昨今のエギング・ブームもあり、アオリイカに関する情報を集めた書籍も出版されるようになっていますが、アオリイカの本当の生態にせまったものは見当たりません。本書は、25年の研究をベースにした「日本で最初のアオリイカ徹底研究本」です。
アオリイカ釣りを楽しむ方は、春の親イカのシーズンが一段落して、秋の子イカのシーズンを心待ちにしているところでしょうか。十分成長したアオリイカたちは、6月から産卵期に入り、9月頃まで繁殖活動に励みます。アオリイカはたった1年という短い寿命のうち4ヶ月近くも、子孫を残すことに費やすのです。
アオリイカは生まれた時期や場所などによっても異なりますが、基本的に移動しながら成長します。中には1ヶ月で250kmも移動したものもあるそうです。アオリイカはどこで生まれ育ち、どのように繁殖しているのでしょうか?
手応えのあるファイトと姿の美しさで釣り人を魅了するだけではなく、その美味しさでも名高いアオリイカ。今回ご紹介する『新訂 アオリイカの秘密にせまる』は、この「イカの王様」に魅せられた研究者が、知られざる生態や釣りテクニック、おいしい食べ方や流通の特徴と資源の現状まで幅広く解説しました。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『新訂 アオリイカの秘密にせまる ベルソーブックス041』はこんな方におすすめ!
- イカ釣りをする方
- 漁業関係者
- アオリイカの生態に興味のある方
『新訂 アオリイカの秘密にせまる ベルソーブックス041』から抜粋して5つご紹介
『新訂 アオリイカの秘密にせまる ベルソーブックス041』からいくつか抜粋してご紹介します。最初にアオリイカの基礎知識を解説し、続いて繁殖や成長過程と回遊、餌のとり方などの生態を解説。釣りテクニックやエギの歴史、食べ方も紹介し、多方面からアオリイカの魅力に迫ります。
知性と社会性を持つイカ
アオリイカは、優れた学習能力を持っています。自然界では人が近寄ると墨を吐いて逃げますが、餌付けに成功すると人に慣れ、 手から餌を取るようになります。飼育中には仲間との調和や夫婦のいたわり、ケンカや仲間外れといった仲間を意識したいろいろな行動が観察されます。アオリイカは優れたコミュニケーション能力を有しているようです。どのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。
それは、体色の変化です。体色の変化によるコミュニケーションは、体表の色素胞を拡大・縮小させることによって行われます。アオリイカなどヤリイカの仲間は茶、赤、黄色などの色素胞を持ち、この3色を組み合わせることで多様な模様を表現することができるのです。
体色に関わる色素胞の色は、アオリイカでは今のところ、静穏時の透明パターン、警戒時のゼブラ縞模様パターン、産卵時のメスをほかのオスから守るための鰭の斑点模様パターンなど数種が確認されています。
色素胞による点滅信号はコミュニケーションを図るのに大切な役割をしており、アオリイカが私たちの想像以上の知能や社会性を有することを示しています。
イカの脳は無脊椎動物の中では最大クラスです。機能的にも発達した構造になっていて、小型哺乳類に相当する数億に及ぶ神経細胞で構成されています。高度な脳神経の仕組みから、イカも人間や他の動物に似た「心」を持つ可能性も考えられています。
高い知能を持ち、人に慣れることもあり、仲間と活発にコミュニケーションを行うアオリイカ。その頭の良さも、釣り人たちを魅了してやまない理由のひとつでしょう。水族館のイカを眺めていても、こっちが見えていて何か考えているのかな?と思えるような仕草をすることがありますね。
どうして養殖が行われないのか?
アオリイカは成長が速く、餌付けもできます。親イカを網生け簀で畜養して産卵させ、稚イカを集めることも可能ですし、稚イカを育てて次世代を得ることもできます。しかし、人工孵化されたアオリイカが市場に出回ることはありません。
その理由は、餌のコストにあります。ふ化直後のアオリイカに与える大量の安価な餌の確保が困難なのです。稚イカの餌は、活きた動物プランクトンや魚の仔稚魚、小型のアミといった天然餌料で、有効な代替餌も今のところ見つけられていません。
もう1つの理由は、歩留まりが悪いことです。生産効率を優先する養殖では高密度飼育が必要ですが、そんな環境で稚イカを飼育すると共食いを始めてしまいます。結局商品サイズにまで残るアオリイカはわずかということになりかねないのです。
現在は、秋に定置網で漁獲された体重50〜100gの小型のものを海上の網生け簀で小規模に飼育し、年末から正月にかけて商品サイズに育てて出荷する程度に留まっています。
放流を目的とした種苗生産も試みられましたが、前述の理由から断念され、市場に出るアオリイカは天然資源の漁獲によるものがほとんどです。
しかし今後気候変動や乱獲によりイカの天然資源がさらに減少し、養殖や蓄養が必要になった場合、高価で成長も早く美味しいアオリイカの養殖が本格的に始められることでしょう。
アオリイカの養殖は、実はほとんど行われていません。成長が速くて美味しいとなれば、養殖が行われて当然のように思えます。たくさん獲れるからかと思っていましたが、手間の割に大量生産できないからだったのですね。しかしこの先、有効な養殖方法や餌が開発されていくのでしょう。
味覚を持つ腕
感覚器とは周囲の刺激を受け取る器官です。光、音、匂い、味などの刺激は、脳などの中枢神経で処理された後、情報に変えられます。刺激を受け取る感覚器が視覚器、聴覚器、嗅覚器、味覚器となります。
アオリイカは眼が大きいので、視覚は餌を探し出すための重要な感覚器だとわかります。しかし、濁った水中や暗い環境では、視覚によって餌を探し出すことは困難です。その場合は餌の振動を感じる側線器、音を感じる聴覚器、化学物質を感じる嗅覚器や味覚器が頼りになります。
イカやタコにおいては、味覚の化学感覚器は、口の周りだけでなく腕の吸盤にも存在します。タコの場合、吸盤1つ当たり約1万個もの受容器があります。そのためタコは、腕で餌に触れれば味が判別できると考えられています。
アオリイカの吸盤1つ当たりの味覚受容器の数はタコの1/100程度ですが、実験の結果、アオリイカも吸盤内の化学受容細胞で餌の味を確認していることがわかりました。
頭足類の吸盤は特殊化した多目的な器官であり、餌を捕る時や移動時に、 触覚や味覚によって周囲の状況を把握していると考えられます。頭足類の吸盤の感覚器は、鼻もしくは舌と口を併せたような器官かもしれません。
イカには小さな嗅覚器が眼の下後方にありますが、アオリイカも眼の後方に嗅覚器を備えています。機能は未だ解明されていませんが、危険を知らせる物質や性フェロモンを感知している可能性が考えられています。
音や振動については、魚でいう側線のような感覚器が、背側に位置する腕の付け根から後方部にかけて存在します。この器官で、理論的には30mの距離から敵や餌の存在を知ることができるといいます。側線器もまた、イカの索餌において重要な感覚器といえるでしょう。
最近の研究では、アオリイカは400〜1,500ヘルツの可聴周域を持っていて, 最も感度が高いのは600ヘルツであることが示されています。これらの周波数の音は側線器ではなく、内耳に相当する平衡器で感知されています。
アオリイカは音を利用することで餌を見つけ出すこともできれば、外敵に対していち早く逃避行動をとることもできるのです。
イカやタコは足でも味がわかる、とはよく聞きます。飼育下のアオリイカを観察していると、一度拾った餌を投げ捨ててしまったりする行動がみられたそうです。吸盤で味見してはみたけれど、おいしくなかったということなのでしょうね。
釣り人は漁師さんに学ぼう
網にかかる時間や条件をみていると、アオリイカは夜間に網に入りますが、夜でも一定レベルの明るさを好んで遊泳や捕食行動を行うのではないかと思われます。夜間の明るさに影響するのは月の満ち欠けです。漁師にアンケート調査を行ったところ、満月より半月から満月にかけて最もよく釣れる傾向があることがわかりました。
しかし実験をしてみても、アオリイカの好む明るさはなかなか数値化できません。本当に微妙な差のようなのです。
そこで、釣り人が知りたい「どんな条件下でよく釣れるのか?」という疑問を鹿児島と徳島の漁師さんに尋ねてみました。
1)月が雲で見え隠れする時によく釣れる?
約3割~5割が「そうだ」と回答
2))沖合の潮が差し込み、 透明度が高い時によく釣れる?
約4割~6割が「そうだ」と回答
3)海が荒れている時より、穏やかな時がよく釣れる?
約8割~9割が「そうだ」と回答
4)満月よりも、その前後の月がよく釣れる?
5割〜7割が「そうだ」と回答
5)月夜で海面が明るいとき、アオリイカは海面近くまで浮いてくる?
6~7割が「そうだ」と回答
釣り人にとって釣りは娯楽ですが、漁師にとっては生活がかかっています。漁師さんたちが得た貴重な経験は、釣り人にとっても大いに参考になるでしょう。
次に、アオリイカの釣れ方と水温の関係をまとめます。水温は、摂餌と密接に関係しています。20℃以上は好条件ですが、それ以下になると徐々に摂餌は低下し、15℃以下になるとほとんど摂餌しなくなりますので、釣ることはかなり難しくなります。
しかし水温が15℃以下に下がっても、 黒潮などの暖水の流入で水温が急激に上昇した際は、摂餌活性が高まり、再び中大型のアオリイカが釣れ始めることがよくあります。釣行の前には、各県の水産試験場や研究機関がホームページで紹介している最新の水温情報をチェックするのがよいでしょう。
この項目では釣り人とプロの漁師の釣りや漁法をいくつか紹介しています。同じエギを用いた釣りでも、釣り人のテクニックと漁師のテクニックは異なっています。釣り場や用具、船といった条件の違いを考慮しつつ、プロの技術や知識を取り入れてみると、釣果が上がるかもしれません。
エギのモデルは何なのか?
エギの形は魚型から始まり、細魚型、エビと魚型の中間型を経て、エビ型になったといわれています。しかし色々なエギをよく観察してみると、エビでもなく魚でもない不思議な形のものが多いのです。エギに対するアオリイカの捕食行動から、エギのモデルが魚かエビなのかを推察してみましょう。
エギの針の装着位置から考えると、アオリイカが頭部後方から尾部にかけて喰らいつくことを前提にした擬似餌であるといえます。エビに食らいつくとき、アオリイカはエビの背に乗るようにして抱きかかえます。一方魚の場合は、頭部を中心に抱きかかえます。
アオリイカがエギに噛みつくとき、多くの場合は背部の頭部より後方に噛みついています。アオリイカがエビに対する捕食行動に似た行動で釣れていることから、エギはエビがモデルになっていると考えられます。
しかし、エギングでの「シャクリ」の動きは実際のエビの動きとは異なり、自然界でのアオリイカはエビより魚を多く食べています。にもかかわらず、エビをモデルにしたエギを用いてアオリイカが釣れるのは不思議な話です。
エギに対するアオリイカの捕食行動はエビに対するものと考えられますが、エギそのものの形はエビと魚の中間的な形状になっています。アオリイカはなぜエギに食らいつくのでしょう?
以上のことを総合すると、エギの形に加えて、その動きが重要なのではないかと考えられます。エギの動きが弱って捕らえやすい獲物に見えるため、アオリイカの摂餌本能を奮いたたせているのではないでしょうか。釣りテクニックがあって初めて、エギは効果を発揮するのです。
疑似餌は実用性に加え、その美しさやバリエーションも見事なものです。釣具屋の店頭に並ぶエギも色とりどりですが、実はアオリイカは色の見分けができません。それでもエギには色のバリエーションがあった方が、イカの目を引きやすいのだそうです。
『新訂 アオリイカの秘密にせまる ベルソーブックス041』内容紹介まとめ
姿が美しく、釣って楽しく、食べて美味しいアオリイカ。魅力的なこのイカは、現在資源量が大幅に減少しています。アオリイカに魅せられた研究者が、謎に包まれていた生態を明らかにするとともに、様々な側面からアオリイカの魅力を徹底解説します。
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知って釣る!おすすめ3選
・
『イカ先生のアオリイカ学(改訂増補版)』
本書と合わせて、アオリイカファン必見の一冊です。イカ釣りマスターが、釣りテクニックだけでなく生態や回遊、分布の詳細まで大研究!釣りの常識を覆す発見や、より美味しい食べ方など、最新知識が満載です。
・
『クロダイの生物学とチヌの釣魚学 ベルソーブックス033』
幼い頃クロダイに魅せられた研究者が、フィールドでの釣りから得られた知識を、生物学で検証しました。大きくなると雌になる生態の不思議や、なぜここで釣れるのか等、何となく知っていたことが学問で裏付けられます。
・
『水族館発!みんなが知りたい釣り魚の生態』
魚の生態やクセを知っていたら、もっと釣れるようになるのでは?と思ったことはありませんか?日々魚に向き合っている水族館の飼育員の皆さんに、魚の秘密を聞きました。全国から選りすぐりの釣り人飼育員たちがこっそり教える、釣りに使える知識がいっぱい!