海なお深くー徴用された船員の悲劇ー【上巻】


978-4-425-30401-1
著者名:全日本海員組合 編/全日本海員福祉センター 発行
ISBN:978-4-425-30401-1
発行年月日:2017/7/20
サイズ/頁数:A5判 388頁
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価格¥2,970円(税込)
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太平洋戦争時に徴用された船員たちの悲惨な体験を「手記」にしてまとめた内容です。実際に戦火を潜り抜け生還された方、生還を願っても叶わなかった戦争犠牲者の遺族によって書かれています。

【海員不戦の誓い】より れわれ船員の諸先輩は太平洋戦争で民間船舶とともに軍事徴用され、物資輸送、兵員輸送の任務に従事しました。その結果、1万9千人余の14歳から19歳の少年船員を含む6万人余の尊い命が奪われました。この船員の損耗率は、海軍や陸軍の比率をはるかに上回るもので、当時の徴用された船員のおかれた状況の苛烈さは計り知れません。
この体験記には、実際に戦火を潜り抜け生還された方、生還を願っても叶わなかった戦争犠牲者の遺族や戦火の体験者により、いまなお海中に眠る6万人余の旧友の霊への思いや慰め、そして、戦火の海での実体験などが語られ、海上の平和が願われています。
皆さまには、この体験記を通して、戦争の悲惨さや凄惨さを知っていただき、平和な世界がいかに尊いものであり、かけがえのないものであるかを再認識いただければと思います。
われわれ船員は、この大戦の悲惨な体験や悲劇を決して忘れてはなりません。
全日本海員組合は、今後とも「海員不戦の誓い」を全うし「世界の平和」と「平和な海」を希求してまいります。
戦後70年余を経過した今だからこそ、是非とも本書をお読み頂き、皆様と共に海員不戦の決意を新たにしたいと思います。

2017年7月
全日本海員組合組合長森田保己

【序】より 昭和十二年に日華事変が勃発して以来、太平洋戦争へとつづいてほぼ十年間は戦火と軍国主義にさいなまれたいまわしい時代であった。
それから四十年が過ぎた。日本国民にとっては、平和で生活に恵まれた日々である。朝鮮半島、ベトナム、中近東、そして中南米などでの戦争や紛争があっても、日本の領土が戦火をあびることはなかった。四十年以前の悪夢もすでに忘れ去られようとしているし、近隣諸国の戦争でさえ、実感しない世代が国民の過半数を占める時代になってしまったのである。
ましてや、軍国主義下の自由のなかった頃の生活を想像もできないであろう。現在、世界には多くの人間が軍事政権下で、あるいは軍国主義体制の中でどんなに非人道的な扱いを受けて暮らしているかは、情報として知る以外に、実感はないだろう。
船員の場合は事情が違う。戦後四十年の間にも世界各地での戦乱や紛争、そして軍拡競争にその都度、巻き込まれて多くの犠牲者を出している。つまり、船員にとっては未だに真の平和はもたらされてはいないということなのである。
それだけに船員が、軍事力によらず、国際間の友好と協調による平和の実現を希求していることが判ってもらえると思う。
今日では戦記ものがよく読まれている。書店の店頭にはつねに古今東西の戦争ものが飾られている。しかし、それらはいわば娯楽ものか、痛快な読みものとしてのものであって、それらの本から平和を呼びおこすようなことはほとんどないのではないだろうか。
つまり、勝ったり負けたり仕返しをしたり、弱い民衆をむやみに殺戮したり、そんな出来事が自分と直接関係のない遠い昔のことであったり、よその国の出来ごととして、読む者のストレス解消などになっているようだ。知らず知らずの間に自分がその戦争の渦中で血をわかせ、肉を躍らせていく。その中から危険な思想が醸成されていくおそれすら感じる。
米、ソ両超大国を中心として、核軍事競争をはじめとする東西両陣営の軍拡は、日本を放置してはおかないだろうし、かつ日本自身の孤立化もあり得ないといわれるだけに、一層のキナ臭さを感じさせているのである。
日本は資源に乏しく、加工貿易立国として海運、水産の役割は大きく、日常生活においても船なくしては成り立たない国である。従って外国との友好、親善を基調とした平和共存がわれわれの生きていく上で不可欠なことである。船員の職場がその中で保証されてこそ、日本の経済、文化を安全に支えていくことができるのだ。
こんな時であるからこそ、この戦争体験記の刊行の意義を強調したい。もう二度と戦争は嫌だ、と説得力をもっていえる人は、戦争の犠牲者であり体験者に外ならない。 しかも体験者がこの世に生きている時に、口にし、筆をとれるうちだけである。それらの人たちはもはやほとんどが六十歳を過ぎている。今の時期を逸すれば、体験を後の世代に伝える人いなくなる。組合が体験記の募集を決めたのは二年前であった。
私自身、第二次大戦中は随分敵の潜水艦や飛行機に追いまわされた。犠牲になった同僚も少なくない。 なかんずく昭和十九年春には、北千島で米軍潜水艦の魚雷攻撃を受けて僚船・明石山丸は瞬時に沈没。私の乗っていた良洋丸は大破されたが、幸運にも海岸近くに擱座したため沈没はまぬがれ、深雪に覆われた松輪島(当時)の雪洞で着のみ着のままでいつ来るか判らない便船を待った。三週間ほど経ってから私は第二陣として帰還したが、一陣として帰国した組は、帰途にまた魚雷をうけて沈没し、何人かが犠牲になったことを帰国後に知った。
それにしても、戦時中に船員が、軍事主義下での非人間的、消耗品なみの扱いを受けた屈辱は忘れることができない。こんな暗黒時代は二度とあってはならないと思っている。
この体験記を通じて、人間にとって家族にとって、平和であることがいかに尊いものであり、かけがえのないものであるかを汲みとって欲しい。
発刊の意義はここにある。私はこの本を横須賀市の観音崎にある戦没船員の碑に眠る六万一千余の先輩、同僚の霊に捧げるとともに真の平和を求めて運動を進めていきたい。おわりに、この出版企画に応募された体験者の皆さんおよび出版に際してご助力をいただいた各位に対し、心から感謝を申し上げる。

昭和六十一年七月
全日本海員組合組合長土井一清

【目次】
第一章 緒戦の海昭和16年〜17年/開戦当時の海上輸送
 硝煙海に漂い始めるー開戦前夜の日記 大野喜一郎
 奇襲ー軍部の描いた筋書きの海 小野光雄
 開戦の夜のマレー奇襲船団 泉精喜
 防空船ありぞな丸の死闘
 補給船団、コタバル沖に沈む 當摩誠一
 香取丸のクリスマス・イブ 武藤辰夫
 冷凍船・秩父丸の最期 高松一男

第二章 制海権なき帝国シーレーン昭和18年/南方海域、昭和20年/北洋方面  強運の亜丁丸輸送記 露原重夫
 死の島ガダルカナルからの生還 本間金一郎
 魚雷の海で 角田松雄
 初乗船のラバウル航海記 西村二三男
 海霧流れるオホーツク海で 川端正二
 砕氷船・高島丸沈没のあと 小田芳太
 千島に眠る少年海員の霊に 沖之悠

第三章 戦火の海の標的となって昭和16年〜20年/反復被災を生きのびた船員たち

 受難三度、死の海から生還 足立一男
 悪夢の南アジア補給 路須藤順
 惨禍の海に命を拾う 石田次男
 船長と見習い水夫の生と死 平山豊次
 恐怖と憧れの青春航路 杉崎恒雄
 クェゼリン島の英霊 永田武利
 船と友もよ、だれのために 平田和一

第四章 特攻船団の潰滅昭和19年〜20年/断末魔の海上補給路で  特攻輸送「ヒ八七A船団」全滅す 高橋清三郎
 バシー海峡鎮魂 木村利三雄
 弾薬輸送船・安国丸の彷徨 土江春夫
 呪われた初航 海森三男
 海上トラック船隊奮闘す 福田真六
 知られざる漁撈部隊の悲劇 山本真次
 “特殊漁船”トロール船の徴用 川崎正市

第五章 受難の傷あと昭和20年〜敗戦/痛恨の記憶を胸に  少年コックの死線周航記 船本栄之助 
 敵前に捨てられた撤収船隊 江田敏男
 還らぬ若き生命をしのんで 楠本徳之助
 死臭の船・第六雲洋丸 後藤隆
 身代わりとして散った漁船員の霊に 千葉次郎
 追想の日鉄船隊 村上行示
 船と人の“訃報処理係”として二口一雄
 地獄で会おう、友よ 根本正

第六章 残された者の戦記遺族の思いはいまも海に  天南丸の航跡を追って 泉谷迪
 妻として語る海からの遺志 真崎ナミ子
 父とぶらじる 丸石井糸子
 平和な商船を使って開戦を準備 鈴木定子
 “父の海”この胸に 尾島恵津子
 ガダルカナルの空へ行け 平野洋子


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