著者名: | 杉村佳寿 著 |
ISBN: | 978-4-425-94891-8 |
発行年月日: | 2025/10/18 |
サイズ/頁数: | A5判 218頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,080円(税込) |
港湾の気候変動対策に関する最新の研究内容として、港湾のエネルギー消費、CO2排出の中心となる荷役機械やリーファーコンテナに関する気候変動対策の効果、港湾に出入りする車両に対するモーダルシフト政策の意義などを紹介するとともに、新たな視点に基づく気候変動対策の可能性についての話題を提供します。
【はじめに】
我々が、「カーボンニュートラル」という言葉に頻繁に触れるようになって日はまだ浅いが、あっという間に社会に浸透していった。この言葉を聞いたことのない人はおそらくいないだろう。
気候変動という人類が直面する環境問題に対し、現在、社会全体が二酸化炭素(CO2)削減に取り組んでいる。しかし、産業全体を見渡すと、すべての業界が歩調を合わせているわけではなく、先行する業界もあれば、これから本格化する業界もある。業界の特性に応じて、取組みの度合いは異なる。
輸送部門は重要なCO2排出源であり、港湾は海上輸送と陸上輸送の結節点である。輸送サービスにはさまざまな業界の荷主が存在し、CO2排出に対する考え方も異なるはずである。港湾の気候変動対策は、海運業界と陸運業界の取組みや荷主の考え方と何らかの関係があることは容易に想像がつく。しかし、どのような関係なのか、そしてそれが港湾における対策の推進につながるのかどうかは知られていない。
現在のところ、港湾の気候変動対策は本格化には至っていない。確かに政府が、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図る「カーボンニュートラルポート」構想の実現を目標に掲げ、法改正も含めた推進のための環境は急速に整備されてきている。しかし、それだけでは実現は約束されない。実際に対策を講じる役割は、個々の港湾に委ねられているからである。港湾管理者やステークホルダーは日々悩んでいるはずである。「気候変動対策にどれだけ真面目に取り組まなければならないのか」「対策を講じなければ自分の港はどうなるのか」「この対策は効果があるのだろうか」「対策のための費用を自分が負担しなければならないのか」「政府がどれだけ支援してくれるのだろうか」などと。悩んでいる最中だから本格化していないのである。
CO2排出は少ないが料金が高い港湾と、CO2排出は多いが料金が安い港湾のどちらが「選ばれる港湾」なのだろうか。少なくとも現時点では前者が選ばれることはないはずである。そのようななか、各港湾は気候変動対策を講じていかなければならない。悩ましくて当然である。
輸送部門の気候変動対策において港湾はどのような役割を担うべきなのか。港湾の気候変動対策は推進すべきなのか。どうすれば推進されるのか。なぜ難しいのか。そうした疑問を少しでも持つ方には、ぜひ本書を手に取ってもらいたい。本書が、港湾における気候変動対策の推進、ひいてはカーボンニュートラル社会の実現に貢献できれば望外の喜びである。
2025年9月
杉村佳寿
【目次】
第1部 港湾の気候変動対策総論
第1章 港湾の潜在的な気候変動対策と必要性
1.1 港湾活動および船舶・車両からのCO2排出
1.2 潜在的な港湾の気候変動対策
1.3 現状の港湾の気候変動対策を踏まえた本書のテーマ
1.4 港湾の気候変動対策の研究と実務の間のギャップ
コラム1 地球温暖化のメカニズム
第2章 港湾ガバナンスと気候変動対策
2.1 港湾改革と港湾ガバナンス
2.2 日本の港湾ガバナンスと気候変動対策
2.3 ステークホルダーと気候変動対策の役割分担
2.4 港湾の気候変動対策のシナリオ
コラム2 研究者たちの日本の港湾政策への評価
第3章 港湾環境政策とカーボンニュートラルポート構想
3.1 気候変動に関する国際的な枠組み
3.2 日本の港湾環境政策の経緯と気候変動対策の位置づけ
3.3 カーボンニュートラルポート構想の特徴と港湾環境政策からの示唆
3.4 カーボンニュートラルポート構想は実現するのか
コラム3 再生可能エネルギー普及のための政策展開
第2部 港湾の気候変動対策実証分析
第4章 環境配慮型荷役機械導入の効果
4.1 博多港の事例
4.2 電動型RTGとハイブリッド式S/C の仕組み
4.3 電動型RTGとハイブリッド式S/C 導入によるCO²削減効果
4.4 CO2削減と省エネのどちらを目指すべきか
コラム4 日本と東南アジアの港湾はどちらがエコか
第5章 環境配慮型荷役機械導入の経済性分析
5.1 博多港のガバナンス形態
5.2 電動型RTG とハイブリッド式S/C導入の経済性分析
5.3 経済性から見た課題と推進のためのステークホルダーの役割
5.4 政府、港湾管理者、港湾運営会社の役割
コラム5 シンガポール港の気候変動対策
第6章 リーファーコンテナエリアへのルーフシェード設置
6.1 ルーフシェードの設計と運用システム
6.2 リーファーコンテナの表面温度予測のためのシミュレーション
6.3 省エネ効果の算出
6.4 シミュレーションモデルの他季節と他地域への適用
6.5 シミュレーション手法の学術的意義と実務的意義
コラム6 GXとDX
第7章 ルーフシェード設置の経済性分析
7.1 ルーフシェード設置の経済性分析
7.2 ルーフシェード導入促進方策
7.4 ルーフシェードの設置は必要か
コラム7 省エネか脱炭素か
第8章 気候変動対策としてのモーダルシフトの意義
8.1 モーダルシフト政策はうまくいっているのか
8.2 背後圏輸送対象のCO2排出削減とモーダルシフトの動向
8.3 将来のCO2排出量とモーダルシフトの貢献度
8.4 モーダルシフト政策の意義
8.5 モーダルシフトの展望
8.6 カーボンニュートラルに向けて辿るべき経路
コラム8 パリ協定と内航海運・国際海運の関係
第3部 港湾の気候変動対策新たな可能性
第9章 浚渫土砂の有効活用による炭素貯留
9.1 「吸収源対策」と「港湾整備」に着目する理由
9.2 なぜ浚渫土砂の有効利用が炭素貯留になるのか
9.3 浚渫土砂の封じ込めによる炭素貯留の定量的効果
9.4 カーボンニュートラルポート構想実現に向けた新たな対策
9.5 新たな気候変動対策の社会実装のための課題
コラム9 ブルーカーボン先進国日本
第10章 循環経済と気候変動対策のトレードオフ問題における港湾の役割
10.1 なぜ銅産業に注目するのか
10.2 リサイクル原料利用拡大の考え方
10.3 リサイクル原料利用拡大によるCO²排出量およびコストの変化
10.4 技術革新を想定したカーボンニュートラルへのロードマップ
10.5 リサイクル原料利用拡大のための港湾の役割
10.6 サーキュラーエコノミーポートへの期待
コラム11 物流が変えたリサイクル制度
第11章 気候変動対策へのカーボンクレジット活用
11.1 環境配慮型荷役機械導入時のカーボンクレジット活用の可能性
11.2 リサイクル原料利用拡大とカーボンクレジット活用
11.3 ブルーカーボンクレジットの活用
11.4 カーボンクレジットは時間稼ぎなのか
コラム11 ブルーカーボンクレジット市場のゆくえ
カテゴリー: