国際航空貨物輸送


978-4-425-86271-9
著者名:ピーター S. モレル 著 木谷直俊・塩見英治・本間啓之 監訳
ISBN:978-4-425-86271-9
発行年月日:2016/9/18
サイズ/頁数:A5判 408頁
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価格¥4,180円(税込)
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現在、世界の航空貨物は、金額ベースで世界貿易の35%を占め、日本では23%を占める。今日の国際航空貨物の動向と構造を知らずして、世界の貿易構造と、物流動向を知ることはできない。英国の経済学者ピーター S.モレルによるMoving Boxes by Airを翻訳した本書は、航空貨物輸送の理論と実務がバランスよく書かれている。航空貨物のみならず、流通に携わる関係者にとって有用な、これまでにない1冊。著者モレルは航空関連書籍での評価も高い。

【日本語版発行に向けて】 航空貨物輸送の歴史はかなり古く、最初の航空貨物輸送は、雄鶏、羊、アヒル等を乗せた熱気球によるものである。生きた動物の航空輸送から始まって今日では多くのものが輸送されているが、今日の主要な航空貨物は、一般貨物、腐敗しやすいもの、エクスプレス・カーゴである。現在では、一般貨物には、消費者のための電気製品、専門的な部品等が含まれるが、プレミアム食品、生花、携帯電話などの輸送といった新しい市場が発展してきている。
航空貨物の今日の発達は、物理的な制約の排除や課税の緩和、通信の発達、政府や企業の国際的なつながりの拡大と深く関連している。したがって、Moving Boxes by Air の最初の非英語版が、グローバルな貿易の中で重要な位置を占めている日本で日本語版として出版されることは意義のあることのように思える。近年、日本経済の状態は必ずしも好ましいとはいえないようであるが、日本には乗客および貨物の輸送を行う主要な2社の国際航空会社、国際航空貨物のみを輸送する貨物専業航空会社、巨大なグローバルフレイトフォワーダー、混載事業者等が存在する。東京の空港は、取扱貨物トン数でみると世界で第8位であり、重要な位置を占めている。日本の多国籍企業は生産コストの低いアジア諸国での製造業を支援する上で重要な役割を果たしている。こうしたことは、国々の間で費用のかかる資源の輸送の必要性を低下させ、準完成品の航空輸送を増大させることになる。これまでのこうした傾向は航空貨物の高い成長率をもたらしたが、景気の停滞もあり、2008/2009年およびその後の動きについては本著で示されている。
国際貿易、国際支援等において航空貨物部門は重要であるにもかかわらず、航空ビジネスにおける魅力的な乗客部門に比較すると、さほど大きな関心は持たれてこなかった。このことは航空貨物の書籍が少ないことに示されているし、航空輸送の書籍の中でもせいぜい一章が割かれている程度である。また、ロジスティクスやサプライチェーンの書籍でもあまり注目されてこなかった。
それゆえ、日本語版の本著は航空貨物輸送産業の今日的で包括的な分析を示したものとして重要であり、航空輸送に関心のある多くの日本人学生、アナリスト、実務家等にとって有益なものとなるであろう。

2016年8月
Peter S. Morrell

【監訳者のことば】 国際航空貨物輸送は、我々の日常生活を支える物流に密接に関連している。現代では、グローバル企業を支えるロジスティクス、サプライチェーン活動に不可欠の手段となっている。1980年代以降、供給面では旅客機の大型化やフレイターと呼ばれる貨物専用機の発達に伴い、需要面では産業構造の変化を伴う高価で時間価値を重んじる製品、部品、生鮮品等の輸送ニーズの高まりとともに発達してきた。本書は、こうした国際航空貨物について、基本動向と特質、需給面の動向、運営面の特質と課題、事業の担い手の構造と課題、政策面の課題と展望について、包括的、かつ、体系的に論じている。また、詳細な事実経過と理論的説明もなされている。近年、わが国では、こうした著書はみられなかったので、翻訳に思い立った次第である。ごく最近の動向は、コラムで補完している。
リーマン・ショックとともに、一時、国際航空貨物の需要が落ち込んだ。貨物は、旅客よりも景気変動の影響を受けやすく、景気の先行指数的性格をおびている。しかし、2015年は、回復基調にあり、従来よりは緩やかな伸びであるが、新興国の経済成長、アジア経済の活発化、グローバル化の進展で、今後20年で需要は2倍になると予想されている。現在、世界の航空貨物は、金額ベースで世界貿易の35%を占め、日本では23%を占める。今日の国際航空貨物の動向と構造を知らずして、世界の貿易構造と、物流動向を知ることができない。世の中の動きを反映し、商品サイクルの短い商品が主流になり、コモデティが変化し航空利用が増えている。
スピードが航空輸送の特性であるが、高速性を備え、運賃競争力があり、冷凍設備等を備えた海運が強力な競争相手であるのには、依然、変わりがない。
サービス供給に関わるプレイヤーが多数あり、相互に協調しつつ、競争している点も特徴的である。今日の国際航空貨物の展開と構造を探り、今後の課題と展望を探る上でも、本書の講読をおすすめする。類書がほとんどなかっただけに、日本では、なじみが薄いが、重要性は高いといえる。実務家はもとより、原題の副題にThe Economics of International Air Cargo(国際航空貨物の経済学)とあるように、航空貨物を経済学の観点から学び取るにも、最適な著書であり、学生、研究者にも一読をおすすめしたい。日本では、大学など、高等教育機関では、こうした専門を扱う講座は見あたらない。実務、理論的にも、今後とも、本書の翻訳を契機に、こうした研究が深まることを期待したい。最後になったが、本書の刊行に際しては、成山堂書店編集グループの諸氏には編集のアドバイス、校正の手助け等についてお世話になった。また、同社社長の小川典子氏には出版を快くお引受けいただいたことに厚くお礼申し上げる。

平成28年8月
監訳者 木谷 直俊・塩見 英治・本間 啓之

【目次】  日本語版刊行に向けて
 監訳者のことば
 序文
 略語

第1章 航空貨物輸送と供給  1.1 航空貨物輸送動向
 1.2 航空貨物と経済景気循環
 1.3 空港の輸送量
 1.4 ハブ空港での積み替え輸送量
 1.5 年間を通じた航空貨物輸送量の変動
 1.6 航空貨物のキャパシティ
  Column 1 リーマン・ショック後の全世界の国際航空貨物市場
第2章 航空貨物市場の特性  2.1 運ばれる商品
 2.2 特別取り扱い項目
 2.3 人道主義的支援
 2.4 国防のサポート
 2.5 交通機関の選択
 2.6 複合交通機関を利用する積み荷
  Column 2 日本市場をめぐる国際航空貨物の動向
  Column 3 コモデティの変化
第3章 経済と技術の規制  3.1 航空会社のライセンス
 3.2 国際航空輸送サービスに関する規則
 3.3 郵便に関する規則
 3.4 将来の航空貨物の自由化

第4章 供給:旅客および貨物航空会社  4.1 序論
 4.2 ネットワークキャリア
 4.3 ローコストキャリア
 4.4 地域航空会社
 4.5 主要国内航空会社
 4.6 コンビネーションキャリアの旅客輸送
 4.7 コンビネーションキャリアの貨物機の運航
 4.8 貨物専業航空会社による貨物輸送
 4.9 チャーターおよびACMI事業者
 4.10 地域別貨物航空会社
 4.11 結論

第5章 供給:インテグレーター、郵便事業者、フォワーダー  5.1 クーリエ会社
 5.2 インテグレーター
 5.3 郵便事業者
 5.4 フレイトフォワーダーと混載事業者
 5.5 海運事業者
  Column 4 インテグレーターの躍進とグローバルフォワーダーの合従連衡
第6章 航空貨物会社のアライアンスと合併  6.1 航空貨物会社のアライアンス
 6.2 航空貨物会社の合併と買収

第7章 航空機と運航のオペレーション  7.1 旅客機:ロワーデッキ
 7.2 貨物専用機:旅客機からの改造
 7.3 新造貨物専用機
 7.4 「コンビ」とクイックチェンジ機
 7.5 航空機用ULD(Unit Load Device)
 7.6 航空機の運航
 7.7 将来の貨物専用機

第8章 空港と地上のオペレーション  8.1 情報フロー
 8.2 物理的施設

第9章 流通・マーケティング  9.1 マーケティング環境
 9.2 航空貨物のマーケティング戦略
 9.3 航空貨物商品
 9.4 航空貨物の販売促進
 9.5 航空貨物の流通

第10章 価格設定と収入  10.1 貨物輸送による収入と実収単価の傾向
 10.2 主要地域別、サービス類型別の実収単価構造
 10.3 エア・フレイトの価格設定
 10.4 レベニュー・マネジメント

第11章 航空会社の費用  11.1 貨物専業航空会社の費用
 11.2 形式別の貨物航空機の費用
 11.3 ACMIウエットリースによる航空機の運航費
 11.4 旅客サービスとの結合生産の問題

第12章 航空貨物輸送事業の財務成果  12.1 貨物専業航空会社の収益性
 12.2 日本貨物航空のケーススタディ
 12.3 フェデラルエクスプレスのケーススタディ
 12.4 ネットワーク事業者の貨物子会社

13章 航空貨物と環境  13.1 背景
 13.2 航空機体の騒音
 13.3 世界全体のCO2 排出に対する昨今の航空輸送の対応
 13.4 環境税と課金
 13.5 排出権取引制度と航空貨物
 13.6 航空貨物とフードマイル
 13.7 結論

第14章 航空貨物予測  14.1 航空貨物予測の手法
 14.2 航空会社予測
 14.3 空港予測
 14.4 航空管制による予測
 14.5 航空機メーカーによる予測
 14.6 ICAO予測
 14.7 OAG予測
 14.8 その他の産業予測
 14.9 結論

第15章 航空貨物の課題と展望  15.1 航空貨物の課題
 15.2 航空貨物の展望
  Column 5 最近の国際貨物動向と課題について
  
用語定義
索引
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