著者名: | 青木 昌城 編著 |
ISBN: | 978-4-425-93281-8 |
発行年月日: | 2024/10/28 |
サイズ/頁数: | A5判 212頁 |
在庫状況: | 予約 |
価格 | ¥3,300円(税込) |
ツーリズム産業においては、長らくOJTが当然とされ、いまだに組織運営におけるマネジメントが不得意な状況が改善されているとはいいがたく、それだけ根が深いことであり、逆に、この問題の克服こそが、将来への大きな希望です。
MTP(Management Training Program)は、主に製造業にて、組織のマネジメントとそれを行うリーダーの育成のために行われてきた実績があります。このMTPをツーリズム産業に活用するため、理論と実践のバランスを重視しながら解説します。
本書は、ツーリズム産業の従事者とりわけ管理職以上の方々と、この産業についての研究をしながら将来の就業を目指す学生の皆さん(さらに将来、管理職になるだろう人々)を主に対象とした、おそらくわが国で業界向けに特化した最初の「MTP解説書」です。
【はじめに】
本書は、ツーリズム産業の従事者とりわけ管理職以上の方々と、この産業についての研究をしながら将来の就業を目指す学生の皆さん(さらに将来、管理職になるだろう人々)を主に対象とした、おそらくわが国で業界向けに特化した最初の「MTP(Management Training Program)解説書」である。
本書の執筆陣の全員が、「ツーリズム産業」と呼ばれる業界を熟知しているのは当然として、その問題認識においても共通したものがある。それは、業界一般に適用できる、組織運営におけるマネジメントに関する無関心や無知についての危機感である。これはなにも最近の現象ではなく、戦後史というレンジ、あるいはもっと以前からのわが国の近代史からある問題といっても差し支えないように思える。なぜならば、わが国のなかにあるさまざまな「組織」において、過去連綿と、滑稽とも思えることが繰り返されているからだ。数々の小説よりも奇なることが現実に起き、知られているのは、それだけ、ほとんどの人が経験することだからである。もちろん、その経験とは、生活の中でのことであり、学校や企業組織の中で、あるいは、消費者として、利用客としての場面で遭遇するおかしなことである。
人間同士のことだから、ちょっとしたハプニングから生まれる楽しいコミュニケーションになることもあれば、クレームにもならない些事もあるし、ときには期待値以上の思わぬ歓びもあれば、またその逆もある。これらは、無機質な統計の世界でいえば、どれもが「標準偏差」や「外れ値」として表現でき、こうした現象をいかに想定内でコントロールするのかが、管理職たるマネジャーの役割になる。しかしながら、わが国のツーリズム産業界にあっては、古くから、「プレイング・マネジャー」の概念が強くあり、組織マネジメントをする者というよりも、よきプレイヤー、客あしらいのプロ、あるいは、ひとたらし、という評価があってこそのマネジャーが求められてきたのは事実である。
もちろん、「プレイング・マネジャー」を全面否定するものではないけれども、単なるプレイヤー重視では組織運営としてのマネジメントとはかけ離れたままになってしまうのである。このことが、「産業」として成長できないことの大きな要因になってはいないかという、我われの危機感につながっている。つまり、ベースにあるべき優先順位は、組織運営のマネジメントの方であって、その上に、専門家としての技能・技術があると考えるのである。
このことは、バブル後、旅館やホテルあるいはアミューズメント施設などの経営再生にかかわった経験からも一致するだけでなく、一世代30年以上を経てもなお深刻な問題点として今も残存しているのである。それは、残念ながら経営破綻してしまう状態に陥ったツーリズム産業の経営者・管理職に共通している実態からも明らかである。そして、「コロナ禍」でいわば淘汰されてしまっても、いまだに組織運営におけるマネジメントが不得意な状況が改善されているとはいいがたい。それだけ根が深いことだし、逆に、この問題の克服こそが、将来への大きな希望だというのが、本書執筆陣共通の想いとなっている。昨今、ムダ取りと、ムリについてハラスメント対策などがトレンドの話題になっているが、業界ではなお、ムダの除去よりも経費削減至上主義が、ムリの除去よりも隠蔽が優先という残念な本末転倒が散見される。さらに、ムラについての問題意識が低いのは、「経営職・管理職による標準偏差を最小化するマネジメント努力がムラをなくすのだ」というイメージの欠如ともなっている。これすらも、MTP の普及がないことに原因があると思われる。組織というものは少数で動かすことが困難なために、管理職としての組織運営の常識(セオリーとノウハウ)をムラなく普及することは急務だ。しかしながら、大企業ならまだしも、中・小・零細という業界内での企業規模におけるムラが、企業内のムラにもなっていると考えられるので、地域などでの合同実施という方法も十分に検討する価値はあるだろう。
本書を参考に、是非ともMTPの実施・実践を検討いただけたら幸いである。最後に、そもそもMTP導入以前の問題として、自社の「あるべき姿・ありたい姿」を描く大前提すら欠如している場合もある。惰性で運営している組織は意外と多いものだ。したがって、本書では事例の中に、それらの目標を意識的に行間表現している。是非とも読み取っていただければと思う次第である。なお、本書は、わが国におけるMTPの本家本元、一般社団法人日本産業訓練協会の協力をいただいている。関係各位には改めてお礼を申し上げる。本書に向き合っていただいた読者に新しい視野が展開されることを祈りつつ、また、本書がお役に立てば、執筆陣全員の望外の喜びとするところである。
2024年8月
執筆者を代表して 青木 昌城
【目次】
序章 ツーリズム産業におけるMTPの意義
0.1 わが国の宿泊産業の歴史的段階
0.2 ツーリズム産業の歴史と現況
0.3 本書の構成
第1部 MTPの概説
第1章 組織とリーダー育成
1.1 組織と組織を動かすための基本知識
1.2 組織に人を新しく入れる
1.3 オレンジの悪魔―京都橘高等学校吹奏楽部のマネジメント
1.4 快挙達成までの道のり―京都橘高等学校吹奏楽部インタビュー
1.5 MTPの思考で会社を伸ばす名経営者のマネジメント
キヤノン電子インタビュー
1.6 2つの組織の共通性
第2章 人材育成 ―リベラル・アーツとしてのMTP―
2.1 STEM教育、STEAM教育
2.2 学習社会の実現
2.3 学習社会とリベラル・アーツの連関
2.4 リベラル・アーツの歴史的成り立ち
2.5 変わらない教育としてのリベラル・アーツ
2.6 MTPへのインプリケーション―その教育は人を自由にしているか
第3章 手法としてのMTPの研究・評価の歴史と展望
3.1「ホーソン実験」の人間関係管理とMTPの有効性について
3.2 産業競争力の基礎体力(インナーマッスル)としてのMTP
3.3 マレーシアの事例が意味する警告と未来
第4章 MTPプログラムの構成
4.1 MTPの対象範囲
4.2 MTPの骨格構造
4.3 各部の解説
4.4 『MTP を中心とした経営管理の技術』を読む
4.5 『細うで繁盛記』からMTPを解説する
第2部 ツーリズム産業へのMTPの活かし方
第5章 押さえておきたい管理者研修の時代的な背景
5.1 マネジメントのトレンド推移
5.2 管理者研修の時代背景
5.3 リーダーシップ論の移り変わり
5.4 新たな時代のマネジメントへ
第6章 ツーリズム産業版MTP設計の試み
6.1 MTPはツーリズム産業に効果的か
6.2 ツーリズム産業向けシート集と事例
6.3 信頼関係の形成/人をめぐる問題の解決
6.4 信頼関係の形成/旅行業における顧客対応現場の守り方
第7章 MTPの普遍性と導入トライアルの手ごたえ
7.1 老舗ホテルの人材育成の実態
7.2 労働組合の視点
7.3 MTP研修に参加して
7.4 MTP研修の開講
第8章 MTPのパイオニア
8.1 TWIとMTP
8.2 医療での挑戦―筑波大学病院、新潟大学医学部の事例
8.3 人的サービス業にこそMTPが必要―国際自動車インタビュー
8.4 インタビューを終えて
書籍「ツーリズム産業のための「MTP」のすすめ-組織マネジメントと人材育成のために-」を購入する
カテゴリー: