クリオネのはなし-世界で初めてのクリオネ専門書-


978-4-425-95701-9
著者名:高橋邦夫・桑原尚司・國本未華・山崎友資 共著
ISBN:978-4-425-95701-9
発行年月日:2025/8/28
サイズ/頁数:A5判 176頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,420円(税込)
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浮遊する姿がかわいらしく“流氷の天使”とも呼ばれその存在は広く知られるところとなったが、実はその生態については分からないことがとても多い生き物です。本書はオホーツク海および南極海をフィールドとしてクリオネの基礎研究をおこなう専門家が集まり執筆した、いわば「クリオネの教科書」です。

【はじめに】 本書は北海道道東のオホーツク海沿岸海域において、流氷とともに冬の風物詩として知られる「クリオネ」のすべてを紹介する。クリオネは翼のように進化した足(翼足)をもつことから、翼足目と呼ばれる巻貝の仲間である。翼足目は、貝殻を持つ種類と持たない種類から構成される。クリオネは生まれた直後は貝殻を持つが、すぐに捨ててしまう。貝殻を捨てたクリオネは、優雅に羽ばたくように泳ぐその愛くるしさから、氷の海の妖精、または天使とのキャッチフレーズで紹介され、日本人には名前がよく知られている生き物の1 種である。
海洋は地球の約7 割を占める。2000年初頭、人為起源の二酸化炭素を起因とした地球規模の環境問題である「海洋酸性化」が提唱された。「海洋酸性化」は炭酸カルシウムの外骨格を持つ海洋生物、特に貝類の生存を脅かす。このことから、海洋酸性化問題とクリオネを含む翼足目は、地球科学および海洋生物学者の間で注目を集めることとなった。一方で、海洋生態系における翼足目の重要性がこれまで十分に評価されてこなかったため、翼足目のクリオネに関する学術的知見は乏しい。
本書の執筆チームはオホーツク海および南極海をフィールドとして、クリオネの分類、生物量および生理生態を含んだ基礎研究のほか、調査方法や分布特性に関する新たな知見を報告してきた。特に、2017年に分子学手法に基づいた新種の発見と新しい分類学的知見の功績は大きい。クリオネの研究史を辿ると、最後に新種が記載されたのは1 世紀前の1902 年であり、まさに100年以上も停滞していた“ クリオネ研究” という針を動かしたと言っても過言ではない。
これまで貝類を扱った書籍や海洋生物の写真集、ポストカード本等でクリオネが掲載されることはあった。しかし、今世紀に入ってから地球科学の分野で注目されるに至ったクリオネの研究史から近年の最新研究成果までを総括し、神秘的な印象も持つクリオネの生態や調査方法、そしてアイコンとして様々な日常シーンに登場してきたクリオネの魅力を紹介した書籍は存在しなかった。本書は、いわゆるクリオネの教科書という意図から「クリオネのはなし」とのタイトルでお届けする。

・第1章:クリオネの発見から最新の分類、名前の由来など研究史をたどる。
・第2章:これまでに明らかになっているクリオネの不思議な生態を紹介する。
・第3章:地球規模で進行する環境問題がクリオネにもたらす絶滅の危機をわかりやすく解説する。
・第4章、第5章:北海道道東のオホーツク海で行われてきたクリオネの研究成果や独創的な調査方法を紹介する。
・第6章:クリオネが日本で一大ブームとなった背景と、それを築いた人々の真実の物語を紹介する。
・第7章:クリオネに会える場所、私たちの身近に存在するクリオネ、そしてクリオネを用いた啓発活動について紹介する。

また各章に関連するクリオネに関する豆知識や小ネタをまとめた「コラム」を含めた。
最後に、クリオネは呼び名が幾つかある。本書では混乱を避けるため「クリオネ」に統一した。そして近年の分類の精査に基づき、過去の研究結果の解説などには、どの種類を指しているのかを明確に記したので注意して読んで頂きたい。親しまれる「クリオネ」の愛称とともに、環境問題への関心を高める存在となった彼らの魅力を堪能してもらいたい。

2025年7月
高橋邦夫

【目次】
第1章 クリオネという生き物 高橋邦夫
 1-1.クリオネの登場
  コラム マルテンスの観察眼(國本未華)
 1-2.クリオネの分類学的位置
 1-3.クリオネの命名者
 1-4.クリオネの名前の由来
  コラム “ 海のカゲロウ” ─精霊クリオとの共通点─(高橋邦夫)
 1-5.クリオネの記載史
 1-6.クリオネの和名“ ハダカカメガイ”
 1-7.クリオネの分布
  コラム アーサー・コナン・ドイルとクリオネの物語(國本未華)
 1-8.翼足をもつ仲間たち

第2章 クリオネの生態 高橋邦夫  2-1.海洋生態系におけるクリオネ
 2-2.クリオネの体のつくり
 2-3.クリオネの一生
 2-4.クリオネの摂餌生態
  コラム 本当にリマキナしか食べないのか?(高橋邦夫)
 2-5.クリオネの生き残り戦略
  コラム クリオネの寿命は? 
  3年間生き続けたダルマハダカカメガイ(山崎友資)
 2-6.クリオネの神経回路
 2-7.クリオネの遊泳メカニズム
 2-8.クリオネの防御戦略
 2-9.クリオネの色
 2-10.クリオネの属内多様性

第3章 地球環境とクリオネ 山崎友資  3-1.地球温暖化問題の原点
 3-2.海洋温暖化とクリオネ分布
  コラム 海の環境問題(山崎友資)
 3-3.海洋酸性化の認知
 3-4.海洋酸性化のメカニズム
 3-5.地球の限界とクリオネの限界
 3-6.クリオネを守るには
  コラム 空に出現“ クリオネ雲”(國本未華)

第4章 オホーツク海沿岸はクリオネのホットスポット 山崎友資  4-1.クリオネの新種発見
  コラム 新種の登録と命名(山崎友資)
 4-2.クリオネホイホイ
 4-3.オホーツク海の特徴
  コラム 空気ひんやり“ クリオネ高気圧”(國本未華)
 4-4.冬クリオネと春クリオネ
 4-5.クリオネの体長測定
  コラム さまざまなクリオネの姿
   ─多くの名前が与えられてきた要因─(山崎友資)
 4-6.北海道にやってくるクリオネの目的

第5章 クリオネの採集と調査方法 桑原尚司  5-1.動物プランクトンの採集
 5-2.船舶によるクリオネ調査
  コラム 海上保安庁巡視船「そうや」でのクリオネ研究(山崎友資)
 5-3.生息環境の調査
 5-4.道東クリオネ調査法 ─採集時期─
  コラム クリオネを一番多く見た日(桑原尚司)
 5-5.道東クリオネ調査法 ─場所─
 5-6.道東クリオネ調査法 ─道具─
 5-7.クリオネ飼育法
  コラム クリオネ採集のアドバイス(桑原尚司)

第6章 日本人に愛されるクリオネ 國本未華  6-1.クリオネブームのパイオニア
  スペシャルフォトギャラリー
   水中カメラマン関勝則氏が刻む クリオネの一瞬
 6-2.広がるクリオネの魅力
  スペシャルインタビュー
   クリオネが人生を変えた 水中カメラマン河野英治氏
 6-3.クリオネブームの到来

第7章 クリオネに出会うには 高橋邦夫  7-1.展示施設におけるクリオネ
  コラム クリオネ絵本「またきてねクリオネさん」(桑原尚司)
 7-2.北海道ご当地クリオネ
  コラム クリオネを食べてみた!(桑原尚司)
 7-3.アイコンとしてのクリオネ
  コラム クリオネクリエーターの活動(國本未華)
 7-4.クリオネ啓発活動


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