラーゼ添加によるShewanella sp. 株のVBNC 状態からの復帰
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