世界の砕氷船 交通ブックス218


978-4-425-77171-4
著者名:赤井謙一 著
ISBN:978-4-425-77171-4
発行年月日:2010/6/18
サイズ/頁数:四六判 216頁
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価格¥1,980円(税込)
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誰もが望んでいた“砕氷船解説書。
「砕氷船とは何か?」に答える類書なき1冊。日本の「しらせ」をはじめ、ロシア、アメリカ、北欧各国の砕氷船運用国のあゆみを豊富な写真とともに解説した。力強く氷を砕いて進む、砕氷船の活躍が凝縮された1冊。

第51次南極観測隊を載せて昨年11月に昭和基地へ向けて出港していた二代目「しらせ」が4月9日に無事帰還しました。「しらせ」のような砕氷船は凍りついた海を、分厚い氷を砕きながら進むことができますが、「氷を砕いて航海する船」と言ってもその設計思想や用途によって実にさまざまなタイプがあるものと感心させられます。
本書では日本、ロシア、アメリカ、カナダ、北欧など世界各国の砕氷船を取り上げ、その歴史、設計から性能、運用などを豊富な写真とともに解説しています。 砕氷船はその特殊性から、歴代の南極観測船以外にあまりなじみがありませんが、最近は氷海観光も盛んになり、航走距離を大幅に短縮するために北極海を通って北欧・北米・極東諸国を結ぶ構想も進んでいます。氷海に水路を開き、貨物船をサポートする砕氷船の重要性も増してきています。
地球温暖化の影響で氷が融け始めていることによる人類の危機や、北極海の資源の確保、各国の利権争いなどが報じられています。このような情勢の中、砕氷船・耐氷船がどのような活路を見出していくのか。可能性を探る意味でも、造船関係者だけでなく一般の読者の方にも、問題意識を持って読んでいただきたい1冊です

【はしがき】より わが国の新砕氷船「しらせ(2代目)」は、第51次南極観測行動のために2009年11月10日に東京を出港し、去る4月9日に寄港しました。8月29日から9月29日の間、訓練をかねて各地に寄港するので、「しらせ」を見る機会のある方もいらっしゃると思います。砕氷船は文字通り、氷を砕いて一般の船(砕氷あるいは耐氷構造となっていない船舶)が通航できるように水路をひらき、氷に閉ざされて動けなくなった船を救出するという任務を負っています。そのほかに、北極海あるいは南極海で観測を行う船、観測基地あるいは石油掘削用のプラットフォームに物資を運搬する船もあります。また、一般の船が行けない氷海の中を、観光目的で航行する船もあります。
著者は学生のときに、ある先生の講義の中で、「船舶は水と空気という異種の流体の境界を行動しなければならないという宿命を負っている。このことが非常に過酷であることは、自然界にこの境界を生活の場としている生物が居ないことからも明らかである。」というお話を伺ったことがあります。これはけだし名言であると思います。現在でも、風浪のあるこの境界における船舶の挙動の問題は、船舶工学の大きな課題のひとつです。皆さんは、水鳥を想像されるかもしれませんが、あれは休むか、遊ぶかまたは餌を探しているだけで、嵐が来れば陸上に避難できるのですから、船舶の場合とは全く異なります。砕氷船の場合は、さらに厚い氷盤が加わるのですから、一般の船よりも遥かに過酷な環境で行動しなければならない場合があります。
そのような過酷な環境で行動する砕氷船は、その生い立ち、歴史にも特異な事情があるし、実際の設計、建造および運用の面でも一般の船とは異なる点があります。しかし、砕氷船はどちらかというと、縁の下の力持ち的な存在で、親しみを持つ機会が比較的少ない船種ではないかと思います。
著者は長い船舶設計業務の経験の中で、様々な船種を扱う幸運に恵まれましたが、砕氷船の多くは船種のなかでも非常に興味を覚えた船種のひとつです。
そこで、砕氷船の歴史、一般船との相違点、活動海域、用途、世界で活躍する様々な砕氷船についてまとめたのが本書です。紙数の制約で、専門的なことは割愛したところもありますが、砕氷船についての概念を抱いていただくことに少しでもお役に立てば、望外の幸せです。
地球温暖化により氷が融け始めた北極海の資源の確保、航路の新設をめぐって沿岸各国の利権争いのための綱引きが行われていると報ぜられています。一方、北極海の氷が解けるのを放置しておくことは、人類の危機であることも強調されます。このような情勢の中で、砕氷船、耐氷船が今後どのような活路を見出していくか、ということも考えて本書をお読みいただくことで、読者にとって新しい視野が開けてくることを願っています。

平成22年5月
赤井謙一

【目次】
船名対照
第1章 砕氷船とはどんな船?
 1.1 砕氷船の任務
 (1)幅広でハイパワーな専用砕氷船
 (2)砕氷型商船は積める貨物が少ない
 (3)砕氷型特殊船
 1.2 砕氷船の特徴
 1.3 砕氷の方法
 1.4 砕氷船の船首形状
 (1)伝統型
 (2)スプーン型
 (3)コンケーブ(凹)型
 (4)ポーラーシュテルン型
 (5)コニカル(Conical:円錐)型
 (6)ティッセン‐ヴァアス型
 1.5 砕氷船の船尾形状
 (1)砕氷船尾
 (2)排氷促進船尾
 (3)アイスホーン(Ice horn)
 (4)プロペラの配置

第2章 砕氷船の歴史
 2.1 19世紀―砕氷船の誕生
 (1)アメリカ
 (2)カナダ
 (3)ドイツ―ハンブルク型砕氷船の誕生
 (4)五大湖−アメリカ型砕氷船の誕生
 (5)スウェーデン
 (6)フィンランド
 (7)デンマーク
 (8)ロシア
 2.2 20世紀−砕氷船の進化の過程
 (1)ソ連時代
 (2)ロシア型以外の欧米の砕氷船
 (3)日本初の砕氷船
 2.3 20世紀後半−砕氷船の多様化
 (1)氷海水槽による研究
 (2)百花繚乱、砕氷船の急激な増加
 (3)北極海航路の開発
 (4)原子力砕氷船の誕生
 (5)砕氷船先進国のバルト海周辺国
 (6)南極への航行

第3章 日本の砕氷船
 3.1 旧日本海軍砕氷艦「大泊」
 3.2 初代南極観測船「宗谷」
 3.3 南極観測船「ふじ」
 3.4 南極観測船「しらせ(初代)」
 3.5 「しらせ(2代目)」
 3.6 釧路海上保安部巡視船「そうや」
 3.7 根室海上保安部巡視船「てしお」

第4章世界の砕氷船  4.1 ロシアの砕氷船
 (1)ディーゼル電気推進砕氷船
 (2)世界初の原子力砕氷船「レーニン」
 (3)アルクティカ型原子力砕氷船
 (4)タイミール型原子力砕氷船
 4.2 アメリカの砕氷船
 (1)ウィンド型
 (2)グレーシャー型
 (3)ポーラースター型
 (4)ヒーリー
 (5)R/V ナサニエル B.パーマー
 4.3 カナダの砕氷船
 (1)戦後初期の大型砕氷船
 (2)ルイサンローラン、テリーフォックス
 (3)ミドル級砕氷船
 (4)ライト級砕氷船
 (5)「ポーラー8」−カナダ沿岸警備隊のまぼろしの強力砕氷船
 4.4 スウェーデン、フィンランドの砕氷船
 (1)スウェーデンの砕氷船
 (2)フィンランドの砕氷船
 4.5 その他諸国の砕氷船
 (1) オーストラリアの砕氷船「オーロラオーストラリス」
 (2)アルゼンチンの砕氷船「アルミランテイリザール」
 (3)ドイツの砕氷船「ポーラーシュテルン」
 (4)イギリスの砕氷船「ジェームスクラークロス」
 (5)ノルウェーの砕氷船「スヴァルバール」
 (6)韓国初の砕氷船「アラオン」
 (7)欧州の次期砕氷船「オーロラボレアリス」

第5章 砕氷型・耐氷型商船の活躍
 5.1 「マンハッタン」の実船実験航海
 (1)実験の目的
 (2)改造方法
 (3)実船実験の結果
 (4)マンハッタン実験のまとめ
 5.2 砕氷型タンカーの研究
 5.3 ダブルアクティングタンカー(DAT)の出現
 5.4 ロシアの北極海域航行用の船隊
 5.5 カナダのOil/Bulk/Ore キャリアー「アークティック」の設計と運用
 5.6 各国の極海域航行補給船、砕氷型補給船など
 (1)ドイツの「アイスバード」
 (2)イギリスの極地用物資補給兼調査船「アーネストシャクルトン」
 (3)カナダの極地用補給船「テリーフォックス」、「カルヴィーク」、「イカルーク」、「ミスカルー」
 (4)ドイツの多目的支援船「ノイヴェルク」

第6章 観光用の砕氷船
 6.1 日本の流氷観光船
 (1)おーろら
 (2)ガリンコ(初代)
 (3)ガリンコ2
 6.2 ロシアの観光用砕氷船
 (1)ヤマル
 (2)カピタンフレブニコフ
 (3)カピタンドラニーツィン
 6.3北欧の観光耐氷船
 (1)ハンセアティック
 (2)ブレーメン
 (3)サンポ

第7章 砕氷船が活動する水域と氷
 7.1 氷盤の姿とその特性の時間的・空間的な変化
 7.2 氷による極海の閉鎖
 7.3 南極圏の氷海
 7.4 北極圏と周辺の氷海
 (1)北極海 シベリア大陸棚北部海域−北東航路の海域−
 (2)北極海アラスカ・カナダ海域−北西航路−
 (3)西洋海域
 (4)バルト海海域
 (5)ベーリング海
 (6)オホーツク海

第8章 砕氷船はここが違う
 8.1 船体構造・船殻材料
 8.2 推進装置
 (1)電気推進方式
 (2)ディーゼル推進方式
 (3)プロペラの選択
 8.3 その他の砕氷船に特有の装置および対策
 (1)エアバブリング装置
 (2)ウォータージェット装置
 (3)曳航装置
 (4)ヒーリング装置、トリミング装置
 (5)砕氷船の塗装
 (6)一般艤装に対する考慮


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