原子力砕氷船レーニン


978-4-425-30381-6
著者名:ウラジーミル・ブリノフ 著/黒澤 昭・村野克明 訳
ISBN:978-4-425-30381-6
発行年月日:2015/9/24
サイズ/頁数:A5判 330頁
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世界史上初の原子力砕氷船「レーニン」の前人未到の航海記。
北極圏での航海を1年中可能にし、氷海で数多くの実績をあげた世界史上初の民生原子力砕氷船「レーニン」。その多大な功績と関係者達の奮闘を、著者であるジャーナリストの綿密な取材と豊富な写真、乗組員たちへのインタビューなどを交えて紹介する。
原子力砕氷船を技術的、経済的、社会的側面から概観した異色の一冊。

【発刊にあたって】  父、黒澤昭は本書の完成を目前にしながら、平成25年5月11日に脳梗塞が元で亡くなった。享年83であった。息子である私は神戸に住み、ある重機械メーカーで造船の仕事をしている。父は千葉で母と生活しており、ちょうどこの年のゴールデンウィークに引っ越しをし、自宅の整理をしていた最中に倒れた。何度か手伝いに行こうかと申し出たが、何事も気丈で子供の世話になるわけにはいかないという父からの「大丈夫」だという言葉に甘えたが、いま思えばはやりあの時に手伝いに行けば良かったと後悔している。
 帰省や電話をするたびに、この本について熱心に説明したり、造船(特に私の業務とする船殻構造の建造方法)についても時折質問していたことから、父が本書の製作に向けて情熱を注いでいたことがひしひしと感じられた。そのため、本書の完成の目前に倒れてしまい、搬送先の病院で意識不明のままでまず助からないと担当医から宣告された時、父の顔を見ながら父の思い思いを想像するにこれはなんとか完成させなければならぬと本書のご担当である(株)成山堂書店の編集者にお電話を差し上げた。船橋駅構内の喫茶店でお会いし、父がまず助からないことをお伝えしたうえで、本書についてはなんとか発行の漕ぎ着けたい旨お願いしたところ快くご賛同頂けた。また、非常に頑固で厳しい父に対して早くに亡くされた実のお父様のように慕って頂いたことに対して非常に感謝している。病院にはとんぼ返りし、意識のない父に「本の出版のことは心配しなくていいよ」と語りかけた。
 父の経歴は一見華々しいように見えるかもしれないが、大変苦労してきたことは私が子供の時の父に対する記憶だけでは計り知れないものがあったと思う。ただ、非常に努力家であった父が何度も生前私に言い聞かせてきたことは「ここまでやってこれたのは決して自分の努力だけではない。民生用原子力船開発の波と節目節目でさまざまな方からのご支援があったからだ。そのことを忘れてはいけない」であった。加えて、「それとお前のお母さんとな」とやや恥ずかしげに。
 本書を翻訳し、広く国内の読者に紹介しようとした父の記述が見つかったのでここで引用する。
 『民生用原子力船は米国、ドイツ、日本も開発したがいずれも撤退した。ロシアだけが現在も開発、運用を続けており、原子力砕氷船は多くの苦難のなかで北極氷海において長年にわたって多くの経験を積んでいる。一方、地球温暖化に伴い北極海の氷が減少して北極海航路の利用に現在世界的に関心が高まっているが、本書はそのために原子力砕氷船が今後とも重要な役割を演じ続けられるかを潜在的危険性の大きい原子力利用の観点から考えるのに参考になる。また開発の歴史をたどることにより原子力砕氷船のみならず、原子力を巡る今日的な課題解決への示唆を得ることが出来よう』
 若きころに原子力船むつの開発にも情熱を注いでいたが、事故によりやむなく断念せざるを得なくなったことを非常に残念に思っていたことも知っている。また、翻訳途中に起こった東日本大震災による福島第一原子力発電所事故についても憤りと悲しみで心を痛めていた。そのため、一度は本書の出版に対して躊躇った時期もあったようだが、逆に本書から「原子力を巡る今日的な課題解決への示唆を得られる」のではないかと考え出版に踏み切ったのだと想像する。
 本書は原子動力の専門家ではなくジャーナリストの視点から書かれている。そのため専門家でなくとも非常に読みやすく、興味ある内容であり広い分野の方に読んで頂けるのではないかと思う。
 父とは違う道に進むと決めた若きころの私であったが、入社後造船部門に配属され早くも20年を過ぎたが何故かことあるごとに父の生きてきた側面に出くわすことに驚きと懐かしみをもつ。
 最後に父の死後も本書の翻訳について御尽力いただいた共訳者の村野克明様、本書の出版の思いを共有していただきながら、諸事情により翻訳者としてのお名前を記載できなかった篠原慶邦先生、最後まで携わっていただいた出版社の成山堂書店の皆様、および翻訳・出版に対していろいろとご協力頂いた方々にもこの場をお借りして深く感謝申し上げたい。

平成27年8月
黒澤 充

【目次】
第1章 誕生
 第1節 大北極海航路
 第2節 「レーニン」誕生の背景
 第3節 「レーニン」の原子動力設備「OK-150」
 第4節 アカデミー会員 アレクサンドロフ
 第5節 原子力砕氷船の船体構造
 第6節 「レーニン」の原子動力設備の設計
 第7節 原子力砕氷船の居住環境
 第8節 原子力砕氷船の船体
 第9節 「レーニン」の建造
 第10節 「レーニン」の乗組員
 第11節 アメリカ海軍提督リコーバーの見学
 第12節 「レーニン」の海上試験(1959年9月12日)

第2章 氷海のオデュッセイア  第1節 千緒ポノマリョフ(1896〜1970年)
 第2節 北極海航路
 第3節 稼働中の「レーニン」の見学
 第4節 「レーニン」最初の6航海(1960〜1965年)
 第5節 運航効率と管理
 第6節 実験航海と誘導速度
 第7節 1971年の航海
 第8節 1970〜80年代の「レーニン」の経験
 第9節 「レーニン」と北極海沿岸住民
 第10節 「レーニン」のダメージコントロール
 第11節 「レーニン」の待機停泊地決定の根拠

第3章 技術と人びと  第1節 先駆的な設備の欠陥とその克服
 第2節 ソ連における舶用原子動力設備の発展
 第3節 ステファノビッチとスレドジュック
 第4節 原子力砕氷船の改良に寄与した人びと
 第5節 「自動化」への取組み
 第6節 「OK-150」の技術的問題と「OK-900」の設置作業
 第7節 放射線安全性
 第8節 原子動力設備が船舶に課した諸問題

第4章 男らしい謙虚さ  第1節 機関長スレドジュック(1919〜1985年)
 第2節 原子力船砕氷船の船長群像
 第3節 初の原子力砕氷船初期の船員たち

第5章 氷に立ち向かう原子力  第1節 壁新聞『アトモホート』のアンケート
 第2節 原子力砕氷船隊
 第3節 原子力砕氷船のメンテナンス
 第4節 原子力砕氷船建造の技術監督特別グループ
 第5節 ムルマンスク海洋汽船会社の民営化
 第6節 運航寿命の延長プログラム
 第7節 原子力砕氷船「シビーリ」などの蒸気発生器の問題
 第8節 商用船舶における原子動力設備の利用の可能性
 第9節 使用済核燃料と放射性廃棄物の取り扱いについて
 第10節 北極海での原子動力設備利用の形態

第6章 復活  第1節 原子炉容器等の寿命に関する総合的試験
 第2節 マスロフの「砕氷船の博物館化」提案
 第3節 アレクサンドロフらのゴルバチョフ宛て書簡
 第4節 社会活動家らの呼びかけ
 第5節 舶用原子動力設備の寿命延長に関する総合的研究
 第6節 人びとをつき動かしたもの
 第7節 原子力砕氷船「レーニン」支援財団の人と活動
 第8節 「レーニン」、永久停泊場へ
 第9節 「レーニン」の価値


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