LRT−次世代型路面電車とまちづくり− 交通ブックス119


978-4-425-76181-4
著者名:宇都宮 浄人・服部 重敬 共著
ISBN:978-4-425-76181-4
発行年月日:2010/12/16
サイズ/頁数:四六判 250頁
在庫状況:品切れ
価格¥1,980円(税込)
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「人にやさしい」、「環境にやさしい」都市交通、LRT。先進国で次々に取り入れられる次世代型路面電車は、街にどのような恩恵をもたらすのか。本書は、歴史的経緯から特徴、まちづくりと経済効果、市民意識の重要性などを解説します。LRT導入により豊かなまちづくりを実現した海外および日本の事例も豊富に紹介し、LRTの本質に迫ります。

まちづくりと一体化した整備が世界各地で進む次世代型路面電車、LRT(ライトレール・トランジット)。開業はこの30年間に120都市余にものぼります。LRTとまちづくりの潮流は、病院・学校・商店など生活に必要な諸機能が近接したコンパクトシティにあります。自動車に頼ることなく、 LRTやバス、徒歩で移動できるまちを整備するという構想です。そして欧米がこのコンパクトシティ構想に基づきLRT導入を進め成功をおさめる背景には、公共交通の役割を、電気・ガス・水道と同様に捉え、「LRT=都市の装置」として、地域活性化のツールとして位置づけているからにほかならなりません。
 一方、日本で、LRTとして開業されたのは富山市の2路線にとどまっています。富山では当初の需要予想を上回る乗客の利用があり、自動車を持たない高齢者らの外出の機会は増えたというデータがあります。 高齢化社会の到来、まちの中心部の空洞化など、都市をとりまく問題の対応に迫られる昨今、導入を画策する地域も増えています。
 本書は、都市交通の研究家でありLRT研究分野で活躍する宇都宮氏・服部氏の2名による共著。 路面電車時代の歴史的経緯からLRTのさまざまな特徴、まちづくりと経済効果、市民意識の重要性などを解説しています。とくに、豊かなまちづくりを実現した海外および日本の事例を豊富に紹介し、 LRTが果たす役割などに言及しています。
 日本国内でのLRTは、今後どのようなまちづくりの構想とともに歩むのか。著者は、『日本においても多くの都市でLRTが活用できるのではないかと考え、そのために正しい知識に基づいた冷静な判断を導く書物を世に問いたいと執筆した』と述べています。
 「採算性」をどのように考えるか? 悩める地方自治体を救うのは? 市民は何に注目をすべきか?
 自らの住むまちや、故郷が抱える問題は交通とどのような関わりを持っているのか。交通まちづくりに関わる行政や関係団体、鉄道や交通に携わる従事者には必読の書となるでしょう。路面電車や鉄道のファンも、一味違う魅力に気づかされるかもしれません。

【はじめに】より
 カナダのエドモントンにライトレール・トランジット(LRT:Light Rail Transit)と呼ばれる新しい都市交通システムが導入されて、早30年が経過した。欧米では、人と環境にやさしい都市交通として急速に普及し、エドモントン以降、新規にLRTを開業させた都市は100を優に超えている。自動車交通への過度の依存が進む中、急速な高齢化に直面する日本においてもLRTという言葉が知られるようになった。2008年に出版された『広辞苑第六版』にも掲載されている。
 ライトレールとは何か。そこにトランジットと付く意味は何なのか。路面電車との違いは何か?
『広辞苑第六版』の説明によると、「都市の新交通システムの1つ。路面電車の性能を向上させるなどして、他の交通手段との連続性を高めたもの」となっている。一定の特性をもった都市交通という位置づけで、明確な定義としての説明ではない。しかしながら、LRTの本質は、この曖昧ながらも、「連続性」という言葉をキイワードとするトータルな交通システムであるというところにある。そのためには、一言では定義できない、幅広い説明が必要になる。
 本書のねらいは、まずそうしたLRTについて、歴史的な経緯から最新の動きまで、多面的に解説することである。これによって、漠然としているLRT概念が明確になるとともに、欧米においてLRTが普及している理由が理解されるはずである。また、本書のもう1つのねらいは、これまでに建設されたLRTをまちづくりや経済効果といった観点から分析することによって、日本も含め、今後のLRTの可能性を探ることである。日本においても、既存の路面電車事業者が、LRTを目指す形で交通結節点を整備するなど、「連続性」を意識した取組みを始めている。また、新規にLRTを導入したいという声も全国に広がっている。しかしながら日本の場合、実際にLRTとして出来上がったシステムは、2010年時点では、富山市の富山ライトレールのみである。LRTはその都市に住む市民にとっては、自らの生活と切り離すことができない都市交通である。それだけに、その経済効果、あるいはLRTを取り巻く市民意識といった点まで、これまでの実情を正しく理解する必要がある。欧米では、LRTが日進月歩で進化し続けており、次々と新たなLRTが誕生している。こうした流れの中で、LRTの可能性と日本への適用を考えなければならない。
 本書の構成は、次のとおりである。まず、1章では、路面電車の歴史をたどりながら、路面電車を基礎としてLRTが誕生した背景を探る。2章では、LRTの交通システムとしての特徴を、欧米の現状等を踏まえながら、基本的事項からやや専門的な内容まで広範な知識の整理を行う。3章から5章は、LRTがなぜ欧米で普及しているのかという点について、いくつかの切り口から論じる。具体的には、3章で、昨今の環境をまちづくりの関連を整理しながら、LRTが持続可能な都市の装置として活用されている実態をみる。一方、4章では、公共交通の運営のあり方や経済効果という点に焦点を当てて、経済学的な視点を軸に、LRTの特徴を論じる。5章は、既存の書物では、必ずしも十分に議論がなされていないLRTを取り巻く市民とその意識について、欧米と日本の違いを中心に考える。6章、7章では、今後のLRTの展開と可能性を考えるために、欧米を中心としたLRTをめぐる最新の動きを追ってみる。むろん、こうした最新の動きも、すぐに古くなるほどLRTを取り巻く環境は変化しているが、最近の動きは、日本にも参考になることが多い。そして最後の8章で、日本においてLRTを普及させるための課題を、新たな動きに目配りをしながら考察するという構成になている。
 本書によって、LRTに関する理解が広がることを願いたい。

2010年11月
著者

【目次】
1章 路面電車からLRTへ
 1.路面電車の誕生
 2.路面電車の隆盛から衰退
 3.中量輸送機関としての復権
 4.低床車のインパクト
 5.まちづくりのツールとして

2章 LRTの特徴
 1.LRTの位置づけ
 2.LRTの導入形態
 3.LRTの車両
 4.LRTをささえる仕組み
 5.他の交通モードとの関係

3章 持続可能なまちづくりとLRT
 1.地球環境問題の経緯と概要
 2.ESTと環境グルネル
 3.ESTモデル事業、環境モデル都市
 4.コンパクトシティとLRT
 5.アーバンデザインとしてのLRT
 6.LRTによる持続可能なまちづくりの事例(1)
 7.LRTによる持続可能なまちづくりの事例(2)

4章 LRTの経済学
 1.「採算性」をどのように考えるか
 2.交通サービスの特徴
 3.LRTの特性
 4.「公共財」としてのLRT
 5.LRTの経済効果
 6.外部効果の検証(1)
 7.外部効果の検証(2)
 8.LRTの財源
 9.LRTの経営

5章 LRTと市民
 1.市民運動から生まれたLRT
 2.交通権
 3.LRTを拒む市民
 4.市民レベルの新たな動き

6章 LRTの新たな展開1
  ?多様化・個性化による役割の拡大?
 1.アメリカにおけるLRTの多様化
 2.ヨーロッパにおけるトラム・トレインの展開
 3.LRTによる貨物輸送

7章 LRTの新たな展開2
  ?技術進歩による新境地?
 1.ゴムタイヤ・トラムの実用化
 2.架線レス走行
 3.ICカードの活用
 補論 LRTとBRT

8章 日本の課題
 1.崩壊しつつある日本の都市
 2.日本における新たな挑戦
 3.転換する交通政策
 4.LRT推進法案から地域公共交通活性化・再生法
 5.悩める自治体
 6.交通基本法
 7.日本でLRTを活用するための課題


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カテゴリー:交通ブックス タグ:交通ブックス 路面電車 鉄道 
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