| 著者名: | 柿崎一郎 著 |
| ISBN: | 978-4-425-96371-3 |
| 発行年月日: | 2026/3/28 |
| サイズ/頁数: | A5判 276頁 |
| 在庫状況: | 予約 |
| 価格 | ¥3,080円(税込) |
東アジア、東南アジア、南アジアの鉄道の概況について、路線網の拡張、近代化、輸送量の変化など数字を示しながら国別に検討し、各国の鉄道網の現状、物資等の輸送に関して、豊富な写真や図表とともに、紹介、解説します。
【はじめに】
近年、アジアの鉄道の発展は目覚ましい。過去30年以上にわたって、筆者が毎年乗っているタイの鉄道は、窓を全開にした旧型客車がディーゼル機関車に牽引される光景は変わらないが、首都バンコクには新たに大規模なターミナル駅が建設され、2023年から長距離列車はそちらを発着するようになった。在来線の発着するホームは2 階にあり、3階には現在建設中の高速鉄道用のホームも完成している。ここから北に行く鉄道は複々線化、電化された高架線をしばらく進み、旧態依然とした中・長距離列車と日本から来た新型の近郊電車が並走するようになった。
また、2021年にはラオス中国鉄道が開通したことで、ラオスの首都ビエンチャンで中国の鉄道網と東南アジアの鉄道網が結ばれた。タイから伸びてきた狭軌(メートル軌)の鉄道と中国から伸びてきた標準軌の鉄道の駅は若干離れてはいるが、ビエンチャンで乗り継げばバンコクから昆明まで2日間で到達できるようになった。筆者も、2025年3月にバンコクからビエンチャン、昆明と列車を乗り継いで上海に出て、そこから空路で日本に帰国した。
中国と東南アジアの鉄道網がつながったということは、ヨーロッパから東南アジアまで鉄道のみで移動できるようになったことを意味する。最短でも2週間程度はかかると思われるが、ロンドンからロシア、中国を経由してシンガポールまで鉄道を乗り継いで行けるようになり、貨物輸送ではすでに東南アジア~ヨーロッパ間でのコンテナの試験輸送が行われている。
本書は、このように近年急激に変貌を遂げるアジアの鉄道を、路線網の拡張と近代化、輸送構造の変化という2 つの側面から、各国別にとらえるものである。筆者がこのテーマに取り組んだのは、2022 年に『The Daily NNA』に「アジアの鉄道」というテーマで計50 回の連載を依頼されたのがきっかけであり、同年6月から2024年6月までの2年間に月2回のペースで連載した。この時の記事をベースに、情報を更新しながら加筆修正を行ったものが本書である。本書が誕生する最初のきっかけを作っていただいた、株式会社NNAの遠藤堂太氏に謝意を表したい。
「アジア」の鉄道を謳っているが、実際には筆者が訪れたことがある東アジア、東南アジア、南アジアに限定し、西アジアと中央アジアについては全く触れていないことをまずお断りしておきたい。さらに、東アジアについても訪問経験がないモンゴルと、訪問経験もなくかつ情報を得るのも難しい北朝鮮についても割愛した。南アジアのパキスタン、ネパール、ブータンについても訪問経験はないが、南アジア第2の鉄道網を有するパキスタンを除外するのはバランス面からもふさわしくなく、ネパールとブータンは新線計画が中心となるので、これらの国については含めることにした。本書で掲載した写真はほとんどが筆者自ら撮影したものであるが、パキスタンについては秋山芳弘氏にご提供いただいたものを使用している。この場を借りて御礼申し上げたい。
本書の対象国の大半は筆者が訪れたことがある国であり、実際に鉄道への乗車経験もあるが、資料については現地で収集したものはタイを除いてほとんどなく、図書館に所蔵されているか、もしくはネット経由で入手した各国の統計年鑑、鉄道・交通統計、鉄道の年次報告書などに依拠している。国によって入手可能な情報源に差があることから、一部の国については最新の情報に更新できなかった場合もある。原則として2025年8月時点で入手できた情報に基づいている。
中国については『中国統計年鑑』以外の情報源が使用できておらず、路線網の拡張については『中国年鑑』の情報を使用させていただいた。この年鑑の交通部門の記事を毎年執筆している東洋大学の千葉正史氏、および新刊が出るたびに貸していただいている同僚の小野寺淳氏にも御礼申し上げる。
本書の刊行に当たっては、横浜市立大学学術研究会の出版助成をいただいた。ここに感謝の意を表したい。最後に、本書の刊行を引き受けていた成山堂書店社長の小川啓人氏、編集の労をとっていただいた板垣洋介氏と星野雄大氏に深く御礼申し上げたい。
2026年2月
柿崎一郎
【目次】
序章 関心高まるアジアの鉄道
1 鉄道の復権とアジア
2 3つの軌間
3 近代化の進展
4 大きく異なる輸送量
5 本書の目的
第1章 中国の鉄道
1. 1 急拡大する路線網
1. 2 成長著しい旅客・貨物輸送
1. 3 世界一の高速鉄道ネットワーク
1. 4 「中欧班列」の成長
第2章 韓国の鉄道
2. 1 着実に進む鉄道網の近代化
2. 2 増加する旅客輸送と減少する貨物輸送
2. 3 高速列車網の整備
2. 4 貨物輸送の変化
第3章 台湾の鉄道
3. 1 環島鉄路の整備
3. 2 好調な旅客輸送と低調な貨物輸送
3. 3 成長する「台湾新幹線」
3. 4 偏りの激しい貨物輸送
第4章 ベトナムの鉄道
4. 1 南北に延びる鉄道網
4. 2 減少する輸送量と伸長する輸送距離
4. 3 標準軌鉄道網の構築へ
4. 4 貨物輸送の変容
第5章 カンボジア・ラオスの鉄道
5. 1 カンボジア鉄道の壊滅と復活
5. 2 輸送状況と新線計画
5. 3 ラオスに到達した「一帯一路」
5. 4 中国~東南アジア間の動脈へ
第6章 タイの鉄道
6. 1 近代化が始まった鉄道網
6. 2 減少する旅客輸送と伸び悩む貨物輸送
6. 3 遅々とした高速鉄道計画
6. 4 短距離コンテナ輸送への偏重
第7章 ミャンマーの鉄道
7. 1 急拡大した鉄道網
7. 2 低迷する輸送
7. 3 中国鉄道網の南下計画
7. 4 特異な貨物輸送
第8章 マレーシア(半島部)の鉄道
8. 1 急速に近代化する鉄道網
8. 2 旅客輸送の復権と貨物輸送の停滞
8. 3 高速・中速鉄道計画
8. 4 コンテナとセメント輸送への特化
第9章 ボルネオ島・フィリピンの鉄道
9. 1 ボルネオ島の鉄道
9. 2 衰退したフィリピンの鉄道網
9. 3 フィリピンの鉄道復興計画
第10章 インドネシアの鉄道
10. 1 復活する鉄道網
10. 2 増加する輸送量
10. 3 高速鉄道計画と縦貫鉄道計画
10. 4 東南アジア最大の貨物輸送
第11章 インドの鉄道
11. 1 近代化が進む鉄道網
11. 2 増え続ける輸送量
11. 3 高速鉄道と貨物専用鉄道
11. 4 鉱産物中心の貨物輸送
第12章 パキスタン・バングラデシュの鉄道
12. 1 広軌に統一されたパキスタンの鉄道網
12. 2 低迷する旅客輸送と復活する貨物輸送
12. 3 統一されつつあるバングラデシュの鉄道網
12. 4 拡大する旅客輸送と復活する貨物輸送
第13章 スリランカ・ネパール・ブータンの鉄道
13. 1 放射状に延びるスリランカの鉄道網
13. 2 短距離中心の輸送
13. 3 広軌と標準軌の接続点となるネパール
13. 4 「鉄路なき国」から脱却するブータン
終章 アジアの鉄道の将来
1 狭軌ネットワークの縮小と標準軌・広軌ネットワークの拡大
2 鉄道の近代化と経済発展
3 輸送量の変化
4 近代化と輸送量の増加
5 停滞する日本の鉄道
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